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第82話「衝撃」

 リアーヌは、違和感を覚えていた。

 

 やはり様子がおかしい。

 絶対に何かある!

 『ダンが魔族』なんて酷い冗談から始まって、エリンの表情に差す陰、そして妖精猫ケット・シーのトムから言われた謎めいた言葉……


 そんな思いを持ちながら、リアーヌはダンの『新妻』として働いた。


 あっという間に時間は夕方になり、3人は風呂に入った。

 

 エリンは「待ってました」とばかりにはしゃいでいた。

 

 ダンは……思い切り恥ずかしがっていた。

 

 エリンに、優しく全身を洗われて……

 リアーヌもエリンの言う通り、『流しっこ』をした。

 

 自分の胸を、ダンから丁寧に洗って貰うのは恥ずかしかったが……

 お互いの距離が著しく縮まり、とても親密になれた気がして嬉しかった。


 風呂から上がったら、すぐに夕飯の支度をする。

 エリンとリアーヌは、ふたりで料理の腕を振るう。


 リアーヌは、アルバンから勇者亭の料理を完全に習得していた。

 元々のセンスもあって『腕前』はプロ級。

 ホールだけではなく、たまに厨房も任される程だった。

 

 片やエリンも、ダンから料理のイロハを習い、メキメキ上達していた。

 

 なので、夕飯に並んだ料理は多種多彩で素晴らしい味揃いとなる。


「いやぁ、ふたりともモノ凄いぞ、俺なんかもう用済みだな」


「ダメ! ダン、3人で料理する。エリンはまだまだ未熟者、ダンから教えて貰う事はいっぱいある」


「そうですよ! 私もレパートリーが居酒屋(ビストロ)の料理ばかりで、まだまだ修業中ですから」


 王都で購入した、ワインも開けた。

 ほろ酔い気分になった3人は、とても上機嫌だ。

 酒を飲んだのは、これから始まる話をしやすくする為のダンの配慮でもあった。


 居間で食事をしていた3人であったが……

 頃合いと見たのか、ダンとエリンが目配せしてふたりで寝室に消えた。

 

 まさかふたりだけで先にエッチをするの?

 とも思ったリアーヌであったが、まもなくダンだけが戻って来た。

 

 リアーヌは酔った状態ながらも感じ、確信した。

 これから大事な話が始まるのだと。


「リアーヌ、話がある」


「は、はい!」


 やはり来た!

 軽い酔いのせいで、熱くなった頬を押えたリアーヌは、ごくりと唾を飲み込んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダンはリアーヌに、優しく微笑んでいた。


 普段は、単刀直入な発言をするダンであったが、何故なのかいつになく慎重になっている。

 果たしてリアーヌが、ダークエルフのエリンを受け入れてくれるかという不安からだ。

 

 リアーヌの事は信じたい。

 しかし、この世界で創世神の教えは『絶対』である。

 

 現に気心の知れた付き合いをしていたアルバートとフィービーでさえ、ダークエルフを怖れ、嫌ってあのような物言いをしたのだ。

 創世神教が運営する、孤児院で育ったリアーヌはどのような反応をするのか、

 推して知るべしと考えていたのである。


 だから、言い方がいつものようにストレートではない。


「リアーヌは幸せか?」


 いきなり唐突に聞かれて、リアーヌは戸惑う。

 しかし、この問いの答えなど決まっていた。


「はい! とても幸せです。ダンさん、貴方と結婚する事が出来て! そしてエリン姉とも姉妹になれて!」


「そうか! 俺もさ、お前達と出会えて本当に幸せなんだ」


「ありがとうございます」


「うん! 俺はエリンが大好きだ、リアーヌはどうだ?」


「私もエリン姉が大好きです! 本当の姉だと思っています」


 リアーヌは、強い気持ちを込めて言った。

 嘘ではない、本心である。

 兄を失ったリアーヌは、愛するダンには勿論、エリンにも肉親の愛を感じていたのだから。


「分かった、じゃあエリンを呼ぼう。エリン、良いぞ、居間に入っておいで」


「は、はいっ!」


 ダンが呼ぶと、少し噛んでエリンが返事をした。

 リアーヌは、やはり違和感を覚える。

 もう自分とは気の置けない仲の筈なのに、エリンがやけに緊張しているのが伝わって来たからだ。


 やがて……

 少し躊躇いながら、エリンは入って来た。

 勇気を振り絞るという感じで。


「あ!」


 居間へ入って来た、エリンの姿を見たリアーヌ。

 思わず、小さく叫ぶ。

 

 エリンの風貌が、一変していたからである。


 部屋へ入って来たエリンは、やや俯き加減だが、顔立ちは変わっていない。

 髪もさらさらで、長さも腰まである。

 夢見る瞳と美しい髪を合わせ持つ、端麗な美少女という趣き。


 野性味溢れた褐色をした張りのある肌と、抜群のプロポーションも変わってはいない。

 大きく、「どん」と突き出た胸は、相変わらず凄い迫力。

 同じくらいの胸があるリアーヌも、圧倒されるほどだ。


 しかし!


「エリン姉! そ、その髪の毛!」


 まず、髪の色が変わっていた。

 エリンの髪色は、薄い栗色であった筈が!

 何とシルバープラチナの、輝くような髪色に変貌していたのである。


 古代から、人間は髪の毛を染めていたらしい。

 だからエリンも、髪を染めた可能性はある。

 

 しかしこの状況で、リアーヌはそのように考えられなかった。

 髪色を変えるくらいで、エリンが極度に緊張する理由がないからである。

 

「ひ、瞳も! 瞳の色が違う!」


 リアーヌの叫び通り、瞳の色も変わっていた。

 ダークブラウンの瞳は、深い菫色すみれいろに変わっていたのだ。

 そして……


「エリン姉! そそそ、その耳は!?」


 決定的に変わっていたのが……耳であった。

 

 普通の人間の耳であった筈が、「ちょこん」と尖った可愛い耳になっている。

 

 この耳は、分かる。

 王都でも良く見かけた。

 この耳は……エルフ族の耳だ!

 エリン姉はエルフ?

 

 だけど、エルフ族は体つきがもっと華奢だ。

 儚く頼りなげなイメージがある。

 健康的なエリンは、王都に居るエルフ族と雰囲気が違う。


 呆然とするニーナに、ダンの声が届く。


「リアーヌ、エリンはな。……ダークエルフなんだ」


 ダークエルフ!?


 リアーヌの中で……

 その不吉な名前は、危険を報せる半鐘のように、激しく響いていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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