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上陸の記憶

朝の光が薬品の臭いがする室内を照らす。

窓側以外の三方を白いカーテンで仕切られた空間で、俺は目を覚ました。

ここは……どこの病院だろうか。


「ふああああ……」


右隣から欠伸が聞こえた。


「高橋か!?」


俺は上半身を起こすと欠伸に向かって問い掛ける。カーテンの隙間が少し開くと、見知った顔が現れた。


「あー……Aか…いや、鳴島Aって言わなきゃ怒るんだっけか」

「いや、今はどうでもいいや。それより高橋、お前大丈夫だったか?」

「うん、ちょっと診察だか治療だかでゴタゴタしてたけど、今は平気だよ。

血を採られるのは嫌だったけどさ」


あの後、俺と高橋は体育館裏で倒れているところをバスケ部の女子に発見され、二人して病院に担ぎ込まれたらしい。


「そっか……いきなりシャチがメカに変型した時はどうなることかと思ったけど……

まあ、互いに無事で良かったよ」


そう俺がこぼした途端、高橋が真顔になった。


「……は? A、おまえ、何言ってんだよ……メカだの変型だの。

倒れた拍子にどっかぶつけたんじゃないのか?」

「え? だって、そっちこそシャチに襲われて気絶したくせに……」

「いやいや、おまえはこのあと検査だから、ちゃんと診てもらえよ?

でも、気ィ付けな? 今言ったのと同じことを、医者の先生に言ったら、確実に退院が延びるぞ。

……うーん……悪い、俺、頭が重いから、もうちょっと寝るわ」


シャッと音をたて、勢いよくカーテンが閉められる。


なぜだ……?

あの時、同じあの場所で、俺達は二人してシャチ型のメカに襲われたはずなのに……

どうして高橋は何も覚えてないんだ……?


俺は後ろに倒れ込んだ。ベッドが軋んで揺れる。


この感じ……

昔、俺がまだ真っ黒だったミニフロートに上陸した、あの時に似ている。

仰向けになったまま目を閉じると、当時の記憶が静かに蘇ってきた。



◇ ◇ ◇



「あれ、何? 島?」

「なんか、黒っぽいし、ぬめってるし……不気味だよね」

「大きな亀の背中だったりして」


本土からさほど離れていない離島、俺の故郷『南浦島みなみうらしま』。

その海岸っぺりに、奇妙な島が流れ着いたのは、俺がまだ小学生の時だった。

授業が終わったあと、俺は分校の皆を引き連れて、海岸までその島を見に行ったのだ。


浮き島は、陸地からすぐ上陸できそうな場所に、引っかかるようにして接岸していた。


「よーし! 俺が一番乗りだ!」


当時はお調子者だった俺は、頭のゴーグルを目元に装着すると、真っ先に小島の上に飛び乗る。

島の表面は海藻だらけで、ツルッと滑り、尻餅をついてしまい、みんなに笑われた。


「ふーん、なんか、ただの海藻のかたまりなんじゃないかな?」


調子に乗って、狭い陸地をピョンピョン跳ね回っていると、急に島が傾いて俺は海中に滑り落ちてしまった。


この辺りの水深は2メートルほど。

地元の子供達には泳ぐのに慣れている場所だ。

一瞬たじろいだ俺だが、すぐに海中で体勢を立て直し、泳ごうとして上を見た。


視界に入ったのは、島の裏側中心部分。そこにあったのは……灰色の、エビの腹を組み合わせたような、甲殻が複雑に組み合わさった、何かだった。

な……これは、生き物……?


しかし、考えを巡らす暇もなく、甲殻類から飛び出してきた細い針のようなものが俺を襲った。

針は俺の全身を、浅く引っ掻くように傷つける。

パニックになった俺は思うように泳いで逃げることもできない。

水際で友人が騒いでいるのが遠くに聞こえる気がする。

しばらくすると、島は動かなくなった俺を放置して、すっと離岸し、どこかに流れていった。


目が覚めると、俺は島の診療所のベッドで寝かされていた。

枕元には号泣している母親と、眉間に眉を寄せた父親。


怪我はほとんど擦り傷、切り傷で、命に別状はなく、俺は三日入院したあと自宅に戻った。

だがその日を境に全身に不調が現れ、貧血や眩暈を頻繁に起こすようになる。

俺以外に甲殻類を見た人間はおらず、誰に話をしても信じてもらえず、周囲にはただの水難事故として扱われた。


……それ以来、俺は塞ぎ込んだまま生きている。

続きは明日の夜、更新します。

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