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第95話「貴女はもしや?」

 ここは王都中央広場近くの、居酒屋ビストロ、勇者亭……

 時間は、午後2時を大きく過ぎていた……

 人気がある店ゆえ、ランチタイムに引き続き、客足が途切れる事はない。


 何と店主のアルバンは最近、昼からの『通し営業』を始めていたのだ。

 孫娘代わりのリアーヌが居なくなった寂しさを、たくさん働いて紛らわせる為に。


 しかし、ダンと旅立ったリアーヌは、僅か1か月で王都へ帰って来てくれた。

 そして今回の『里帰り』で、エリンとニーナは給仕担当として、手伝いに入っている。

 

 一時的とはいえ、リアーヌとまた働けるとあって、アルバンは機嫌が良い。

 厨房で、活き活きとしている。


 今日、ベアトリスとの『謁見』が終わったら、ダンはふたりの待つ勇者亭へ戻る事になっていた。

 

 謁見の時間はきっちり決まっていたので、ダンが勇者亭に現れる時間も凡そ予測はついていたのだ。

 当然、エリンとリアーヌはダンの帰りを心待ちにしていたのである。


 そしてほぼ予定通り……ダンは戻って来た。


「ダン、お帰り~」


「ダンさん、お帰りなさい」


 エリンとリアーヌが、ダンを労わる。

 

 しかし、店内に入って来たダンはバツが悪そうな表情をしていた。

 その理由を、エリンはダンが戻る前から分かっている。


「ダン……何であいつを連れて来たの?」


 不満そうに抗議するエリンに、ダンは頭を掻く。


「ああ、すまん……追っかけられて、不可抗力だった」


「むむむ~、困る! 迷惑うう!」


 エリンの眉間に、皺が寄った。

 腕組みをして頬を膨らませる。


「えっと、不可抗力……ですか?」


 リアーヌだけは、わけが分からなかった。

 不思議そうに首を傾げるリアーヌの傍らで、ダンとエリンは渋い表情をしていた。


「ダン……ヴィリヤの向ける熱い波動がこの前より凄く強くなっているけど……」


「ああ、エリンと一緒に会ってからもう1か月経っているし、思い直してくれたかと思ったけど……駄目だったようだ」


 ダンは相変わらず後を追うヴィリヤを認識していたし、エリンは気配察知の能力で、気付いていた。

 ヴィリヤが、ダンを追って来るのを。


「えっと……ヴィリヤさんって……ああ、そうなんですね」


 『姉』から『宿敵』の名を聞いたリアーヌが漸く事態を認識した。

 

 ダンに対する、ヴィリヤの恋心は醒めていなかったのだ。

 姉エリンの、予想通りに。


 そのエリンは、「やはり勘が当たってしまった」と苦々しい表情になる。


「そう……あのヴィリヤだよ、ニーナ」


 エリンが、そう返した時……


 ヴィリヤとゲルダのエルフ主従が、「そろそろ」と店内へ入って来た。

 「きょろきょろ」しているのは……どうやらダンを探しているらしい。


 ダンとエリンは顔を見合わせて、大きくため息をついたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いらっしゃいませ! 勇者亭へようこそ!」


 居酒屋ビストロの勝手が分からず、店内を見回すヴィリヤとゲルダ。

 そんなふたりの前に立ったのは、メイド服姿のリアーヌであった。

 

 ダンからは経緯いきさつを、そしてエリンからはエルフとの因縁を聞いたリアーヌ。

 

 ヴィリヤが相手では、エリンが「やりにくいだろう」と考え、自ら接客を買って出たのである。


「ええっと……」


 しかし、ヴィリヤはリアーヌを完全にスルー。

 全く、視野に入れていない。


 目を凝らして、店内のあちこちを見ていた。

 最早、ヴィリヤの頭の中には、ダンの事だけしか無いのである。


 だが……

 ヴィリヤが必死に、店内を見回しても探しても……ダンは見当たらない。

 一方、リアーヌは諦めず、再びヴィリヤへ声を掛ける。


「あの~」


 何度か、声を掛けられて……

 ヴィリヤが、漸く目の前のリアーヌに気付く。

 

 しかし、ヴィリヤの認識は『単なる居酒屋(ビストロ)の店員A』

 ……ただそれだけである。


 勇者亭へ入った、ヴィリヤの目的はひとつだ。

 だから、『店員』へする質問も当然決まっている。


「ねぇ、貴女、この店の店員でしょう? ならば知っていますね! ダンは! ダンはどこ?」


 縋るようなヴィリヤの視線。

 リアーヌは目の前のエルフの事を、ダンとエリンの話でしか知らない。

 

 ダンの事が、好きなのは彼女の態度と様子で分かる。

 なら自分や『姉』のエリンと同じ。


 ほんの少しだけ……興味が出て来た。

 見たところ、目の前のエルフは、そんなに酷い人物だとは思えない。

 姉エリンが、言うほどには。


 しかし、リアーヌの想像は大いなる誤解となる。

 

 確かにヴィリヤは、『完全な悪女』ではない。

 それ以前に大きな問題があったのだ。


 尋ねられたリアーヌは、正直に答える。


「ダンさんは仕事ですよ」


「仕事?」


「はい! これから私達と一緒に仕事です」


 リアーヌが言った事は、事実である。

 ダンもこれから、嫁達と共に英雄亭の仕事を手伝うから。

 しかし、ヴィリヤにはリアーヌの口調が気になった。


 私達?

 一緒に仕事?

 

 愛するダンの事を、親し気な雰囲気で話すメイド服の少女。

 ヴィリヤへインプットされていた、ダンの言葉が甦る。

 『もうひとりの妻』と。


 こうなるとヴィリヤは、目の前の少女がとても気になってしまう。

 

 メイド服姿が、とても良く似合う人間族の少女。

 栗色の綺麗な髪を三つ編みにした少女。

 大きな鳶色の瞳が、「くりっ」とした栗鼠のような可憐な少女。

 突き出た胸は、あのエリンと同じくらい大きい。


「私達って? 貴女、もしや!」 


 ヴィリヤは自分の直感を確かめようと、大きく声を張り上げたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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