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第21話「広大なる砂漠、ミフターフ王国」

こんばんは。

モータルエデン 〜天国は俺が思うよりも異世界でした〜今回より新章突入です。

ミフターフ王国の広大な砂漠に突如として放り出されてしまった賢吾たちは一体どうなってしまうのか?

今回の章は彼にとって転機を迎える出来事があります。

皆さん、乞うご期待…。

 体が液体に包まれた途端、なんともいえない不思議な感覚に(おちい)った。

 浮遊感があるのに体は安定していて、温度を感じられない柔らかい風が吹き付ける。

 (まぶ)しさで目が開けられないので今自分がどんな状態かはわからないが、どこか違う場所へと飛ばされていることは確かだ。


 徐々に光が消え始めた。

 オレが目を開けると、視界は一面が真っ黒。

 なんだ?夜?

 いや、ここまで暗くなることなんてないだろうし、おそらくはどこか密閉された空間の中だろう。



「あれ…ここ、どこ…?」


「わからない、だけど多分閉じ込められてる」



 早く出ないと。

 手探りで中を確認していると、案外すぐに壁を見つけた。

 だが、オレの手が触れた瞬間に壁はサラサラと崩れ、更には何かが肩に落ちてきた。

 暗闇で全く見えないが手から伝わる感触でソレが何かは分かる。

 オレは恐る恐る手を上へと伸ばした。

 オレが手を伸ばし切る前に天井は見つかったがこちらも触れた瞬間に崩れ、サラサラとオレの頭に落ちてきた。

 あ、アレだよな……信じたくはないけれどこの状況、やっぱり……。



「砂の中だ…」


「だな…」


「ウソ、でしょ… 」



 その時、突如として天井が崩れ落ち、大量の砂がオレたちの頭上から降り注いだ。



「うわああっ!!」



 重いっ!

 とんでもない重量が一気に体にかかる。

 どうにか抜け出さないと窒息する!

 オレが何か策はないかともがいていると、暗闇の中で頬を(かす)める風を感じた。

 なんだ?この密閉空間の中で。

 風は徐々に大きくなり、遂には周辺の砂を巻き込んでオレたちの体を持ち上げ、竜巻の形を成す。

 そして、ドッという音と共に砂の海を抜け出した。

 全員がほぼ無防備で宙へ放り出されたが、砂がクッションとなったので幸い怪我は無し。

 だが、強打した背中の痛みが元の怪我と合わさって大分ダメージがあった。



「いってて、みんな平気?」


「うう、なんとか…」


「良かった。やっぱり風属性はまだ難しいな…」



 なるほど、今のはジュリアーノの魔術だったのか。

 しかしずいぶんと大きな爆風だったな、あんなに大規模なものが必要だったのだろうか。

 地面がアリ地獄みたいになってるし…。



「爆発してんじゃねぇか…もっと制御をどうにかしろよ…」


「ごめん…」


「ま、まあおかげで助かったしな」





 一旦落ち着いたオレたちはその場で円形に座り、とりあえず状況を整理した。



十二公(じゅうにこう)のアクエリアス…?」


「ああ、アイツがそう名乗ってた」


「やはりな」



 経津主が腕を組み相槌(あいずち)を打つ。



「経津主知ってるの?」


「ああ、何百年ちょい前くらいに一度会ったことがある。その時は仮面を着けていたから最初見た時は分からなかったが……あのクソエルフ、アイツのあの鼻に付く喋り方に聖帝という言葉…どれだけ時が経とうが忘れねぇぜ」



 何があったかは分からないが、声色から察するに相当強い恨みがあることだけは分かる。

 だが、何百年も昔。

 アレだけ若々しい見た目をしておきながら何百年も昔から存在しているとは、経津主も「クソエルフ」と言っているし、やはりヤツは只者(ただもの)じゃない。

 それに、ヤツの言っていた”十二公”という言葉が気になる。

 ニュアンス的に四天王みたいなものなのだろうか。

 だが、それ以上に…。



「この状況どうする…?」


「「「……」」」



 アクエリアスから逃れるため、オレたちがワープしたのはなんと砂漠のど真ん中。

 しかも四方が一面真っ黄色の広大な砂漠という、なんとも絶望的な状況だ。



「この砂漠、多分ミフターフ王国だ。大陸南西にある、国土の8割を砂漠が占める正に砂の国。凱藍(かいらん)神国を挟んだアウローラの隣国だよ」


「隣国なのか?」


「うん、一応ね」



 アレだけ夜は冷え込むアウローラがこんな乾燥地帯の近くにあったとは。

 しかしなんという朗報。

 隣国ならアウローラへ帰るのはいささか難しくもないだろう。

 そうなれば話は早い。



「そうと決まれば早く帰ろう。ギベルティさんにダンジョンのこと話さないと…」


「バカ言えよ、アレが見えないのかお前は」



 そう言って経津主が指差す方向には、地平線から天高く湧き出すように広がった黄色いモヤ。

 なんだろうアレは、砂嵐か?

 だが、砂嵐なんて数時間も経てばどこかへ行ってしまうものじゃないのか?



「大丈夫だって砂嵐くらい、少し待てばどこかへ行くさ」


「そうだね、でもまた次の砂嵐がやってくる」



ジュリアーノがしょんぼりと遠い目をしている。



「賢吾は知らないと思うけど、ミフターフは3年に一度、国土に壁を作るようにように大規模な砂嵐が発生するんだ。それにとにかく期間が長くって、最低でも半年は嵐が吹き荒れる」


「しかもあの砂嵐に含まれる大量の魔素が僕らの魔力を吸い取って魔術の構築を(さまた)げるから、普通の魔導士じゃあの中で魔術だって使えない。転送魔術で物流はなんとかなるらしいけど、人の移動は正直絶望的だよ」


「そんな…」



そんな時にピンポイントでぶつかってしまうとは、なんと運の悪い。

 辺りを見回すが、一面が砂で覆われた広大な砂漠のど真ん中、文明はわずかオアシスだって見当たらないこの絶望的な状況に、半年は出ることができないという事実。

 惨憺(さんたん)たる光景に吹き付ける乾いた風が頬を掠める。

 オレが肩を落として落ち込んでいると、経津主が1人スクっと立ち上がった。



「落ち込んでたって仕方がねぇ。歩くぞ」


「そうだね、砂嵐から遠ざかるように行けばきっと街が見えるはずだよ」



 そう言って続け様にジュリアーノも立ち上がる。

 そうだよな。

 こんなとこでウジウジしていたってただ干からびていくだけだ。

 今必要なのは行動。



「よし、行こう」



 オレは立ち上がり、どこまでも続く砂漠を見る。



「よぉーし!目指すは街!」


「喉が渇いたら僕に言ってね」


「お前ら(はぐ)れるんじゃねぇぞ」



 懐中時計を見れば、時刻は午後4時半過ぎ。

 完全に暗くなる前に街を見つけられればベストだ。

 大丈夫、きっとなんとかなるさ。

 傾いてもなおを強く輝く太陽が地面い濃い影を描き、時より吹く風が黄金の砂埃を立てる広大な砂漠に、オレたちは一歩踏み出した。





 2時間ほど歩いたが結局街は見つからなかった。



「仕方ない、ここで休もう」



 夜の砂漠は少し肌寒く、星や月が闇を照らすおかげで意外にも明るかった。

 魔物対策として焚火をしようにも周りには砂しかなく、持ち物でも使えそうなのは何ひとつとして無かった。

 なのでジュリアーノが周りに結界を張り、その中で皆で輪になって向かい合う。



「お腹減ったなぁ」


「賢吾〜何かない?」


「昼の残りが少し。って言ってもパンが一切れだけ」


「まだ残しておいた方が良いだろ」



 2羽のコウモリが数メートル先を飛び交う。

 コウモリって食べられるんだったっけか。

 いやでも狂犬病とか怖いし、ダンジョンでも苦労したからな…。



「まあ最悪俺様達は長らく食わんでも死なねぇし、ヤバくなったらジュリアーノが食えば良い」


「えぇ、それは悪いよ」


「お前がダウンしたら水分補給が出来ねぇんだよ」



 優しいんだか自己中なんだか。

 戦闘の際は全く言うことを聞かにず真っ先に敵へ突っ走って行く経津主(ふつぬし)だが、アクエリアスに遭遇した時の彼は真っ先に逃げるという選択肢をとった。

 あの経津主が”逃げた”のだ。

 おそらくは遭遇したと言う数百年前に、相当のダメージを食らった記憶があるのだろう。

 オレもシラを切って正解だったのかもしれない。


 長い時間起きていても体力を消耗するだけなので、オレたちは早々に(とこ)に着いた。






 翌朝、砂山の上から差す朝日に照らされ、オレは目を覚ました。

 みんなまだ寝てるな。

 真横でスヤスヤと寝息を立てるガイアを見ていたら、何か足に違和感を覚えた。

 ……濡れてる?

 ふくらはぎより下の方に湿り気があり、時折り圧迫されるような感覚がある。

 オレは体を起こし、違和感の部位を見た。



「うわあああっ!!」


「わあっ!!」


「何!?」


「敵か!!」



 オレの絶叫に全員が目を覚まし、絶句した。

 無理もない、得体の知れない生き物がオレの下半身にかぶさっていたのだ。

 ボロ布のようなそれはチュパチュパと音を立ててオレの足を絶賛捕食中。

 オレは謎の生物を振り払い、ガイアを抱きかかえて避難した。

 ふう、どうやら足は無事のようだ。

 ヤツは振り払われた勢いでゴロゴロ砂埃を立てて坂道を転がっていった。



「そんな…結界を張っていたはずなのに…!」


「オイケンゴ、なんなんだ今の!」


「オレだって知らない!」



 するとヤツが砂山を登り、再びこちらへ接近してきた。

 二足歩行で一歩一歩ゆっくりと近づいて来るヤツの手足はまるで骸骨のようで、ふらふらとした足取りはまさに幽霊そのもの。

 まさか、砂漠の亡霊!?

 水が飲めず干からびた冒険者の霊が、生きた人間の血を求めて彷徨(さまよ)っているとか!?

 オレが色々と思考を巡らせているいる間にも、ヤツは徐々に近づいて来る。

 そして遂には走り出し、オレの体めがけて地面を蹴り上げた。

 まずい!食われる!!



「うわあっ!!」



 オレは咄嗟に目をつむり、ガイアを守るようにヤツへ背を向けた。

 ………チュパ……チュパ…。

 なんだ…何か頬が…。

 チュパ…チュパ…チュパ…。

 ?、頬を吸われてる??

 オレは恐る恐る目を開いた。

 するとそこには、オレの体に抱きついて頬を吸う亡霊……いや、少女の姿があった。



「ええっ、人間!?」





 突然のことに色々と混乱していたオレたちだったが、とりあえず一旦少女をオレから引き剥がし、飲み水を与えた後に会話を試みた。



「その…君、名前は…?」


「…?なま…?」


「ええっと…オレ、賢吾。君は?」


「ベル」


「ベル!可愛い名前だねぇ〜」



 ベルと名乗った少女はボサボサの短い金髪にところどころ穴の空いたボロボロの寝巻きを着ている。

 どこから来たのだろうか、出かける格好ではないよな。

 それにずいぶんと痩せ細っている。

 頬骨(ほおぼね)や腕の骨なんかがハッキリわかるほど本当に彼女の体はまさに骨と皮。

 見れば分かるが腹が減っているというので、オレがカバンに残っていたパンを差し出すと、あっという間に平らげて更に欲しいと言わんばかりにオレの顔を見つめてきた。



「どれくらい食べてないんだ?」


「ろ、ろくにち」


「そっか。でも今度から人の足は食べちゃダメだぞ……」



 しかし、6日間水も食料も取っていなかったのだろうか、かわいそうに。



「ベルはどこからきた来たの〜?」


「あっち」



 そう言い、ベルは遠い砂漠の地平線を真っ直ぐに指差した。

 あっちと言われてもなぁ…。



「どうすんだよコイツ」



 経津主が顔を近づけ、怪訝な表情で尋ねる。



「もちろん連れて行くさ」


「冗談だろ、今度こそ食われるぞお前」


「でもさでもさ!こんな砂漠のど真ん中に放ってはおけないでしょ?」



 ガイアの言う通りだ。

 言葉もだいぶカタコトでコミュニケーションも難しいし、せめて街へまでは連れて行かないと、それこそ干からびて死んでしまうだろう。



「おせっかいっつーんだぜそういうのはよォ。言葉もままならねぇし、第一こんな格好で砂漠に来るようなヤツがどこで野垂れ死のうが知ったこっちゃねぇよ」


「助けを求めてきたんだから助けるのは当然だろ」


「じゃあお前、コイツをずっと養うってのか」


「いや、そこまでは…」


「養えなくなったら放り出すってか?出来ねぇならハナっから口を出すんじゃねぇ」



 一理あるだろう。

 最後まで養えるかと言えば正直できない。

 だが、ここで彼女を見放すのもそれはそれで残酷というもの。



「街へは連れて行く。そこでギルドに素性(すじょう)なんかを調べてもらえば、きっと家族が見つかるはずだ」



 ボロボロだけれど寝巻きはフリルやレースなどの装飾がなされているし、ところどころラメのようなものも入っている。

 そこそこ以上の家柄の娘と見た。

 だとすれば親がギルドに捜索を依頼している可能性が高いはずだ。



「そうだね、困っている人同士助け合わないと」



 ジュリアーノがオレの背中をポンと叩いて言った。



「そうそう、人間助け合いの精神がすっごく大事なんだからね!まあボク人間じゃないけど」


「…ハア、つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ…」



 経津主はため息を吐き、面倒臭そうに頭を掻いた。

 そしてベルに向けてビシッと人差し指を立てる。



「お前、俺様のもん食ったら承知しねぇからな!」


「わ、わかった。た。」



 そう言うと経津主はフンと外方を向き、遠くを見つめながら歩き出した。



「ソイツの親見つけるんだろ。早く行くぞノロマども」



 ああは言うけど結構優しいんじゃないか。

 オレたちは皆立ち上がり、彼の後を追う。

 いきなり砂漠へ飛ばされ混乱の中当てもなく彷徨い続けていたが、本当の冒険はきっとここからだ。

 ベルという新しい仲間も増えたし、これからもっと楽しくなるぞ。


 街を探し、オレたちは砂漠を歩く。

 砂丘を越え、砂埃を払い、このどこまでも続く黄金の先にどんな苦難が待ち受けているかも知らずに…。

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異世界転移
― 新着の感想 ―
[良い点] ほざけ三下さんは、恐らく私がアラ還だから相当お若いのだと思われます。しかし、才能の端々が垣間見えます。私などより文章が練られています。敬意を表します。
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