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二人の鳴島イツキ

風光明媚な海辺の観光地、沖凪おきなぎ市。

その市で唯一の県立高校『沖凪学園』は海岸沿いの丘にあった。


終業のチャイムが鳴り、俺はさっさと帰り支度をして、校門へと向かう。

優雅な帰宅部活動だ。そこへ背後から声を掛けてくる奴がいた。


「A!」


無視して歩を進めるが、そいつは追ってきて、俺の右肩をつかんだ。


「おい、A! 返事ぐらいしろよ!」

「俺はAなんて名前じゃない。鳴島イツキって、ちゃんとした名前がある」


「拗ねるなよ。でもそのちゃんとした名前の人間がB組にもいるんだぜ。ご丁寧に字まで一緒でさ。

違う部分で区別しなきゃ、どうしようもないだろうが、え? どう思う? 一年A組の鳴島くん」


口数の少ない俺に、クラスで一番気安く俺に話しかけてくる高橋は、おどけたように言った。


そんな俺たちのすぐ横を、一人の女子生徒が駆け抜けていく。

あれはサッカー部のマネージャーか。「可愛い」とクラスで騒ぐ奴がいたのを思い出す。

彼女は、俺と同じように校門に向かっている男子生徒の一人に、声を掛けた。


「鳴島くーん! B組の鳴島くん! ちょっと待って! 本当にサッカーをする気はないの?」

「ないよ」


ぶっきらぼうに即答されて口をパクパクさせる女子マネを尻目に、鳴島Bは歩調も変えずに立ち去っていった。

思わず眉間にシワが寄る。


「相変わらずだな、Bも」


そう、先月まで、この高校で唯一の『鳴島イツキ』は俺だった。

アイツが隣のクラスに転校して来るまでは……


あっちの鳴島は、高一にしてすでに背が180近くあって、成績はトップクラス。スポーツもできて見た目もいい。そのせいか新入りのアイツが名前で呼ばれ、元からいる俺の方が『A』呼ばわりされることも多くなった。


そもそも俺はスポーツや体育の授業を禁じられていて、部活も運動部は入部禁止だ。

見た目的には何のハンデもない俺は、他の奴らからはサボっているように見えるのかもしれない。

クラスでは何となく腫れ物扱いをされている。


そんな俺とアイツを比べたら、アイツがメインで俺がサブになっても仕方ないっちゃあ仕方がない。

もちろん面白い気分じゃないが。


「だけど、あれだな。素っ気なさだけは、お前ら共通してるよな」


そう言いながら、高橋はからかい半分にこちらを見た。

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