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第9話 「葬送」

「さよならは言ったな」


「うん……手伝ってくれてありがと……」


 戦死して、無残な骸となったダークエルフ達。

 整然と並べられた様子を見て、エリンは目を伏せる。

 アスモデウスの部下である魔族と混在して、折り重なっていた骸を……

 ダンにも手伝って貰い、ダークエルフだけ別にして寝かせたのである。

 

 その中には……エリンの愛する父も居た。

 遺体の父は、傷だらけだった。

 全身が真っ赤に染まっていた。

 血まみれだった。

 

 全ての傷が、一族の為に負った傷である。

 エリンと仲間を守ろうとして、悪魔どもと戦い抜いて力尽き、遂に斃れたのだ。

 

 今、エリンの手には、父の遺髪が「ぎゅっ」と握り締められていた。


 ダンが、死者を弔う葬送魔法を使うと聞いて、驚いたエリンだったが……

 当然、使用を了解した。

 自分を守る為に、勇敢に戦った同胞を、心から弔おうと思ったからである。

 

 涙を浮かべて、仲間の骸を無言で眺めるエリン。

 彼女の肩に、「ぽん」と優しくダンが手を置いた。 

 

「父上達の魂は、もう天へ旅立ってしまっただろうが……そろそろ俺達で送ってやろう」


「はい……」


 ダンは、握った拳を胸の辺りに掲げた。

 またもや腕が、眩い白光に包まれている。

 先程アスモデウスを屠ったのとは違う、優しい輝きであった。

 

 やがてダンの唇がわずかに動き、言霊が詠唱され始める。


「魂よ、天に還れ! 肉体よ、大地へ還れ! 鎮魂歌レクイエムよ、厳かに鳴り響け!」


 廃墟となった王宮で、朗々と響く言霊の詠唱。

 ダンの魔力が、充分に高まったのだろう。


ショット!」


 構えたダンの拳から、白光が放たれる。

 エリンが見守る中、眩い白光に包まれたダークエルフ達の遺体が……

 次々と塵になって行く……


 やはり、これも凄い魔法だ。

 エリンが見た葬送魔法は、土中に埋められたエルフが彷徨ったりせず、安らかに眠れるように処置する為の魔法だ。


 しかしそう考えている間もなく、喪失感がエリンを襲って来た。

 魂は既に天に召され、目の前の骸は、単に器だけと分かっていても悲しい……

 

 父や仲間達が、肉体を消失させて無に還るという現象を目の当たりにして、エリンはとても悲しくなるのだ。


「ああっ! お父様! お父様が行っちゃう」


 白光の輝きが収まると、父を含めたダークエルフ達の遺体は、完全に消え去っていた。


「うううう……あおおおおおおおお~ん!!!」


 思わず、エリンは慟哭した。


 これでもう……父や仲間達とは二度と会えない。

 あれだけ話したり、笑い合ったりしたのに……

 もう再び、あんな楽しい日々は戻って来ないのだ。

 心の中に、懐かしい思い出だけが残されたのだ。


 エリンの心を、更に大きな喪失感が襲っている。


「あうあうあうあう~」

 

 悲しい!

 涙が、涙が止まらない!


「エリン……」


 号泣するエリンに、ダンは優しく言う。


「あのままだと、お前の父や仲間達が不死者アンデッドになりかねない。分かるな?」


「ううううう……うん……」


 父や仲間達が、おぞましい不死者アンデッドとなり……

 崩壊した肉体をひきずりながら、廃墟となったこの王宮を永遠に彷徨う。

 

 確かに、そんな事は耐えられない。

 ダンのやってくれた事は、弔いであると同時に、エリンへの思いやりなのである。


 ダンは……エリンを助けてくれた。

 悪魔に辱められる寸前の、エリンを救ってくれた。


 一族全員の、仇を討ってくれた。

 それもあの悪魔へ、エリンが一矢報いる事が出来るように、彼女の魔力も使うという離れ業も見せてくれた。

 

 そして今、父や仲間達を天国へ送ってくれた

 悲しくて泣いているエリンを慰めて、労わってくれた。

 

 全部、エリンの為に……ダンが優しくしてくれた事だ。


 強く思うようにして、やっとエリンは笑顔を見せる事が出来た。

 微笑むエリンへ、ダンも穏やかな笑顔を返してくれる。


 もう安心だ。

 エリンは、ダンについて行く。

 ダンが大好きだから、運命の出会いなのだから二度と離れない。


 エリンは改めて、そう決意したのである。


 こうしてダークエルフ達の遺体が葬送され、残るはアスモデウス配下の魔族共の骸であった。


「さあて……こいつらは、俺の従士に任せてしまおう」


「従士?」


「ああ、エリンの親父さん達と違って、奴等には怨念と化した禍々しい魂の残滓も残っている。数も滅茶苦茶多いし、始末は任せて俺達は移動しよう」


「し、始末を任せる?」


「ああ、任せてしまおう」


「???」


 ダンはまた、魔法発動の準備へと入っていた。

 雰囲気から見て、発動するのはどうやら召喚魔法のようだ。


 エリンは、ダンの魔法発動の異常さに驚いている。


 そもそも魔法というものは、高度な上級レベルになればなるほど、難解な言霊や呪文、そして複雑で大きな予備動作が必要だ。

 当然、発動まで長い時間もかかる。

 

 ダンはエリンから見ても、信じられないような上級魔法を、無詠唱且つ予備動作も無しで楽々と発動しているのだ。


 そして今回も、である。


「我が下へ来たれ、忠実なる契約者! 召喚サモン!」


 ダンが軽く手を振り、言霊を唱えると、目の前の床が巨大な円の形に発光し始めた。

 円の中から何やら、おぞましい瘴気を感じる……

 これは冥界から、発せられる独特ともいえる負の瘴気だ。


 一体、何者を呼び出そうとしているのであろうか?

 この瘴気は、間違いなく魔族が発するものである。

 

 エリンは、わけが分からない。

 ダンは聖なる葬送魔法を使うかと思えば、今発動しているこの召喚魔法で、闇に生きる世界の住人を呼ぼうとしているからだ。


「ええっ!? 何?」


「出でよ! その強く逞しき姿を現せ! 冥界の門番たる強者よ!」


  発光した円形から、黒い霧のような魔力の渦が立ち昇った。

 魔力の渦が、徐々に実体化して行く……

 やがて霧の中から、 雄牛ほどもある巨体の魔獣が現れる。


「あ、ああああっ!?」


 エリンが驚いて、ダンに縋りついた。

 しかしダンはエリンを抱きながら、片手を挙げて歓迎のポーズをとる。


「ケルベロス! よくぞ来た!」


 がおああああああああああああん!


 召喚魔法により呼び出された、冥界の番犬ケルベロスが爆音のような声で咆哮し、「じろり」とふたりを一瞥したのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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