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【完結】競竜師  作者: 敷知遠江守
第四章 家族 ~八級調教師編~

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第27話 吉日

登場人物

・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師(八級)

・岡部梨奈…岡部の妻、戸川家長女

・戸川為安…紅花会の調教師(呂級)

・戸川直美…戸川の妻

・最上義景…紅花会の会長、通称「禿鷲」

・最上あげは…義景の妻。紅花会の大女将

・最上義悦…紅花会の竜主、義景の孫、三宅島興産社長

・大崎…三宅島興産総務部長、義悦の腹心

・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長

・加賀美…武田善信の筆頭秘書

・織田繁信…紅葉会の会長、執行会会長

・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女。夫は光正、娘は京香、息子は光定

・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか、長女は百合、次女はあやめ

・中野義知…最上牧場(南国)の場長、妻は最上家三女のみつば、長男は義和

・櫛橋美鈴…紅花会の調教師候補。夫は中里実隆

・三浦勝義…紅花会の調教師(呂級)

・松井宗一…紅花会の調教師(仁級)

・武田信英…雷鳴会の調教師(八級)

・服部正男…岡部厩舎の専属騎手

・臼杵鑑彦…松井厩舎の専属騎手

・荒木…岡部厩舎の主任厩務員

・国司元洋…岡部厩舎の調教助手

・阿蘇、五島、千々石、大村、内田、成松…岡部厩舎の厩務員

・宗像真波…岡部厩舎の女性厩務員

・斯波詮人…紅花会の調教師見習い

・杉尚重…紅花会の調教師(八級)

・津軽信明…紅花会の調教師(八級)

 九月の能力戦で『サケツバキ』が能力戦三を勝利した。

内田と斯波が研修として調教計画をたてている『ヒエイ』と『ツルガ』も、仲良く能力戦二を勝利している。

『菊花杯』の勝利で岡部厩舎は昇級初年度ながら総合順位を五位に上げてきた。




「先生。叔父の言う事聞いて先生のとこに研修に来て良かったですよ。自分の見てる竜が勝つってのは最高の気分ですね!」


 斯波が嬉しそうに岡部に言ってきた。

斯波は人が近くにいた方が勉強がはかどると言い、九月の後半は、全て会議室で試験勉強をして過ごしている。


「斯波さん、試験勉強の方はどうですか? もうすぐ試験ですけど」


「学校で頑張ってる親戚に恥ずかしい思いさせないように頑張ってますよ」


 斯波が調教師候補の受験に合格したら一緒に研修を行う事になっている騎手候補は、斯波の遠縁らしい。

名前は斯波善詮(よしあき)

斯波詮人の祖父は、紅花会の元勲ともいえる伝説の調教師、斯波詮二の長男の詮政。

詮政の弟国詮の孫が善詮である。

遠縁ではあるが同じ競竜を生業とする一家なので、詮人と善詮は家族同然の付き合いをしているのだそうだ。


「それは、落ちたらずっと言われそうですね」


「ほんとですよ! 試験は難しそうですけど何とか今年で受かって、来年はここでの研修に集中したいですね」




 八級の十月の重賞は中距離の『黄玉(おうぎょく)賞』である。

岡部厩舎からは七歳の『リンネ』と最年長の『リョウブ』が挑戦となった。

残念ながら『リョウブ』は予選で惜しくも敗退。

『リンネ』は一着で最終予選に駒を進めた。




 『黄玉賞』の予選の裏では、義悦の結婚式で大忙しだった。


 まず初週に酒田に行っている。

元々、最上の一族はもっと山奥の山形を拠点としていた。

だが瑞穂海の廻船が盛んになると酒田が莫大な富を生むこととなり、拠点を移してしまっている。

その際、八幡神社も分社されており、歴代最上家の男児はこの八幡神社で結婚式を行っている。

最上の親戚一同も参加したので参加者はかなりの人数になった。

北国や南国からも親族が集まった。

岡部も戸籍上とはいえ最上家の者である為、末席に参列することになった。


 梨奈は既にお腹が目立つようになってきている。

その為、長距離移動や親戚付き合いで倒れたりしたら、母子共に危険になりかねないということで留守番であった。

梨奈は岡部がどこかに行くと言えば、どこにでも付いてきたがる。

今回も付いて行くと駄々をこねたが、さすがに許可されなかった。

岡部が不在の間は皇都で両親と過ごしてもらう事にした。

あげはは最後まで名残惜しそうにしており、すぐに帰ってくるから待っていてねと梨奈をあやした。



 その数日後には小田原に向かった。

今度は披露宴の出席である。

参加者の交通を考えて小田原の紅花会の大宿で行われた。


 岡部は最上一家の席に座っており、いろは、あすか、みつばの三姉妹の良い玩具にされていた。

最初こそ最上も綱一郎くんを困らせるんじゃないと窘めていたが、酒が入ると止められなくなり諦めてしまった。

さすがに哀れに思ったらしく、京香や百合が志村や氏家に助けてあげたらと言ったのだが、二人とも無茶を言うなと笑うだけだった。

遠くから義悦がそれを見つけ、すみれと指を差して笑っていた。



 披露宴の翌日は小田原の大宿で訪問攻めだった。


 まずは三宅島興産の取締役たちから談笑をしながら現状の報告を受けた。

今年一杯で義悦は社長を降り、本社に勤務する事になったらしい。

大崎は秘書ということで、同じく経営を退き本社に行く事に決まったそうだ。

会社の方は、大山の前に大宝寺が社長を務めることになるらしい。

開発事業の交渉には、まだまだ大宝寺のような年配の者の存在が大きいのだとか。


 会社の人事の話の後、岡部たちが三宅島に行った際にちょっと青写真を話していた自走式生簀ともいえる小型輸送船の話で盛り上がった。

大山から写真を見せられ、これを先行で販売しようと思うと相談された。

来年早々に競技新聞を呼んで開かれる発表会で、三種の船をまとめて発表した方が関係者の衝撃度が大きいのではと助言すると一同はかなり熱が入った。

そういう報道の使い方を考えられるのはさすがだと、大宝寺は岡部をパンパン叩いて喜んだ。



 午後になると今度は志村一家の訪問を受けた。

いろはと京香から、来年の夏に二頭の新竜を入れるから、今の十頭から二頭を減らす準備をちゃんとして欲しいと頼まれた。

返答に困っていると、引退では無く他の調教師に回すと思って選んで欲しいと言われた。


 光定とは今回初めて会った。

光定は姉とは正反対で物静かな人物で電脳関係に興味があるらしいと父の志村が紹介した。

光定は少し相談したい事があるので、今度防府に伺わせて欲しいと懇願してきた。



 夕方には氏家一家の訪問を受けた。

氏家の相談は現在の管理竜の話で『サケキラメキ』の種牡竜入りの話だった。

特殊な急ぐ理由が無いのであれば、来年もう少し活躍させる予定なので、夏まで待つようにお願いした。

『テンキュウ』が良いものを持っており、かなりの活躍が期待できるので種牡竜入りを検討してはどうかと指摘すると氏家は大喜びした。



 そんなこんなで、あげはと皇都へ戻る時には岡部はぐったりしていた。

みんな普段会えないからってここぞとばかりにと、あげははくすくす笑った。


「そう言えば、あやめちゃんは、どうだったんですか?」


「久々に会ったけど悪くないわね。学校出たら酒田で女将修行するってことになりましたよ」


 まずは女将である義悦の母の奈江にみっちりと仕込んでもらい、その後どこかの大宿で実際に研修として働き、最後にあげはから直々の指導を受けるという順番なのだとか。


「これまで何度か会った感じで、所作の丁寧な娘だから女将は向いてるかもしれませんね」


「そうね。雑な行動の少ない娘ではあるわね。でも問題はどれだけ物事を観察できるかよ。所作なんて気にするお客さん意外と少ないんだから」


「そればっかりは、やってみないとですね」


 既に紅花会の宿は全国各地に建てられており、今後増えるという事はあまりないであろう。

なのでこれからは既存の宿の改善が主な仕事になっていく。

それだけに、観察眼と発想力が最も重要になっていくのである。


「しっかり観察して、直感を素直に表現できて、どう対処すれば良いか考えられる。そういうのは天賦の感性の部分が大きいですからね」


「競竜師と求められる能力は同じなんですね」


「そうね。本当にあなたは完璧だったのですけどあの娘はどうなんでしょうね。もちろん良い若女将になって欲しいと希望はするけど。見栄えも良い娘だしね」




 残念ながら『リンネ』は最終予選で四着に敗退してしまった。


 翌週、秋山と武田は岡部厩舎に顔を出し、今回は残念だったなと嬉しそうに話し始めた。


「さすがに岡部でも、今回隠し玉は出せへんかったようやな」


「ですから、僕は何も隠してなんていませんよ」


 岡部はそう言うのだが、信用しちゃダメだと秋山と武田は笑いあっている。


「ところで、この杉厩舎の『サケイヌクギ』ってどないなん?」


「『熱波賞』は三着でしたけど、あれから調教方針修正したって言ってましたね」


 武田は秋山に、杉さんは最後まで僕と昇格争った人だから要注意だと指摘した。


「そないな逸材が紅花会さんにおったとはね。今までどうやって潜伏してたんやら」


「例の久留米の件で、まともな厩舎運営させてもらえなかったんですよ」


 『例の久留米の件』

これまでに新聞報道などでそれなりに情報が開示されており、秋山もある程度把握はしている。

その被害者だと言われれば、これまで名前を聞かなかった事も納得であった。


「ああ、そういうことなんや……それで今、本来の能力が開花しとるんか。それはだいぶヤバイな……」


「侮ると怖いですよ」


 あの先生は岡部くんとは違う感じの実力者だと、武田も秋山を焚き付ける。


「俺、同期があんなんで、さっと八級に上がって、八級も二年目であっさり首位やろ。そやから今、君らとやれてほんま楽しいわ!」


「呂級行ったらそんな人ばっかですよ、きっと」


「今から楽しみやな。そやけど、その前にまずは首位のまま昇級せんと」



 『黄玉賞』を勝ったのは杉の『サケイヌクギ』だった。

二着は武田の『ハナビシコウゴウ』。

秋山の『タケノアラカン』は三着に終わった。

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