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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
第七章 難渋 ~伊級調教師編~

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第42話 竜王賞

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(伊級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・岡部菜奈…岡部家長女

・岡部幸綱…岡部家長男

・戸川直美…梨奈の母

・戸川為安…梨奈の父(故人)

・最上義景…紅花会の相談役、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の会長、義景の孫

・大崎…義悦の筆頭秘書

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・大宝寺…三宅島興産相談役

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師(呂級)。夫は中里実隆

・三浦勝義…紅花会の調教師(呂級)

・杉尚重…紅花会の調教師(伊級)

・松井宗一…樹氷会の調教師(呂級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(伊級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・畠山義則…伊級の自由騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・能島貞吉…岡部厩舎の主任厩務員

・新発田竜綱…岡部厩舎の調教助手

・垣屋、花房、阿蘇、大村、赤井、成松…岡部厩舎の厩務員

・真柄、富田、山崎…岡部厩舎の用心棒兼厩務員

・西郷崇員…岡部厩舎の厩務員

・坂井政則…紅花会の厩務員

・小平一香…岡部厩舎の女性厩務員、父は小平生産顧問

・長野業銑…岡部厩舎の調教師補佐

・関口氏勉、高橋圭種、遊佐孝光…岡部厩舎の厩務員

・香坂郁昌…大須賀(吉)の契約騎手

・栗林頼博…清流会の調教師(伊級)

・松下雅綱…栗林厩舎の契約騎手

 『竜王賞』の前日、西国で『藤波賞』、東国で『さざ波賞』の決勝が行われた。

岡部厩舎からは『サケセンカイ』が『藤波賞』に挑戦している。


 昨年で『驀進ばくしん王』とうたわれた短距離王者、十市の『クレナイカンサイ』が引退。

『サケオンタン』が『海王賞』直行とあって、秋山の『タケノノシマ』に人気が集中している。


 今回、服部も畠山も常府で『竜王賞』に騎乗予定となっており、『サケセンカイ』は最初から原に騎乗をお願いしている。

原は『センカイ』をものにし始めており、余裕で決勝まで勝ち進んだ。


 岡部は『竜王賞』の決勝で常府に来ており、決勝の結果は織田たちと一緒に中継映像を見守る事となった。


 『サケセンカイ』は三番手で発走。

一角で内を突くと、向正面で持ち前の加速力で一気に先頭に並びかけた。

一周目を二番手で通過すると、一角で再度最内を突き急加速。

向正面で先頭に躍り出た。


 二角を勢いのまま旋回しようとした時だった。その内を綺麗に差し込んできた竜がいた。

『タケノノシマ』にやられたと原は感じていた。

だが『タケノノシマ』が『センカイ』の外にいる。

では誰が?

『センカイ』を差したのは松井の『ミズホビンナガ』であった。

内を突いた『ミズホビンナガ』は、二騎の追随を寄せ付けず一着で終着。



「がはは。秋山、怒ってるなあ」


 食堂で一緒に中継を観ていた織田が大笑い。

隣で山崎も苦笑いしている。



 その後、『さざ波賞』の決勝となった。

今回、史上初、女性騎手が『藤波賞』の決勝に残ったという事でかなり話題になっている。

犬童騎手が騎乗する櫛橋厩舎の『サケギマンシ』である。


「一肌脱いで私の色気でメロメロになってくれるんなら脱ぐんですけどね」


 などと犬童は冗談を飛ばして記者の笑いを誘っていたらしい。


 『さざ波賞』は宇喜多の『ロクモンソクシャ』が一番人気となっている。

『サケギマンシ』は少し発走が遅れ五番手での発走。

だが犬童は度胸と技術で勝負する質の騎手で、去年一年で色々な技術を習得してきた。

その一つが抑え込みだった。

早くも一角から『ロクモンソクシャ』を抑え込みにかかった。

先頭で向正面を進んだ『サケギマンシ』だが、残念ながら潜水が弱いらしく、正面直線の潜水勝負で三番手に落ちた。

二周目一角、今度は『ロクモンソクシャ』を内から抜きに入った。

これも上手くいった。

だがやはり、潜水はどうにも分が悪いらしく正面直線で三番手に落ちた。

二角では『サケギマンシ』も『ロクモンソクシャ』も外に膨らみながら回った。

三周目の一角、犬童は再度『ロクモンソクシャ』を抑え込みにかかった。

これが見事に決まり、向正面でかなり『サケギマンシ』は差を付けた。

だが、やはり潜航が弱い。

またしても正面直線で三番手に落ちた。

最終周、一角は勢いのまま大回りし、二角で再度内を突こうとしたのだが、『ロクモンソクシャ』の羽柴騎手に内から体当たりを受けた。

その時に少しだけ開いた最内に、松本の『ジョウリンケイ』が切り込んできた。

結局、『ジョウリンケイ』がそのまま一着で終着。


 『海王賞』の前哨戦をどちらも呂級調教師に制されるという結果を見た織田は、伊級の面子が丸潰れだと嘆いた。


「さっさとお前に太宰府に戻ってもらわないとな」


 岡部を見てため息交じりに言った。




 午後の三時半が近づいてきた。

競竜場には六つの旗が掲げられている。

中央に『水地に金の抱き稲紋』瑞穂の国旗が掲揚されている。

その左右には『青と赤の縞地に白獅子』ブリタニスの国旗、『赤地に紺十字、白の翼竜』ゴールの国旗を掲揚。

その外に『赤地に二三枚の鳥の羽根』ペヨーテの国旗、『水と黄地にダウ船』パルサの国旗。

パルサの国旗の隣に『白と緑地に三頭の象』デカンの国旗が掲揚されている。


 下見所では、赤井が『セイメン』を、花房が『ダンキ』の引き綱を持っている。

各竜の周りには、調教師や竜主、その他関係者が集まって談笑をしている。

最上が奈菜の手を引いて『セイメン』を見に来ている。

さらに『ダンキ』には、義悦がまなみの手を引いて見に来ている。


 義悦の話によると、妻のすみれは現在妊娠中らしく、酒田で観戦なのだとか。

自分の会派の竜が外国の竜を負かす歴史的な瞬間を目の前で見たいと、駄々をこねまくっていたそうだが、義悦は頑として首を縦に振らなかった。

出かける時かなり機嫌が悪かったそうで、ご機嫌取りが大変そうと冷や汗をかいている。


 竜主席には、あげは、直美、梨奈、幸綱が来ているらしい。

最上の話だと、あげはは『セイメン』『ダンキ』を二頭軸にした三着流しの三連単竜券をしこたま買い込んでいるらしい。

直美と梨奈も『セイメン』と『ダンキ』の連勝竜券を買ったのだとか。


「……それ、負けたら、めちゃくちゃ文句言われるやつじゃないですか」


「まあ、夕飯のおかずがしばらく一品減るくらいの事はあるだろうな」


 岡部と最上の会話に義悦が大笑いしている。


 係員の合図で、騎手が各竜に近づいて来る。

「岡部家と最上家の夕飯のおかずのために勝ってやってくれ」と赤井が言うと、服部は首を傾げた。


 奈菜に手を振ってから服部は『セイメン』に乗り込んだ。

緩衝布の上に敷かれた番号布には瑞穂の国旗が刺繍されている。


 係員の合図で一頭づつ発走機へと飛び立って行く。


 『セイメン』も『ダンキ』も、いつものように発走機前の止まり木に止まっている。

発走者が小旗を振ると発走曲が奏でられた。

その瞬間、常府競竜場が大歓声に包まれたのだった。



――

本日の主競争、国際競争『竜王賞』決勝です。

天候は晴れ、風状態は『強』。

国際競争になり、ここまで瑞穂の勝利はありません。

ですが、今年は一番人気、二番人気が共に瑞穂の竜となっています。

はたして今年ついに最初の勝利者が誕生するのかどうか。


今、発走者の旗が振られ、発走灯点灯。

発走しました!

まずは各竜、ぐんぐん押していきます。

先頭はサケダンキ、サケダンキ、各竜を率います。

二番手サケセイメンは控えました。

各竜、滑翔に入りました。

先頭サケダンキ、その横サケセイメン。

少し離れて、エクレルール、パウワウ、ディヴィデンド。

そこからさらに離れて、モハレジュ、アーヤガルダ、クレナイコウラ。

発走は全頭正常。

各竜一角を過ぎ滑空に入ります。

ここでディヴィデンドが四番手に浮上。

二角を過ぎ飛行。

最後尾クレナイコウラ、少し遅れ気味。

各竜、向正面、滑翔に入り、隊形は二、三、二、一。

三角を回って滑空。

各竜、順位に変動なく四角に入りました。

四角回って各竜飛行。

ここでサケセイメンが先頭に並びかける!

市松の大旗が掲げられ最終周に入りました。

一周目の翔破時計は、かなり早め。

各竜、滑翔に入っています。

三番手以下、前二頭に迫っていきます。

隊形、四、三、一。

一角を回って滑空に入ります。

サケダンキ、サケセイメン、ここで再度エクレルール以下を引き離す。

二角を回って飛行。

最後尾クレナイコウラ、また少し差が開いたか。

向正面、滑翔に入り、三番手以下、またも前二頭に迫ります。

再度隊形、四、三、一。

三角を回って各竜滑空。

ここからが勝負所!

サケセイメン、サケダンキに並びかける!

後ろぴたりとエクレルール!

四角を回って最後の追い比べ!

外サケセイメン!

サケダンキ、内で競りかける!

エクレルールは一杯か!

もはや後続は追って来ない。

内サケダンキか!

外サケセイメンか!

前二頭、壮絶な叩き合い!

サケセイメンが抜けた!

サケセイメン終着!

市松の大旗が左右に振られました!

ついに! ついに! 国際競争を瑞穂の竜が制しました!

瑞穂の歴史が今日ついに動きました!!

――



 服部が『サケセイメン』とゆっくりと競技場を一周している。

正面直線に戻ると服部は拳を天に突き上げた。

その拳には人指し指が立てられている。

観客からの歓声がすさまじく、『サケセイメン』が少し怯んでいる。


 終着した瞬間、紅花会の面々は飛び上がって喜んだ。

岡部も思わず両拳を握りしめた。

紅葉会の面々も興奮しながら最上たちに駆け寄り、おめでとうと握手を求めてきた。

どうも自分たちの竜が勝ったらしいと察して、まなみと奈菜が大喜びでそれぞれの父に抱き着いた。

奈菜を抱っこした岡部に、スィナンとブッカが笑顔で近寄り、オメデトウと言って握手を求めてきた。

二人の後、ベルナドットも近寄ってきて、オメデトウと言って握手を求めてきた。


「今日は完敗だ。次は君がこっちに来る番だ。その時は絶対に負けない」


 ベルナドットの通訳がそう岡部に伝えた。


「ぜひまた再戦しましょう! その日を楽しみにしています!」


 通訳が訳し終わるとベルナドットは頷き、にこりと笑ってからエブレ騎手の元へ向かった。

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