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第72話「突き放す優しさ」

 リアーヌは、とうとうダンへ伝えた。

 心の底に隠していた、自分の恋心を。


 果たして、ダンはどう答えるのか?

 心を開き、リアーヌの気持ちを受け止めてくれるだろうか?


 リアーヌの告白を聞いたダンは、何かを確かめるように小さく頷いていた。

 片やエリンは、いたわるようにリアーヌの肩をポンと叩く。


「リアーヌはよくやったよ。……だけどまだ伝えなくちゃいけない事がある。単に好きで終わらせちゃいけないんでしょ?」


 確かに、エリンの言う通りである。

 これから告げる言葉こそが、本当にリアーヌの伝えたい事なのだ。


 リアーヌは、先ほどやったように深呼吸する。

 そして声を張り上げる。


「ダンさん、聞いて下さい! わ、私を、いえ! 私もエリンさん同様に貴方のお嫁さんにして!」


 告白が終わり、部屋に沈黙が流れる。

 リアーヌ、ダン、そしてエリン。

 3人は言葉を発しない。


 そして時が暫し経ち……答えは出た。

 ダンが、ゆっくりと首を横へ振ったのである。

 答えは……NOであった。


「あ、あうううあ……」


 ショックを受けた、リアーヌは喘いだ。

 急に、息が苦しくなったからである。


 死ぬ思いで懸命に伝えた気持ちは……通じなかった。

 

 悲しい!

 むなしい!

 

 今迄に感じたことのないつらさが全身を満たし、リアーヌはもうこの場に居たくなくなった。

 

 我慢しきれずリアーヌは、動こうとした。

 今居る部屋を、すぐ出る為だ。

 しかし、エリンの手がリアーヌの両肩を押さえつけていた。

 華奢な身体に似合わず、とても強い力であった。


 リアーヌは、エリンの手を振りほどこうとする。

 身体を左右に振る。


「エ、エリンさん、離してっ!」


「リアーヌ、逃げちゃ駄目。まだ話は終わっていないよ……ダンから話がある」


「は、話なんて……どうせ!」


 自分はもう、ふられたのだ、完璧に。 

 涙があふれ、大泣きしそうになっているリアーヌ。

 と、そこへ……


「リアーヌ」


 自分の名を呼ぶ、聞き覚えのある声。

 リアーヌが、毎日聞きたいと思っている優しい声。

 愛するダンの声だ。


「ダン……さん」


 リアーヌが見れば、ダンは彼女を真っすぐに見つめていた。

 そして、いきなり指をピンと鳴らして魔法を発動させる。

 

 ダンの発した魔法は……音声を遮断する防音の魔法であった。

 これから話す内容が、隣の部屋で寝ているアルバンの耳に入ったらまずいからだ。


「リアーヌ……お前の気持ちは凄く嬉しい。最愛の兄さんを亡くしながら、悲しみをこらえ誰にでも優しく笑顔を向け、日々一生懸命に働く……そんなお前が、俺だって大好きだよ」


「あ、あああ……」


 嬉しい!

 ダンが、愛するダンが言ってくれた。

 自分を大好き! だと。

 

 リアーヌはすぐ、悲しみを忘れた。

 代わりに、愛される喜びと事態が変わった驚きが混在し、大きく目を見開く。


「だ、だけど……なら、どうして?」


 ダンは先ほど、首を左右に振った。

 リアーヌの、求愛に対して……


 はっきり分かる、拒絶の意思である。

 

 好きならばどうして?

 リアーヌを、突き放し拒絶するのだろう。

 その答えは、次に発したダンの言葉にあった。


「リアーヌ……もしも俺が怖ろしい魔族だったらどうする?」


「え? 怖ろしい……魔族!?」


 とんでもないダンの問いかけを聞いて、リアーヌの双眼は大きく見開かれた。


 魔族だという、ダンの衝撃発言により、部屋に再び沈黙が流れる。

 ショックを受けたリアーヌは、複雑な表情をしていた。

 

 しかし、勘が鋭いエリンは、既にダンの意図を察している。

 ダンは当然、魔族などではない。

 この嘘の発言の真意はリアーヌは勿論、エリンに対するダンの優しさでもあるのだ。


 エリンがじっと見守っていると、やはりダンは真実を告げる。


「いや、リアーヌ。騙して悪かったな。俺が魔族というのは……嘘だ」


「ええっ!? う、嘘!? な、何故!?」


「実際お前は今悩んでいただろう? いかに俺が好きでも、正体が魔族であればこの先どうなるかと」


「…………」


「そういう事……なんだ。俺は魔族ではないが、俺の嫁になるにはそれくらいの覚悟が必要になる」


「覚悟が……必要」


 リアーヌには、ダンの言っている意味が分からない。

 おぼろげながら見えるのは、ダンの妻になった場合、いろいろな苦労が生じるという事である。

 否!

 苦労などという、並大抵な言葉ではない。

 魔族の妻という比喩ひゆは、人々から石もて追われるくらい、重い覚悟が必要だという事らしいのだ。


 片や、エリンは思う。

 リアーヌがダンと結婚したら、妻になったら、全ての秘密が明らかになる。

 共同生活をするのなら、必ず告げねばならない。

 ダンが召喚された未知の異世界人なのは勿論、エリンが創世神から忌み嫌われたダークエルフ族だという事も。


 孤児であり、創世神孤児院で育ったリアーヌは、熱心な創世神教の信者であろう。

 当然、ダークエルフは『不浄のもの』と、教えられているに違いない。

 本当は、全くの誤解に過ぎないのに……


 リアーヌの性格と聡明さなら……

 ある程度の時間をかければ理解してくれ、問題は解決するかもしれない。

 エリンがダークエルフと分かっても、受け入れてくれる可能性は大いにある。

 しかし、人間が持つ固定概念を払しょくするのには、今すぐというわけにはいかない。


 だからダンは「自分が魔族だ」というとんでもない例えを出して、リアーヌの覚悟を求めたのだ。


 考え込んだリアーヌは、エリンに問いかける。


「エリンさんは……その覚悟が?」


「あるよ! これから一緒に暮らすのは大変だって言われたけど……ダンが大好きだから、絶対について行く」


 即答したエリンは、ガウンを投げ、肌着を脱ぎ捨てた。

 褐色の、美しい豊満な身体があらわになる。

 いきなり、一糸いっしまとわない肢体をさらけ出したエリン。

 これには、リアーヌは勿論、ダンも驚いた。


 ふたりから注視される中、全裸になったエリンは、きっぱりと言い放つ。


「これがエリンの覚悟だよ! エリンはダンが大好きだったから、信じているから、結ばれる前にこうやって全てを見せた。他の男子には絶対に見せた事のない自分の身体をさらけ出したの」


「エリン……さん!」


「そう! エリンは、ダン以外のお嫁さんにはならない! 妻は夫を信じて身を任せるものだってお父様に教えられたから! 身体を見せたと同時に、気持ちもダンへ任せたんだ」


「……エリンさんは、ダンさん以外のお嫁さんにはならない……信じているから……身体を、気持ちもダンさんへ任せた……」


 エリンの言った事を、確かめるように呟くリアーヌ。

 やりとりを見守っていたダンは、そろそろリアーヌへ告げる頃合いだと見たのだろう。


「リアーヌ、詳しくは言えないが……俺の嫁になったらいろいろと大変なんだ。お前はまだ若いし、これからもっと素晴らしい男に巡り合うさ」


「え? これから、もっと素晴らしい男に巡り合う?」


 驚くリアーヌへ、ダンは更に言う。


「そうさ、俺への思いは嬉しいしありがたいが、時間が経てばすぐに忘れる」


「すぐに忘れる……ダンさんを……」


 今度はダンの言葉を復唱するリアーヌ。

 しかし!


「馬鹿にしないで下さいっ!」


 リアーヌは、「キッ」とダンを睨む。

 強い意思の籠った、熱い眼差しである。


 そして、エリンと同じように……

 リアーヌは羽織っていたガウンを投げ、あっと言う間に肌着を脱ぎ捨てたのであった。

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