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Lightning in the blue sky

Lightning in the blue sky{1・2}

作者: はらけつ


なんにせよ、


青い空に、稲妻は、よく似合う。



稲妻が、走る。

稲妻が、落ちる。


青天から、落ちる。

青天に、走る。


空から地へ。

いや、正確には、宙から地へ。


気象衛星は、観測する。

大気の動き等を観測し、地上に、伝える。

地上では、それを元にして、気象予測を、する。


気象衛星は、落とす。

人工的な稲妻を、地上に、落とす。

地上では、気象予測した結果を元に、気象制御の為の稲妻を、落とす。


未だ、人工的には、微々たる稲妻しか、起こせない。

そんな稲妻では、気象制御に、使えない。


稲妻の威力を、増幅する必要が、ある。

気象制御に使える稲妻にする必要が、ある。


それには、増幅装置が、必要。

増幅装置と云うか、そう云うものが、必需。


色々、試した。

無機物から、有機物まで。

鉱石・薬品から、昆虫・動物まで。


結果、一つのものに、落ち着く。

人間に、落ち着く。

それも、濃い記憶を所有している人間、に。


濃い記憶を持っている人間ほど、役に立つ。

気象制御の為の、稲妻増幅に、役に立つ。

記憶が濃い程、稲妻は、増幅される。


が、身体に、電気(稲妻)が走る訳なので、無事には、済まない。

人間の神経や脳には、電気信号が走っている訳なので、無事には、済まない。


代償として、増幅装置になった人間からは、失われる。

増幅装置として、使われる度、記憶は、失われる。

新しい記憶から、最近の記憶から。


法律が、制定される。

その法律の為、気象制御を名目に、人が、強制的に招集される。

体のいい、祭の人身御供、戦時の赤紙招集。


招集する人間は、その資格から、高齢者が、多くなる。

が、『濃い記憶を持っている』資格さえあれば、若年者も、招集される。


表立っては、苦情を、言えない。

災害を防ぐこと、多くの人の利便に関わること。


そうやって、善意の犠牲者を出し、日々は、続いてゆく。


{case 1}


アンキ1号には、乗っている。

高齢の女性が、乗っている。



ステラには、孫が、いる。

ノビーと云う孫が、いる。


ノビーは、小さい頃、いじめられて、いた。

学校の中でも、学校の外でも、いじめられて、いた。


運動神経が良くなく、体格も貧弱。

病気がちで、よく学校を、休む。

成績も、そんなに、良くない。


恰好のいじめ対象では、ある。

『やられる方は、たまったものではない』が。


そんなノビーを見て、両親は、考える。

考えて、厳格に、育てる。


が、その時のノビーに、厳格は、いらなかった。

欲しいのは、いたわりと包容、だった。



ステラは、ノビー家の一角に、住んでいる。

ステラは、ノビーの父の母、だからだ。


ステラの元に、ノビーは、よく来た。


いじめられたり、泣かされた時。

憤ったり、悔しい時。

そんな時に、よく来た。


来ては、うずめる。

ステラの膝に、顔をうずめる。

うずめては、泣く。


そんなノビーの頭を、背を、撫でる。

ステラは、やさしく、撫でる。

話を聞いて、ウンウン頷きながら、撫でる。


ステラは、口を、出さない、開かない。

ただ、撫でて、聞く。


そして、ノビーが落ち着いた頃に、一言だけ、言う。


「ノビーちゃんは、人の痛みが分かる、いい大人になるで」


そう、言う。



ノビーは今、介護職に就く為、その専門学校に、通っている。

日々、実習として、ステラと同世代の高齢者と、接している。


中には、認知症の人も、いる。

いや、ある程度の年齢になれば、程度の具合はあれど、誰でも、認知症の症状は、出て来る。


そこで、気持ち好く、家族等に『介護してもらえるか?もらえないか?』で、人間の出来が、出る。

今までの、常日頃の行ないが、出る。


介護施設にやって来る家族を見ていると、それが、如実に、分かる。


家族が、定期的に、来るところ。

家族が、たまにしか、来ないところ。


複数人数で、来るところ。

一人しか、来ないところ。


長時間、居るところ。

すぐ帰る、ところ。


等々。


また、訪問者も、それを如実に、示している。


家族以外の人が来る、人。

家族しか来ない、人。


様々な世代の人が来る、人。

同世代しか来ない、人。


等々。



ちっちゃい子には、怒りっぽい子も、すぐメソメソする子も、いる。

やたらポジティブな子も、やたらネガティブな子も、いる。

興味の範囲も、千差万別、多岐に渡る。


それが、歳を取る毎に、覆い隠されて来て、収斂されて来る。

そのピークは、二十代後半~四十代後半にかけて、来る。

だから、主にこの世代の人を、『大人』とか『一人前』とか、云うのだろう。


それから以降は、また、覆いが徐々に外され、多岐に渡って、来る。

それが、露わになって来るのが、五十代後半~七十代後半、なのだろう。

だから、ちっちゃい子と、この世代の高齢者は、行動にしろ言動にしろ、似て来るのだろう。


まさに、ループ。

まさに、人生は、円。


ノビーは、つくづく、こう思う。



今現在、ステラは、家に、居ない。

アンキ1号に、乗っている。

気象制御の稲妻の、増幅装置として、乗っている。


赤紙招集が来て、有無を云わさず、その場で、連れて行かれた。


苦情を、言おうと、した。

猶予を、求めようと、した。

が、諦めた。

法律には、逆らえない、逆らうだけ無駄。


まあ、一か月後には、会える。

気象衛星の交代時には、会える。


この時期は、比較的、気候が穏やか。

だから、そんなにも、気象制御の稲妻を、落とさなくても済む、だろう。

ステラへの負担は、少なくて済む、だろう。


一ヶ月の内に、おばあちゃんが驚くぐらい、介護の腕を、上げといてやろう


ノビーは、内心で決心する。



一か月後、気象衛星交代日。


気象センターに、向かう。

アンキ1号の帰還日を聞いてから、ステラの帰宅日を聞いてから、この日は、空けてある。

どんな予定が舞い込もうとも、ガンとして、撥ね付けた。


スケジュール調整の結果、今日と明日は、丸々、空けている。

二日間、みっちりと、ステラの相手が、できる。


ノビーは、思い数える。


してあげたいこと、して欲しいこと。

言いたいこと、聞いて欲しいこと。


思いながら、顔が、緩む。

自然と、にやける、微笑する。


気象センターに、着く。

大きく深呼吸、する。

いつの間にか、気が急っている自分を、落ち着ける。


アンキ1号は、既に、帰還している。

ローザ2号が、飛び立とうとしているところに、出くわす。


轟音と共に、揺らぐ陽炎達を引き連れ、ローザ2号は、飛び立つ。


あれにも、誰か、乗ってるんやろうな


ノビーは、思う。



待合室には、誰も、いない。

普段は、気象センターの職員家族向けに使われているのだろうが、今この時には、誰もいない。


気象衛星に搭乗するのは、増幅装置としての、ヒト一人だけ。

よって、気象衛星が帰って来ても、面会人は、少ない。

多くても多分、家族数人だけ。


今回は、ノビーだけ。

父も母も、スケジュールの都合が、つかなかった。

「そんなに大げさに構えなくても、家に帰ってきたら、会えるやん」と、父も母も、言う。


ノビーも、そう思う。

そう思うが、『迎えがいる・いないは、大きい』とも、思っている。

そして、『そっちの方を、大事にしたい』と、思っている。


「入ってください」


ノビーが、待合室に来てまもなく、声が、掛かる。

応接室への入場可、の合図だ。


ノビーは、『久し振りに会える』弾む心を落ち着け、意気揚々と、向かう。


ガチャ


応接室のドアを、開ける。


ドアを開けると同時、ステラの視線が、突き刺さる。


『ん?』


ステラは、不思議そうな顔を、する。


ノビーは、衝撃を、受ける。

その眼が、その眼の動きが、如実に、表わしている。


が、すぐに、眼を、目許を、目尻を、まろやかにする。

眼を、優しく、する。


「おばあちゃん、初めまして。

 これから、おばあちゃんの身の回りの世話をする ・・ 」


分からなくても、見守っててや、おばあちゃん

きっと、『いい大人になる』で ・・


{case 1 終}


{case 2}


ローザ2号には、乗っている。

歳若い女性が、乗っている。



そんな法律が出来てるなんて、知らなかった。

もっとちゃんと、知っておけば、よかった。

身近に危害が及ぶんなら、もっとちゃんと、反対しておけば、よかった。


気象衛星に乗るのは、人生経験豊富な高齢者に、限らない。

気象制御の、稲妻の増幅装置になるのは、高齢者に、限らない。


『人生経験さえ豊富であれば、年齢は関係無い』、なんて。

そんな法律が、『いつの間にか、施行されていた』、なんて。



「私なんか、どう?」

「はい?」


聞き直した。

二度聞き、した。


見つめた。

真剣だ。

真剣な瞳、だ。


マジ、か。

マジ、なのか。

俺の人生に、こんなことが起こるのか。


「マジ、で?」


『二度も言わせるな』と、その瞳が、語っている。

笑顔で。


言わせなかった。

言わせるもんか。



突然、日々は、浮足立つ。

ウキウキと、フワフワと。


色も、変わる。

カラフルに、ラブラブと。



ある日、友達と、待ち合わせる。

友達は、地元を、出ている。

一人暮らしをして、他の処に、住んでいる。


会うのは、久し振りだ。

年に、数回しか、会わない。

が、久し振りに会っても、お互い、変わらず、接することができる。


「おう、久し振り」

「おお」


さして、話は、弾まない。

挨拶して、ごく簡単に近況報告して、ダベ話(主に、お互いの趣味と云うか、そんな話)をして、終わり。

でも、それが、なんとも、心地好い。


その折、付き合いの話に、なる。


「彼女、できたか?」


『まあ、できてへんやろうけど、一応、聞いたるわ』みたいな感じで、ヤツは、言う。


「おお、できた」


ヤツは、固まる。

固まって、眼を、見開く。


「マジ、で?!」

「マジ」

「なんで、また?!」


で、経緯を、簡単に、話す。


「それ、ホンマか~?」


ヤツは、疑わしいそうな眼を、向ける。


「ホンマ、ホンマ。

 掛け値無しの、ホンマの話」


俺は、保証するも、ヤツの疑わしい顔は、晴れない。


「だとしたら ・・ 」


ヤツは、ここで、話を、止める。

『無意識に、口に出してしもた。これ以上は、やめておこう』みたいに、話を、止める。


「何や、何や?」

「う~ん」

「何や、気になるやんけ。

 言い掛けて、やめんなや」

「う~ん。

 でもな ・・ 」

「言えや」


俺は、強めの口調で、問う。

ヤツは、吹っ切った様に、頭と眼を上げて、口を、開く。


「罰ゲーム、とか」

「罰ゲーム?」


咄嗟には、分からない。


ヤツは、諦めた様に、言を、続ける。


「友達と、何かゲームをしてて、負けてしもて、

 罰ゲームをやる破目になってしもて」

「誰が?」

「お前の彼女が」


えっ?


「つまり?」

「つまり ・・ 」


ヤツは、言い難そうに、言葉を、切る。

俺は、迫る。


「つまり?」

「つまり ・・ お前と付き合っているのは、彼女の本意やなくて、

 『罰ゲーム、やらされてんのとちゃうか』、と」

「 ・・ マジ、で?」


俺の視界から、急に、色が、無くなる。

モノクロの世界に、なる。


「いやいや、可能性の話。

 『そんなことは無い』、と思う」


ヤツは、早急に、取り繕う。

が、俺には、疑念が、芽生える。


可能性としては、そっちの方が、有り得る

てか、今までの経験から見て、そっちやろ


思考が、負にスパイラル、する。



それからのヤツとの話は、ロクに、覚えていない。

早々に、切り上げたのは、覚えている。


頭の中は、『確認しなくては』の思いばかりが、渦巻いていた。

そして、今も、渦巻いている。


今日は、朝から、チトセと会う予定に、なっている。


待ち遠しい様な、怖い様な、

早よ安心したい様な、最後通牒突き付けられるのを、先延ばししたい様な、


そんな心持ち、だ。


早く、着いた。

三十分も早く、着いた。


気ばかりが、焦る。

深呼吸、する。

一〇カウント吸って、一〇カウント吐く。


なかなか上手く、息を、吸えない。

なかなか上手く、息を、吐けない。


四苦八苦、する。

で、思う。


たかが、息をするのに、こんな悪戦苦闘、するやなんて


じたばた、息を整えてる内に、五分前、となる。

眼を閉じ、心も、整える。


だしぬけに、ツツかれる。

背中を、突かれる。


心構えをしていなかったので、一瞬、固まる。

一呼吸のち、眼を、開ける。

おそるおそる、振り向く。


いた。

満面の笑みを浮かべ、チトセが、そこに、いた。


思わず、抱きしめてしまいそうに、なる。

なるが、腕は、手は、止まる。


そして、嬉しいけど、不安感に、包まれる。。

煮え切らない表情を、浮かべる。

複雑な表情を、浮かべる。


俺を見て、チトセは、小首を、傾げる。

顔に、?マークが、浮かぶ。

問う様に、浮かぶ。


「どうしたん?」


口に、出す。

口に出してもらうも、答えられない。

俺は、すぐに、答えられない。


「ちょっとな ・・ 」


すぐに、口籠る。


チトセの?マークは、続く。

容易に、解消できない。

ちゃんとした説明を、求めている。


慌てて、経緯を、説明する。

友達とのやり取りの経緯を、キチンと、説明する。


チトセの表情は、変わる。


?マーク顔から、『何それ』眉顰め顔に。

眉顰め顔から、怒りヘの字口顔に。


ヘの字口につられ、目尻も、上がる。

が、徐々に、目尻は、下がる。


下がると共に、眼が、潤んで来る。

眼から涙がこぼれそうなくらい、潤む。

その頃、眼は、悲しみを、湛える。


最終的には、怒り悲しみ顔と云うか、怒りと悲しみが、なんとも入り混じった顔を、形作る。


あかん!

決定的に、あかん!


俺の頭の中に、けたたましい程のサイレンが、鳴り響く。

でも、キチンと説明は、した。

懸念も、ちゃんと、表明した。


うわっ

どこが、あかんかった?


「何、それ」


チトセは、呟く。

そっと、呟く。

悲しみの瞳を湛え、眼を伏せ気味にして、呟く。


あかんあかん!

マズい!マズ過ぎる!

早急に、リカバリーせな!


気ばかり焦るも、いい手は、浮かばない。

言葉は浮かばない、口は開けない。

チトセを、見つめ続けることしか、できない。


「何、それ」


チトセが、強めに、再び、問う。

顔を上げ、瞳に悲しみを湛え、強めに、問う。

俺を、キッと見つめて、強めに、問う。


思わず、言う。


「ごめん」


思わず、動く。

チトセを、抱きしめる。


数瞬後、チトセから、声が、漏れる。

くぐもった様な、耐え忍んでいた様な、悲しみの声が、漏れる。

震えて、じゃくる、嗚咽する。


俺の上着の前面が、濡れて来る。

肌に、湿り気を、感じる。

後悔の湿り気を、感じる。


チトセが落ち着いた頃、取り出す。

ポケットから、スマホを、取り出す。


スマホを、動画撮影モードに、する。

スマホを、チトセに、向ける。


チトセは、顔を上げ、顔を歪め、表情で『信じられない!』と、示す。


「ごめん。

 余りにも、可愛かったから。

 すいません」


平謝りに、謝る。


チトセの顔が、緩む。

目尻が、下がる。

口元が、綻ぶ。


「何、それ」


チトセは、微笑む。



その次の日、だった。

翌日、チトセの元へ、赤い招集令状が、届く。


立会人が、直接、持ってくる。

その立会人の元、即、連行される。


事態を把握できたのは、その場にいた、家族だけ。

後になって、親族にも、友人にも、家族から連絡が行く。


俺は、友人からの連絡で、やっと知る。

チトセからの連絡が、二、三日無くて、やきもきしていた。

こんなことになっているなんて、思いもしなかった。


大体、一ヶ月毎に、気象衛星は、切り替わる。

二体の内、一体が稼働し、一体がメンテナンスに、入る。

それが、一ヶ月毎と、なっている。


つまり、


一ヶ月したら、チトセには、会える。


つまり、


一ヶ月しないと、会えない。



今日も、落ちる。

稲妻が、落ちる。

青天に、落ちる。


稲妻は、走る。

気象制御の為、走る。

ローザ2号から、走る。


日本列島は、縦に細長く、その為、気象が多様だ。

気象制御の稲妻も、一回落としたらOK、と云うわけには、いかない。


最低でも、一時に、数回は落とさなくては、いけない。

一ヶ月では、百回弱くらいに、なるだろう。



やっと、来た。

明日、だ。

明日、チトセに、会える。


気分を揚げる為、急く心を落ち着かせる為、再生する。

この間撮った、スマホの動画を、再生する。


チトセは、画面の中で、怒り、震え、嗚咽を漏らす。

そして、笑う。


スマホに向かって、ニッコリする。

愛しさが、抑え切れない。


思わず、腕を上げる。

手を伸ばし、人差し指も伸ばす。


画面を、撫でる。

画面のチトセを、撫でる。


今は、まだ、午前中。

朝方、と、云えるかもしれない。


今日は、長い一日に、なりそうだ。



気象センターまで、来る。

ここは、気象の予測・制御・管理、気象衛星の打ち上げ・回収など、気象に関することを、一手に、行なっている。

よって、気象衛星の交代も、ここで、行なわれる。


近づいて、来る。

轟音と共に、ローザ2号が、近づいて、来る。


思ったより、ローザ2号は、小さい。

バンガロー小屋くらいしか、ない。

1ルーム+K+UBみたいな感じ、だ。


が、離れているとは云え、轟音は、大きい。

多分、推進ノズルであろう部分からは、やけに揺らめく陽炎が、立ち昇っている。

眼に確認することはできないが、すごい勢いで、燃料を燃やし、噴き出しているのであろう。


自動離陸・着陸機能が、降りて来る。

水平に降りて来て、着陸地点に、ランディングする。


ローザ2号が、帰って来た。

チトセが、帰って来た。


指示を待ちきれず、待合室を、出る。

面接室に、向かう。


頭の中で、スマホの動画を、再生する。

チトセの動画を、再生する。


チトセは、画面の中で、怒り、震え、嗚咽を漏らす。

そして、笑う。


抑えきれない。

足は、急く。

心は、逸る。


応接室に、着く。

だが、まだ、中には、入れない。

指示があるまで、中の準備が整うまで、入ることは、できない。


応接室のドアの前を、右往左往する。

ただひたすら、行ったり来たり、する。


しばらくして、中から、物音が、する。

物音は大きく、遠慮無く、響く。

中の設備等を、整えている、らしい。


音は、続く、続く。

唐突に、止む。

そして、声は、掛かる。


「入ってください」


急く心を抑えて、ドアを、開ける。

弾む様に、ドアを、開ける。


出迎えてくれたのは、チトセの笑顔。

が、少し戸惑っている、笑顔。

よそよそしい、笑顔。


チトセを、見る。

見つめ続ける。


眼を、閉じる。

頭の中で、スマホの動画を、見る。


画面のチトセは、怒る。

怒りながら、泣く。


眼を開け、再び、チトセを見る。

見つめ続ける。


困った様に、チトセは、言う。


「どちら様ですか?」


それでも俺は


{case 2 終}


{了}

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