第85話「当たり前が幸せ」
翌朝……
ダンの指示の下、エリンとリアーヌは庭の畑で元気に仲良く働いていた。
笑顔で励ましあう様子は、まさに本当の姉妹だ。
朝は、いつもながら忙しい。
やるべき仕事が山積みだ。
まずは犬猫鶏のご飯の準備、そして今3人で頑張って働く畑の手入れである。
ここでもリアーヌは、本領を発揮した。
育った孤児院で、長年菜園の仕事を任されていたリアーヌは、手慣れた感じでダンの家の畑仕事をこなしたのである。
それどころか畑仕事が素人のダンとエリンへ、的確なアドバイスまでしたのだ。
だがエリンは、リアーヌを妬んだりしない。
あくまで前向きに捉えるのが、エリンのモットーなのだ。
「ふわぁ! リアーヌは本当に凄いね! 何でも出来る! だけど教えて貰えばエリンも頑張る、同じくらいに上手くなるよ! 姉の面目にかけて」
「うふ、ダンさん、エリン姉、こうやるともっともっと効率よく出来ますよ」
「成る程! リアーヌ、俺も勉強になった、ありがとう!」
「うふふ」
家族って、やはり素晴らしい!
リアーヌは微笑みながら、昨夜の事を思い出していた。
彼女はダンに抱かれて、初めて『大人の女』になったのである。
何もかもが『初体験』だった。
自分の全てを、一切さらけ出した気がした。
緊張するリアーヌを、ダンは優しく抱いてくれた。
エリンの言う通り、鈍い痛みはあったが……
大好きな人に、抱かれる喜びの方が大きく大きく上回った。
これで自分は正式にダンの『妻』になれたと実感したのである。
その間エリンはというと、気を遣って居間へ移ってくれていた。
なので、ダンとリアーヌは行為が終わった後、エリンを迎えに行ったのだ。
うたた寝をするエリンを、ダンは「そっ」とお姫様抱っこで運んであげた。
それを見たリアーヌは、「自分も」とおねだりしたのである。
エリンは自分をカミングアウトした緊張からか、相当疲れていたようでそのまま眠ってしまった。
ダンとリアーヌは、寝るまでの時間、いろいろと話したのである。
こうして……
リアーヌは、全てを知った。
ダンが、未知の異世界から来た人間……異邦人だという事実も。
と、その時。
エリンが誰かの来訪を感じたらしい。
「あれぇ? アルバート兄達が来るよ?」
「おお、そうだな」
ダンも、小さく頷いた。
エリンの言う通りだと。
リアーヌは、吃驚してしまう。
冒険者ランクに比例して、やはりふたりは「只者じゃない」と思う。
「凄い! ふたりとも誰がここへ来るのか、分かるのですね? でもアルバート兄達? その人ってダンさんを『監視』している人達ですよね?」
アルバート達を何者か、言い当てたリアーヌの言葉を聞き、エリンが「うんうん」と納得する。
「そうか……リアーヌは昨夜ダンから聞いたんだよね」
「はい!」
「アルバート兄達は良い人達だよ。最初はエリンの事を酷く言ったけど……誤解だってすぐ分かってくれたよ」
リアーヌは一瞬「どうして?」と思ったが、すぐ考え直した。
自分も思い違いから、ダークエルフのエリンを酷く傷つけていたかもしれないからだ。
やがて……
アルバートとフィービーがやって来た。
ふたりは連絡を受けて、ダンに頼んでいた『買い物の商品』をピックアップしに来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンの家……
4人はテーブルを挟んで向かい合っていた。
実は家具好きなフィービーは、ダン達が王都で購入した新しいテーブルを、羨ましそうに眺めたり触ったりしている。
朝食を摂っていなかったアルバートとフィービーへ、ダンは一緒に食べようと提案したのだ。
リアーヌの、紹介も兼ねて……
「アルバート、フィービー、紹介するよ。彼女はリアーヌ、王都出身で昨日から俺の嫁になった。エリンの事情も全て『承知』している」
「リアーヌです。アルバート様、フィービー様、宜しくお願い致します」
相変わらず、ダンの説明は簡潔である。
リアーヌの素性は分かったし、エリンがダークエルフである事も受け入れたという状況なのが理解出来た。
アルバートとフィービーは微笑んで、リアーヌへ一礼する。
「こちらこそ、宜しく、リアーヌさん」
「リアーヌちゃん、宜しく」
しかし、とアルバートは思う。
エリンは当然だが、リアーヌも負けない超美少女っぷりである。
自分も男だから……つい目が行ってしまったが……
胸の大きさも相当なものだ。
こんな時、女性はガン見する男の視線に敏感だから、アルバートは慌てて視線を逸らす。
そして、恥ずかしさを隠すように、つい「ぽろっ」と言ってしまう。
「でも、エリンちゃんも、リアーヌさんも可愛いな。若くて可愛い嫁さんがふたりなんて、ダンが凄く羨ましい」
これは妻のフィービーが居る前では、アルバートの致命的な『失言』である。
案の定、フィービーは拗ねてしまう。
「ふん! どうせ、私は『古女房』ですよ」
「え!?」
愛妻の怒りに驚くアルバートは、とんでもない言葉を聞く。
「アルバート、俺は年上の美人な奥さんも大好きなんだけど」
「は?」
慌てて見ると、今度はダンが悪戯っぽく笑っていた。
信じられなかった。
今迄のダンなら、このような冗談など決して言わないからだ。
こうなると拗ねた分、フィービーの『ノリ』が凄まじい。
「え~、本当? じゃあ私もダンのお嫁さんになろうかな!」
「え、ええ~っ」
フィービーの衝撃発言に、アルバートは真っ蒼になってしまった。
目を見れば分かる……フィービーはマジだ。
こうなると、ダンのノリもエスカレートする一方だ。
「よっし、フィービー、お前も嫁に来い!」
「うふふ、ダン、これから、よろしくぅ!」
息の合ったダンとフィービーのやり取りに、エリンとリアーヌも悪ノリする。
「やった! フィービー姉もダンのお嫁さんに?」
「私も大、大歓迎です」
「あううううう~」
孤立無援なアルバートは頭を抱えて悶え苦しむ……
と、その時。
「冗談よ」
「へ?」
聞き慣れた声を聞き、アルバートは慌ててフィービーを見た。
先程のダンみたいに、悪戯っぽく笑う愛しい妻の顔がそこにはあった。
「じょ、冗談?」
「そうよ! 私が貴方と別れるわけないでしょ!」
「本当か!?」
「本当!」
真偽を確かめる夫婦の会話。
アルバートは『無事』を確認すると、フィービーに「ひし」と抱きついた。
元騎士とは思えない、形振り構わない姿であった。
朝食を食べ終わって暫し歓談した後……
アルバート達は頼んだ商品を担いで、帰宅して行く。
ふたりは完全に仲直りし、睦まじく手を繋いでいた。
遠ざかるアルバート達の後姿を見て、エリンが言う。
「当たり前にある幸せって、普段は中々気付かないね。エリン、そう思う」
「私もです」
リアーヌも、エリンの言う通りだと強く思った。
最愛の兄を亡くして、改めて感じたから。
しかし今は大好きなダンが居て、姉のように慕うエリンも居る。
愛する人達が、当たり前のように傍に居てくれるのが最大の幸せだと、リアーヌは悟ったのだ。
「俺もそう思うよ。だから……」
ダンは、周囲を見渡した。
当然、ダン達以外は誰も居ない。
居るのは犬に擬態したケルベロスやオルトロス、そして相変わらず屋根で寝る妖精猫のトムくらいだ。
エリンとリアーヌは、ダンに優しく抱き寄せられる。
思わず甘えるふたりは、ダンに熱~くキスをして貰ったのであった。
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