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体内に潜むもの

一夜明けて、高橋は退院することになった。

俺は病院の寝巻き姿のまま、正面玄関まで奴の見送りへと向かう。

玄関まで来て、ここが市内で一番大きい『沖凪市民病院』だと気が付いた。

タクシーから顔を出す高橋は、すっかり元気を取り戻している。


「全く、やれやれって感じだよ。病院ってとこは、どうにも苦手だ。

A、おまえも少し休んだら、早めに出てこいよ」

「うん、なるべくそうするよ」


昨日、治療を受けてから、俺も体調がすこぶる良くなった。

退院する日も近いだろう。


走り去るタクシーを尻目に、俺は院内へと引き返す。


「お帰りなさいませ。お気を付けて病室にお戻りください」


声の主は、病院の玄関にいる受付嬢のAIロボットだった。

コロッとしたシルエットの、丸い顔に丸い目が付いた、いかにもなマスコット系ロボット。

すぐ横の壁には「御用の際は『フェーヴ』に声を掛けてください」と書かれた紙が貼られている。


そう言えば、入院した時は気絶してたから、気付かなかったな……

都会の病院には多いって聞くけど、こんな地方でも普及してるのか。


そのまま病室に戻ろうとしたが、ハッとして足が止まる。

廊下の奥の『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアを通っていった少年。

その後ろ姿に見覚えがあったからだ。


「鳴島B……」


なぜ、あいつが……?

そういえば医者の息子だと、女子が噂しているのを聞いたことがある。

父親がここの勤務医なのかもしれない。


ふと、シャチに襲われた時の、頭に響いた言葉を思い出した。


【任務完了。ナルシマ機、帰還せよ】


あれは偶然?

それとも、あの機体に乗っていたのは……


俺は早足でもう一人の鳴島に駆け寄って、声を掛けた。


「おい、B!

……B組の、鳴島イツキ!」


無言で振り返った鳴島Bの顔には、何の表情も浮かんでいない。


「ああ、隣のクラスの。何か……用?」


抑揚のない声で返事をするBに大声で言った。


「おまえ、昨日、ロボットに乗ってた!?

ナルシマ機、帰還せよって……むぐぅ」


いきなり口元を押さえ込まれて目を白黒させる俺を、Bがにらみつける。

こんなに動揺しているこいつの顔を見るのは初めてだ。


「話なら向こうで聞く。ついて来い」



◇ ◇ ◇



言われた通りについていくと、着いたのはまさかの霊安室だった。


「ちょっと待った! よりにもよってこんなところで話をするのか!?」

「今は『お客さん』もいないし、ここなら誰も寄り付かないからな。

……それより、ナルシマ機がどうこうとか、誰に聞いた?」

「昨日、シャチに襲われた時……

なんか、機械っぽい声が、いや声じゃないかもしれないけど

ステルスシールドとか、任務完了とか、いろいろ頭の中に響いてきて」


突然、あの時と同じように、言葉が頭の中に響いた。


【共鳴、しましたか?】


「共鳴……?」


【私が、そこにいるパイロットに送った意思を、あなたも傍受してしまったのですね。

正確には、あなたの体内にいる増殖型ナノマシンが、ですが】


「は……? ナノマシン?」


「いいのか? そんな話を一般人に……」


鳴島Bが困惑しながら、何もない宙を見上げた。


【彼はすでに一般人の体ではありません。

それに、この少年にナノマシンを伝播させたのは、あなたでしょう?】


「それは! わざとじゃ……」


Bが俯く。俺は周囲を見回しながら、得体の知れない声に向かって尋ねた。


「一体、どういうことなんだ?」


【説明しましょう。

四年前、あなたがミニフロートと呼ばれる島で、海洋生物に襲われた際、救助したのがパイロットのナルシマでした。彼は幼少期から私の元で訓練を受けていましたから。

しかし、その際に本人も怪我を負い、その血液に含まれるナノマシンが少量、あなたの傷口から侵入してしまったようです】


理解が追いつかない。

あの時俺を助けたのがBで、俺の体にナノマシンが入っている?


【昨日、治療の一環で、あなたの体にマイクロチップを埋め込みました。

これまで体内で増殖したナノマシンは統率が取れず、たびたび体調を崩したでしょう?

それを制御し、最大の効率で能力を発揮できるようにしました。


これで、あなたもガルフランの搭乗に適した体になったのです】


「フェーヴ! 何を勝手なことを! こいつまで巻き込むつもりなのか!?」


鳴島Bが叫んだ。

昨日中に間に合わず、すみませんでした。

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