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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
最終章 差別 ~海外遠征編~
470/491

第44話 集結

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(伊級)。夫は中里実隆

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(伊級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・藤田和邦…清流会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…岡部厩舎の契約騎手

・荒木、真柄…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・成松…岡部厩舎の副調教師

・垣屋、花房、阿蘇、大村…岡部厩舎の厩務員

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・富田、山崎、魚住…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・三木杏奈…岡部厩舎の女性厩務員兼ブリタニス語通訳

・江馬結花…岡部厩舎の女性厩務員兼ゴール語通訳

・香坂郁昌…大須賀(吉)厩舎の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

・ラシード・ビン・スィナン…パルサ首長国の調教師

・チャンドラ・ブッカ…デカン共和国の調教師

・ラーダグプタ・カウティリヤ…デカン共和国の調教師

・アレクサンドル・ベルナドット…ゴール帝国の調教師

・ギョーム・エリー・ブリューヌ…ゴール帝国の調教師

・エドワード・パトリック・オースティン…ブリタニス共和国の調教師

・クリーク…ペヨーテ連邦の調教師

 昼の三時半が近づいていた。

下見所では赤井が『サケホウギ』の引き綱を持っている。

『サケホウギ』は五枠で単勝一番人気。



 先に大津の『総理大臣賞』の発走となった。

短距離の飛燕はかなり増えたものの、未だ中距離はそこまでではない。

ましてや長距離となると、かなり数が限られてくる。

武田の『ハナビシテンデン』が圧倒的に強いという印象で、それを『サケジョウラン』が猛追している印象。

杉の『サケキンソウ』、藤田の『イナホツルギバ』『イナホアキバエ』も急成長している。

他にも伊東の『ニヒキシンスイ』、宇喜多の『ロクモンシゲイ』が新顔の飛燕として決勝に上がって来た。


 二周目まで『イナホアキバエ』が全体を引っ張った。

その時点で唯一飛燕でない織田の『クレナイヒジリ』が大きく遅れを取っている。

三角で真っ先に『サケキンソウ』が動いた。

先頭に躍り出た『サケキンソウ』は最内をきっちりと進んだ。

だが、四角で『サケキンソウ』の外から『サケジョウラン』がするっと抜けて行った。

さらに『サケキンソウ』の下から豪快に『ハナビシテンデン』が抜けて行った。

何とか『サケキンソウ』は食らいついたものの三着止まり。

『ハナビシテンデン』が『サケジョウラン』を半竜身差して一着で終着した。



 皇都の『総理大臣賞』が終わると、常府では各竜が発走機目がけて羽ばたいて行った。

それを見送って岡部は関係者観覧席へと向かった。


「ついにこういう日が来たんやな」


 武田が周囲を見渡して嬉しそうに言った。


「松井くんが来れてたら完璧だったんだがな」


 そう松本も嬉しそうに言う。


「松井くんのとこは今年は中距離だったんだって」


 そう岡部が言うと、大須賀も嬉しそうに「能力戦を見たが、あれはかなり強そうだった」と微笑んだ。


「うちのもう一頭は中距離竜だから、あれと当たると思うとちょっとね」


 岡部が険しい顔で天を仰ぐと、「うちは長距離竜だから一安心」と武田が笑い出した。

 松本と大須賀は「うちはまだ中距離以上は作れてない」と渋い顔をした。


「みんなは今日の出来はどうなの?」


「僕はそれなりに自信あるで」


 岡部の質問に、すぐに武田が返答。

「自信はあったのだが、君たちのを見たらちょっと失せた」と、松本は苦笑い。

「うちは香坂が何とかしてくれるだろう」と大須賀が高笑いした。


 「今日は久々にみんなで呑もう!」と岡部が言うと、大須賀が「じゃあ肴は来れなかった松井くんだな」と大笑いした。


 そんな岡部たちの会話を、伊東と藤田が微笑ましいという顔で聞いている。

秋山と十市は顔を見合わせ、羨ましい限りだと言い合っている。



 常府でも発走者が小旗を振った。

発走曲が奏でられ、それに合わせ観客の拍手が鳴り響いた。



――

本日の主競争、世代三冠の初戦『雲雀賞』、発走の時刻が迫ってまいりました。

天候は晴れ、風状態は『微』。

『鵯賞』出走竜が一頭もおらず、全てが飛燕。

この特別な一戦を目の前で見ようと、多くの観衆が詰めかけています。


発走者が小旗を振り、秒読み開始、発走しました!

ぽんと良い発走は大外ジョウコマガワ。

サケホウギ、ハナビシテイセキが続きます。

ジョウコマガワ、引かず、果敢に先頭主張。

各竜滑翔に入りました。

ハナビシテイセキ、タケノイタケル。

サケホウギ、イナホツバサ、クレナイシオガマ。

ニヒキスズカゼ、サマヤギョウで飛行隊形は三、三、二。

発走は全頭正常です。

各竜、一角を回りました。

ジョウコマガワ、巧みな位置取りで先頭を譲りません。

二角回って向正面飛行。

先頭、未だジョウコマガワ。

向正面滑翔に入ります。

サケホウギが外。

イナホツバサが二番手先頭。

四、二、二の飛行隊形。

ジョウコマガワ、巧みに竜を振り、周りを揺さぶりに入りました。

ジョウコマガワ、先頭で三角を通過。

ここからが勝負所!

サケホウギ仕掛けた!

サケホウギ先頭に並びかけていった!

すぐ後ろにイナホツバサ、その外ハナビシテイセキ!

四角回って最後の飛行!

先頭ジョウコマガワ!

外サケホウギ!

内からハナビシテイセキ!

ジョウコマガワはここまでか!

ハナビシテイセキ、前が塞がり急上昇!

代わりに上からイナホツバサが猛烈な追い上げ!

外サケホウギ!

上イナホツバサ!

二頭並んで終着!

市松の大旗が振られました!

わずかに下、サケホウギでしょうか!

――



 電光掲示板に終着時の写真が表示された。

それと同時に、写真判定ながら一着に『サケホウギ』の五が表示された。


 畠山は『サケホウギ』と競技場を一周し、観客席前で拳を突き上げた。




 翌日、岡部と武田は藤田厩舎に行き、ブリタニス遠征の打ち合わせを行った。

「もう会派に連絡し、ブリタニスの大宿の手配をしてもらった」と、武田が二人に報告。

次に岡部が「スィナンから連絡があった」と二人に電子郵便を見せた。

だが残念ながら武田にはちんぷんかんぷん。


「パルサ語、見せられてわかるわけないやろ」


「これゴール語らしいよ」


「すまんすまん。言われてみたらゴール語やったわ……って、わかるかそんなもん!」


 藤田も読めないらしく「スィナン師は何と言ってきたんだ?」と岡部にたずねた。

「昨日、このまま大津のゴール語のわかる娘へ転送して訳してもらった」と言って岡部は返信の電子郵便を開いた。


 ”今回の遠征、ブッカがかなり乗り気で、私にぜひ出ようと言ってきたよ。

若いのが代われと言ってきたが、今回は瑞穂が大人数で特別だからダメだと断ってやったと、ブッカが嬉しそうに言ってきた。

うちも若いのが代われと煩いが、同じ言い訳で黙らせようと思っている。

武田だけでなく藤田も来るそうだな。

やっと重い腰を上げる気になったのか。

あいつは腕は良いものを持ってるのに、気が小さいのが玉に瑕なんだよな。

何年も前から、海外に行こうと何度誘った事やら。

後輩二人に先を越され、その後輩を誘ってやっと海外遠征とか。

情けないにもほどがある”


 岡部と武田は無言で藤田を見続けた。


「あの爺……言いたい放題言いやがって」


 「見なきゃよかった」と、藤田はかなり不機嫌そうな顔をした。

それでも二人は黙って藤田を見続けている。


「国内ですら歯が立たないのに、海外に行ったって金の無駄じゃないか」


「たぶんスィナン師が言いたいのは、去年のうちに遠征しろって事かと」


 武田も無言でうんうんと頷く。


「こっちにもな、色々と都合ってもんがあったんだよ。大津と違って常府は飛燕が少なかったからな」


「まあ、今ならすぐに飛燕もできるでしょうしね」


「そうだよ! これからだよ! これから! 俺たちが結果を出せば後に続く奴らが出る。遠征が日常になれば、やつらも毎回妨害というわけにはいかなくなる。そうなれば岡部はもっと海外で暴れられる」


 藤田が岡部と武田の肩にぽんと手を乗せた。


「これまで一方的に取られた賞金、これから少しづつ返してもらおうぜ!」


 そう言って藤田は楽しそうに笑った。

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