第36話「クサリクの試練2」
砂漠の果て、亜空間内のがしゃどくろの家で経津主はちゃぶ台にあぐらをかき、丸鏡の前でつまらなそうにツノを磨いていた。
頭頂部から生えた2本のツノは刀そのもので、鋭利な先端と砥石で研がれたような刃先が銀色の光を反射している。
それらを磨き終えれば、今度は頬から生えた刃も磨く。
「身だしなみを気にするとは意外じゃな。1時間も2時間よく飽きないのう」
「これは身だしなみじゃねぇ、武器の手入れだ。お前だって昌石を加工すんのに何時間も篭ってんだろ」
彼の体から生える刃は20年以上の修行を経た職人が鍛造するものに匹敵するほどの切れ味を持ち、単体でも両家の侍が帯刀する刀と同等の価値がある。
「使い捨てるクセに見た目は気にするのか」
「光ってる方が格好いいからな」
経津主の戦闘スタイルは刀を使うものであるが、侍のように決まった構えや剣術があるわけではない。
それは経津主神というのはあくまで刀剣の神であって、侍の神ではないからだ。
故に彼の中に確立された武士の心得というものはほとんど無い。
長い刀身を神特有の豪快なパワーで力任せに振るうので、刃は衝撃に耐えられずすぐに刃こぼれをする。
そうすると経津主は柄から刃を取り外し、別の刃と交換するのだ。
その別の刃はがどこから来るのかというと……。
がしゃどくろは経津主のツノを人差し指でチョンと触った。
「あ、おい!」
刃の触れた指先からジワリと赤い血が滲む。
表面張力でドーム上に丸くなった血を舐めとり、がしゃどくろはフッと笑った。
「なかなか良い切れ味ではないか。これほど良い刀をあそこまで刃こぼれさせるとは、お主の使い方が成っておらん証拠じゃの」
「うるせえなぁ。そこまで器用じゃねぇんだよ」
がしゃどくろは湯呑みの茶を一口飲み、左手に持っていた煎餅のかけらを頬張った。
咀嚼したのちにゴクリと飲み込み、また茶を一口飲む。
「……どれほど前じゃろうかのう。鎧銭からこのミフターフまで遥々、武器の鍛造依頼をしにきた者がおった」
がしゃどくろが突如話し出した独り言。
しかし経津主は「興味無い」と言わんばかりに無視を貫き、刀の柄と鞘を布で磨く。
「奴の注文は大雑把での。素材の指定も無く、ただある刀をモデルに鍛造して欲しいと要求してきたのじゃ。名は確か………そう、“布都御魂”」
『布都御魂』
その名を聞いた瞬間、経津主の手が止まった。
「大変だったんじゃぞ〜。名と存在は知っておったが実物を見たことはなかったのでのう、其奴の話を聴いて模索しながら作り上げたのじゃ」
「……そうかよ」
鞘を握る経津主の腕に力が入り、再開された磨く音だけが寂寥の中に響く。
がしゃどくろは「やれやれ」と言ったように小さくため息を吐き、ちゃぶ台のおかきをひとつ摘んで口へ放り込んだ。
一方その頃、クサリクによる苛烈な試練を受けているオレたちは、サイファルの考案した作戦の実行に勤しんでいた。
「"水弾"!」
ジュリアーノの繰り出した水の弾丸がクサリクを襲う。
しかしそヤツは全てので弾丸を腕で薙ぎ払ってしまい、破裂した水弾はびしゃびしゃと地面へ落ちた。
だがそれでもジュリアーノはめげることなく様々な水の魔術を放つ。
両腕を回して魔術を捌き続けるクサリクに、残りの4人は地面を走り回ってそれぞれ襲いかかる。
だがいずれもヤツに弾かれ、皆次々に地面へ打ち付けられていった。
オレは倒れてすぐに起き上がり、その場から跳んでヤツの背中へ風刃を放ったが、呆気なく避けられてしまい、腹へ頭突きを喰らって吹き飛ぶ。
外れた風刃は地面を少しえぐり、クサリクの足に泥が跳ねた。
「水を撒いて私を滑らせようとしているのか?実に甘い!」
クサリクはズンと力強く四股を踏んだ。
「そのような手口、何百回と喰らっておるわ!!」
ジュリアーノが水の魔術を出し続けたおかげで地面はすっかり水浸し。
そこへオレたちがあちこち走り回りながら攻撃を仕掛けたもんだから、削れた地面と混ざり合い、あっという間に浅い泥地が形成された。
「…」
「うっ、滑る」
クサリクを追い詰めるための泥であるが、同時に自分たちの首も締めている。
一歩間違えれば滑ってそのまま池へ落下なんてことも否めない。
だが、それだけではないのだ。
泥地を作った目的ははヤツを滑らせるためでもあるが、それと他にもうひとつある。
それを実行するためには、今よりも地面に泥を増やさなければならない。
しかしすでに油断すれば足を取られて転んでしまうような状況、細心の注意が必要だ。
アサドは自身の胸板よりも大きな斧をクサリクの脚に振るうが、ガアンという音と共に弾かれ、そのまま硬いヒヅメで蹴り飛ばされた。
アサドのすぐ後ろに着いていたオレとサイファルはアサドが飛ばされた同時に飛び出し、息を合わせて互いの刃をクサリクの胸元に突き立てる。
しかし、ヤツは「フンッ」という掛け声と共に胸板を張り、攻撃を簡単に弾き返した。
オレとサイファルはほぼ同時にドシャリと地面へ落下したが、着地が少しばかり早かったためにサイファルはオレの下敷きになってしまった。
「あ、ごめんサイファル!」
「…良いんだ…気にしないでくれ…」
その後しばらく皆で走り回り、地面に泥を作り続けた。
靴の半分が沈み始めた頃、サイファルが皆へ合図を送る。
来たか!
それを確認すると、各々が作戦で言われたと通りに動く。
オレはまず、クサリクから距離を取って奴にめがけて風刃を放った。
(あの小僧、近接から遠距離に切り替えた…妙だ)
オレの様子に違和感を覚えたクサリクは、前へ踏み込んで正面から突進してきた。
がしかし、ヤツの背後を取ったサイファルが跳び上がって剣を振るう。
クサリクは瞬時にその敵意を察知し、クルリと瞬時に方向を変えて彼のみぞおち付近へ強烈な頭突きを入れた。
「サイファル!」
クリティカルヒットしたと思われた頭突きだったが、間一髪サイファルは自身とクサリクの頭の間に剣を挟んでガードしていた。
彼が着地すると同時にクサリクはハッとした表情で振り返る。
その先には孤島の端も端、池に落ちるギリギリのところでたたずむオレの姿だった。
「はああっ!」
オレは勢いよく地面を蹴ってクサリクの方へ跳び出し、槍を握りしめて大きく振りかぶる。
槍の魔力を刃先のへ一気に集中させ、目一杯の力を込めて放った風刃。
しかし猛然たる刃がクサリクにヒットすることはなく、ヤツの手前で地面に直撃する。
…だが、これこそが狙いなのだ!
「!?」
狙いを外れたと思われた風刃は地面を大きくえぐり、同時に大量に泥がクサリクへ降りかかった。
よしっ!!
「ジュリアーノォオオ!!」
ジュリアーノはオレの声と同時に杖をクサリクへ向け、詠唱を唱える。
「凍てつく純水の晶魔よ、我が命に応えたまえ!"永唄"!!」
ジュリアーノがそう唱えた直後、クサリクを挟み込むように上下に現れた魔法陣。
カッと眩い光を一瞬放つと、神々しい柱のような閃光がヤツを包み込んだ。
「ウソでしょ!?まさか…最上級魔術!?」
場外のウルファは驚きのあまり立ち上がり、クサリクへ放たれた魔術に釘付けになる。
とてつもない地鳴りと轟音の中で、ジュリアーノ杖は根元まで完全にヒビが入り、跡形も無く砕け散った。
発光の中に少しずつ現れる影。
光が弱まるにつれて徐々に魔法陣も消えていく。
「…!!」
光が完全に消え去った孤島の中心に佇む、黒いかたまり。
魔術で泥と共に凍結し、巨大な氷塊となったクサリクだ。
「やった…やったぞ!僕の言ったとおりだ!!やったー!!」
「ああ…できた…」
剣を持った拳を天高く掲げ、したり顔で大喜びするサイファル。
「すごいすごーい!凍っちゃったよー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶガイアの横で、口をポカーンと開けて硬直するウルファ。
失格となった者たちまでもが場外からスタンディングオベーションで大喝采を送り、会場は空前の大盛り上がり。
ジュリアーノが水魔術を何度も放ち、その上を皆で走り回ることによって地面をドロドロぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
泥地と化した地面を攻撃しながら削って掘り、サイファルの土魔術で更に泥を追加。
クサリクの注意を引きつけたところで極限まで溜め込んだ泥をヤツに頭からかけ、全身が包まれたところで氷魔術で凍結させる。
原始的かつ脳筋的なやり方ではあるが、まさか成功するとは思わなんだ。
しかし、大変なのはここから。
「…よし、落とすぞ!」
試練の合格条件はクサリクをこの孤島から追い出すこと、つまりはこの巨体をどうにかして池に落とさなければならないのだ。
あれだけ強力な神獣を池へ落とすなんて、相当のパワーと体幹を持ち合わせていなければ不可能。
しかし身動きの取れなくなった今、神獣クサリクは袋のネズミも同様。
地面を滑らせれば泥が潤滑油となってオレたちのような凡人でもヤツの巨体を動かせる。
「ハァ!!」
手始めにアサドが巨大な斧で足元の氷を砕き、彼とオレ、サイファルの3人で押し倒す。
泥がクッションになってくれるので氷が割れる心配は無いし、氷自体も粘性の強い泥でできているため分厚く丈夫だ。
あとは皆で力を合わせ、コイツをこの島から押し出すだけ。
「いくぞみんな!せーのっ……押せー!!」
サイファルの掛け声と共に皆が一斉に力を込めるが、まるで杭でも刺さっているのかというほどにびくともしない。
しかし、オレたちは諦めずに氷塊を押し続けた。
「みんなッがんばれッ!!」
…すると、ズリズリという音を立て、ついに氷塊が動き出した。
泥で足元の悪い中、皆精一杯の力を振り絞って踏ん張る。
少しずつ着実に岸辺へ近づいていく氷塊。
もう少し、もう少しだ!
氷の端が水面上に顔を出したその時、ピシッという音と共に、オレの手元にヒビが入った。
んな!?まさか…!
「みんな!一回離れろ!」
「な、何を言って…」
まるでサイファルの言葉を遮るかのように突然ヒビが広がり、瞬きする間に氷塊全体へ亀裂が入った。
慌てて手を離して逃げるオレたち。
しかしあまりの早さに間に合うはずもなく、すでにオレの視界には砕けた氷の中から勢いよく生える太い腕が見えていた。
「ぬぅぅん!!」
尋常では無い勢いで砕け散る黒い氷。
ほとんど弾丸に等しいその威力に成す術なく、直撃したオレ、ベル、アサドの3人は一気に高くへ吹き飛ばされた。
「ベル!ケンゴ!」
「アサドー!」
まさかそんな。
一度は成功したというのに、こんなにも簡単に破られてしまうだなんて。
やっぱり無理なのか?
ただの冒険者が神獣に挑むなんて、高望にすぎることなのか?
そうか、そうなんだ。
いくら神のもとで修行をしたからって、オレが人間であることには変わりはない。
いくら神の作った武器を使ったって、いくら不死身だからって、結局オレは”ただの人間“に過ぎないんだ。
ただの…人間……人間……。
その時、オレの脳裏にある記憶がよぎった。
先日の夜、ジュリアーノと共に夕食を作っていた時の会話。
『ベルは、人間じゃ…ない?』
確定しているわけじゃない。
けど、この戦況をひっくり返せるとするのであれば……!!
「ベル!!」
高く飛ばされ空中を落下する中、オレの声にベルが振り返る。
池へ落ちれば失格。
このままいけば真っ直ぐ池へ落下してしまう。
だが、今の段階で場内へ戻れば何ら問題は無い。
「頼む!!」
自身へまっすぐ向かうオレの瞳に何かを悟り、静かにコクリと頷くベル。
オレは手に全身全霊の力を込め、長い槍を彼女へ向けて力一杯振るった。
「いけええ!!!」
柄をジャンプ台の様に両足で踏み込み、ベルは野球ボールの如き勢いでクサリクの元へ飛んでいく。
その時、空中を突進するベルの背中から黒いモヤのようなものが現れた。
モヤはだんだんと一点へ集まって形を成し、太く長い腕の様なものを製出する。
それらは獲物を噛み殺すムカデの牙のように大きく振りかぶると、クサリクの肩をガッチリと掴んだ。
「ナニ!?」
ヤツが驚きの声をあげた瞬間、更に溢れ出したモヤの中から浮かび上がるのは恐ろしい顔。
オレはその姿を横目で見届け、そのまま池へ垂直に落下していく。
「賢吾!」
ドボンと大きな水飛沫をあげて着水したオレの元にガイアが駆け寄る。
耳を覆ぎたくなる様な吶喊が辺りに響き、モヤはクサリクの体を大きな平手で勢いよく押した。
クサリクは必死の形相で踏ん張るが、無情にも地面を抉りながら後退していく。
「ぬぅおおおおおっ!!」
あっという間にクサリクは孤島の端まで追い詰められた。
血管の浮いた両腕でモヤの肩付近を掴み、どうにか対抗を試みる。
自身の何倍もある相手にたった1人で立ち向かう華奢な少女に、場外から多くの声援が送られる。
ガイアの助けで池から顔を出したオレも声援を送った。
ジュリアーノとサイファルがベルを支え、彼女の背中に手を添える。
「もう少しだベル!」
「頑張れ!」
皆の声援を聞きいて更に力を込めるベルだが、やはり腐っても神獣。
クサリクは下半身へ一気に力を込め、ベルを大きく押し戻した。
地鳴りのようなクサリクの咆哮と共に後ろへ押し戻されていくベル。
しかし彼女も諦めない。
押され気味の脚を地面へ踏み直し、一歩一歩押し返す。
泥だらけの体に精一杯ん力を込め、名も知らぬ冒険者たちの声援を、自身に託された想いを胸に、少しずつ少しずつクサリクを岸辺へ追い詰めていった。
そして。
「ううああああ!!」
岸辺から脚を踏み外し、ついにクサリクの巨躯が孤島から離れた。
とてつもない音と共に巨大な水飛沫がベルたちに降りかかり、体を汚していた泥が全て流れ落ちる。
「勝った…!勝ったぞ!完全勝利だー!!」
「やった!やったよベル!」
四方八方から飛び交う歓声の中、島へ残った者たちは互いに肩を抱き合い喜び合う。
外から吹く風が頭上の木々を揺らし、まるで勝利を祝福するかのように木漏れ日が強く大きく3人を照らしていた。
孤島に残った3人は試練の突破者として孤島の中心へ並んだ。
目の前にたたずむのは、池から上がったばかりでずぶ濡れのクサリク。
「よくぞ試練を突破した。勇者たちよ、まずはその栄光を讃えよう」
身体中からぴちゃりぴちゃりと水を滴らせ、クサリクは大きなくしゃみを放つ。
爆発にも等しいくしゃみの勢いに、ジュリアーノは耐えきれず後ろへ転げた。
「おお、すまんな。…さて、角をここへ!」
クサリクがそう言うと、池の中から2匹の巨大なカメがのそりのそりと這い出してきた。
岩のような甲羅の上には黄金に輝く巨大な角がそれぞれ1本ずつ、麻紐のようなもので縛り付けられている。
でっっっか!?!?
え、何倍だアレ!?
今生えているものでも十分大きいのに、それを遥かに上回る圧巻の巨大さ。
でもまあ、50年もありゃあんだけになるよな……アレが頭に乗ってたのか……。
「角は2本、しかし合格者は3人…」
「僕ら2人は同じパーティーなので、1人換算で大丈夫です」
「うむ。なるほど、承知した」
クサリクが合図をすると、カメたちはゆっくり彼の横へ並ぶ。
「お前達はこの神獣クサリクの試練に見事打ち勝ち、勇者として栄光を納めた。これはその証だ。さあ、受け取れ」
カメはそれぞれジュリアーノとベル、サイファルの目の前へと進む。
2人はクサリクへ深くお辞儀をし、一拍遅れてベルも頭を下げた。
3人は池に浮かぶカメ達の上を静かに場外へ歩いていく。
孤島から戻るやいなや、彼らは場外の冒険者達に囲まれた。
「お疲れ様。よくやったなベル、ジュリアーノ。それにサイファルも」
「当たり前じゃないか。僕の作戦が成功しないわけがないだろう」
出た、上から目線。
だが、腕を組んで「すごいだろう」と言わんばかりに喜色満面な彼の姿は、何と言うか微笑ましい。
綻びた顔のオレの後ろから、ウルファとガイアが駆け寄る。
「凄い凄い!凄いよみんなー!まさか神獣に勝っちゃうなんて!」
ガイアはジュリアーノとベルの周りをウサギのようにピョンピョンと跳ね周り、嬉しげに2人へ頬擦りをした。
その一方でウルファは口をへの字に曲げ、仏頂面で腕を組見ながらサイファルへ歩み寄る。
「ウルファ!見ていてくれたか、僕らの勇姿を!」
「まあね、サイファルの割にはやるじゃないの。少し見直しちゃったわ」
「本当か!」
素直でないウルファの物言いとそれをまんまで受け止める純粋無垢なサイファルに、ため息を吐きながらも優しい表情で見守るアサド。
遠くの孤島にただ1人立つクサリク。
和気藹々とする皆を見てフッと笑うと、ズシリズシリと重い足音をたて、再び黒洞洞の穴の中へ戻っていった。
「今回の作戦が成功できたのは君たちのおかげでもある。本当にありがとう」
オアシス入り口での別れ際、突然振り返ったサイファルがオレの前へ右手を差し出した。
「ああ、こちらこそありがとう」
傾き始めた陽の光に照らされ、オレたちは互いに握手を交わす。
サイファルの手のひらは豆だらけで、ずいぶん硬めのスポンジのような感触がした。
長年剣を振り続けている証拠か、よくよく考えればコイツBランクの冒険者なんだもんな。
「ソッチは凶暴な魔物が多いから、気を付けて帰りなさいよ。まあもっとも、あんたたちなら心配いらないでしょうけど」
「そうだな。機会があれば、ギルドでまた会おう」
「達者でな」
赤く照らされた砂漠の上を歩いていくサイファルたちの姿が、米粒ほどに小さくなってく。
砂上に残った太く長い線は、アサドがクサリクの角を引きずっていった跡。
夕方の砂漠に吹き付ける風はまるでカーペットを撫でるように、人が歩んだ痕跡を少しずつ消していく。
他の冒険者たちは皆すでに帰ってしまったようで、残っているのはオレたち4人のみ。
茜色の空を飛ぶ鳥たちは、我が子の待つ巣へ帰る途中なのだろう。
「よし、オレたちも帰るか」
「だね」
「いえーい!ゴーホーム!」
勢いよく背中に抱きついたガイアを優しく撫で、オレたちは帰路についた。
色々あったけど、とりあえず試練はクリア。
目的の物も手に入れたし、新しい友達もできた。
そして何より、今回の件でベルが“人間でない”ということがハッキリとわかった。
正体を暴きたいというわけではないが、共に行動する以上は極力お互いを知る必要がある。
帰ったら少し訊いてみよう。
なに、焦る必要は無い。
ゆっくりゆっくり話を聞けば良いさ。




