第一章 04 プロローグ4
「ねえ、ヌイ。ヌイは何歳なの?」
「十八」
「そっか。僕も十八歳なんだ」
増々、美少女ゲームの世界に召喚された可能性が高くなって来たな。まあ、恐らく同い年だろうとは予想してたけど。
「趣味って何かある?」
何か自己紹介するの嫌だなあ。コウはヌイとヤるためのプロセスを組み立てようとして会話をしていて、ヌイはこれから異世界で協力して行くために会話をしてるのに。誤解が解けるまで自己紹介はいっか。
「フン」
ヌイは顔を横に向けた。
「マズイ。会話からは糸口が掴めないのか。道具を見つけるしかない。難易度はどうなってやがるんだ」
そんなものあるわけないじゃない。
コウとヌイは二人で手を繋いで歩いていた。コウの目的はヌイを振り向かせるための道具探し、ヌイの目的はこの異世界の物語をスタートさせてコウに早く現実を見せて上げることだ。そして、今、路地裏に入った。
「ねえ。暗いし、もっと大通りにしよう。目立つ建物とかの方にあるんじゃないかな?」
「来た。物語を間違った方向に誘導する奴だな。でも、僕はそんな分かりやすい罠には引っ掛からない」
「ヌイ。怖いんだけど」
ヌイは時間が止まっていて誰も襲って来ないと分かってはいるが、路地裏の日が差していないところを歩くのは嫌だった。だから、コウに自然と身を寄せていた。
「誘惑か。負けるなよ、僕。大体RPGものはこういう路地裏に道具があるんだから。美少女ゲームは分からんが」
コウはヌイの手を引いて更に明かりが点いていない路地に曲がろうとしたため、ヌイはコウに抱き着いて叫んだ。
「キャー!」
「大丈夫。僕がいるから。安心するんだ」
コウはヌイを抱きしめながら頭をポンポンと叩いた。ヌイはそれで徐々に安心して落ち着いて来た。
「見てみろ、ヌイ。あそこに宝箱がある」
「宝箱?」
ヌイはゆっくりと振り向くと本当に木箱の宝箱があった。
嘘だ!!!!ホントにヌイはコウにヤられちゃうの⁉
ヌイはコウをの手を力いっぱいに握って引っ張って路地裏から出ようとしたのだが、コウはビクともしなかった。
マズイマズイマズイマズイ。このままだと、ヌイの処女が、処女があ!
コウは恥ずかしそうに空いてる手で髪を掻いた。
「実は、中学校まで柔道していて体幹には自信があるんだ」
「クッ。と、得意技とかってあったの?」
「うーん。立ち技は背負い投げかな。寝技はあらましだいたい得意だったかな」
寝技が得意ですって⁉マズイマズイマズイマズイ!逃げなきゃ。コウと協力してなんて考えていたらホントに処女を失ってしまう!
「とりあえず、宝箱を開けよう」
コウはヌイの手を引いて歩こうとした。だが、ヌイは全力で阻止するべく力いっぱい踏ん張った。
「待って。宝箱を開けたら虫が出るかもしれないじゃん。ヌイは開けるの反対。ぜっだいに嫌だ!」
「すげえな。ここまで、美少女ゲームの難易度が高い女の子はガードが堅いのか。それに、正解の道に辿り着こうとしたら、全力で阻止して来る。こんなの、プレイヤーは普通引っ掛からないって一見思うけど、わざとに引っ掛かりたくなってしまうなあ。恐るべしだなあ。でも、この異世界から抜け出すためにはヌイとヤらないといけないし。クッ、どうしたら・・・」
コウはまたもや平然と淡々と喋ると顎に手をやって考え始めた。ヌイはもう全力でコウから離れようと何度もコウの腕を殴っていた。
「一回、キスをして落ち着かせる?でも、条件を整わずにヤったら即死になるかも・・・。知らんけど。でも、異世界を舞台にした美少女ゲームの世界に召喚されている以上、ホントに手順を間違えたら死ぬ可能性があるかも・・・。やべえ。なんて奥が深いんだ。美少女ゲームってのは」
「だから、ヌイはコウに興味ないって言ってるでしょ!」
「悪い。ヌイ。ここは強引に行かせてくれ。宝箱を開ける」
「待って」
「待たない」
「ちょっ⁉」
コウは抵抗するヌイを無理やりお姫様抱っこして宝箱に近づいた。ヌイは手足をバタバタさせて必死に抵抗したが無理だった。コウは宝箱の前でしゃがんでゆっくりとヌイを立たせると宝箱を開けた。ピンク色の光が漏れた。
「やっぱりか」
「嫌ああああああ!」
コウは宝箱を開け切った。中に入っていたのは二人分の服と靴だった。
「ふう。良かった。ずっと形が見えてたからドキドキしてたんだ」
ヌイは今更ながらに寝間着の白色のシャツを見た。そう言えばノーブラだった。急速に顔の血流が早くなり、顔が熱くなった。おそらく、真っ赤に染まっているだろう。だが、同時にコウの誠実さに少し心が奪われた。
「なんで、ヌイの胸を全然見なかったの?」
ヌイは気付いていた。コウは自分でジェントルマンと言うだけあって、今まで、胸を一回しかチラ見していなかったことに。すると、コウは顔を急速に真っ赤に染めて恥ずかしそうに言った。
「僕はそもそも、人見知りだし、いつも孤立してて。だから、人と話すのはかなり久しぶりで正直無理してたんだ。だから、いつも、人が嫌がる行動は取らないように考えて行動しててさ。例え、美少女ゲームの世界でもそういうことはしっかりと意識してないといけないって思ってさ」
ヌイはコウの勘違いは一旦置いてコウのことを見直した。根がちゃんと優しくてしっかりしている。
「フフフ。でも、さっきヌイのことを強引に連れて行ったじゃん。ヌイ、本気で嫌だったんだけど」
ヌイはジト目でコウを睨んだ。コウは少したじろいだ。
「それは、ヌイとヤらないときっとこの異世界設定の美少女ゲームの世界から抜け出せないと思ったからで。そこら辺はちゃんと割り切って考えないと前に進めないじゃないか」
「そっか。逃げないから後ろ向いてて」
「おっ、おう」