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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
最終章 差別 ~海外遠征編~
437/491

第11話 雲雀賞

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(伊級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・藤田和邦…清流会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…岡部厩舎の契約騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・成松…岡部厩舎の副調教師

・垣屋、花房、阿蘇、大村、真柄…岡部厩舎の厩務員

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・富田、山崎、魚住…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・三木杏奈…岡部厩舎の女性厩務員兼ブリタニス語通訳

・江馬結花…岡部厩舎の女性厩務員兼ゴール語通訳

・香坂郁昌…大須賀(吉)厩舎の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

・ラシード・ビン・スィナン…パルサ首長国の調教師

・チャンドラ・ブッカ…デカン共和国の調教師

・アレクサンドル・ベルナドット…ゴール帝国の調教師

・エドワード・パトリック・オースティン…ブリタニス共和国の調教師

・クリーク…ペヨーテ連邦の調教師

 最終予選を突破し、岡部は常府へと向かっていた。

織田、宇喜多の二人が飛燕に成功した事で、常府は、あっちでもこっちでも飛燕の話題で持ち切りだった。

先月、藤田が岡部の竜を負かしているというのも、それに拍車をかけている。

打倒岡部厩舎で東国は大盛り上がりだと、大須賀も松本も大笑い。


「だけど、先週の能力戦に出てた竜も速かったよな」


 大須賀と松本は食堂で見ていたらしく、大須賀が少し興奮気味に言った。


「実はかなり調整が遅れててね。何とか『駒鳥賞』に間に合った感じかな」


「皆が飛燕にできるかどうかで四苦八苦しているというに、君はもう新竜を飛燕にしてるんだもんな」


 先に行く奴は足を止めないというのは本当だと大須賀は苦笑いした。


「『ヤコウウン』っていうんだけど、あれを飛燕にしたのは僕じゃないよ。牧場だよ」


「それって、馴致じゅんちでやれるって事?」


「さあ。あの竜は血統がちょっと独特らしいから、なんとも」


 そう言われて、松本は先週の新聞を取り出してきた。

父も母父も全く聞いた事が無いと大須賀と二人で言い合い、血統辞典まで引っ張り出してきた。

ところが血統辞典で『ヤコウウン』の父を調べても、競争成績はおろか、産駒成績すら記載されていない。

二代父を調べて、やっと競争成績が出てきたものの、やはり産駒成績は出てこない。

三代父で初めて、まともな競争成績と微妙な産駒成績が出てきた。

四代父の名『アサヒセンゲン』を見て、大須賀も松本も目を疑った。


「は? 『アサヒセンゲン』? 嘘だろ? こんな血統が、まだ残っていたのかよ」


 血統を勉強するにあたり大昔の血統も一緒に学ぶのだが、『アサヒセンゲン』のモンテーニュ系はすでに世界的に絶えた血統だと学んだらしい。

その血統を新聞で見た、それだけでも衝撃はかなりのものがある。


「うちの会の生産顧問の話だと、もしかしたら、この系統の最後の一頭かもって」


「だろうなあ。そんな極めて希少な血が重賞を取っただなんて、それだけで特集番組が作れるだろうぜ」


「別に作ってくれても良いけど、出演するのは勘弁して欲しいかな」


 その岡部の発言に、一昨年の事を思い出した大須賀が、わかるわかると同意してくれた。




 昼の三時半が近づいている。

桜の花弁が舞い、桜色の斑点が霞ケ浦を彩っている。

非常に穏やかで過ごしやすい日が続いており、風も穏やかだった。

下見所では小平が『ヤコウウン』の、関口が『リコウ』の引き綱を持っている。

『サケヤコウウン』がダントツ一番人気、二番人気が『サケリコウ』。

二頭が抜けて人気になっている。



 まずは先に大津の『総理大臣賞』の発走となった。

『サケジョウラン』は単勝二番人気。

一番人気は昨年の『大空王冠』を制覇した武田の『ハナビシテンデン』。

完全に人気を二分しており、時間ごとに一番人気が入れ替わっている。


 発走すると『ジョウラン』と『テンデン』は、二頭並んでの好飛行だった。

最初、『テンデン』の赤松騎手が控えようとしたのだが、『ジョウラン』の松下が迷わず先頭に立とうとしたため、控えず先頭に立った。

一周目は二頭とも自分が先頭にという姿勢だった。

そのせいで残りの六頭は引き離され、二、六という飛行隊形となっていた。

一周目の翔破時計は極めて早いものだった。


 二周目、さすがに二頭は少し流れを緩めた。


 最終周、一角の滑空から二頭は激しく先頭争いを再開。

残り六頭は完全に置いてきぼりになった。

滑翔でも二頭は並列で飛んでいく。

二角で先頭に立った『ジョウラン』は、徹底して最内を丁寧に保持して回った。

『テンデン』も三角で内に切り込もうとしたのだが、松下は譲らなかった。

その差が四角で出た。

最後の飛行で『テンデン』は伸びを欠き、一竜身の差を付けられて敗れた。



「す、すげえ……何やアレ……」


 服部と小平は、口をあんぐりと開けて中継を凝視している。

畠山と関口も目を丸くし、顔を見合わせて何かを言い合っている。


「迫力が、なまら凄いですね」


「さすが師匠やわ。最終周の攻防が完璧や」


 両手の親指と人差し指を天に突き出して観客の歓声に応えている松下を、服部はじっと凝視している。


「さっきのを見ちゃうと、服部さんがいかに雑かがわかりますね」


「そやねん。師匠は味や言うてくれるんやけどな。ほんまは僕もああなりたいねん」


 まだ中継を憧れの眼差しで見ている服部を、小平が優しい目で見つめている。


「その、だいぶ、努力の方が……」


「……琴美ちゃんみたいな事言いやがって」


 服部は不貞腐れた顔をして飛行台へと向かった。



 発走者が小旗を振ると、発走曲が奏でられた。



――

世代戦、最初の一戦『雲雀賞』の発走時刻が迫ってまいりました。

天候は晴れ、風状態は『強』。

昨年の『鵯賞』勝ち竜『サケヤコウン』、白羽根の竜体が青い空にたなびく雲のように映えています。


全竜体勢完了。

三、二、発走しました!

サケリコウ、良い飛行。

サケヤコウウン、それに続いていきます。

やはりこの二頭が速い。

各竜滑翔に入りました。

飛行隊形は二、三、三。

先頭、サケリコウ、次いでサケヤコウウン。

ニヒキナンヨウ、ジョウサンチ、ロクモンエイアン。

カエンホウジュ、タケノシキツヒコ、クレナイイザワ。

一角を回って滑空。

前二頭、激しいつばぜり合い。

サケリコウ、サケヤコウウン、一歩も譲りません。

二角を回って飛行。

サケヤコウウン速い。

サケリコウは少し控え気味。

向正面、滑翔に入りました。

隊形は先ほどと同じ二、三、三。

三角回って、滑空に入りました。

ここからが勝負所!

ここでサケリコウ、内に切り込んだ!

二頭激しい先頭争い!

内サケリコウにやや分があるか!

四角回って最後の飛行!

内サケリコウ、外サケヤコウウン。

サケヤコウウン、徐々に差を詰める!

耐える内サケリコウ!

サケヤコウウン並ぶか!

サケヤコウウン並んだ!

二頭並んで終着!

市松の大旗が振られました。

猛然と追い込んだサケヤコウウン、果たして届いているかどうか。

大画面に終着時の写真が表示されています。

これはかなり微妙です。

――



 服部と畠山は笑顔を向けあい、首を傾げあっている。

電光掲示板に写真判定ながら一着に二が表示されると、畠山は『リコウ』の首筋を叩いて大喜びした。



 検量室に戻った服部は、納得いかないという顔で小平から鞍を受け取った。


「すみません、土付けちゃって」


「この仔は中距離竜だからね。正直なところを言えば、『リコウ』にあそこまで詰めるとは思わなかったよ」


 何となく慰められた気がして、服部は頬を凹ませて気恥ずかしそうな顔をした。


「いえね、飛行では勝てるんですよ。そやけども、微妙に滑翔が下手で」


「へえ、そうなんだ。それは気づかなかったな。翼の使い方の問題なのかな?」


「まあ、何にせよ次は真価を見せれる思いますから」


 岡部は大きく頷き、期待してると言って服部の背中を叩いた。



 ゆっくりと畠山が戻って来た。

最上が金星だと言って畠山と握手をした。


「向こうは、ここが本距離や無いですからね。それに、あっこまで詰められたんは、正直驚きですわ」


 最上は視線の先にいる義悦の顔を見てニヤリと笑った。


「向こうは重賞竜だからな。それに勝てたのだから、この距離ではこちらが上と素直に喜んでおけば良い」


 そう言って最上は、畠山の背をパンパン叩いて大喜びした。


「秋には『エンラ』にも勝って見せますから」


 そう畠山が言うと、最上は「期待しておる」と笑顔を向けた。

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