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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
第七章 難渋 ~伊級調教師編~
423/491

第58話 処分

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・大崎…義悦の筆頭秘書

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・大宝寺…三宅島興産相談役

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・三浦勝義…紅花会の調教師(呂級)

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(呂級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…伊級の自由騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・垣屋、花房、阿蘇、大村、赤井、成松…岡部厩舎の厩務員

・真柄、富田、山崎…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・西郷崇員…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・香坂郁昌…大須賀(吉)の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

 ここまでの話を伊東が藤堂事務長に報告し、守衛室に向かい監視映像の確認を行う事となった。

朝のだいたいの時間を武田が言うと、そこまで巻き戻して全員で映像を視聴。


 少弐しょうに厩舎の厩務員が証言したように、監視映像に一人の記者が映っている。

その挙動は、取材というより何かを見張っているといったような、どこか胡散臭い態度。

一旦武田厩舎に近づき、何かを確認して中央通路に戻って来る。

そこで周囲をきょろきょろと伺い、何かを待っているように見える。

武田厩舎から竜が曳かれてくると、それを何度も確認して武田厩舎の方に向かって行った。

その後、少弐厩舎の厩務員が竜を曳いて中央通路にやってきた。

その記者が中央通路に再度戻ってきた時には、一冊の帳面が丸められて手に握られていた。


 念のため、守衛門の監視映像も確認したが、その記者の退場時、確かにその手には丸まった帳面が握られていたのだった。

「間違いない、土師はじ記者や」と少弐は言った。

武田も以前に飛燕の取材を受けた事があるらしく、間違いないと言った。

武田の帳面は、競報新聞の記者に盗まれ、外に持ち出された事が確定したのだった。



 藤堂はすぐに監視映像を印刷し、竜主会と執行会に報告を入れた。

厩舎棟で記者が窃盗行為を働いた、しかもそれが飛燕の研究帳という最悪の報告に、竜主会も執行会も緊急の会議となった。

執行会はすぐに織田調教師に連絡を入れた。

織田は十市と藤田を引きつれ、幕府へと向かった。

竜主会でも武田と岡部を加賀美が皇都へと呼び寄せた。



 連合警察は皇都都警に本部を作り、幕府の競報新聞本社と、西府の西国支部へ、事前連絡無しに同時に立ち入りを行った。


 西府の支部で土師記者はすぐに見つかった。

監視映像の印刷を見せられ、土師はすぐに犯行を認めた。

だが帳面はすぐに捨てたと供述。

念のため、支部の入り口の監視映像を確認したのだが、確かに土師の手には帳面は無かった。鞄等も持っておらず、処分したという供述に嘘は無さそうであった。


 動機についてたずねると、「飛燕の取材の一環だ、我々には知る権利がある」と居直った。

その場で土師は公正競争違反の疑いで逮捕された。


 土師が取り調べを受けている間、岡部は出勤表の白板をじっと見ていた。

それを見た加賀美が「何か気になる事でもあるのか」とたずねた。


 出勤表の土師のところに『子』と書かれている。

その三つ隣の弓削(ゆげ)という人物のところに『十』と書かれている。


「これ何の記号だと思います?」


「何でしょうね。直接聞いてみましょう」


 加賀美が記者の一人を呼び出すと、「誰がこんな落書きしたんでしょうね」と言って消そうとした。

すると加賀美はその手を掴んで警察を呼んだ。


 わからないと悩むのではなく、消そうとするという事は、見られては問題があるものだったという事になる。

その記者の行為で、これが個人の犯行ではなく、競報新聞による組織的な犯行だという確信を加賀美は持った。


「この弓削という記者は、今どこにいるのか?」と聞いたが、「外に出た記者の行方は誰もわからない」と、シラを切られた。

連絡を取れと警察が命じたのだが拒絶されてしまった。

結局その日、弓削記者は西府の支部へ戻っては来なかった。


 夕方、織田から加賀美に連絡が入った。

残念ながら幕府の本社からは何も見つからなかったらしい。


「ですが、土師が窃盗し、弓削がどこかに運んだという事で間違いないと思うんです。輸送先は恐らくは幕府の本社かと」


 その岡部の推測に武田と加賀美もうなずいた。


 西府の支部で弓削の写真を提出させ、そこからは警察に捜査を委ねる事にした。

容疑は窃盗と産業間諜、公正競争違反。



 竜主会は今回の件をかなり問題視した。

何かと機密事項の多い飛燕の件という事もあるのだが、厩舎に忍び込んで窃盗を働いた事を土師は『取材』と主張した。

これを許せば、以前のようにもはや何でもありになってしまい、ゆくゆくはまた人死にが出る事になってしまう。

しかも、競報新聞が会社ぐるみでそれを主導した疑惑がもたれている。

さらに帳面の行方は結局わかっていない。


 竜主会は緊急の竜主会議を開いた。

会議がまだ始まってもいないうちから、雷鳴会の武田信勝会長が激怒。


「うちの会派の厩舎から盗むように指示したんは、どこのどいつや!」


 興奮して真っ赤な顔で机を叩いた。

「盗んだのは競報の記者だが、背後関係はまだわからない」と加賀美が言うと、「判明したらただじゃおかん」といきり立った。


 激怒しているのは武田信勝会長だけではない。

義悦も激怒しているし、長尾会長も激怒している。

ただ伊級に調教師のいない会派とは少し温度差があった。


「報道の体質が、あの一件から何も変わっとらん事が露呈したんだがや。なんでそう他人事みたいな態度がとれるんだ」


 そう織田会長が言うと、やっと事の重大さに気が付いたようだった。


「今回の件を許せば、奴らはまた競竜場でやりたい放題するようになるだろう。次はあなた方の調教師が犠牲になるかもしれないんだぞ」


 そう武田善信会長が言うと会長たちは騒然となった。


 今回の件は絶対に許してはならない。

会長たちの意見は一致した。

問題はどこまでやるかである。

出禁が懲罰としてほとんど効果が無い事は、これまでの経験でわかっている。

彼らは系列の新聞社の記者として、入場申請しなおしてくるだけなのである。


 まずは営業妨害で訴訟が妥当という事で話はまとまった。

それと各競竜場は、正式に調教場の観察台横に報道用の観察台を用意し、そこ以外立ち入り禁止とする事になった。

これまで競竜場ごとに報道対応はまちまちだったが、正式に記者会見以外許可しないという事になった。

個人的な取材がしたいのであれば、個別に調教師に許可を取って事務棟の会議室で行ってもらう。

中央通路に線を引き、記者が入って良い区域を定め、そこから出た記者は不法侵入で警察に通報する。

厩舎には記者は一歩も近づけないという事で決まった。



 翌日、報道協会へ竜主会議で決定した内容が通達される事になった。

当然、報道協会は強く反発した。


「競報が失態を犯したのなら、競報だけを罰すれば良いではないか! 何故、連帯責任を課されなければならないのだ!」


 報道協会の会長である政経日報の社長は、冗談では無いと顔を真っ赤にした。

だがそんな会長に加賀美は極めて冷徹な視線を送った。


「あなたたち報道が、普段他の業界に対して求めている事を、我らもあなたたちに求めているだけの事ですよ」


 そう啖呵を切った。

加賀美の迫力に報道協会の会長は気圧されてしまった。

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