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第15話「集い1」

「では諸君、ここにいる、我らの恩人へ感謝を込めて、カンパーイ!」


『カンパーイ!!』



 グラス同士のぶつかり合う音が甲高く響く。

 ここは街の大通りにある大きなレストラン。

 ピザやパスタなどの豪華な料理が並ぶ円形のテーブルをオレたちとアンジェリカ一行とでぐるりと囲んで座り、たった今乾杯を済ませたところだ。



「やはり、大人数でする食事は格別だな!」



 アンジェリカはグラスの酒を一気に飲み干し、肉が盛られたピザを一切れ口に運ぶ。

 300mlはあるだろうに、よくもまああんなに勢いよく…。



「もう、アンジェリカ様ったら。また悪酔いしますよ?」


「案ずるなジネットよ、酒の1杯2杯3杯4杯5杯6杯、このアンジェリカの敵ではないっ!!」


「すでに酔ってるじゃない…」



 ウェイターを呼び止めて早速2杯目を頼むアンジェリカ。

 ジネットはやれやれといったようにため息を吐き、手に持ったジョッキに口をつける。

 この感じ、何だか前の世界を思い出すな。

 年末に集まる祖父の家で、酔った従姉妹(いとこ)によくダル絡みされたものだ。

 今となってはいい思い出だが。

 このレストランもどちらかといえば雰囲気は酒場のようだし、特別良いことがあったわけでは無いが自然と気分が高揚してきた。



「ケンゴ君たちも沢山食べてねぇ」


「ありがとうございます、じゃあ遠慮なく…」



 どれから食べようか。

 イタリアンの様に、いくつもの白い皿に盛り付けられた(いろど)り豊かな料理たち。

 垂れそうになるヨダレを抑えながら品定めをする。

 ピザにパスタにサラダにチキンに…悩み始めたらキリがない。



「賢吾!賢吾!ボクミートパスタ食べたい!」


「あーはいはい、ちょっと待てよ」



 オレはフォークでパスタを少し取って、ガイアの口へ運ぶ。

 今日のためにぬいぐるみの口に穴を開けたのだが、やっぱりソースがつくな。

 帰ったら洗わないと。



「んん〜ほひひい〜」


「食べながら喋るなって」



 なんだろう、何か視線を感じる…。

 気配の方を見ると、アンジェリカの仲間の1人であるカリーナが、興味津々な様子でガイアを見つめていた。

 目の見えないガイアは視線に気付いていないので、「次!チキン食べたーい!」とオレの手を催促(さいそく)する。

 その間にもジョッキの酒をゆっくりと飲みながら、終始無言でガイアを見つめているカリーナ。

 そういえば、ガイアについて彼女らにまだ説明していなかったな。

 後でタイミングを見計らって言おう。


 オレはカリーナに気づかないフリをしてパスタを口へ運ぶ。

 ん、美味い。

 濃厚なソースと肉肉しいミートボールが何とも美味だ、麺の茹で加減も丁度いい。

 次にキノコとチーズのピザ。

 香り高いキノコの食感とクリーミーなホワイトソースが絶妙にマッチしていて、口の中が幸せで満たされているような感覚だ。

 口から離そうとすると、とろとろのチーズが糸を引く。

 やば…超美味い…。


 わざわざ宮殿から(はし)を持ってきた経津主(ふつぬし)は、取り皿にとったピザを器用に丸めて、まるで巻き寿司でも食べるかのように頬張(ほおば)っていた。



「経津主、ピザにも箸使うの?手で食べてみなよ」


「何言ってんだお前ェ、ンなの行儀が悪ィだろうが」


「そんなことないよ、ほら」



 そう言ってジュリアーノは手でピザを掴み、頬張って見せる。

 最初は断固として拒否していた経津主であったが、ジュリアーノがあんまり美味しそうな顔で食べるので、最終的には怪訝(けげん)な顔をしながらもピザを一切れ手で取り、口へ運んだ。

 糸を引くチーズを舌で掬い上げ、何度か咀嚼(そしゃく)した後にゴクリと飲み込む。



「……悪くねぇ」


「でしょう?ほら、こっちもフォークでさ」



 ジュリアーノは嬉しそうにフォークを経津主に持たせ、取り皿にピザやパスタ、チキンを山盛りに乗せた。

 さすがの経津主でも、コレには少しまいった様子。



「こんなに食えねぇよ!」


「まあまあ、美味しいからさ、ね?」


「……」


「君たちは仲が良いのだな!」



 アンジェリカが手に持ったビールをまた一気に飲み干す。

 本当にこの人はよく飲むな。

 1つ、2つ…これで4杯目だぞ……。

 オレが彼女の酒好きっぷりに感心していると、背後から声がした。



「ケンゴ?ケンゴじゃないか」



 とても聞き覚えのある、最近会っていなかった低い声。

 振り返ると、そこには見覚えのある顔が2つあった。



「ディファルト、それにルジカも!」



 前触れも無く訪れた2人。

 ディファルトの頬にはまだ新しい擦り傷があり、依頼があがりであることが伺える。



「久しいな」


「2人も食事を?」


「ああ、たまには食堂じゃないとこで食べようか…ってな」



 ここのところあまり2人が宮殿に来なかったので、会うのは実に数ヶ月ぶりだ。

 変わりがないようで良かった。



「君たちディファルトと知り合いだったのか!」



 アンジェリカは飲みかけジョッキをドカッと勢いよく机に叩きつけると、驚いたした表情で机へ前のめりになった。

 そっか、そういや言ってなかったな。



「まあ、知り合いというか…」


「友達だよね」


「ああ」


「なんと…!!」



 アンジェリカたちはみんな驚いて目をまん丸にし、開いた口が塞がらない様子だった。

 まあ無理も無い。

 EランクがAランクと喋っているだけで驚きなのに、それが友達だというのだ。

 そりゃそんな顔になるよな。


 数ヶ月ぶりの再会で話したいのは山々だが、今は違う友人との食事の最中だ。

 「また後で話そう」そう言おうとしたその時だった。

 アンジェリカは残りの酒を一気に飲み干すと、ジョッキを高く掲げた。



「そういうことなら旅は道連れ、食事も道連れだ、2人も一緒に食べようじゃないか!店員さん、椅子と食器を二組ずつ頼む!」



 いきなりのことで驚いた様子のディファルトとルジカ。

 店員が木製の椅子をオレとドナの間に、食器と共に置く。



「良いのか?」


「もちろんだとも!ささ、料理が冷めるぞ」



 ディファルトはテーブルに座る面々を見渡す。

 円形に並ぶ8つの顔ぶれの中に、彼らの参加を(こば)むような表情をしているものは1人としていなかった。

 2人は一度顔を見合わせ、ルジカはオレの、ディファルトはドナの隣に座った。

 すると、早速とでもいうかのように、アンジェリカがその場から勢いよく立ち上がった。



「良い機会だ、お互いに自己紹介をしようじゃないか!」


「そうねぇ、ケンゴくんたちのこともまだよく()いてないしねぇ」



 確かに、彼女たちをギルドの救護室へ運んだ時に全員の名前は聞いているけれど、それ以外の知識は少ない。

 アンジェリカが右手を胸に当てて、そのまま喋り始めた。



「よし、私からしよう。名はアンジェリカ、特技は剣術!いつかは世界一の剣豪になり、地上全てにその名を轟かせるのだ!!」



 アンジェリカは長い金髪を高くまとめ、白い鎧に剣を携えた4人組パーティーのリーダー。

 元気と酒への愛情は人一倍だ。



「ジネットと言います、魔導士です。趣味は絵を描くこと、あと彫刻も大好きです」



 ジネットは白髪セミロングの小柄な魔導士だ。

 紺色のマントにいつも木製の杖を背負っている。



「この子の夢はね、宮廷の専属画家になって、(いと)しのジュリアーノ様を前に絵を描くことなのよ」


「もう、ドナったら!!…一応、もう少しでお金が貯まりそうなので、次第(しだい)工房に入るつもりなんです……!」



 ジネットはモジモジして、恥ずかしそうに顔を赤らめている。

 その様子を見て苦笑するジュリアーノ。

 灯台下暗(とうだいもと)しというかなんというか(認識阻害魔法を使っていることもあるのだが)、まさかその愛しのジュリアーノ様が目の前にいるだなんて、想像もしないだろうな。



「次アタシね。アタシはドナ、戦士よ。趣味は登山で、休みに日はよくコンセンテス山に登ってるわ」



 ドナはいつも大きな斧を背中に担いでいる、ツインテールの戦士だ。

 登山の良さをアツく語るドナに、ジネットが横からちゃちゃを入れる。



「でもドナは虫が苦手なので地面の上では寝れないんですよ」


「ちょ、ちょっと!そんなの言わなくて良いじゃない!」


「言わなきゃダメですぅ。いっつも私が結界張ってあげてるんですから、感謝してください」


「アンタだって、非力すぎて自分で彫ったクセに石像が運べないからって、いつもアタシを使うじゃないの!」



 2人の言い合いが徐々にヒートアップしていく。

 おいおい、コレ大丈夫なのかよ。

 見れば、アンジェリカもカリーナも「やれやれ、また始まったか」というような顔で2人を見ている。



「良いじゃないですか。あなたの有り余る馬鹿力を有効活用して差し上げているんです。むしろ感謝していただきたい」


「お得意の魔法で運びなさいよ!」


「それじゃ不安定なんです!彫刻に傷がついたらどうするんですか!?」



 会話内容からはさほど仲が悪そうには思えないが…。

 しかしながら、2人は互いを(にら)み合う。

 そんな2人の間へカリーナが割って入る。



「ハイハイ、2人とも食事の席で喧嘩しないの。次は私ねぇ。」



 カリーナはオホンと一度先払いし、右手を胸に当てて微笑む。



「カリーナよ。役職は、回復術師ってところかしら。好きなものは動物と、あとぬいぐるみねぇ」



 あ、だからガイアのとこを見てたのか。

 カリーナは若葉色のロングヘアに、柔らかい雰囲気をまとった長身の女性だ。

 何とは言わないが素晴らしくそして見事なものを持っていて、柔らかくも程よい弾力のありそうなそれに、ついつい目が行ってしまう。何とは言わないが。



「彼女はヒーリングだけでなく手先も器用でな。武器や魔具のメンテナンス(など)もこなせるんだ」


「お料理はできないけどねぇ」



 カリーナがニコニコしながら言った。

 「調理は科学」だなんて誰かも言っていたし、手先が器用とは少し違うよな。

 まあ?オレはできるんですけどねぇ〜。



「では次。ディファルトから頼む」



 アンジェリカは腰を少し逸らしてディファルトの方を向き、指名した。



「わかった。ええと、ディファルトだ。オレは…戦士、か。長所は耳が良いこと。そうだな、こう見えても力には自信があるんだ」



 いやいやいや、「こう見えて」って、あんなデカい大剣を背負ってる時点で、腕力の化け物なのは見ればわかるぞ。

 ディファルトは自信満々で片腕に力こぶを作って見せる。

 でもまあ、確かにあの太さの腕で自信の背丈(せたけ)よりも大きな大剣を振り回している姿は、実際に見なきゃ想像できないだろう。

 あ、もしかしてそっちの意味だった?



「…ルジカです。魔導士で…ヒーリングとあと、草とか風とかの魔法が得意…です…」



 後半に続き、声が小さくなっていった。

 仲良くなってからだいぶ経つからか、今更になってルジカが人見知りであることを知った。

 オレの前でも謎にディファルトの後ろに隠れることが多々あったし、よく考えてみればそうだよな。


 2人が終わると、続いてオレたちも自己紹介をした。

 同じく趣味や特技を言ったのだが、特にガイアと経津主神の番になると、アンジェリカたちは興味深々な様子でその話を聴いていた。



「君は剣術が得意なのか。私と同じだな!」


「いや、刀と剣じゃ全然違ぇよ」


「刀って鎧銭(よろいぜに)の武器よね。私”ヌンチャク”っての気になってるんだけど、アンタ使えない?」


「無理に決まってんだろ、ンで使えると思ったんだよ全く別物だろうがよ」



 経津主が腰から抜いた刀を見て、アンジェリカとドナは「おお…!」と、感心の眼差しを向けている。

 その一方で、カリーナとジネットはガイアに夢中だ。

 カリーナはガイアを膝の上に乗せて、ジネットはその隣で(かが)んで話している。



「ガイアちゃんは妖精さんなのねぇ」


「だから宙に浮いていたのですね、納得です」


「中は見せてくれないのぉ?」


「ちょーっと恥ずかしいからダメ〜」



 なんと羨ましい空間なのだろうか。

 いや、(ねた)むなオレ。

 可愛いものに女子が集まるなんてことは当然じゃないか。

 …でも…それでも羨ましい…。



「…ケンゴ」


「ん、どうした?」



 唐突にルジカが話しかけてきた。


「あの人たちとは……その、どういう関係なの?」


「ああ、依頼の途中で知り合ったんだ。その時にオレたちが貸しを作っちゃって、それを返したいってので今日は一緒に食事をな」


「そっか…」



 そう言って、ルジカはグラスに入ったりんごジュースを口にした。

 近くで見ると、なんだか前よりも痩せたような気がする。

 顔色もあまりよろしくないし、髪質も乱れている。

 やっぱり疲れているのだろうか。



「ルジカ、ちゃんと休んでるか?」


「え……なんで…?」


「いや、なんだか痩せたように見えるし、顔色もあまり良くないというか…」


「…」



 無言でうつむいてしまった。

 ど、どうしよう、まさか何か悪いことを言ったのか!?

 あ、体重に触れたのがまずかったのかもしれない…。



「え、ええっと…」



 どうにかフォローしないと…!!

 …あ、そうだ!こういう時は…。



「その…せっかく可愛い顔してるのに、もったいないなって思ってさ」


「…へ…?」


「無理は体に良くないから、しっかり休んだ方がいいぞ」



 そう言って微笑んで見せると、今度は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 えっ!?うそ、更に怒らせた!?

 結構いいことを言ったと思ったんだけど、上から目線だったかな…。

 女心って難しい…。

 こういうことは、勝手もわからずに言わない方がいいのかもしれない。


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