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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
最終章 差別 ~海外遠征編~
459/491

第33話 天皇賞

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(伊級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・藤田和邦…清流会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…岡部厩舎の契約騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・成松…岡部厩舎の副調教師

・垣屋、花房、阿蘇、大村、真柄…岡部厩舎の厩務員

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・富田、山崎、魚住…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・三木杏奈…岡部厩舎の女性厩務員兼ブリタニス語通訳

・江馬結花…岡部厩舎の女性厩務員兼ゴール語通訳

・香坂郁昌…大須賀(吉)厩舎の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

・ラシード・ビン・スィナン…パルサ首長国の調教師

・チャンドラ・ブッカ…デカン共和国の調教師

・ラーダグプタ・カウティリヤ…デカン共和国の調教師

・アレクサンドル・ベルナドット…ゴール帝国の調教師

・ギョーム・エリー・ブリューヌ…ゴール帝国の調教師

・エドワード・パトリック・オースティン…ブリタニス共和国の調教師

・クリーク…ペヨーテ連邦の調教師

 翌日、武田会長は、地元甲斐郡の石和(いさわ)という連合議会議員に面会を願い出た。

石和議員にお願いし、中原という議員の面会を取りつけてもらった。

中原は現内閣で副総理兼治部大臣をしている人物である。

武田は加賀美と共に大臣執務室を訪ね、今回の騒動の話をし対応を相談。


 本来であれば官僚の処分は容易ではない。

だが天下りであれば、事が大きくなれば省庁の方から勝手に処分してくれるだろう。

その為には、この件を問題視する必要があるだろうと中原は助言した。


 翌日から連日、いくつかの新聞が天下りを問題視した記事を書いた。

それにより各省庁が天下り問題の言い訳に躍起になった。

最も槍玉にあげられたのは大蔵省で、その次が工部省。

治部省、厚生省、民部省、文部省、産業資源省もかなり追及される事になった。


 その報道に激怒した北国、東国、西国、南国の各総督が、「天下りによって官僚が私服を肥やそうというのであれば供出金を下げざるをえない」と共同声明を出した。

それに焦った木曾総理は、外郭団体の見直しをし、今後、省庁職員の天下りを厳しく制限していくと公約し、何とか総督たちには納得してもらった。


 実は、ここまでの流れは全て中原が根回しをして、木曾総理、各総督に協力をお願いした事だった。

中原は治部大臣に就任してからずっと、大蔵大臣の樋口から天下りの件を相談されていた。

自分たちが各省庁の財布の紐を握っているからと、やりたい放題していて、何かといえば自分たちの関係者がいる外郭団体を引き合いに出し、それはできない、これはできないと、まともな理由も示さず拒否してくる。

そんな官僚のやり方に樋口はずっとイライラしていたのだった。

民意によって選ばれた政府と、そうではない省庁、どちらが立場が上か、どこかで知らしめねばならない。

今回の件はちょうど良い機会、そう中原は考えたらしい。



 総理が天下り問題の対処を公約した翌日、かわら新聞など数紙に驚愕の記事が掲載された。

岡部調教師が処分される事になった原因は、産業資源省から競竜協会に天下りした人物が、国際競竜協会の会合で岡部調教師を中傷したからという記事である。


 連日、産業資源省に記者が押しかけ、連合議会でも産業資源大臣の中山議員が責められる事になった。

なぜその職員はそんな事をしたのかという話題が出ると、加賀美部長が連合議会に参考人として呼び出される事になった。

天下り問題の象徴となってしまった加賀美部長は、連合議会で与党、野党、両者から質問攻めにされる事になった。




 岡部厩舎では『天皇賞』に向けて、二頭の竜が順調に勝ちあがっていた。

そして、多くの伊級関係者が注目する最終予選の竜柱が発表になった。


 三雲が配った竜柱を見て、岡部は「ほう」と言って笑みを浮かべた。

岡部から竜柱を手渡された荒木と能島は「そうきたか」と言って新発田に手渡した。

『ダンキ』は武田の『ハナビシヨウモン』、杉の『サケユウダチ』と当たる事になった。

『ジュエイ』は武田の『ハナビシシュウテイ』、秋山の『タケノミカヅチ』と当たる事になった。

奇しくも、どちらも古参の飛燕に新参の飛燕が挑む、そういう形になったのである。



 先に『ジュエイ』の方の発走となった。

発走すると、三頭はやはり圧倒的な速さで他五頭を離して周回を始めた。

一周目は『タケノミカヅチ』が逃げ、『サケジュエイ』と『ハナビシシュウテイ』が追うという展開で進んだ。

最終周、二角から三頭の争いが突然激しくなる。

三角では『ハナビシシュウテイ』が先頭に立ち、滑空で『サケジュエイ』が抜き返した。

四角から『ハナビシシュウテイ』と『サケジュエイ』は叩き合い、二頭並んで終着。

その二頭を相手にするには『タケノミカヅチ』は、まだ少し足らなかったらしい。


 翌日、『ダンキ』の方の予選となった。

発走すると、こちらも三頭が圧倒的な速さを見せた。

だが、こちらは先頭を誰が行くかで二角まで駆け引きが続いた。

そのせいで展開が少し遅かった。

後ろの五頭が付いて来れるくらい遅かった。

その分、最終周の攻防は熾烈になった。

最初に一角から『サケダンキ』が仕掛けたのだが、すぐに『ハナビシヨウモン』が追い返した。

三角まで『サケユウダチ』は、すぐ後ろでその二頭をじっと見ていた。

四角、『サケダンキ』も『ハナビシヨウモン』も追うのに夢中になり、少し位置取りが雑になった。

そこを最内を綺麗に突いた『サケユウダチ』が抜けた。

かろうじて二着に『サケダンキ』が入り、『ハナビシヨウモン』が予選落ちする事になったのだった。


 『あの『ハナビシヨウモン』が予選敗退!』と、翌日の新聞はかなり騒がしかった。




 昼の三時半が近づいている。

空は非常に高く、冷たい風の中に時折温い風がやってくる、そんな気持ちの良い天気であった。


 下見所では小平が『サケダンキ』、赤井が『サケジュエイ』の引き綱を持っている。

『サケダンキ』は二枠、単勝人気は五番人気。

『サケジュエイ』は四枠、単勝人気は二番人気。

一番人気は五枠の『ハナビシシュウテイ』。

三番人気が七枠の『イナホユウバエ』。

四番人気に大外『サケユウダチ』。

最内、十市の『クレナイカシマ』が六番人気。

『ジョウリュウコウ』『タケノムトウ』は、なんと単勝万竜券。


「ここでひと叩きして、来年パルサ遠征のはずやったのに……」


 畠山は『サケダンキ』に跨り、そう小平にぼやいた。


「最悪ですよね。パルサだけじゃなく、『八田記念』もバツだなんて」


「おまけに五番人気と来たもんや。『デカンカップ』勝った仔やぞ。舐めくさりおってからに」


 『サケダンキ』も納得がいかないのか、畠山が首筋を叩くとクェェと嘶いた。


 係員の合図で『クレナイカシマ』から順に発走機へ飛び立って行った。

全竜が発走機前の止まり木につかまっていると、発走者が現れ小旗を振った。

発走曲が奏でられ、会場から、大歓声が巻き起こった。



――

本日の主競争、秋の古竜中距離戦『天皇賞』の発走の時刻となりました。

天候は晴れ、風状態は稍強。

王者『サケセイメン』、覇者『ハナビシヨウモン』がおらず、新王者を選ぶ一戦となりました。


今、発走者の旗が振られました。

発走しました!

熾烈な先頭争い、何が行くでしょうか。

クレナイカシマか、クレナイカシマが行ったようです。

先頭クレナイカシマ、サケジュエイ、ハナビシシュウテイ、イナホユウバエ、サケユウダチ、サケダンキ。

少し離れてタケノムトウ、ジョウリュウコウ。

各竜滑翔に入りました。

発走は全頭正常。

一角回って各竜滑空。

サケダンキ、サケユウダチを抜き五番手浮上。

ハナビシシュウテイ、サケジュエイを抜き二番手浮上。

二角を回り飛行に入りました。

サケジュエイ、ハナビシシュウテイを抜き返し再度二番手浮上。

二番手争いは、かなり熾烈となっています。

向正面、クレナイカシマを先頭に雁行に入りました。

クレナイカシマのすぐ後ろにイナホユウバエが入り、三、三、二の飛行隊形。

三角回って滑空。

前六頭ひとまとまりで四角に向け高速滑空。

後ろ二頭は全く流れについて来れていません。

四角回って飛行。

先頭変わらずクレナイカシマ。

市松の大旗が掲げられ、最終周に入りました!

一周目の時計は……こ、これは凄い!

世界時計が狙える早い時計となっています!

正面、滑翔に入っています。

クレナイカシマ、イナホユウバエを先頭に雁行。

隊形は三、三、二。

一角を回って滑空。

ハナビシシュウテイ、早くも仕掛けていった!

サケジュエイも続いて行く!

サケダンキも順位を上げた!

二角を回って飛行。

ここでハナビシシュウテイが先頭に立った!

向正面、滑翔。

ハナビシシュウテイとサケダンキを先頭に六頭二列雁行。

飛行隊形は三、三、二。

後ろの二頭はかなり離れてしまっています。

三角を回って滑空!

ここから勝負所!

ハナビシシュウテイ先頭、外サケジュエイがピタリと付く!

その外にクレナイカシマ、サケダンキ!

後ろにイナホユウバエ、サケユウダチがその外!

六頭ほぼ一団!

四角回って最後の飛行!

ハナビシシュウテイ先頭、外サケジュエイ、上サケダンキ!

サケユウダチ、前が空かない!

クレナイカシマは苦しいか!

内ハナビシシュウテイ、外サケジュエイ、上サケダンキ!

三頭激しい追い比べ!

内か、外か、上か!

三頭並んで終着!

今、市松の大旗が大きく振られました。

ここからでは全くわかりません!

――


 大画面に終着時の写真が映し出された。

だが、誰の目にも三頭並んで終着しているようにしか見えなかった。

さらに写真が拡大される。

それでも『サケジュエイ』が、やや体勢不利という事くらいしかわからなかった。



 赤松、服部、畠山の三人は、とりあえず検量室に戻って来た。

その時点で三着に『サケジュエイ』の四が表示されていた。

「勝ってると思ったのに」と服部が酷く悔しがる。


 岡部と武田は二人横に並んで競争映像を見つめている。

その隣では武田信勝会長と義悦が並んで、やはり競争映像を見つめている。


「君、どっちやと思う?」


「どうだろう。うちと言いたいとこだけど……」


 岡部たちと義悦たち、四人並んで何度目かの競争映像を見つめている。

畠山と赤松も検量を終え、二人並んで競争映像を見つめている。


 十五分ほどして係員が現れた。

一着に二と記載。

その瞬間、外の観客席から大歓声が巻き起こった。


 義悦が岡部に抱き着いて喜んだ。

武田会長が義悦に握手を求めた。

「これは悔しい!」と笑顔で言いながら、武田も岡部と握手をした。

検量の前では畠山も赤松と握手をしている。

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