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第24話「ツアーインジアルビダイア」

 アルビダイアへ訪れて1ヵ月が過ぎた。

 節約に節約を重ねながら少しずつ貯めていた貯金も30万ルベルまで貯まり、最近は生活にもだいぶゆとりができてきたので、今日は冒険者としての仕事は一旦休みとして久しぶりの外食に出ていた。



「何気に本場の料理食べたのって初めてだよね」


「あ、確かに」



 オレは教えられた分の料理しか作れないし、それも全部アウローラの料理だからな。

 木製のテーブルに並べられたミフターフ料理の数々。

 彩り豊かかつボリューミーで一見とても美味しそうではあるのだが、よく目を()らしてみると見えるのは、ぶりぶりに太った白い幼虫や得体の知れない両生類か魚類かの緑色をした卵。

 それに気付いてしまえば、とても食欲の湧いてくる面々では無い。

 奇食…って言ったら失礼だよな……でもコレは…。

 最初はそんなことを思っていたものの、なんとコレが案外イケるのだ。

 幼虫はクリーミーかつ香ばしくて、まるで上等なポタージュを味わっているかの様な感覚。

 卵も何というか、形容し難い味だがとても美味しい。

 他にも豆やナスをペースト状にしたものや豆のスープなど、全体的に豆調理が多い気もしたが、これらももれなく美味しかった。



「ねえ、せっかくの休みだしさ、観光とかしてみない?」


「良いね〜!」


「まあ、ずっと生活に追われて毎日依頼受けてばっかだったもんな」



 ここ1ヶ月はほぼ休み無く毎日依頼を受けていたので、まともに街を見歩く機会が無かった。

 おかげで冒険者ランクはDに上がったし貯金もだいぶ貯まったしなので、ここいらでちょいと羽を伸ばして自由に観光を楽しんでみるのもアリだろう。



「宮殿に行ってみようぜ。アウローラよりもずっとキンキラキンで豪華だぜ」


「ご、はん」


「うんうん、ボクも屋台でもっと色々食べたーい!」


「図書館に行きたいな。世界最大のがアルビダイアにあるんだ」



 それぞれの意見が次々と飛び交う。

 オレは各々が自由に発する言葉をまとめ、スケジュールを脳内で考えた。



「そうだな、じゃあ午前中は宮殿へ行ってみよう。そしたら近くの屋台で昼食をとって、それでから図書館だ。異論は?」


「「ナシ!」」


「良いぜ」


「よし、なら食べ終わったら出発だ!」





 早速訪れたのはアルビダイアの中心部、この街のシンボルとも言える『カスルアクバルバタル』。

 意味は確か、偉大なる英雄の城だったか。

 前々から思っていたが改めて近くで見てみると、やはり豪華さが際立(きわだ)つ。

 ベラツィーニ宮殿が彫像やレリーフ彫刻、フレスコ画などによる芸術的な美しさだとすれば、こちらは金や銀、宝石などの装飾による実に(きら)びやかな美しさだ。



「凄いね…」


「ああ…もうまぶしいくらいだよ」



 潰れた(しずく)のような屋根からなびくのは、もう見慣れた赤と緑の旗。

 特別な素材が使われているのだろうか、布へ編み込まれた繊維が太陽光を反射してキラキラと輝いて見える。

 ミフターフ王国。

 名前からしてこの国を治めているのは王家。

 王族の住まう豪華絢爛(ごうかけんらん)なる宮殿………なんだか 中世ヨーロッパのロココ時代みたいだ。



「中には入れねぇのか」


「門番がいるし、多分ダメだろうな」


「チェっ」



 どこからか流れている川が、宮殿前の広場で噴水となって湧いている。

 噴水の頂点に黄土色の彫像があるが、なぜか肩から上が壊れていて首無し状態だ。

 ハリウッドのアクション俳優くらいの筋肉量の、割とガタイの良い男性。

 戦士…?

 立派な像なのに、修復はしないのだろうか。



「壊れちゃってる。誰の像だったんだろう」


「な。アウローラにはジュリアーノの彫像があちこちあったよな」


「え?彫像って、確かに町中にあるけど僕はまだ掘ってもらってないよ?」


「え?」



 ジュリアーノじゃない?

 でもあの顔は確かに…。



「多分それ前の公王たちだよ」


「ええっ!アレが先代!?」



 予想外すぎる答えにオレは耳を疑った。

 せ、先代??

 アレが先祖?お父さんとかおじいちゃん??

 …信じられん。

 これだけの顔面で国を治める一族とか、無敵すぎるだろベラツィーニ家。

 そう考えると、コワモテのロレンツォが少し気の毒に思える。

 しかし、これだけの美形遺伝子をいったいどこから………あ。

 その時オレはダンジョンの深層、氷の柱に閉じ込められていた女性のことを思い出した。



「ん?どうしたの?」


「いや…」



 1月以上前の記憶を呼び起こしながらジュリアーノを見てみれば、高い鼻に整った輪郭、やはり瓜二つだ。

 ジュリアーノは知らないと話していたけれど、それでも関係を疑わざるおえないほどに似ている。

 加えて先祖もあの造形ときた。



「前に言った氷の部屋の女の人さ、本当に知らないのか?」


「うん、知らないよ。…けど」


「けど?」



 ジュリアーノはううんと(うな)って考え込んだ。



「僕言ったでしょ、あの近くにご先祖様のお墓があるって。あの時は焦っていて周りをよく見れなかったけれど、あそこまでの穴が結構長かったから、もしかしたらお墓の近くまで行ってたのかもしれない。だから、多分ご先祖様……かな?」


「あ〜、なるほどな」



 まあ、そう言われれば顔が似ていることに関しては納得がいく。

 だが。



「もしご先祖様だったのなら、なんで氷漬けだったんだ?」


「それは僕にも……」


「そうか…」



 埋葬とは少し違うだろうし、もしかして封印?

 だとしたらなんのために……。




 宮殿を見終えた後、オレたちは屋台へと向かった。

 宮殿周辺の広場には、街の入り口より何倍も多くの屋台が立ち並んでおり、やはり見たことない魔具やアクセサリー、食材や本などを数多く販売していた。



「凄いな、やっぱ人が集まるのかな」


「宮殿周辺は住宅が多いからね。旅行客や旅人がほとんど来ないこの時期は盛りあがるんだよ」



 数ある出店の中でも一つ、可愛らしいぬいぐるみを多数そろえたくすんだ桃色の屋根の店の前で、5、6歳ほどの女の子が母親に対し駄々をこねている。



「やーだー!うさたん!うさたん!」


「先週クマちゃん買ってあげたでしょ?わがまま言わないの!」


「うさたんもー!!」


「もう、そんなにわがままばかり言ってるとナンダが来るわよ!」



 実に微笑ましい。

 母親の言うナンダとは何だろう。

 日本で言うオバケや鬼のような物だろうか。



「わー!良いにおい!」


「にく!」


「いらっしゃい嬢ちゃん…ってうおっ!ぬいぐるみが喋った!?」



 食べ物のにおいに釣られたガイアとベルを見て、店主が驚愕の声を上げた。



「あ、コラ!ビックリするだろうが!すみません…!」


「ははは、こりゃあ奇怪なぬいぐるみがいたもんだ!」



 店主はそう言ってガハハと大きく笑って見せた。

 この店はどうやらケバブを売っているようで、鉄棒に串刺しにされた肉塊がクルクルと回転している。

 住宅街近くだし食材ばかりだと思っていたが、既に調理されたものも売ってるのか。

 周りのは何だ?

 肉を円形に囲むように赤い宝石が設置されていて、ぼんやりと真紅の光を放っている。



「ケンゴ、どうしたの?」


「いやな、あの赤いのなんだろうなーと」


「ああ、アレは魔晶石だよ」


「あー」



 聞き馴染みはある。

 異世界系のラノベじゃよく出てくるし、ベラツィーニ宮殿にあった本でもその名前を見た。

 魔晶石とは自然界に存在する魔素が結晶化したもの。

 衝撃を与えると属性を持った微量な魔力を発し、火属性ならばこのように熱源として使うことができる。


 宮殿の台所はこの魔晶石を使っていたが、金属で覆われていたがために魔晶石そのものを見たことはなかった。

 主なメリットとしては魔力構築をしなくて良いので、一般人でも扱うことが容易であるということ。

 また純度が高ければ高いほど発する魔力も強くなり、扱いが難しくなって値段も高価になる。

 高価なものは主に魔具や杖などに使われて、こういう店で使っているのはだいたい比較的安価で手に入りやすいもの。

 まあ肉焼くだけだしな。



「賢吾ー!ボクこれ食べたーい!」


「お、おに、く!」



 2人がこう言うので二つほど注文したところ、薄いパンに溢れんばかりの肉を乗せたケバブが出てきた。

 どうやって食べれば良いんだこれ…。

 ガイアはジュリアーノが食べさせてくれるらしい。

 だが問題はベルだ。



「ベル、大丈夫か?1人で食べれるか?」


「だ、だい、じょぶ」



 そう言ってかじり付いた瞬間、反対側から溢れる大量の肉。

 ああ、言わんこっちゃない!

 オレは慌ててかがみ、両手でこぼれ落ちた肉を受け止めた。



「べ、ベル、あのな、こういうのはこうやって、後ろを気にしながらゆっくり食べるんだ」


「?…こう?」


「そうそう!」



 ベルは飲み込みが良く、教えてあげれば案外すぐにできるようになる。

 後ろの方を左手で押さえて、今度はこぼさず器用に頬張った。

 しかし、美味しそうに食べるよなぁ。



「ケンゴ」



 経津主が不意に話しかけてきた。

 ベルへと細心の注意を払っていたオレは背後の彼に全く気付かず、声をかけられて少し驚いた。



「ベルについて何か気付いたことはあるか」


「いや、特には……あ、そういえばだいぶ肉が付いてきたよな」



 共に食事をしてきたから分かるが、ベルはとにかく食べる。

 細い体のどこにそんなスペースがあるのかと疑うほどに大喰らいで、明らかに自分の体重よりも大きなものですらペロリとたいらげる。

 それに彼女が満腹になることは一度だって無くて、数十分もすればまた腹を鳴らすのだ。

 そんな食生活もあってか、骨が見えるほどに痩せ細っていた彼女の体は、今やどこからどう見ても健康体。

 オレが気付けることはそれくらいのことだが、経津主の求めていた答えとは違ったようだ。



「違ぇよ馬鹿」



 そう言い、経津主はムッとした顔でオレの頭を叩いた。

 そして神妙な面持ちで肩を寄せ耳打ちをする。



「アイツ魔力が日に日に増してきてんだ」


「魔力が?別に普通じゃないのか?回復した証しだろ?」


「そんなもんじゃねぇよ」



 経津主はベルをじっと見つめる。



「最初は蛍みてぇに小っせぇ魔力だったのに、今じゃそこらへんの下級魔物くらいはあるぜ」


「そうなのか?」



 魔力はなにも魔導士や魔物だけの特権じゃない。

 しかし、魔道士のように訓練を受けていないオレたちのような一般人の魔力量はとても少なく、森や砂漠に跋扈(ばっこ)する低級の魔物にすら及ばない。

 つまり、今のベルの魔力量は常人を上回るほどだということだ。



「どう考えたって一般人の回復量じゃねぇ」



 確かに彼女に身体能力には目を見張るものがあるが、魔術を使っているような様は見受けられない

 おそらく魔術の訓練は受けていないと見た。



「でも、ジュリアーノだって生まれつきに魔力量が極端に少なかったんだろ?昔は公宮の魔術師のもとで修行しても増えなかったて言ってたし、ベルの魔力も生まれ付きのものだったりするんじゃないのか?」


「そういうことじゃねぇ、増え方がオカシイっつってんだよ」


「2人とも何してるの?」



 ガイアにケバブを食べさえ終えたジュリアーノが、オレたちが何やら話しているのを聞きつけてきた。

 かくかくしかじか今までの会話内容を聞かせると、彼は顎に手を当てて考え込んだ。



「確かに、今までのベルを見ても訓練を受けてきたとは思えないね…」


「それに回復の仕方も変だ。ちゃんと物食えば長くたって1週間ありゃ全回するはずなのに、アイツの魔力は日を追うたびに未だ増え続けていやがる」


「なるほどね…」



 魔力を感じられないオレたちからしてみれば全くわからないが、コイツがこれだけ訴えてるってことは相当不自然なことなのだろう。



「そうはいっても確かめる手段がなぁ…」


「別に正体を暴くっつってるワケじゃねぇ、一応注意した方が良いってことだ」


「うーん」



 ケバブを食べ終えた様子のベルはまた別の匂いに惹きつけられ、ガイアと共にフラフラと屋台の道をさまよう。

 体から湧き出す本能に従うように、思った方へと鼻先を向ける彼女はやはり、どこか野生味を感じる姿だ。

 お嬢様かと思ったらとんでもない野生児だったり、カニよりも魔物肉を好んだり、ことごとく奇想天外なことをしてくれる。

 1ヶ月間共に任務をこなし、同じ飯を食い、同じ屋根の下で休息をとっているが、オレは未だに予想外だらけな彼女のことを理解できていない。

 早いとこ保護者を見つけてあげるためにも、今より彼女について理解を深めていかなければならないだろう。

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異世界転移
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