美少女華蘭は夕日に誓う
「よう、華蘭」
学校の中庭にあるベンチに座り、ぼんやり夕日を眺めていたら、頭の上に缶コーヒーを置かれた。
「なんで振った方が黄昏てるわけ?」
「かずにぃ──」
振り向いて、ああ、いけないと言葉を改める。
「林先輩。見てたんですか?」
「まあな」
二つ年上の、林 和馬。
高校の先輩で、生徒会長で、私の幼馴染。
普段は「かずにぃ」と呼んでるけど、学校にいるときは「林先輩」と呼んでいる。何せ相手は生徒会長サマ、ケジメはつけないとね。
「のぞきは、よくないと思います」
「あそこ、生徒会室からよく見えるんだよ」
知ってるよ、そんなこと──私は心の中でだけ答える。
今日の放課後、よく知らない男子から「話がある」と言って呼び出された。
場所は、校舎裏に立つクヌギの下。この学校定番の告白スポット。正直、「またか」とうんざりした。
告白は丁重にお断りした。
私を呼び出した男子は、半泣きになって走り去った。
泣きたいのはこっちだよ。
また、かずにぃに見られちゃったのに。
「学校一の美少女は大変だな」
他人事の、その笑顔。イラッとする。
「これで、あー、二十人目くらいか?」
「──まだ十四人目」
「三ヶ月で十四人かぁ。モッテモテだな。うらやましいぞ」
イラッ。
「好きでもない人にモテても、うれしくない」
「贅沢だなあ」
「贅沢じゃないもん」
わかってない。
この鈍感、ぜーんぜんわかってない。
私にとって贅沢というのは、好きな人から告白されて、好きな人に一途に愛されることだ。
なぜそれがわからない。
いったい何年、私の幼馴染をしている。
「かずにぃ」
私は頭の上の缶コーヒーを手に取り、つき返した。
「コーヒーの気分じゃない。違うの買ってきて」
「お前、人の好意を──」
「早く!」
「しょーがねえなぁ。わかったよ」
かずにぃはやれやれと肩をすくめて、自販機コーナーへと走って行った。
◇ ◇ ◇
私は急いで髪をほどき、胸元のボタンを一つ外した。
長い髪は結うこと?
ボタンはきちんと閉めること?
そんな校則、知るもんか。
学校一と言われるこのかわいさ、今使わなくて、いつ使う?
誰のために、かわいくしてると思う。
誰のために、優等生やってると思う。
もー、怒った。
覚悟しろよ、この鈍感。
「私、奥野 華蘭は、ここに誓う」
沈みゆく夕日に向かって、私は拳を握りしめる。
「今からあの鈍感に告白して、恋人同士になることを!」
覚悟しなさい、かずにぃ。
絶対「はい」と言わせてやるからね!