表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
第七章 難渋 ~伊級調教師編~
414/491

第49話 鎌倉

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・大崎…義悦の筆頭秘書

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・大宝寺…三宅島興産相談役

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・三浦勝義…紅花会の調教師(呂級)

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(呂級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…伊級の自由騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・垣屋、花房、阿蘇、大村、赤井、成松…岡部厩舎の厩務員

・真柄、富田、山崎…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・西郷崇員…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・香坂郁昌…大須賀(吉)の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

 七月、本命だった『サケオンタン』の突然の引退に、岡部は急に暇になった。

『ジョウラン』『エンラ』『スイコ』の調教は極めて順調。

新竜の受け入れは来月と、半月ほどぽっかりと体が空いてしまった。

奇しくも奈菜も幼稚園が夏休み。


 奈菜は岡部を見ると水浴びに行きたいと袖を引いてくる。

暑い中水浴びにいけるほど、梨奈は体力があるわけではない。

代わりに直美が水浴びに連れて行っているのだが、直美からしたらただ暑いだけなので行きたがらない。

そこで岡部にせがんでいる。


 ただ、周囲からは岡部はかなり目立つ存在らしく、親御さんたちの視線を集める事になってしまう。

中には露骨に握手を求めてくる人や、署名を求めてくる人、写真を一緒にと撮っていく人までいる。

そうなると大騒ぎになる前に帰らないといけなくなってしまうのだった。


 一方、梨奈は梨奈で、どこかに遊びに行きたいと何度もおねだりしている。

こういう時の攻略法を、梨奈もすっかり学んだようで、まずあげはにおねだりする。

あげはは梨奈のおねだりに非常に弱い。

「旅行、良いわね」と最上に聞こえるように言う。

 さらに奈菜は奈菜で、最上の膝に乗って「りょこう、いけるん?」と最上にたずねる。

すると最上は顔をデレっとさせて冷酒の器を机に置き、「どんなところに行きたいんだね?」と言い出す。

 もはや抵抗するだけ無駄だと岡部は観念した。


 結局、かねてから話題に出ていた江の島に行く事になった。

さらに義悦がまなみと一緒に合流する事になった。




 義悦と合流するため、まずは東海道高速鉄道で小田原へと向かった。


 車内では奈菜が靴を脱いで窓の外を見続けている。

その正面に岡部が座り、隣は最上と直美で、通路を挟んで、あげはと梨奈が座っている。

あげはの膝の上に幸綱が座って、指をしゃぶって寝ている。


「江の島って何が美味しいんですか?」


「有名なのは練り物だが、この時期はやはり生シラスだろうな」


「おお、生シラス! 良いですね!」


 新鮮なシラスを想像し、思わず頬が緩む。


「丼に生シラスを乗せてだな、そこに生姜と葱を乗せて、醤油を垂らすんだよ」


「ああ、米酒が合いそうですね」


 岡部が笑顔で目を細めると、「父さんがまたお酒の話してる」と奈菜が煽ってきた。


「奈菜だって蒲鉾の話ばっかりじゃないか」


「だって、かまぼこおいしいんやもん!」


 そう言って奈菜が口を尖らせた。


 がははと豪快に笑って、「美味しい蒲鉾食べような」と最上が奈菜の頭を撫でると、奈菜は「うん」と元気に頷いた。

その後で最上は梨奈の方をちらりと見て、直美に「よほど梨奈ちゃんはお酒の事を言うのだな」と笑った。

直美も梨奈をちらりと見て、「本当に誰に似たんだか」と呆れた顔をした。



 小田原駅に着くと、一行は大宿で義悦たちの到着を待った。

その間、奈菜はあげはから貰った芋けんぴをポリポリ食べており、幸綱も卵菓子を食べて待っていた。


「皆さん、お待たせしてしまいました」


 義悦がまなみの手を引きながらやってきた。


 夏休みのまなみをどこかに連れて行ってやって欲しいと、現在妊娠中のすみれから義悦はずっと言われていたらしい。

ただ二人だけとなると、まなみの世話を一人で見続けなければならない。

義悦が渋り続けていたところにこの話だったのだとか。



 大宿で観光用の小型輸送車を運行してもらい、初日は鎌倉へと向かった。

輸送車内でまなみと奈菜は隣同士に座った。

岡部の隣には義悦が座り、岡部の膝には幸綱が座っている。

義悦は幸綱の頬を突きながら、次は男の子らしいんですと嬉しそうに話した。



 東海道の鎌倉駅前で車を降りた。

参道を皆でぞろぞろ歩いていると、目の前に鶴岡八幡宮の大きな鳥居が現れる。

弁財天社を右手に見ながら、橋を越え、綺麗に舗装された参道を行くと手水舎にたどりつく。


「神社はやはりこうじゃなきゃいけません。どこも老人に優しくないんですよ」


 そんな事を言いながらあげは満足そうな顔で歩いていた。

ところがその参道の先に突然かなり威圧異的な広い石段が現れ、そんなあげはの顔を引きつらせた。

一段一段はかなり低いのだが、背の低い奈菜たちにとってはかなりしんどい代物である。

岡部が幸綱を抱き、義悦がまなみを、最上が奈菜の手を引いて、ゆっくり階段を上って行く。


 階段を上り終えると目の前に朱塗りの本宮が現れた。

礼拝を終えた一行は、来た道を帰り、参道脇の店に入って昼食をとる事になった。


 明日生シラスを食べる予定だから、釜揚げを先に食べておこうと最上が言い出し、海鮮の店に入る事になった。


「ここにも生シラスもありますね」


「そうなんだがな。生シラスというものは非常に足が早くてな。捕れた先から鮮度が落ちていくんだよ。だから、なるべく漁港に近いところで食べた方が旨いんだ」


 岡部と義悦は、最上の説明になるほどと納得し釜揚げシラスとかき揚の定食を注文。

奈菜とまなみは一人前を仲良く半分に別け、幸綱はあげはと梨奈の食事を別けてもらった。

奈菜が勝手に蒲鉾を注文すると、まなみも勝手に出汁巻卵を注文。

最上が米酒を注文すると、岡部、義悦、あげは、直美も米酒を呑んだ。


「やはり鎌倉は良いな。皇都もそうだが、古都独特の雅な雰囲気がある」


 米酒を呑みながら外の風景を見て、最上はしみじみと言った。


「でも、どうして幕府に中心が移っちゃったんでしょうね。皇都は皇都のままなのに」


「私もそこまで詳しいわけでは無いのだが、そういうのに詳しい竹崎会長の話によると、元々、ここは防御拠点だったそうなんだよ」


 色々と説はあるそうだが、鎌倉の鎌は鎌槍を差し、武器庫の意味となり、駐屯地という意味になるという説があるらしい。


「つまり、中心都市として純粋に狭かったと」


「まあ、そういう事になるんだろうな。それと、確かに周囲は台地に囲まれ、細い切通ししか入口が無いのだが、普通に海路で上陸できてしまうからな」


「それじゃあ肝心の防御もザルじゃないですか」


 小気味良い岡部の指摘に最上が声を出して笑った


「竜と船の技術がそれだけ上がったんだろう。その結果、丘で防ぐより、川で防ぐというように戦術が変わって行ったんだろうな」


「技術革新の結果ですか。なるほどね」



 昼食後、一旦輸送車に戻り長谷寺へと向かった。

幸綱は車を降りると急にぐずりだし、岡部が抱っこしていると完全にお昼寝になってしまった。

そこで輸送車の中で寝ていてもらう事にした。


 山門を過ぎ、右手に一面の地蔵像を見ながら本堂へと向かう。


「とうさん、こっちきて。かわいいおじぞうさんがいてはるんよ」


 奈菜とまなみが、岡部と義悦の手を引いて、一体の地蔵像に引っ張って行った。

その像は三体の地蔵が寄り添っており、顔もにっこりとしており、なんだか心が和んだ。

あげはが手を合わせると、梨奈も手を合わせた。

それを見て奈菜たちも岡部たちも真似をする。

帰りにお地蔵さんの陶器の人形があり、最上が奈菜とまなみに買ってあげていた。



 一行は輸送車で高徳院へと向かった。

西国の東大寺、東国の高徳院と言われるほど有名な大仏のある寺である。

 同じ大仏なのだが、東西で全然違う代物である。

西国は盧舎那(るしゃな)仏、いわゆる大日如来で、東国は阿弥陀如来である。

そして一番違うのは、東国の大仏は中に入れる。


 実はまなみも、奈菜も、この時点でかなり眠くなっていた。

本来ならお昼寝の時間であった。

だが、大仏のあまりの大きさに眠気が吹き飛んだ。

さらに中に入れると知ると大興奮だった。


 ただ、ここが限界点だったらしい。

輸送車に戻ると二人はお互いの父の隣の席に座りぐっすり眠ってしまった。

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ