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第13話「卒業試験」

 心地よいそよ風の吹く草原。

 その中心に設置された木製の人形を前で、杖を(かま)えるジュリアーノ。

 後ろでオレとフィオレッタ、それにガイアとアイテールが見守る中、彼は魔術の詠唱を始めた。



「大地を浄化せし清らかなる水よ、我が命に応えたまえ!深淵(ブルーエクス)の嘆き(プロージョン)!!」



 彼がそう叫ぶと同時に杖の先端に水の粒が集まり、直径4cm程の小さな水の玉が生じた。

 次の瞬間、水玉が破裂すると同時に、とてつもない水圧のビームが放たれる。

 その水柱は凄まじい威力で大地を抉り、一瞬にして人形を消し去ってしまった。

 すごい…これが上級水魔法…!!



「…できた!できました先生!!」



 そう言い、笑顔で振り返るジュリアーノ。

 それを見たフィオレッタは(うなず)き、微笑(ほほえ)む。



「ええ、しかと見届けたわ。合格よ、ジュリアーノ」


「……!ありがとうございます!!」



 初対面でフィオレッタの出した課題の3つ目である、3種類の上級魔法の習得。

 その内の最後の魔法を、ジュリアーノはたった今習得してみせたのだ。



「やったなジュリアーノ!」


「よく頑張ったよ!」



 上級魔法“深淵(ブルーエクス)の嘆き(プロージョン)

 空気中の水分を一点へ凝縮(ぎょうしゅく)し一気に放出することで、超高圧の水鉄砲を放つ。

 凝縮の限界点まで水玉を保つことに魔力と集中力を大変浪費(ろうひ)するため、習得が極めて困難な魔術。

 それをジュリアーノは齢16にして習得に成功したのだ。

 これも2年の猛特訓のおかげ。



「得意不得意に限らず全ての属性の初級魔術を使いこなし、水と氷の上級魔法も使用が可能、そして魔力量も申し分ない。以前とは比べ物にならない(ほど)に成長したわね。誇らしいわよ、ジュリアーノ」


「いえ、僕が何度失敗しても熱心に指導し続けてくれた先生のおかげです。本当に感謝しています」


「あら嬉しいこと。……オッホン、ではジュリアーノ・ベラツィーニ」



 フィオレッタは片方の手を自身の胸に当てる。

 それを見たジュリアーノは服の(すそ)を直し、ピシッと背筋を伸ばした。



「私、フィオレッタ・バティスタはここに、彼を一人前の魔法使いと認めます。よく頑張りました」


「2年間、ありがとうございました!」



 これにより、彼は晴れて冒険者への道を歩めるという訳だ。

 フィオレッタに抱き寄せられ、熱烈なハグを受けるジュリアーノ。

 顔を胸に押し付けられており、苦しいのかジタバタともがいている。

 幸せなヤツめ。

 するとオレの(となり)にいたアイテールが肩をポンと叩き、顔を(のぞ)き込んできた。



「じゃ、次はお前な」



 オレは背負っていた槍を手に持ち、前へ出た。

 続いてアイテールも虚空から例の巨大な槍を取り出し、前へ出る。

 怪我をしないよう刃に布を巻き、互いに向かい合って武器を構える。

 ジュリアーノと同じく、一人前と認めてもらうための卒業試験をこれから受けるのだ。



「俺に一撃でも当てたら合格にしてやる。できなきゃまた()()1ヶ月延長な」


「ぐぬぬ…」



 実は、オレがこのテストを受けるのは初めてじゃない。

 テストは修行を始めた頃から月1で実施(じっし)されたいたのだが、オレは全く敵わないどころか攻撃の隙すらも与えてはもらえなかった。

 しかも失敗するたびに1ヶ月間下僕の刑に(しょ)され、掃除や洗濯、料理など何故かアイテールの身の回りの世話をメイドさんの代わりにやらされるという鬼畜っぷり。

 しかし一方でその屈辱(くつじょく)がバネとなり、修行へのモチベーションが上がったのも事実。



「さ、来いよ」



 アイテールがニヒルな笑みを浮かべる。



「今日で終わりにしよう」



 オレは地面を蹴って、彼の胴体めがけ槍を突いた。

 しかしアイテールは槍を縦に持ち、(つか)で弾く。



「わっかりやすい突きだなぁ」



 オレは槍を背中へ回して左手へに持ち替え、そのままアイテールの肩めがけ振るうが、これも弾かれる。

 しかし、これだけではない。

 オレは弾かれた槍を地面に突き出た石に引っ掛けて棒高跳びの要領で飛び上がると、ヤツの顔面めがけ飛び蹴りを入れた。

 アイテールは腰を反らせ、易々(やすやす)とその蹴りを()ける。

 大きく腰を反ったヤツの目は天を(あお)ぎ、こちらは見えていない。

今だ!

 オレは手に持ったままだった槍を、横へ力一杯振るう。

 ヤツにとっちゃ完全に死角からの攻撃、入った!

 だが突然、オレの体は飛び蹴りの進行方向へ引っ張られた。



「うおっ?!」



 オレはアイテールに足を(つか)まれ、宙ぶらりんの状態になってしまった。

 手足をバタつかせて振り払おうとするが、圧倒的な筋力の差でなす(すべ)もない。



「甘い甘い。体格の差ってものをよく理解するんだな」


「クッソ!……でもアンタも、オレが一月(ひとつき)前と違うってことを理解した方が良い」



 オレは槍を持ち直し、アイテールの腰へ刃を打ち込む。



「おっと」



 ヤツはオレの足を離して後ろへ跳び、攻撃を避けた。

 オレは着地と共に体勢を整え、そのままアイテールへ突進して胴体を斬りつける。

 ヤツがオレの攻撃を槍で受けると、そこから打ち合いが始まった。


 ここまで苛烈な撃ち合いにちゃんとついていけるようになったのは、ほんのつい最近のこと。

 上達するたびにアイテールが難易度を上げてくるので、途中でタイミングを掴めなくなって武器を弾き飛ばされたり、焦って自分から手を離してしまったりと散々な限りだった。



「調子良いじゃないか」


「そりゃもうね!!」



 2年の月日でジュリアーノは自身の魔力量を増やし、苦手魔術を克服(こくふく)し、そして上級魔法を3つも習得してみせたんだ。

 オレだって、教わったこと全部出し切って、合格をもぎ取ってやる!


 オレはアイテールの斬撃を避け、槍でヤツの腹部を突こうつするも左腕で弾かれ、更には避けたはずの斬撃が肩にぶち当たる。

 一瞬視界が(かす)んだが、すぐに体勢を立て直してお返しの斬撃を放つ。

 しかし、これも避けられてしまう。

 さすがは原初の天空神。

 ただの人間が2年そこら修行したとて、勝てる相手ではないのだ。

 コイツが手加減をしているのは明白。

 でなきゃオレはとっくにアザだらけで、泡を吹いて倒れているだろう。



「よっ」



 アイテールがオレの足を払い、そのまま槍の柄で(あご)を下から叩き上げる。

 それだけ手加減されても”これ”なのだ。

 


「クソッ!」

 


 離しかけの槍を持ち直してふたたびヤツに斬りかかる。

 走り込んで勢いをつけた斬撃はアイテールの肩を捉えるが、ヤツは余裕な表情でクルリとかわした。

 まだまだ!

 オレはそのままの体勢で更に踏み込み、今度は腹へ鋭い突きを連発するが、これまた軽くあしらわれてしまった。



「ハァ、ハァ、」


「どうした?まさか、『もうバテた』なんて言ってくれるなよ?」



 野原を駆け巡るそよ風の如き軽快なステップ。

 格下とはいえ、戦いの最中(さなか)にすらその優美さを失うことなく、常に鮮やかな身のこなしを実現している。

 ずいぶん綺麗な言葉を並べたけど、正直言いうと、いちいちの動作で絹みたいになびくあのロン毛が心底気に食わない。

 無駄のない筋肉に肌は女みたいにきめ細やかでイケメン高身長、おまけに自称最強の原初神ときた。

 これだけのハイスペック、さぞかし女にモテるんだろうな。

 ……なんか、腹立ってきた。

 


「……?」



 静かに寄っていくオレの眉間のシワに、不思議そうな顔のアイテール。

 リア充は別に嫌いじゃない。

 オレ自身は彼女を作るべきじゃないと思うし、オレ以外の男が彼女持ちになったって妬んだりはしない。

 ……だけど、そんなオレにも1つだけ許せないものがある。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()だ。

 フィクションに出てくるようなヒロインみんなが主人公を好きで、その気持ちを(ないがし)ろにするわけにはいかない的な感じで築かれるハーレムは良い。

 むしろ好きまである。

 しかし現実世界においてのハーレムというのは、ほとんどが女ったらしのコンチクショウによるそいつだけの楽園なのだ。

 ……許せねぇ。

 この高スペックで1人だけなら純愛ですまされる、だがヤツは誠実さを装って純粋な女の子をおとしめる、まさに邪悪の極み!!



「……なんか、とんでもない言いがかりでキレられてる気がするんだが…」



 般若のような形相で槍を握りしめるオレに、アイテールは思わずうろたえる。



「許せねぇ……許せねぇよ……!」


「こっわ…なんだよいきなり…」



 オレは怒りのまま地面を踏み締めて飛び上がり、アイテールの右肩に重い袈裟(けさ)斬りを入れた。



(!!重いっ!?)



 快晴の元に金属の咆哮がガアンと響く。

 オレの斬撃は激情が乗せられたことにより、突発的に威力が上昇。

 予想だにしない理不尽な怒りの効果に、気を抜いていたアイテールはバランスを崩しかける。



「!アイテールが怯んだ!?」



 幾度となく行われた卒業試験の中で始めての光景。

 思わぬ展開に野次馬たちが盛り上がる。



(理由はわからない、しかし良い爆発力だ)



 とはいえ幾度とない戦いを勝ち抜いてきたアイテールにとって、このようなことは全くもって狼狽える展開ではない。

 


「まさか、この俺が不意を突かれるとはな!!」



 アイテールは自身の槍をまるで新体操のバトンのように軽快なそぶりで回し、腰を落として構える。

 その瞬間にヤツの周辺の空気が一変し、オレは我に帰った。



「!!」



 アイテールの醸し出す凄まじい闘気の圧。

 ヤツの背に浮かぶ巨大な翼の幻が力強く羽ばたき、存在しない風圧が伝わってくるようだ。



「こりゃ本当に、ワンチャンあるかもな……」



 アイテールの言葉が終わると同時にオレは槍を構え直し、ステップを踏んで回転斬りを喰らわせる。

 ヤツはそれを黄金の槍で上に受け流すと、そのまま柄にオレの体を引っ掛けて叩き落とした。

 重い衝撃が背中に加わる。

 だが、これだけじゃ終わらない。

 オレは仰向けの体制から首跳ね起きで立ち上がり、まるで野生の猛獣のように低い姿勢のまま槍を振るった。

 今度こそ入った!!

 そう思った矢先、背中に走る2度目の衝撃。

 太く重たい黄金の槍の柄がオレの背後、背骨のど真ん中に深くめり込んだ。



「かはっ」



 胴体が圧迫され、肺の空気が全て外へ押し出される。

 地面へ叩きつけられたまま、オレの体はほとんど動かなくなった。



「今日もダメか。まあ仕方ない、上達の速度なんて人それぞれだからな。安心しろ、見捨てはしないさ」



 そう言うとアイテールは踵を返し、青空に飛ぶ2羽の小鳥を見上げた。

 ガイアやジュリアーノはガッカリした様子。

 もうずいぶんと見慣れた光景だ。

 計26回行われた試験の中、ここまで粘ったのは今回が初。

 いつもならばあらぬ方向に吹っ飛ばされるか動けなくなるかで即リタイアしていた中、想像以上の耐久を見せた上に一度ヤツを怯ませたのだ。

 「期待せざるをえない」そんな状況下で、いつものように地面に突っ伏したまま動かなくなったオレに落胆するのは当たり前だろう。


 ……けど、オレはまだ戦える。



「!」



 緑のそよぐ平原のど真ん中、オレは残る力を振り絞り、やっとの思いで立ちあがる。



「ああ、賢吾!そうだ、それでこそ俺の弟子だ!」



 興奮冷めやらぬ様子で、槍を握る腕に力が入るアイテール。

 殴られ蹴られぶっ叩かれして叫びたいほど全身が痛いし、正直息もしづらくてマジで死にそう。

 けど、そんな今は関係ない。

 今日で終わり、そう決めたんだ。



「……く、口先だけは…ごめんだっ!!」



 オレはおぼつかない脚で槍を構え、再びアイテールに斬りかかる。

 四方八方、角度を変えながら槍を打ち込むが、興奮気味のアイテールの槍捌きはいつも以上にキレッキレで、目で追えない上に全ての攻撃が完璧に防がれる。

 (つい)には槍はオレの手から弾かれ、クルクル宙を舞った。



「ダメじゃないか、武器を手放したら」



 完全に丸腰。

 その瞬間に、アイテールの斬撃が無防備(むぼうび)のオレを襲う。

 ……まだだ、まだ終わっちゃいない!!

 オレはコンマ1秒早く反応し、身を反らすと同時に攻撃を避け、逆立ちになった。


 アニメの影響で幼稚園から小学生まで続けていたサッカー。

 ファイヤトルネードやエターナルブリザードなどの必殺技に(あこが)れて、毎日のように公園で練習をした。

 休み時間に友達の前で披露(ひろう)し、歓声を浴びたあの日。

 もう何年も前のことだが、体はあのトリッキーな足捌(あしさば)きをハッキリと覚えている。

 教わったことは全部出し切る。でも、それだけじゃ師匠には勝てない。

 だから編み出す、自分なりの戦い方を。

 落ちてきた槍の柄オレは足でそれを(から)めとり、半円を描くように力一杯回旋(かいせん)させた。

 

ドスッ


 鈍い音と共に、アイテールの足元がよろける。

 入った……?入った……!!

 その瞬間 安心感から体の力が抜け、体勢を崩したオレは背中から地面に落ちた。


 いてて、やっぱ受け身はまだまだ練習不足だな…。

 空を見上げると、さっきまで斜めの位置にいたはずの太陽が、ちょうど空のど真ん中にいた。

 時間がもうこんなに……

 仰向けで倒れているオレの顔を、アイテールが覗き込んでフッと笑ってみせる。

 引きつった笑顔で笑い返すと同時に、ヤツはオレの体を「そーれ」と持ち上げ、天に向かって放り投げた。

 突然のことで動揺を隠せないオレ。



「ハッハー!やるじゃないか賢吾!流石(さすが)は俺の1番弟子!!」



 アイテールはオレを降ろして地面に立たせると、肩に腕を回してワシワシと頭を雑に()で回した。



「凄いよ賢吾!あんな槍の使い方見たことない!」


「ブオン!ていってドスッとねー!」



 ジュリアーノとガイアが目を輝かせながら駆け寄ってきた。



「そんな大したことじゃないさ。サッカーを少し応用しただけで」


「え?さっ……なに?」


「あー。まあなんていうか、武器を1回手離せば相手も油断するかなーと…」


「音だけでもカッコよかったよー!見たかったなぁ〜」



 ガイアが体当たりして(ほお)を擦り付けてきた。

 正直、上手くいくかは五分五分くらいだと思っていたのだが、まさか成功するとは。

 しかも、攻撃の当たったであろうアイテールの脇腹には(あと)がある。

 意外とクリーンヒットだったようだ。

 日頃の恨みも相まって、なんと清々(すがすが)しいこと。

 すると、談笑するオレの背中をアイテールがバシッといきなり叩いてきた。



「痛!?ンにすんだよ!」


「文句無しの合格だぜ賢吾。後で俺の部屋に来い、イイモノをやる」


「イイモノ…?」


「ああ。楽しみにしておけよ」



 そう言って、オレの頭をまた雑に撫で回した。




 その日の夜、オレは寝支度を済ませた後でアイテールの部屋へ向かった。

 コンコンと(きら)びやかな装飾の(ほどこ)された大きなドアを(たた)く。



「良いぞ」



 ノブを掴み扉を開けるとそこには腕を組み、全裸でソファに腰掛けたアイテールがいた。



「また素っ裸で…風邪ひきますよ」


「俺は風邪など引かない」



 いつものことだが、なぜかコイツは服を脱ぎたがる。

 「裸体こそ最も崇高(すうこう)で清らかな姿」なんて本人は言っていたけど、メイドさんからは『露出狂』だなんて呼ばれてたし、オレも良しとは思っていないし。

 何が悲しくて野郎の裸体なんかを見なくちゃいけないのか。

 正直やめてほしい。



「ま、座れよ」


「じゃあ、お邪魔します」



 とりあえず、オレは目の前のソファに腰掛けた。

 アイテールはというと、何やらクローゼットを漁っている。

 ようやく服を着る気になったのだろうか。



「どこにやったか……お、そうだそうだ」



 すると、何かを思いついたかのように突然虚空を出現させ、彼はそこから焦茶(こげちゃ)色の布に包まれた長い何かを取り出した。

 なんだろう、杖か?

 ソレを持ったまま、アイテールはオレの向かい側に座った。



「開けてみろ」



 そう言い、包をオレの前に置いた。

 そばで見るとさらに大きい。

 オレの身長よりあるんじゃないか?

 (ひも)を解き包みを開けると、そこには銀色に輝く槍があった。

 白銀の柄には金色の流れる風のような装飾が施され、刀身は薄く、半透明なコバルトブルー。

 なんとも神々しい。



「コレって…」


恢故(かいこ)碧槍(へきそう)。柄は樹齢5000年の朧栗(おぼろぐり)、刃はオリハルコン製の特注で風神アイオロスの加護が着いている。天下の鍛治氏、鍛神ヘパイストスの造った値も付けられない代物だ。俺からの合格祝い」


「ええっ!?」



 ヘパイストスって、あのヘパイストス!?

 前の世界じゃギリシャ神話においてオリュンポス12神の1柱に数えられ、かの有名なアテナやヘラクレスの武具を作ったとされる、ものつくりの神だ。

 あれ?

 でもこっちの世界だと、ローマ神話の方のディーコンセンテスなんだよな。

 狩猟神アルテミスに相当するディアーナもいたし……もしかして、色々ごっちゃになってんのかな……?

 ……って、今はそれどころじゃない!



「い、いただけないですよそんな凄いモノ!!オレなんかには不釣り合いがすぎる……」


「やると言っているだろ。つべこべ言わず受け取れ」


「恐れ多すぎる!!」



 豚に真珠にも程がある。

 合格を貰ったとはいえ、人としても冒険者としてもまだまだ未熟者。

 神の造りたもうた武器を受け取るほどの器なんて、オレには無い。

 そんなオレを見て、アイテールは怪訝(けげん)そうな顔でため息を一つ吐く。



「何言ってる。手加減したとはいえお前は神に一撃を与えた。原初神でも最強と謳われるこの俺ににだ。それに、お前は俺の弟子なんだぞ。受け取る権利は十分にあるはずだぜ」


「でも…」


「神の厚意を無碍(むげ)にするんじゃない。ホラ、持ってみろ」



 そう言って、強引に槍を持たせられた。

 アイテールのよりは軽いが、修行の使った槍よりも重量がある。

 そして手にした瞬間、優しいそよ風に吹かれたような感覚が体を駆け(めぐ)る。



「ソイツは人間にゃ一生かかったって手に入れられるか怪しい代物だ。そこいらの武器とは比べ物にならんぞ」


「オレに使いこなせるかな…」


「慣れだ慣れ。とりあえず使ってみろ」





 そんなこんなでアイテールから新しい槍を受け取ったオレは、早速依頼に出向いた。

 2年ぶりの任務に、経津主神(フツヌシノカミ)という新しいメンバー(仮)が追加され、なんとも新鮮だ。

 ゴブリンの討伐依頼を受け、早々に槍を試せるとワクワクしていたオレだったが、経津主(ふつぬし)が一瞬にして全滅に追いやったせいで、オレもジュリアーノも出る幕は一切(いっさい)無かった。



「ハハハ!俺様に楯突いたらこうなるんだぜ、よーく覚えとけよ小鬼ども!!」



 雑魚敵の様な物言いと笑い方だが、コレでめっちゃ強いんだよなコイツ。

 とはいえ、依頼はこれで完了。

 武器のお試しはできなかったが、まあまたあとですれば良い。

 そんなこんなで完了証明の戦利品を回収していたところ、不意に経津主が黙った。



「どうした?」


「感じるぜ、強敵の気配……こっちだ!!」



 そう言い突然、経津主は走り出した。

 慌ててオレたちも追いかける。

 少し走り、着いたのは(つた)だらけの大きな洞窟。

 と言っても、入り口には長方形の石が積まれた明らかな人工物。



「遺跡だ…」


「あっちょっ!経津主!」



 遠慮もなしにズカズカと入っていく経津主神。

 呆れた…。

 けど、スイッチの入った経津主は俺たちだけじゃ止めることなどできやしない。

 仕方なく下へ下へと続く遺跡を進むと、最奥と思しき開けた場所に出た。

 そこに待ち構えていたのは、全長30mはあろうかという巨大な蛇と、ソイツに襲われている数人の冒険者だった。

 白い鎧の女騎士と、白髪の魔導士が抗戦(こうせん)している。



「大丈夫ですか!」


「ぐっ…君たち冒険者か!!悪いが、手を貸してくれ!」



 剣で大蛇と応戦しながら、女騎士が応えた。



(わたくし)たちはここで奴を足止めします!その間にあそこの2人を、どうか出口まで運んでください!」



 大蛇へ雷の魔法を放ちながら、白髪の魔導士がそう言う。

 どうにか耐えてはいるものの、どうやら戦況はよろしくない様子。

 残っている2人とも大分息が上がっているし、急がないと大変なことになる。

 オレたちはすぐに倒れている2人に駆け寄った。



「よし、オレはこっちを運ぶ、ジュリアーノと経津主はそっちの…」


「でりゃああああ!!」



 オレが全てを言いきるその前に経津主は刀を抜き、大蛇へ突進していた。



「おいコラ!!勝手な行動すんな!!」


「いかん!奴は最上級の魔物だ!!Bランク以上でなければ太刀打ちできない!!」



 大蛇は巨大な尾で経津主を潰そうと、辺りのものを手当たり次第になぎ払う。

 その風圧に耐えかね、女騎士と魔導士は吹き飛ばされてしまった。



「覚悟しやがれクソミミズ!!」



 経津主が大蛇の胴体を斬りつけると、奴はその痛みで(さら)に大暴れし、巨大な尾がこちらに向かって大きく振られた。

 おいおい冗談だろ!!

 そばには女騎士たちの仲間がいる、彼女らを(かつ)いではさすがに避けきれない。

 ……そうだ、これなら!

 アイテールから受け取った恢胡の碧槍。

 確か風神の加護があるとか言ってたよな。

 オレは咄嗟に槍を取り出し、一縷の望みをかけ、大蛇を目掛けて力一杯振るった。


ドオッ!!

 

 次の瞬間、槍の先端から凄まじい風の斬撃が繰り出され、大蛇の尾を真っ二つにした。

 それどころか斬撃は尾を突き抜けた先にある大蛇の首までもを落とし、たったの一撃でヤツを倒してしまったのだ。

 その場の全員言葉を失い、ただ口を開けてポカーンとする。



「…え?え?え?」



 風神の加護があるっていうから、防ぐくらいならできると思ったけど…。

 もしかして…オレはとんでもないのを受け取ってしまったんじゃないか…??

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異世界転移
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