第53話 山科
登場人物
・岡部綱一郎…元競馬騎手、紅花会の調教師候補
・戸川為安…紅花会の調教師(呂級)
・戸川直美…専業主婦
・戸川梨奈…戸川家長女
・最上義景…紅花会の会長、通称「禿鷲」
・最上義悦…紅花会の竜主、義景の孫
・武田善信…雷雲会会長、竜主会会長
・氏家直之…最上牧場(北国)の場長、妻は、最上家次女のあすか
・志村いろは…最上競竜会の社長、最上家長女
・中野みつば…最上牧場(南国)の場長、最上家三女
・長井光利…戸川厩舎の調教助手
・池田…戸川厩舎の主任厩務員
・櫛橋美鈴…戸川厩舎の女性厩務員
・坂崎、垣屋、並河、牧、花房、庄…戸川厩舎の厩務員
・荒木…戸川厩舎の厩務員
・松下雅綱…戸川厩舎が騎乗契約している山桜会の騎手
・日野…研修担当
・三浦勝義…紅花会の調教師(呂級)
・吉田…日競新聞の記者、通称「髭もぐら」
・松井宗一…樹氷会の調教師候補
・武田信英…雷鳴会の調教師候補
・大須賀忠吉…白詰会の調教師候補
・松本康輔…黄菊会の調教師候補
・服部正男…日章会の騎手候補
・臼杵鑑彦…無所属の騎手候補
・板垣信太郎…雷鳴会の騎手候補
・田北鑑信…黄菊会の騎手候補
・村井貞治…白詰会の騎手候補
十一月に入ってからというもの、卒業が近づいていることもあり学校側も準備に向けて何かと慌ただしくなってきている。
最後の実習競走は騎手候補だけでなく報道も入る事になっていて、競竜専門の放送局で中継もされる。
その前の事前情報の収集に騎手候補と調教師候補、別々に報道に呼ばれ集団取材を受ける事になった。
午前中に騎手候補が体育館に呼ばれ、服部たち騎手候補は正装して向かって行った。
騎手候補五人に対し報道は三十人以上と明らかに人数が多い。
その中に岡部は見知った顔を見つけ手を振った。
「おお、岡部さん。お久しぶりです!」
背が低く、たらこ唇、その唇の回りは髭の剃り跡が青く残っている。
戸川たちが『髭もぐら』と呼ぶ日競新聞の吉田である。
「吉田さん、わざわざ土肥まで来ちゃったんですか?」
「そうですよ。うちかて、ちゃんとした競技新聞やもん」
ちゃんとこうして足を使って集めた情報で記事を書いてると吉田は胸を張った。
「遠路遥々、ご苦労様です」
「普段やったら幕府の事業所のやつに行かすんですけどね。今年は愛しい岡部さんがおるいう事で立候補して僕が来たんですわ」
吉田は右目をパチリとして愛嬌を振りまいたが、岡部は不快さしか感じなかった。
「前泊して、温泉入って、旨い魚食べて、旨い酒呑んで」
「そりゃあね。出張やもん。そんくらいの贅沢は……って、まさか何か見たんですか?」
「普通に想像つきますよ。それくらい」
それまで余裕のあった吉田の笑顔が一瞬で苦笑いの表情に変わった。
ここまで顔がひきつるという事は恐らく昨晩はかなり羽目を外したという事であろう。
良いご身分だこと。
「いやあ、岡部さんの方から挨拶してくれて、おかげで探す手間省けましたわ。後で時間もらえますか?」
吉田が時間と場所を改めたいと言ってきたという事は『例のあの件』であろう。
「学校の外の方が良いですよね?」
「そうですね。ただ僕、この辺の店よう知らんのですけど、どっか良えとこ知ってますか?」
岡部は『魚せん』という食堂で個室を借りようと提案し簡単な地図を書いて渡した。
午後には岡部たちも体育館に向かって行った。
全体的な質問としては、どんな調教師になりたいかや、目標とする調教師はいるかといったありふれたものだった。
だが報道が岡部の事に気づき始めると岡部に取材が集中した。
『セキラン』の仔で『優駿』を勝ちたいかや、第二の『セキラン』のような仔を期待できるかといった質問が出た。
挙句には『タイセイ』についての質問になり、『タイセイ』の仔で『優駿』はどうかという質問に移っていった。
大須賀と松本は武田に、皇都の有名人というのは本当なんだなと小声で言い合った。
集団取材が終わると大須賀が、せっかく集まったから一杯どうかと誘ってきた。
岡部は、行きたいのは山々なのだが遥々皇都から客が来ていると断った。
岡部は一足先に『魚せん』に赴き個室を借り、吉田の到着を待った。
「お待たせしてもうてすんません。こいつがどんくさあて」
そう言うと吉田は一人の記者を紹介した。
産業日報の山科という記者で、年齢は三十代前半といった感じ。
背は吉田に比べかなり高く、かなり痩せている。
顔は細面で丸い眼鏡がかなりの愛嬌を感じる。
「以前、こいつの名刺をお渡ししたの覚えてますか?」
「ああ、山科さんってあの名刺の!」
山科が初めましてと挨拶し、二人の記者は岡部に促されるままに着席した。
岡部は仲居を呼び米酒と刺身盛りを注文。
米酒とお通しが運ばれてくると、三人はお猪口を掲げ乾杯した。
「おお! ここ刺身も酒もごっつい旨いですね! 店ちゃんと覚えとこ」
「そりゃあね。市場の仲買さんのお薦めですからね」
山科は吉田の顔を見てかなり驚いている。
恐らく岡部の話自体は吉田からある程度聞いてはいただろうが、想像以上と感じたのだろう。
「岡部さん記者になってたら、良え記者になった思いますわ」
吉田の感想に山科も刺身を食べながら同感だと頷いた。
岡部は照れくさくなってしまい、それを誤魔化すようにお猪口を口に付けた。
「刺身一つで、ずいぶん持ち上げるじゃないですか。そんなおだてたって何も出やしませんよ」
「嫌やなあ、本心ですよ。うちの記者連中にここに取材に行かせて、この店探し当てられるやつがはたして何人おるか」
山科もうんうんと頷いている。
俺もこの店自体は知っていたが、来た事はなかったし、こんなに良い店だとは知らなかったとかなり料理の良さに驚いている。
ある程度空腹が満たされたところで吉田が、そろそろ本題に入りましょうと話を繰り出してきた。
「あの後、何かわかった事があるんですか?」
岡部の質問を受け、吉田が山科に合図をすると、山科は鞄から色々な資料を取りだした。
「まずは確認の意味も込めて軽くおさらいをしておきましょう。子日新聞と日進新聞という二つの新聞があります」
「確か、子日が翼賛党の竹中、日進が社共連の木下を配下に置いてるという話でしたね」
「そうです。それで子日新聞が共産連合を、日進新聞が竜十字を、それぞれ裏で動かして暴れさせている。ここまでは良いでしょうか?」
山科の問いに岡部は首を縦に振った。
「吉田君に言われた時に、竹中や木下たちの汚職になりそうな事を必死に探しました。でもいくら掘っても何も出てこなかった」
でしょうねと岡部は山科の報告に頷いた。
「俺も仕事がありますんでね。中々これにばかり掛かり切れないんですけど、時間を作っては探しまくりましたよ」
出てきたのがこれですと山科は新聞の切り抜き帳を見せた。
岡部はそれを一通り眺めた。
確かに全てそれなりに汚職と言えそうなものばかりではあるが、いまいち弱い記事ばかりである。
岡部は小さくため息をつくと米酒をちびりと呑んだ。
「岡部さん、どうやろう? 何や使えそうなもん、ありますか?」
吉田に問われ、岡部は渋い顔で首を横に振った。
「残念ながらこれでは……。そういえば、前回の『セキラン』の襲撃犯の件って何かわかったんですか?」
「『赤い翼』の釈放の件ですか?」
岡部は吉田の発言に耳を疑った。
警察に拘束されたあいつらが釈放?
「ええ……証拠不十分で」
彼らの犯行は武田会長の手配した記者によってばっちり現場を写真に収められているというに、それが証拠不十分というなら一体どんな証拠を揃えれば良いというのだろう。
「……竜十字の方はどうなったんですか?」
「そっちも証拠不十分で釈放されてます」
「証拠不十分だって!!」
岡部はそう怒鳴ると唇を噛んだ。
「赤い翼の方は犯行の写真を撮られ、僕が被害届も出している。竜十字に至っては犯人が日進新聞の指示書まで持っていたのに! 何をどうしたら証拠不十分になるんですか!」
山科と吉田は岡部の言葉に酷く驚いた。
少なくとも今岡部が言った事は、どの新聞も報道していない事だからである。
写真を撮られてたなんて吉田ですら初耳だし、日進新聞の指示書が証拠品として提出されたなんて警察も何も言っていなかった。
岡部の言った通りとすれば、証拠不十分という事は、写真にしても指示書にしても警察内で処分されたという事になる。
となると、かなり大がかりな犯行という事になり、一政治家にできる芸当じゃ無いように思える。
山科はそう指摘し何やら手帳に書き始めた。
「恐らくやけど、連合警察の上の方に協力者がおるんやろうな」
吉田の意見に岡部も賛同した。
上だけじゃなく内部にも協力者の集団がいて、証拠品を処分し調書を改竄し、被害届も処分したという事だろう。
山科の指摘に吉田も頷いた。
「なんという汚職……」
「それが裏の組織やなく、表の組織がやった事やいうんですからね……」
腐りきっている。
岡部が吐き捨てるように言うと、吉田も全くだと言って憤った。
「ですけど、だとすると、突破口はその辺にありそうですね」
「本丸の前に付け城ですね。公安委員長、政務次官、及び連合警察長官。この辺りを調べる辺りから」
確か今の公安委員長は、与党労働党の浅野とかいう議員だったはずと言って、山科は携帯電話で何かを調べ始めた。
「与党の人間なのか……」
「そらそうでしょう。連立与党やないんですから、普通、要職は労働党から選ばれるもんやないですかね」
正直ちょっと意外だった。
この国の政党は、岡部たちのいた世界の政党と違って、自分たちの立場を明確にしている。
左翼、中道、右翼、保守、変革、中央集中、地方分権などなど。
労働党は中道右派、保守、地方分権を自称している。
それ以外に官僚や政治家の汚職の払拭を公約に掲げている党なのである。
「民間人なのかもと思ったんです」
「まあ確かに、そういう場合もあるやろうけど、普通は政治家がやりますよ。そらそうでしょ。政治家は立法権与えられとるんやから。立法権の無い者が行政やっても単なるお飾りにしかならへんやないですか」
残念ながら吉田の説明は岡部の理解を完全に超えていた。
競技系の新聞の記者のくせに、吉田はまるで社会部の記者のように政治問題において博識なのである。
「となると、与党の中にも子日や日進の影響を受けた人がいるという事なのか、もしくは第三者がいるのか……」
「もし第三者やったら、ちょっと心当たりがありますわ」
吉田の発言を聞き岡部はじっとりとした目で二人の記者を見た。
「まだそんな変な新聞があるんですか? 新聞業界ってどうなってるんです?」
山科と吉田はその言葉に耳を塞いで渋い顔をした。
岡部が小さくため息をついてお猪口を口に付けると、吉田はかなり引きつった笑顔でお銚子を岡部に向けた。
「岡部さんは、『幕府日報』いう新聞社は知ってますか?」
「ええ、名前だけなら」
「何年か前まで『東海通信』いう名前やったんですよ。東海道の各郡を中心に、皇都と幕府の情報をやりとりしとった新聞なんですわ」
つまり、いわゆる地方紙というやつであろう。
ただその地方というのが西国と東国の府市の中央にあったために、他の地方新聞よりも重要度が高かったという事だろう。
「名前からすると元は通信社だったんですか?」
「いや、記事屋やのうて最初から新聞屋でしたよ。大昔は東国の人にとっても、西国の人にとっても、他の新聞の弱い部分に強い新聞やったんです」
東海道は海岸沿いにあり工業都市が多い。
当初はそんな東海道の産業の情報を西府や幕府に紹介するといった意味合いの強い新聞だったと吉田は説明した。
「ですけど、大手だったらどこでも皇都や西府と幕府に事務所あったりしないんですか?」
「そう今はね。でも昔はそうやなかった。通信技術の向上と反比例するように彼らの価値が下がったんですわ」
大昔には東西の情報の集積場所だった事まであったらしい。
最も新鮮な情報が真っ先に届く新聞社、それが東海通信という新聞社だった。
だから社名も東海新聞ではなく、東海通信であったのだ。
「つまり、業績悪化を改善する起死回生の手段として、拠点を正式に市場の大きい幕府に移し、社名も変えたと」
「さすが察しが早い。ところが後発で西国寄りの記事が、幕府では全くウケへんかったんですわ。それでさらに経営が傾いてもうた」
東海の市民からは地元を捨てた裏切り者と蔑まれ、幕府の市民には田舎新聞だと蔑まれた。
結果的に拠点変更前よりも部数が落ちてしまった。
ところが、ある時を境にそれまで中道左派だった論調を大きく左に舵を切った。
そこから幕府の新聞の一つとして徐々に売上が元の部数くらいにまで回復している。
「経営者が変わったんですか?」
「ええ。社長と主筆(=編集長)が変わっています。そっからいわゆる極左の新聞に変わっとるんですわ」
「じゃあ、その時に子日や日進と同じ類の人物が入り込んだんだ……」
岡部の呟きに吉田もこくりと頷いた。
それまで何かを調べていた山科が突然口を開いた。
「おい! どうやらその線で当たりらしいぞ。ここ四代続けて公安委員長が『経治会』の議員だ」
山科の発言に岡部は眉をひそめた。
また何か知らない単語が出てきたという顔をしている。
その顔を見て吉田は思わず吹き出しそうになったが、唇をきつく噛んで必死に堪えた。
「岡部さんは、労働党に派閥というのがあるのは御存じですか?」
山科に問われ岡部は苦笑いして首を横に振った。
「与党というのは最も所属議員が多いから与党なんですよ。連合議員や各国議員合わせるとかなりの人数がいます。党としての運営方針はありますが、なにせ人が多いですからね。少しづつ考えの異なる者が集まって派閥を作っているんですよ」
『経治会』『政検会』『朱雀研』、今大きいのはこの三つ。
それ以外に『明智会』『志尊会』。
そこまで吉田は挙げたのだがもう一つが出てこない。
そんな吉田に『順徳研』だと山科が笑いながら指摘した。
「最大派閥から総理が出るんですか?」
「一概にそうとも限りませんけど、まあ、概ねそういう認識で良いと思います」
今の総理は『政検会』の前の会長だと、吉田が横から口を挿んだ。
「さっき言った六つの中で、いわゆる極左と言われてるのが『経治会』なんです」
労働党としての方針が中道右派と決まっているのに極左の派閥があるのを不思議に感じるかもしれないが、左右の意識以外は同調できているから労働党に所属していられる。
そう山科が説明すると岡部はなるほどと頷いた。
「極左という事は、子日たちと親和性が高いという事ですね」
「元から、経済の為なら法も歪めると言われてて、以前ここから総理が出た後、大量に失業者が出て労働党は一時的に下野してるんですよ」
経済のためじゃなく大蔵省の官僚の為の政治だったからと吉田が大笑いした。
「その後、与党復帰するんですが、ずっと戦犯扱いで冷や飯を食わされていて」
「そんなやつらが国家公安委員長なのか……」
何でそんな馬鹿げた人事が行われるのやら。
そう岡部が憤ると、吉田が、派閥内での権力の綱引きと考慮と配慮の結果だと呆れ果てた顔をした。
「総理直下の各委員長は、省庁を抱える大臣よりも格下扱いですからね。そういう所しか考慮していないんでしょうね。で、その経治会を持ち上げてるのが、先ほどの幕府日報です」
なるほどと岡部は唸った。
何となくこの件の構図が見えてきた気がした。
「産業日報さんのとこにも抱えの政治家が労働党にいるって言ってましたよね。その方はどの派閥なんですか?」
「何人かいるんですが、多くは中道右派と言われる朱雀研に所属してます」
朱雀研は党の方針とは地方に対する方針が異なっている派閥だと吉田が補足した。
「山科さんから直接その議員に情報を流せたりはするんですか?」
「ええ。一人懇意にしてもらってる議員がいますので可能だと思いますけど」
岡部は暫く腕を組んで考え込んだ。
小さく何度か頷いた後で、パンと手を叩いた。
「じゃあ、まずはその与党内のクズどもの処理からしていくんですね。その馴染みの議員にそのクズどもの情報を流して問題だといって騒いでもらうんです」
「なるほど! 与党内の事なら同じ与党の議員は手が出しやすいでしょうからね」
山科が納得すると少し遅れて吉田もそう言う事かと納得した。
「まずは、その為には何か公安絡みの不祥事を掴まないといけませんね」
「岡部さんの件ではダメなんですか?」
「ほう。僕に餌になって食われろと?」
岡部はすっと視線を外に外し冷めた顔をした。
山科はその態度で自分の大失言に気が付いた。
慌てた吉田が馬鹿野郎と言って山科の頭を叩いた。
「考え無しの発言でした。申し訳ありませんでした」
山科と吉田は二人で岡部に頭を下げた。
「じゃあ俺の方は、また暫く資料堀りですね。経治会のやつらの」
「そうですね。そこで何か見つかるようなら、徹底的にそれを流してあげれば何かしら応答があるでしょ」
ここまでの会話で、山科は岡部に憧憬を抱き始めている。
お銚子を取って岡部のお猪口に米酒を注ぐと一つ提案があると言い出した。
「岡部さん。その、よろしければ一度うちの新聞社にお越しいただけませんか。ぜひ、主筆に紹介したい。きっとうちの主筆も岡部さんを守る為の知恵を貸してくれると思うんです」
岡部はお猪口に口を付け、山科を冷たい目で一瞥すると、ぷいと顔を反らした。
山科はかなりがっかりした顔をしたのだが、そんな山科の肩に吉田がそっと手を置いた。
「岡部さんはな、ほんまはうちら文屋が大嫌いなんやで。僕が口説いたから、ここまで付き合うてくれてるだけなんや」
普通に考えて、可愛がっている竜を傷つけたやつらと同じ職業のやつらを良い感情で見れるわけがないだろうと吉田は山科を諭した。
「そうか。まあ俺たちの仕事は、そもそも人から好かれるような仕事じゃないからね。この業界、荒探しして喜んでるような奴が多いし」
「うちらにだって、本心ではあんま関わりたないんや。そやから僕は、こうして会うてくれて話してくれるだけで満足しとるんや」
吉田が岡部に微笑みを向けると、岡部は吉田を一瞥し、やるせないという顔をした。
「考えてみれば、本来ならこの話なんて俺らの飯の種なんだもんな。それをこうして知恵まで貸してくれて。それだけでも感謝しとかないとな」
「そう思うといた方が良えと思う。この方はうちらの最大の情報提供者。それ以上でも以下でも無い。良えよな?」
吉田に窘められ、山科は小さく何度も頷いた。
「被害者の方から直接情報が得られるってだけで文屋としては大助かりだよ」
山科がそう言うと、吉田は視線を山科から岡部の方に移した。
「岡部さん、こいつがさっき言うた事は忘れてください。外の者が主筆なんかに会うたら、絶対、将来ろくな事にならへんですから」
岡部は大きくため息をつき無言で頷いた。
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