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第十話 魔への誘い―②

王との謁見を終えたその夜、スカーヴェルは正式な任務報告を避け、私室にも戻らず、王都の東門近くにある古びた倉庫街へと足を運んでいた。


ここは、兵士たちの間でも「物騒な噂が絶えない」と語られる場所。貧民層の住む長屋と、使われなくなった旧商会の倉庫が軒を連ねる――いわば王都の“影”だ。


スカー「……例の薬物、『黒涙』が最初に流れたのは、ここにある酒場《骸骨の角笛》だ」


スカーはフードを目深にかぶり、闇の中で独り言を漏らす。普段の白銀の鎧ではなく、動きやすい軽装で、腰には護身用に短剣を持った。


酒場に入ると、煙草の匂いと酔客のざわめきが満ちていた。耳に入るのは、喧嘩、女、金、そして“黒い水”の噂。


カウンターの奥にいたのは、片目を潰された老盗賊風の男。スカーは静かに腰を下ろし、金貨を3枚差し出した。


スカー「……“黒い涙”を流した者を、見たことがあるか?」


男は一瞬、目を細めた。その視線には警戒と興味が混じっている。

やがて男は低く、くぐもった声で言った。


「……あんた、ただの物見じゃねぇな。どこでその言葉を?」


スカー「答える義務はない。ただ……話すのなら報酬をだそう」


その言葉に、男はニヤリと笑い、地図の切れ端を机の下に滑らせた。


「なら教えてやる。『黒涙』は西区の旧地下水路で精製されてる。そこの連中は……“騎士を装った何者か”に守られてるって話だ」


スカーの表情がわずかに強張る。


――騎士を装った者?

まさか、内部に“裏切り者”が……?


その夜、スカーは単身、指定された地下水路跡に侵入した。

崩れた石壁、苔むす階段。微かに漂う薬品の臭い。光魔法で灯す魔晶灯の明かりが、水面にちらちらと揺れる。


進むごとに、何か“魔の気配”が濃くなっていく。


やがて見つけた。

――複数の黒衣の錬金術師と、それを護衛する、王国騎士団の鎧を纏った者たち。


スカー「……やはり、内部にいるのか。俺たちの誰かが……」


スカーは息を呑んだ。

その瞬間、物陰から気配が飛び出した。殺気と共に剣が振り降ろされる。スカーはとっさに短剣で防御し、後ろに退いた。その時、目深に被っていたフードがはだけてしまう。


攻撃してきたのは――王国騎士参謀のヴァル=クロノス・ドレイガだった。


ヴァル「……これは、これは、我が王国が誇る光の騎士であるスカーヴェル・ルミナスではないですか」


スカー「……貴様は、ヴァル=クロノス・ドレイガ!」


ヴァルはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「まさかこんなに早くここに見つけるとは…少々意外でした」


スカーは構えを取り直した。


スカー「ならば、問答無用。俺は――この国の“光”である限り、お前を見過ごすことはできない!!」


ヴァル「この状況でよくそんなことが言えますね――」


スカー「……この人数、単独では――無謀すぎたか」


地下水路の奥、光を拒むかのような重たい闇の空間。

そこには黒衣の錬金術師に加え、明らかに正規の装備を持った複数の王国騎士たちがいた。しかもその動きは、正規騎士団の訓練を積んだ者たちそのもの。


一瞬で囲まれたスカーは、瞬時に光魔法で空間を裂く。


「――光閃陣(ルミナス・サークル)!」


淡い金色の光が炸裂し、数人を一瞬怯ませた。その隙に、スカーは脱出ルートを探し、地下水路の分岐を走る。


だが、追撃の魔法が飛び交い、壁が崩れ、瓦礫が舞う。


「追え! 奴を逃がすな――あの光の騎士こそ、最も厄介な敵だ!」


背後から鋭い声が飛び、足音が迫る。

スカーは息を荒げながら走り続けた。だがその途中――不意に、首元から何かが千切れる音がした。


スカー「――っ!」


胸元にかけていたルミナス家の光の紋章が、追撃の爆風で吹き飛ばされたのだ。銀の鎖が切れ、階段の隙間に転がっていく。


スカー「……っ、戻る暇は……ない!」


後ろから迫る敵影。足を止めれば、確実に討たれる。

苦悩の末、スカーは決意の顔でその場を離れた。


スカー「……必ず、お前の悪事を阻止してみせる。光は――決して消えない」


そう誓い、彼は暗がりの中へと姿を消す。


同時刻、地下拠点――


ヴァル「……これは……?」


瓦礫の間から、仮面をつけた騎士が、銀の光紋章を拾い上げた。


ヴァル「ルミナス家の紋章……“奴”がこれを落としたのか」


その目は冷たく輝いていた。


ヴァル「……証を落とすということは、“誇りを地に落とした”に等しい。騎士のくせに、ずいぶんと甘いな」


その証を握りしめながら言った。


ヴァル「……これで、あの光の騎士も“利用”できる」


暗がりの中で笑みを浮かべる。


ヴァル「あとは、光の皮を被った“絶望”を見せてあげればいい」


翌朝――自宅


スカーは肩を負傷し、血のにじむ上着のまま自宅の扉を開いた。

そこには、待っていたようにエレナリア・セレイン――エレンがいた。


エレン「……スカー!? 傷が……!」


スカー「……大丈夫だ。少し、手荒な歓迎を受けただけだ」


そう言いながらも、彼の瞳はどこか暗く、そして深い悲しみに沈んでいた。


スカー「――敵は、俺たちの“内側”にいる」

王国の闇を垣間見たスカー。自身の誇りである紋章も失くしてしまうが、必ず阻止すると心に誓う。

その一方で、ヴァルの不穏な策略が……

絶望に向かい物語は加速していく――。

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