第76話「女子は買い物好き①」
「凄いね~」
と、きょろきょろするエリン。
「本当に凄いです」
と、大きく目を見開いて固まるリアーヌ。
「ははは、確かにそうだな」
ダンが、納得して大きく頷く。
英雄亭を出たダン、エリン、リアーヌは巨大な倉庫の中に居た。
ここは王都にある大手商会、トレーフル本店の敷地内にある大倉庫だ。
今は、3人の他に誰も居なかった。
改めて、エリンが周囲を見る。
天井が高い。
室内は、果てしなく広い。
建物の壁は、固い岩に表面が鋼鉄製の板で補強されており、だいぶ頑丈そうだ。
多分、泥棒対策なのだろう。
更に観察すると天井まで届く巨大なラックが据え付けられて、様々な商品がきちんと分けられて並べられていた。
木材、金具、敷物、家具、食器から始まり、酒を含めた夥しい加工食材、リアーヌが大好きな可愛い服もたくさんある。
果ては怖ろしげな武器、とても頑丈そうな防具まで置いてあった。
普段は、客の求めに応じて品出しする為の倉庫らしいが、何故か案内されたのである。
リアーヌは、先程からずっと吃驚しっ放しなのだ。
3年弱勤めた勇者亭を出る時に、ダンからは念を押された。
吃驚しても、決して大声を出さないようにと……
念を押された時は、ダンが魔族というきつい冗談に、絶対関係があるのだろうとは思った。
でもリアーヌは、所詮普通の女の子だ。
驚いたら、どうしても声が出てしまう。
だから声が出そうな時には、咄嗟に口を、手で押さえる事にしたのである。
時間は、少し遡る……
英雄亭の私室で荷造りしている時、リアーヌは恐縮しきりであった。
荷物の量が半端ない。
非常に多いのだ。
その殆どは、リアーヌの私服……であった。
趣味の極端に少ない、リアーヌの唯一の楽しみは服であったからだ。
子供のころ好きな服を、着れなかった反動に違いない。
そしてリアーヌは、可愛い服が大好きだ。
勇者亭のメイド仕様の制服も大好きで、アルバンに頼んで数着、貰ったくらいである。
ちなみに、この世界の服で新品の品物は殆どがオーダーメイドだ。
採寸をして、発注した客専用の服を作る。
なので、自然と高価になってしまう。
だから服の発注者は大抵、金持ちだ。
しかし、金持ちは気儘で飽きっぽい。
流行にも敏感である。
すぐに新しいものを欲しくなり、折角オーダーメイドで作った特注服もすぐ売るか捨てるかして、処分してしまう。
主人から廃棄を命じられた使用人達は、正直に捨てる者も居たが、殆どがこっそり中古業者へと売っていた。
かくして、市場には膨大な量の中古服が出回るのである。
オーダーメイドを依頼出来ない庶民としては、とてもありがたい事であった。
リアーヌは、アルバンから給金を貰うと、まめに好きな中古服を探した。
小綺麗で値段的にも手ごろなブリオーが、リアーヌのお気に入りである。
組み合わせて、更に可愛くなる小物にも目がない。
こうしてリアーヌは、勇者亭に勤めている間、大量の服を買ったのである。
「ダンさん、御免なさい……荷物が多くて」
消え入るような声で、謝るリアーヌであったが、ダンは「にこにこ」していた。
「リアーヌ、良くやってくれたよ、助かった」
「へ?」
ダンの意外な反応、答えであった。
もしリアーヌが逆の立場であれば、たくさんの荷物を全て持っていくパートナーに対し、
相当難色を示すだろうから。
「そうだよ、リアーヌ、助かったよ」
エリンも、満面の笑みを浮かべている。
とても嬉しそうである。
「???」
頭の上に?マークが飛び交っているリアーヌにダンは言う。
「勇者亭の制服を借りて分かったけど、リアーヌの服はエリンにもぴったりだ。だから買う手間が省けたよ」
「あ!」
リアーヌは、思わず「ポン」と手を叩いた。
ちょっと悔しく思えるくらい、エリンにメイド服は似合っていた。
その上エリンは、リアーヌと身長もほぼ同じ、更にグラマラスなスタイルで服のサイズもぴったりだったのである。
エリンが、両手を合わせる。
そして「ぺこり」と頭を下げた。
「リアーヌ、お願い! エリン、リアーヌの服をたまに借りて良い?」
エリンから、ぜひにと頼まれたが、リアーヌには全く異存がない。
自分が、服でお洒落するのが大好きなリアーヌだが……
街中で、他の女の子が可愛く服を着こなすのを見るのも、大好きであったからだ。
「は、はい! 全然OKですよ、私の服なんかで良ければどんどん着てください!」
リアーヌから了解を貰ったエリンは、はしゃぐ、はしゃぐ。
「やった! やった! やったぁ! その代わりエリンが貰った服もニーナに着て貰う」
エリンの貰った服……
一体、どのような服であろう?
ニーナも嬉しくて、ついはしゃぎたくなって来る。
「あ、それ嬉しい、凄く楽しみですね!」
「よっし、エリンとリアーヌ、お互いに服を着て見せっこしよう」
話は、簡単に纏まった。
これから、楽しくなるだろう。
しかし、何かを思い出したように、リアーヌはハッとする。
楽しく話していたのが、口籠ってしまう。
「でも……」
「でも?」
元気がなくなったリアーヌを、心配そうに見るエリン。
リアーヌは、顔をどんどん下に向け、完全に俯いてしまった。
その原因は……
「やっぱり、こんなに一杯の服をいちいち運ぶのは大変です……私達、『旅』をするのですよね?」
リアーヌの懸念は、尤もである。
しかし、ダンが手を横に振った。
「心配ないぞ」というサインである。
あまりにも自信たっぷりなダンの態度に、リアーヌはまたも『?マーク』を飛ばしてしまったのであった。
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