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あとがき

 数年前のある日、外出から戻ると、突然インフルエンザにり患したかのように体がだるくなりました。

寒気があり、熱は少し高いという程度。

雨が降っていたので、濡れて風邪をひいたのかなという認識でした。


 その頃、テレビでは豪華客船で流行り病が蔓延しているという報道で持ち切りでした。

まさかと思いながら、風邪薬を飲んで、その日は寝ました。

翌日の昼頃から咳が出始めました。

そこから二週間、とにかく咳が出る。


 まだ、流行り病の検査方法も満足に周知されていなかった頃の事です。

今となっては考えられませんが、医者に行っても、咳をしながら、普通に他の患者と一緒に待合室で待たされるような状況でした。

さすがに自己判断でマスクはして行きましたが。

医師の診断は、味覚障害が出ないのなら報道されている流行り病とは症状が違うから、それじゃあないだろうと言われ、咳止めを出されただけ。


 その後も、咳の出すぎで頻繁に眩暈を起こし、立っていられない事もしばしば。

淡には時折血が混ざり、いくら淡を吐き出しても、ずっと喉の奥に淡が詰まっているという感じでした。

咳止めを飲むも咳は止まらず、体を休めて一日が過ぎていくという日々を過ごしていました。


 二週間ほど経ち、一日中咳が続くという事は無くなり、多少は体の自由が効くという状況になりました。

ですが、何かの拍子に咳が出るとしばらく止まらず、体が動かなくなる。

医者からは咳喘息だと診断され、吸引の薬を出されました。

ところが、その吸引の薬が吸えないんです。


 このままではマズイ事になりそうと思い、別の医者に行き、検査する事になりました。

気管支喘息と診断されました。

気管支が炎症を起こしていて、肺活量も落ちていると。

結局、仕事は辞める事になり、喘息の治療に専念する事になりました。



 この話を書こうと思ったのは、この喘息の治療が異常に長引いた事がきっかけでした。

部屋でできる何かをしよう。

大人になってから発症した喘息は寿命を縮めると漏れ聞き、それに絶望したというのもありました。

どうせなら、拙いものでも何か残して終わりたい。


 ただ、学生時代、教師から何も取り柄が無いと言われ続けた自分に何ができるのか?

これまで周囲から褒められた事といえば、ブログなどの文章が面白いと言われた事くらい。

だったらそれを活かして小説を書いてみる事はできないだろうか?

そう考え、どうやったら小説が書けるのかネットで調べました。


 そこで学んだのはプロットというものでした。

絵でいうところのラフスケッチのようなものです。

針金で骨組みを作り、そこに粘土を盛っていくようにして、物語というのは書いてゆくものだと知りました。


 では何を書くか?

自分に興味のある事を書こうと、サイトにはありました。

興味がある事といえば歴史と競馬くらい。

そこで、歴史絵巻と、競馬物語、双方で考えていきました。

双方のあらすじをぼんやりと想像し、どちらが書き続けられそうかを比べ、競馬の方を取りました。


 次は競馬界のどこに焦点を当てるか。

こういう世界で書きやすそうな題材といえば騎手か馬。

その時パッと思い出した競馬漫画が、牧場を舞台にした「じゃじゃ馬グルーミングアップ」でした。

「じゃじゃ馬グルーミングアップ」のように、馬よりもその周りの人物に焦点を当て、時間経過を楽しんでもらう物語にしたらどうだろうか。

ならばと、ニッチなところで調教師でいこうと考えました。

調教師なら色々と個性のある人を出していけると考えたからです。


 ただプロットを組んでいくにつれ、徐々に、これではマニアしか喜ばない、そう思うようになりました。

できれば、競馬を知らない人も楽しめ、マニアがニヤリとできるような、そんな世界観の方にできないだろうかと思い始めました。

そこで、馬ではなく恐竜を走らせる「競竜」という世界を創造していく事になりました。

どうせなら、競馬だけじゃなく、競艇や競輪も取り入れられないか。

やはり最後は空を飛んで競い合うのが良いだろう。

それが、読んでいて、もっとも迫力のある絵を思い浮かべてもらえるのではないだろうか。



 ある程度世界観が固まれば、今度は資料作りです。

名前を決めるにあたり、竜主は馬主、調教師は競馬の調教師、騎手は競艇選手、調教助手は競輪選手から、それぞれ名前をお借りしました。

お借りした名前を戦国武将の名前と組み合わせ、キャラクターを作成していきました。

ただ、そのせいで、岡部と服部、中里と北里など、紛らわしい名前の人物が多数出てしまいまう事に。

これは、次回以降大いに反省すべき点だと思っています。

(※後日追記:一部の人物の名前は変更しました。北里が内田など。また露骨に元の新聞社の名前が想像できそうな二社も名前を変更しました)


 設定を作る中で、ふと、「会派」という財閥的なものを思いつきました。

私は調教師の仕事などざっくりとしか知らない、しがない一競馬ファンなわけです。

その程度の浅い知識で、主人公を凄いと思わせる描写を書く事は極めて困難と思っていました。

ならば、どこか別の部分で「凄さ」を出すしかないだろう。

であれば、一社会人として凄い人として書いたらどうか?

お仕事小説の雰囲気が好きな人にも楽しんでいただけるのではないか?

正直、この「会派」を思いついた時は、これで世界観が固まったと強く感じました。


 思いついたきっかけは実に些細な事でした。

調教師の名前を考えていた時、避けて通れなかったのが、武田文吾、尾形藤吉の二人。

また、馬主とし避けて通れなかったのが、社台の吉田一族と、ラフィアンの岡田一族。

尾形と岡田、微妙に似ている。

そこで前者に武一族を加えて武田一族、後者を織田一族としました。

そこから二十三の会派を作っていきました。

今思い出しても、この作業が一番楽しかったですね。


 長年競馬を見続けていると、心に深く残る出来事というのがいくつもあるものです。

その最大のものがサンデーサイレンスブームでした。

それまで自分が目にしていた、馬主、生産者が、年々、馬柱から消えていく。

非常に寂しい思いをしながらも、これが盛者必衰、驕兵必敗のビジネスの世界なんだなと痛感させられたものでした。

特に、トウショウ牧場、メジロ牧場の解散は衝撃的でした。


 そこそこの規模の牧場が生産した竜を、主人公が名竜に育て、栄冠をつかむ事で大牧場になっていく。

そういう物語が魅力があるのではないか。

そう考えた時、真っ先に思い出したのが、マヤノトップガンの川上悦夫牧場でした。

そこから主人公の所属会派は、二十三会派の中の紅花会となりました。



 物語の冒頭をどうするか。

これは、かなり早くから決まっていました。

今なら異世界転生が一番読者が入りやすいだろう。

であれば、落馬し、この世界に転生した、そういう導入が良いだろう。

詳細は避けますが、こうして主人公「岡部綱一郎」という名前が決まりました。

全話登録し終えた後で主人公の名前の漢字の誤りを指摘していただき、涙目で485話分修正する事になりましたが……


 ご指摘という話で言うと、いただいた感想に武田文信に対する厳しい意見がありました。

(※後日追記:武田は名前を文信から信文に変更しています)

確かに読み返してみると、指摘されたように大会派の増長した爺さんのように読めたんです。

正直、やらかしたと思いました。

当初のプロットでは、武田文信はかなり重要な役割を担う予定だったんです。

伊級に昇級してきた岡部の知恵を借り、共に飛燕を研究し、竜王賞で海外の竜を初めて破り、八田記念も制覇。

岡部も飛燕を作るものの、元々の竜の質の違いで、どちらも差の無い二着に敗れる。

だが、岡部と共に行った遠征先のゴールで誘拐され殺害されてしまう事になる。

岡部は、その志を継ぐ形で海外重賞制覇に躍起になるという流れでした。

物語の中で、岡部が勝ち逃げを許した唯一の調教師という位置付けでした。


 結局、この部分はプロットの方を修正する事にしました。

武田文信は予定より早くご退場いただく事になり、飛燕も一人で研究する事になり、ゴールの前にデカンに遠征するように変更。

海外遠征の武田の役割は、同期の武田とスィナン師が受け継ぐ事になりました。

ゴールでの受難は娘の奈菜が被る事に。

さらにスィナン師に割り当てられていた役割はブッカ師に割り当てられる事になりました。


 ただ、私は修正後の流れの方が気に入っています。

二章の段階で、スィナン師は海外の凄い調教師と紹介されていて、そのスィナンに認められるという方が岡部の凄さが引き立ちますし、急にカタカナの名前の人が出てくれば、いよいよ海外かという雰囲気が出せると感じたんです。

それに、武田が害されるより、奈菜が害される方が、明らかに岡部の怒りは強いでしょうし。

デカンの栄光からの落差で、主三国での悲惨さが際立たせられたようにも感じます。

海外相手に孤軍奮闘しているという仁級時代のような雰囲気も出せた気がします。


 書いていくにつれ、どうにも納得のいかない部分というものは出るもので、この武田文信の初登場の場面と、梨奈が告白した話が、どうにも得心がいっていませんでした。

いずれちゃんと修正しようと、ずっと考えていました。

ただ、一旦書いたものをどう修正したら良いかがわからない。

結局、話を書いてる途中では修正はできず、全てを書き終えてから何度も書き直す事に。

今では、この二話は、かなりまで満足できる内容になったと思っています。



 タイトルについても、かなり悩みました。

最初「騎乗技術イマイチの騎手が、転生したら凄腕調教師になった件」というタイトルを考えました。

今から思えば、こういう副題を付けていれば、もう少し最初から多くの人の目に止まったかもと思わなくはないです。

 ただ、正直言えば、最初はそこまで書き続けるかどうか怪しいと思っていたんですよね。

一章の『セキラン』が『上巳賞』取ったところで完かもと考えていたんです。

 それと、このタイトルは名前をお借りした騎手の方にあまりにも失礼ではないかとも思ったんです。

今だから言いますが、アンチや新聞関係者に荒らされるとかも危惧していたんですよね。

ネットケイバというサイトの掲示板みたいになるかもと。

そこで一章で筆を折ってもなんとなく成立するように、「競竜師」という、戸川厩舎の物語でも大丈夫そうなシンプルなタイトルにしたんです。



 話を書いて行くにあたり、色々と参考にしたのは「銀河英雄伝説」という作品でした。

ご存知の方からしたら、やっぱりという感じかもしれません。

この作品の中の、ヤンとユリアンの、師弟のような、親子のような微妙な関係というのが私は非常に気に入っていました。

そこで、まるで親子のような、凄い先生と優秀な生徒という関係で話を書き進めていこうという事にしました。

実はあの話ではキャゼルヌとビュコックが好きなんです。

伊東師、三浦師の出番が思った以上に多くなったのは、そのあたりが影響しているのかもしれません。


 その後も、様々な設定を銀河英雄伝説からはお借りしました。

その最大の存在が「地球教」でした。

狂信的で、氷山の水面下が全く描かれず、おまけに陰謀家。

そんな存在を絶対の敵に設定し、いまいち何をしてくるか読めない敵に足を引っ張られ続けたら不気味じゃないだろうかと考えました。

その地球教の役割は「紅天団」に割り当てました。



 一章を書き終えた頃から、最後をどうしようという事はずっと悩んでいました。

実はプロットには最終話の内容は設定していなかったのです。

グランプリ制覇で終わっていたんです。

途中で筆を折る事も想定し、何か所か打ち切りポイントまで設定していたのにです。


 ゴールの皇帝陛下と、瑞穂の天皇陛下から祝辞を受け大団円。

それが異世界転生もののよくあるエンディングじゃないだろうかと考えていたんです。

ですが、この案は二章を書き終えた時点で破棄しました。

いただいた感想を読むに、この話を異世界転生ものではなく、競馬ものとして読んでくださる方が多いと感じたからです。


 そこで祝賀エンドは止め、代わりに設定したのが、岡部が亡くなり志を弟子が受け継ぐという終わり方でした。

異世界転生してきた岡部は、この世界にとってイレギュラーな存在のはずです。

ですので、最後はこの世界を去るというのが話としては筋が通るのでは無いか。

そのために、町尻、北里、成松という人物を出していました。

七章を瑞穂に飛燕を流行させる事に終始させたのもその為です。

ですが、これも最終的には却下し、この最終話になりました。


 理由はいくつもあるのですが、きっかけになったのは賞に応募してみようと考えた事でした。

そこにあった「読後感の良い作品」という言葉です。

よく考えたら、岡部暗殺でマスコミ逆転大勝利というエンディングは、読後感があまりにも悪いのではないか。

それと、ここまで岡部の代わりにさまざまな酷い目に遭い続けてきた不幸属性の奈菜が、父まで失うのはあまりにも不憫すぎる。

それに、大昔ならそれが普通だったかもしれないが、今はそういう展開は好まれないのではないかとも思いました。


 色々と悩んだ末、みんな元気で、これまでと変わらぬ日常を送っていますよという雰囲気の、このエンディングを採択する事にしました。

公営ギャンブルというものは、たとえ誰かが亡くなったとしても、変わらぬ日常としてその後も物語が紡ぎ続けられるものですからね。


 書き終えてから「水星の魔女」を見て、これはこれで一つの正解だったんだろうと思うようになりました。

ひと昔前なら、最後は決算処分市かのように壮絶な討死に祭りだったのに、今はガンダムですらこれなんだからと。


 このエンディングで書き終えたものの、正直、日和ったとも感じているんです。

果たして読者の方々は、これで本当に満足いただけたのかどうか。

先達の方々は、物語の終焉の設定をいったいどうされているんでしょう。

これから別の物語を書きながら、終わり方については引き続き悩んで行こうと思っています。



 ここまで一年以上にわたり、拙いお話を読み続けていただきまして誠にありがとうございました。

高評価や、いいね、ブックマーク、感想、レビュー、様々な手段で応援し続けていただき、本当にありがとうございました。

大変励みになりました。

最終話まで書き続ける事ができたのは、ひとえに皆様の暖かいご声援があったればこそです。


 この話は終焉となりますが、もしよろしければ、次の話も続けてお楽しみいただけましたら嬉しく思います。



 令和五年十二月朔日 敷知遠江守

 (※令和七年八月末日 一部追記、修正)

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[良い点] 完結、お疲れ様です。 昨日、朝の更新チェックで更新が無く「あ、そうか。もう終わっちゃったんだ」と気付くくらいには朝の日課になっておりました。 [気になる点] 今後閑話や外伝、後日談や人竜録…
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