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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
第七章 難渋 ~伊級調教師編~
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第60話 会談

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・大崎…義悦の筆頭秘書

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・大宝寺…三宅島興産相談役

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・三浦勝義…紅花会の調教師(呂級)

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(呂級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…伊級の自由騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・垣屋、花房、阿蘇、大村、赤井、成松…岡部厩舎の厩務員

・真柄、富田、山崎…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・西郷崇員…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・香坂郁昌…大須賀(吉)の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

 十二月に月が替わり、『八田記念』に出走する海外竜が発表になった。

『竜王賞』と同じく、パルサのスィナンは『モハレジュ』、デカンのブッカは『アーヤガルダ』。

ゴールのベルナドットの『エクレルール』も再度参戦を表明。

だが、ブリタニスのドレイク、スミス、ペヨーテのラムビーは不参加だった。

その代わり、ブリタニスのエドワード・パトリック・オースティンが『ヘイスティングス』で参戦。

さらに、ペヨーテからはクリークが『カフィ』で参戦すると発表された。



 瑞穂にやってきた各調教師はまず会見となった。

先にスィナンとブッカが会見を開いた。

二人は「『竜王賞』では岡部にやられたが、あれから一回り強くなっていて、どの程度やれるのかが楽しみだ」と嬉しそうに言った。

パルサもデカンも瑞穂同様に若手の台頭が著しく、「自分たちもいつまで代表面ができるのか冷や冷やしている」と茶目っ気たっぷりに言い合った。


 翌週、ベルナドットたちの会見となった。

オースティンは開口一番、「ベルナドットが瑞穂に凄い竜がいると言うから興味を持って見に来たんだ」と述べた。

クリークも同様で、「ベルナドットから話を聞いて来る気になった」と目を輝かせて言った。

だが、記者から、いつも来る三人はどうしたんだという質問が投げられると、その表情は雲った。


 瑞穂を悪く言いたくはないがと前置きした上で、瑞穂競竜界の非礼には我慢がならないとドレークが言っていたとオースティンは回答した。

ただスミスの方は、予選を抜けれるような竜ができたらまた行きたいと言っていたらしい。

初めて瑞穂に来るため、できれば話が聞きたかったのだが、あんな不愉快な国の事など知らんと言われ、ラムビーからはろくな情報が貰えなかったとクリークは回答した。




 岡部厩舎の二騎、『サケセイメン』と『サケダンキ』は順調に予選一を突破。

武田厩舎の二騎、『ハナビシシュウテイ』、『ハナビシヨウモン』も順調に突破。

藤田厩舎の『イナホユウバエ』も予選一は全く敵無しという状態だった。


 予選二からはスィナンとブッカが参戦。

 予選一は既定の頭数を満たさない事もあるが、予選二からはほぼ全ての競争が規定頭数になる。

仁級と同じで伊級も二着までが次の舞台に進める。

ただ海外の竜が入ると既定頭数を超える可能性が出てくる。

その場合、最初からその分の競争は行われない。

予選二ではあまりそういう事にはならないが、最終予選では毎回そういった事になる。

竜を東西どちらに登録するかは海外の調教師の自由なのだが、基本的には輸送の無い東国を選択する。

ただし、決勝には東西で四頭づつしか出走できないため、例えば『竜王賞』の時のスミスのように若手の調教師が西国に逃げる事が多い。


 スィナンとブッカは決勝前に岡部の竜と対峙したくないと東国を選択。

ベルナドットも同様の理由で東国。

オースティンとクリークは西国を選択した。



 予選二を突破した岡部を藤堂事務長が迎えに来た。

オースティンとクリークが岡部との対談を求めてきたという話であった。


 面倒そうな顔をする岡部の背を藤堂が押して、事務棟最上階の来賓室へと向かった。


 来賓室では、波かかった茶髪に長い鼻をしたオースティンと、赤黒い肌に黒髪のクリークがこちらを向いて座っていた。

その後ろにはブリタニス人と思われる、長身、金髪の女性通訳が立っている。


 オースティンとクリークは、岡部が入室すると椅子から立ち上がって出迎えた。

スィナンたちやベルナドットは入口まで出迎えに来たが、オースティンたちは椅子から立ち上がっただけ。

藤堂と岡部がオースティンたちの元へ行くと握手を求めてきた。

二人が何かを言い、それを通訳が訳した。


「ベルナドットからあなたの話を聞いた。今日は会えて嬉しい」


 二人ともそう言っていると、不機嫌そうな顔で通訳は言った。


 そこからオースティンとクリークは二人で何かを言い続け、二人で笑いあっていた。

その間、通訳は岡部に全く通訳をしなかった。


「藤堂さん。最終予選の準備が忙しいのでもう戻りますね」


 そう言って岡部は席を立ち、そのまま帰ろうとした。


 その岡部の態度に、オースティンは焦って岡部を引き留めた。

何かを言ってきたが、それも通訳は訳さず、岡部は首を傾げて退出しようとした。

クリークも焦った顔で通訳に何かを聞いている。

そこからしばらく通訳とクリークが口論になった。


 制止を振り切って岡部が退室しようとするので、オースティンは岡部の前に回って全力で引き留めた。

オースティンが通訳に何かを叫ぶと、通訳はぶっきらぼうに「待ってくれと言っている」と通訳した。


「僕と話す気が無いなら、僕を呼ぶ必要なんて無いでしょう」


 それを通訳が訳すと、オースティンは両手を広げた状態で何かを言った。

だが通訳が訳さないのに気が付き、オースティンも通訳に怒鳴った。

通訳は不貞腐れた顔で、「オースティンが非礼を詫びている」と伝えた。

恐らく通訳は、故意に『うちの通訳の』の部分を省いたのだろうと察した。


 かなり問題のある通訳だと感じた藤堂は、電話で事務員に連絡し、ブリタニス語のわかる者を探し出してもらった。

厩舎棟内に全体放送で募集されたらしく、すぐに一人の男性が来賓室にやってきた。

その人物は元武田厩舎の厩務員で、現在は秋山厩舎で厩務員をしている人物だった。

「駄賃を出すので通訳をお願いしたい」と藤堂が頼むと、男性は、「はずんでくれないと嫌ですよ」と指で輪を作って笑った。


 そこからやっと会談が始まった。

オースティンたちはまず、「通訳ごしの会話という事を忘れていた」と謝罪。

それに対し岡部は、「母国語で喋ればわからないだろうと、自分を嘲笑っているのかと思った」と発言。

本当にそれを訳しても良いのかと通訳が聞くので、そのまま訳してくれとお願いした。


 それを聞いた二人は苦笑いし、「我々はそんな愚か者では無いし、あなたに興味津々なのだ」と述べた。

だが岡部はそんな二人を鼻で笑った。


「競争に負けたからって、不貞腐れて会見を拒否するような『しょぼい国』の人たちに、私は興味を持てませんね」


 またも、本当に訳して良いのかと通訳が聞くので、良いからそのまま訳してくれとお願いした。

オースティンたちは顔を見合わせ、ため息をついた。


「今は色々あって気が立ってしまっているのだと思う。だから決勝後にもう一度会談に応じてもらえないだろうか」


 そう言ってクリークは握手を求めてきた。

岡部はクリークと握手をし、オースティンとも握手をし、それで短い会談は終了した。




 木曜日、竜柱が発表になった。

その内容に岡部は思わず生唾を飲み込んだ。

『サケダンキ』は土曜日、『サケセイメン』は日曜日と別れている。

ただし、土曜日には『ヘイスティングス』と『カフィ』が、日曜日には『ハナビシシュウテイ』と『ハナビシヨウモン』が同じ竜柱に記載されている。



 土曜日の最終予選が始まった。

『サケダンキ』は発走後あっさりと先頭に立ち、そのまま一周回った。

二周目、『ヘイスティングス』のアーロン・ルーク騎手は、何かがおかしいと気づいたらしく、『サケダンキ』の追走を開始。

だが『カフィ』のピオミンゴ騎手は、まだ残った五頭の先頭を飛んだままだった。

三角を回って、この差が顕著に出た。

『サケダンキ』はそのまま一着で終着。

二着は『ヘイスティングス』。

『カフィ』は最終予選で早々と姿を消す事になった。



 日曜日の最終予選が始まった。

『サケセイメン』と、ハナビシ二騎は、明らかに他五頭とは実力差があった。

ただ、三頭の中では『ハナビシヨウモン』が、まだ完成度が足らなかったようで付いて行くのに必死と言う感じ。

終始『サケセイメン』と『ハナビシシュウテイ』が順位を入れ替え、まるで決勝かのように激しく競い合った。

二周目の三角で『サケセイメン』が、かなり有利な位置を取った。

四角を回ったところで『ハナビシヨウモン』がついに付いて行けなくなってしまった。

一着の『サケセイメン』、二着の『ハナビシシュウテイ』が決勝に進出する事になったのだった。

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