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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
最終章 差別 ~海外遠征編~
427/491

第1話 会見

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(呂級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・藤田和邦…清流会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…岡部厩舎の契約騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・垣屋、花房、阿蘇、大村、成松…岡部厩舎の厩務員

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・真柄、富田、山崎…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・香坂郁昌…大須賀(吉)厩舎の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

・ラシード・ビン・スィナン…パルサ首長国の調教師

・チャンドラ・ブッカ…デカン共和国の調教師

・アレクサンドル・ベルナドット…ゴール帝国の調教師

・エドワード・パトリック・オースティン…ブリタニス共和国の調教師

・クリーク…ペヨーテ連邦の調教師

 『竜王賞』では半信半疑だった者も、年末の大賞典とあって常府競竜場に詰めかけている。

過去最高を記録した『竜王賞』の観客数を遥かに上回る観客が、岡部、畠山、紅花と思い思いに叫んでいる。

中には瑞穂万歳と叫んでいる者もいる。


 そんな大歓声の中、表彰式が行われた。

義悦が壺状の金の優勝杯を掲げると、観客から大歓声が沸き起こった。

岡部、畠山、古河牧場の場長と次々に表彰を受けていく。

その間、観客は大興奮で歓声を送り続けた。


 表彰の後は口取り式だった。

中央に最上と義悦、それぞれの隣にまなみと奈菜、古河牧場の面々、岡部が横一列に並ぶ。

一番外に畠山が鞍の背番号を持って立って記念撮影が行われた。

義悦が周囲に礼を述べ、最後に観客に大きく手を振ると大歓声が沸き起こった。



 表彰式の後、関係者を引きつれ、義悦たちは輸送車に乗り込んで先に大宿へ向かった。

一方の岡部は大須賀厩舎を借り、二頭の竜の放牧手続きを取り、その後、大須賀や松本たちと談笑していた。

そこに武田がやって来て、それを聞きつけて藤田がやってきた。

さらに織田や十市など、何人かが大須賀厩舎に駆けつけた。

口々におめでとうと言って岡部を祝福。


 『竜王賞』と『八田記念』、両大賞典が国際競争になってから、この二競争を制した瑞穂の竜はただの一頭もいなかった。

これまで常に海外竜の後塵を拝し続けてきた。

海外遠征した調教師の案で新たな調教方法を常に取り入れてきたのだが、それでも全く歯が立たなかった。

騎手も積極的に海外逗留して腕を磨いたが、それでも駄目だった。

血統が原因なのかもと、海外で流行している血統の種牡竜を輸入もしたが、それでも状況は変わらなかった。

もはや何が原因かすらわからず、多くの者が諦めかけていた。


 だがついに制覇する者が現れたのだ、それも春秋ともに。

武田が会見で豪語したように、もう海外を相手できるかどうかの段階は、過去のものになったかのようだった。


 一着から四着は全て瑞穂の竜。

海外竜は完敗だった。

こんな痛快な事は無いと織田たちは大興奮。

飛燕なら海外の竜に勝てる事はわかった、次は自分たちだと織田たちは口々に言い合っている。

大須賀厩舎には、一人、また一人と調教師がやって来て、徐々に手狭になっていた。



 事務棟の鯨岡(くじらおか)紗羅(さら)という女性が、そろそろ会見のお時間ですと岡部たちを呼びに来た。

席は奥から、藤田、武田、岡部、畠山、オースティン、ベルナドット、スィナン、ブッカ、クリークの順。


 会見は、岡部と畠山を中心に進められた。

来年予定されている岡部の海外遠征の話になると、スィナンが何かをオースティンに言った。

スィナンは困惑している通訳に、ちゃんと瑞穂語でも訳してやれと鋭い視線を向けた。


「彼らは日々お前たちに勝つ事を願い研鑽けんさんを続けてきた。それは賞賛に値する事だと私は考えているし、尊敬に値する事だとも思っている。恐らく来年、彼らはきっと、お前たちの目を覚まさせてくれる事だろう」


 そこまで言うと通訳は少し間を開けた。


「それに比べお前たちは何だ! 負ければ瑞穂が非礼を働いたと意味不明な苦情を言い、さらには禁止薬物を使っていると疑う。それがまともな競竜師の態度か!」


 記者たちは騒然となってしまった。

ベルナドットも、オースティンとクリークを冷たい目で見ている。

オースティンとクリークは視線を落とし唇を嚙んでいる。


「確かに、クリークが敗れた最終予選の後、私たちは、やはり禁止薬物で筋増強をしているらしいと言い合った」


 オースティンは少し俯き気味に言った。

通訳はそれをそのまま訳した。


「やむを得ないだろう! ドレークからそう聞いたのだから! クリークだってラムビーからそう聞いてきたと言っていた。ベルナドットはお坊ちゃんだから、人を疑うという事を知らんと言い合った」


 オースティンはそこで通訳が訳すまで待った。


「瑞穂の報道からそう説明されたとドレークは言っていたんだよ! 現地の記者がそう言うのだから、それは間違い無いと思うだろう。禁止薬物を使用して、それで自分たちに勝って、それを誇る。瑞穂競竜は最低だ。そうドレークは私に言ったのだ!」


 自分たちが垂れ流した中傷報道のせいで、瑞穂競竜の評判が貶められたとはっきりと口にされ、記者たちは苦い顔をした。


「だが、藤田厩舎の調教を見せてもらい、そうではないと今は確信している」


 オースティンの表情には笑みは無く、真剣そのものだった。


「できればブリタニスに来てもらいたい。ぜひ『護国卿ステークス』か、『ゴールドカップ』に出てもらいたい。そこでドレークたち、準三国を差別する者の目を覚ましてやって欲しい」


 するとそれを聞いたブッカが咳払いをした。


「残念だな、オースティン。彼はゴールの競争に出るそうだぞ」


 オースティンがベルナドットの顔を睨むように見ると、ベルナドットは首を小刻みに横に振り、聞いてないという態度をした。


「まずはうちに来て海外遠征を経験してもらう。岡部の一番は私の国だ。羨ましかろう!」


 そう言ってブッカはガハハと笑い出した。

「私が先に手を付けたのに上手い事やりやがって」とスィナンがブッカを責める。


「私は三番手で良い。必ずうちにも来て欲しい」


 オースティンは岡部の目をじっと見つめて直訴した。

すると、「三番手はパルサに決まってるじゃないか」とスィナンが笑った。


「何を言ってるんだ。パルサは二月まで国際競争そのものが無いじゃないか。それならまだゴールの『エンペルール賞』やうちの『ミリオンステークス』の方が現実味があるってものだろう」


 スィナンの発言をクリークが鼻で笑って真顔で指摘。

するとスィナンは岡部をギロリと睨んで指差した。


「岡部! お前がうちに来てくれないのなら、松井を先に呼ぶからな!」


「……『ジーベックステークス』より、うちの『ナーガステークス』の方が松井も来やすいんじゃないかなあ」


 ブッカの冷静な指摘にスィナンが歯噛みした。



 会見が終わると、オースティン、ベルナドット、クリークの三人が岡部の前に立った。

対抗するようにスィナンとブッカが岡部の横に立った。


「本当にうちに来るつもりなんですか?」


 ベルナドットが真顔でたずねた。


「本当ですよ。『デカンカップ』の後、『グランプリ』に挑戦する予定です」


 通訳が訳したのを聞き、オースティンとベルナドットが顔を見合わせた。


「私が言うのもなんだが、うちの国は君たち準三国を差別している者が大勢いる。きっと君は失望すると思う」


 ベルナドットの発言に「『竜王賞』の時とは、ずいぶん考えが変わったものだ」とスィナンが笑った。


「あの後で私は、あなたの言っていた『真実』の一端を目にしてしまったんだ。私は確かに物事の良い部分しか見ていなかったらしい」


 それを聞き岡部は小さくため息をついた。


「だとしても、僕は行かなければいけないんです。僕の背中を瑞穂の競竜師たちが押してくれているから。だから僕は逃げるわけにいかないんですよ」


「……ならば私たちもデカンに行く。そこでもう一度、戦って欲しい」


 そう言ってベルナドットは岡部に握手を求めた。

オースティンとクリークも岡部と握手を交わした。

当然私も行くと言ってスィナンが笑った。


「これはこれは。うちの若いのにさぞかし良い刺激になるであろうな」


 自国の国際競争の豪華そうな顔ぶれにブッカはご満悦であった。

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