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第93話「ヴィリヤの決意」

 女性は、自分自身より……

 他人の恋心に対して、敏感かもしれない。

 

 今のヴィリヤが、まさにそうであった。

 元々……

 創世神の巫女、王女ベアトリスが、召喚した勇者であるダンに興味があった事は気が付いていた。

 そして……今日、『勇者と巫女の恋』が生まれた事を確信してしまったのである。


 こうして……

 ダン、ヴィリヤ、ゲルダの3人は謁見が終了し、王宮を辞した。


 ヴィリヤはアスピヴァーラ家の専用馬車で自分の屋敷へと戻る。

 ダンは「歩いて帰る」というのを無理に引き留められ、ヴィリヤにより馬車へ押し込められる。

 部下のゲルダは、そんなあるじを呆れたように見つめていた。


「ねぇ、ダン。当然、今夜は屋敷へ泊ってくれるのでしょう? 貴方と熱く語り合いたいわ」


 ヴィリヤはダンと、大好きなダンの事を、もっと知りたい。

 もっと深い間柄になりたい。

 『神託』が無い今回のベアトリスの謁見は、絶好の機会だと思っていた。


 それが何と!

 ベアトリスという、新たで強力なライバルが出現してしまった。

 ダンと同じ人間族でしかも身分も上の王女。

 自分より、断然条件が有利だ……


 どんどん焦りが増して来る。

 絶対に、ダンをこのまま帰してはいけない。

 そう考えていた。


 しかしダンには、ヴィリャの想いなど、迷惑このうえない。


「はぁ? 何だ、それ」


「私をもっともっと理解して欲しいの! ひと晩中、ダンと話したい!」


「……あのな……俺は嫁のところへ帰るから」


「よ、嫁!? 嫁って、あ、あの子ですねっ!」


 ヴィリヤの脳裏には、先日ダンと一緒に居たエリンの姿が浮かぶ。


 健康的な、やや褐色がかった肌。

 流れるようなさらさら髪は、薄い栗色。

 綺麗な瞳は、ダークブラウン。

 そして……信じれないほど大きな胸。


 自分とは、全く違うタイプである。

 そして、何故かとても生意気な態度を取っていた。


 『生意気』というのは、あくまでもヴィリヤからの見え方である。

 だが、エリンと呼ばれた少女は、不思議と最初から挑戦的な態度をとっていた。


 ここでダンが「ぽろっ」と言う。


「ああ、言い忘れてた。……俺の嫁、もうひとり増えたから」


「えええっ!? じゃ、じゃあ! ふ、ふたりっ!」


「へぇ! そうなんだ。それは、おめでとう」


「おお、ありがとう」


 人間のアイディール王国も、エルフの国イエーラも一夫多妻制が認められている。

 驚くヴィリヤを尻目に、ゲルダは抵抗なく素直に祝福した。

 実力ある男は妻をたくさん娶るのが、この世界の常識であるからだ。


 しかし、ヴィリヤは納得しない。

 いや、大好きなダンだから、到底容認出来なかった。


「ううう~、ダメです。勝手に妻を増やすなんて私は許しませんっ!」


「あのな……お前が許さないって……全然意味不明なんだけど」


「イヤ! 私が許さないと言ったら、許さないんです」


 また、ヴィリヤは駄々っ子状態になっていた。

 自分でも抑えられないくらい、感情が高ぶってしまう。


 ダンは、思わず苦笑する。


「全く理解出来ん……と、いうか、ヴィリヤ。俺とお前は単なるビジネスパートナーだろう?」


「ビジネスパートナー?」


「ああ、悪い。それって俺が前居た世界の言葉だ。簡単に言えば単なる『仕事仲間』って事だよ」


「単なる? 仕事……仲間」


「ああ、『仕事仲間』だ。仕事のみで付き合う間柄って事さ」


「仕事のみの間柄!? イヤ! ダ、ダメです! 許しません!」


 どうやらダンの前で、ヴィリヤの口癖は「イヤ&ダメ&許しません!」となってしまったようだ。

 こうなると……

 ダンはこれ以上、ヴィリヤと会話していてもらちが明かないと思ったらしい。


「……ゲルダ、俺は屋敷まで行かないで途中で降りるから。中央広場の適当な場所で停めてくれないか」


「了解!」


「イヤ! ダメよ、ゲルダ」


 ヴィリヤの必死の抵抗も虚しく、ゲルダは御者に命じて中央広場の片隅に馬車を停めた。

 ダンの服を掴んだヴィリヤであったが、くすぐられ手を離してしまう。

 無理矢理力づくで、ヴィリヤを振り切らないのは、ダンのせめてもの優しさであった。


「ああ、ダン!」


 馬車の扉を開け、降り立ったダンは中央広場の人混みの中を「すたすた」と歩いて行く。

 ヴィリヤはといえば……ゲルダに羽交い締めにされていた。


「ゲルダ! 離しなさい、ダンの後を追います」


「ヴィリヤ様、我儘を仰ってはいけません、お屋敷へ戻りますよ」


「ゲルダ……離しなさいと言っているのです。これは命令です」


「ヴィ、ヴィリヤ様!」


「三度目は言いません。私、本気ですよ。氷河魔法を……使いますから」


 ヴィリヤは、水の精霊(ウンディーネ)の加護を受けた水の魔法使いである。

 それもマスターレベルに達した最上級魔法使いであり、攻撃、防御の最高位の魔法を習得している。

 

 氷河魔法というのは広範囲において、対象となる相手を瞬時に凍結させ、砕け散らせる必殺の魔法である。

 

 当然、王都のような街中で、理由もなしにいきなり発動して良い魔法ではない。

 

 万が一、正当な理由もなく発動させたらいかにエルフの長ソウェルの孫娘とはいえ厳罰……いや極刑は免れない。

 犠牲者が多数出れば、死刑になる可能性は……高かった。


 ゲルダは、驚愕する。

 『禁断の恋』は、ヴィリヤの正気をそこまで失わせていたのかと。

 

 しかしヴィリヤも、ダンが目の前から居なくなると、いつもの彼女へ戻りつつあった。

 その証拠に、三度目は言わない筈の、言葉を繰り返したからである。

 極めて冷静に……


「ゲルダ、お願いですから離して下さい。ダンを追います」


「ヴィリヤ様……」


「私、今日はっきりと分かりました」


「…………」


「私の気持ちは本物です。ダンの前だと私は素直になれる……そして変わる事も出来る。決めました……お祖父様とお父様は私が必ず説得します」


「ヴィリヤ様……」


「自分をやはり……偽れません。ゲルダ、イェレミアスにも直接、私が断りを入れます」


 イェレミアスとは、ヴィリヤの婚約者の名前である。

 ヴィリヤが生まれた時、親同士が決めた許婚の男であった。


「分かり……ました」


 ゲルダはやむを得ず、手を離した。

 本気になったヴィリヤを、もう止める事は出来ないと悟ったのである。


 ヴィリヤは、開け放たれた馬車の扉から、軽やかに降り立った。

 そしてダンの後を追う為、勢いよく走りだしたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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