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第67話「リアーヌをナンパ?②」

 エリンには、わけが分からない。

 混乱する。

 リアーヌは、確かに助けて貰ったと言った。

 

 ダンが王子様じゃないか? と聞いても否定しなかった。

 それなのに、ナンパされたとも言う。

 何故なのか?


 エリンは、改めて尋ねる。


「ダンに助けられたのにナンパ? 一体どういう事? リアーヌ、よかったら詳しく話して」


 身を乗り出して迫るエリンの目は、真剣だった。

 

 ダンに関して知らない事があるのは、エリンには嫌なのだ。

 今日散々いじったナンパに関しても、何か関係がありそうである。


 鬼気迫るエリンの迫力に圧倒されたのか、リアーヌは覚悟を決めたようだ。


「は、はい……じゃあ最初からお話しします。……実は私、孤児なんです」


「孤児?」


 エリンは、思わず聞き返してしまった。

 リアーヌは、淡々と言う。


「ええ、私、生まれた時から親が居ないんです」


「生まれた時から? 親が……居ない」


 エリンの胸に、ほろ苦さが生まれた。

 自分も両親が居ないからだ。

 

 しかし、父からは最近まで……

 母からも、エリンが幼い日までは、惜しみなく愛を与えて貰った。


 だが……

 リアーヌは、最初から親が居ない……

 どんなに辛かった事か……

 

 今日出会ったばかりのリアーヌの事なのに……

 エリンには、まるで自分の悲しみのように感じる。

 不思議であるが、悲しみに比例して、エリンの目がどんどん潤んで来る。


 一方、リアーヌは落ち着いた声で、話を続けて行く。


「生まれたばかりだった赤ん坊の私は、王都の創世神孤児院の門前に捨てられていたのです」


 どうして?

 可愛い子供を捨てるの?

 そんなの、母親じゃない!


 お腹を痛めた自分の子供なのに?

 たとえ、どんな理由があるにせよ、だ。


 怒りが湧いたエリンは、ただただ憤る。


「酷い! 許せない!」


「ええ、最近までずっと探していましたが……いまだに親はどこの誰とも分かりません。私はおにいと一緒に捨てられていたところを、司祭様に拾われたのです」


 何と、リアーヌはひとりで捨てられていたのではなかった。

 エリンは、リアーヌが慈愛を込めて呼んだ言葉を復唱する。


「おにい?」


「はい、私には双子の兄が居ました。一緒に捨てられ、一緒に拾われ、一緒に育ちました」


「お兄さんと、ずっと一緒だったんだ……」


 エリンが問うと、リアーヌは小さく頷いた。

 目が……遠くなっている。


「双子なので、もしかしたら私の方が本当は姉だったかもしれませんが……私は凄い泣き虫で……お兄はしっかりしていて私に優しくて……自分へ与えられた食べ物をいつも分けてくれて、苛められたら絶対に守ってくれました」


 リアーヌの言葉には計り知れない感謝と、一心に慕う気持ちが込められていた。

 エリンは、思わず聞いてしまう。

 当たり前過ぎる事を……


「大好き……なんだ、お兄さんの事」


「はい、大好きでした」


「でしたって? 過去形?」


「はい、……お兄は死にました」


「し、死んだ!?」


 リアーヌの、愛する兄が死んだ?

 一体どのような事だろう?


 エリンは、もっと聞きたいとリアーヌを促した。

 頷いたリアーヌは、話を続けてくれる。


「成長して孤児院を出た私達は、生きて行く為に王都で仕事を探しました。運よく私はこの居酒屋ビストロに、お兄は……金細工職人になりたかったのですが、いろいろな事情で結局はなれませんでした。それで仕方なく……冒険者になったのです」


 冒険者!

 まだ、どのような事をやるか分からないが、エリンも今日就いた職業だ。


「仕方なく冒険者に? エリンも今日なったよ、冒険者」


「ええ、ダンさんからお聞きしました。エリンさん、いきなりランクDなんて凄いです。お兄は一番下のランクGから、いろいろな依頼を受け、頑張って昇格してランクEでしたから」


 リアーヌの兄は、叩き上げの冒険者らしかった。

 

 口調から、冒険者の苦労が伝わって来る。

 どうやらエリンは、冒険者の仕事を甘く考えすぎていたようだ。


「そう……なんだ」


「はい! 冒険者はとても危険な職業なんです。エリンさんも充分に気を付けてください」


 注意を促すリアーヌの目は、却って怖いくらいだ。

 

 兄を亡くした妹の、ストレートで深い悲しみが伝わって来る。


「あ、ありがとう……気を付けるよ」


「絶対ですよ! では話を戻しますね……だけどお兄は職人になる夢をけして捨てませんでした。だからそれまでの当座の生活費を稼ぐ為、実入りの良い冒険者になっていろいろな依頼をこなしていたのです。この店にもよく来てくれました……それがある日……」


「ある日?」


 何があったのだろう?

 リアーヌは、顔を伏せていた。

 思い出すと辛いようだ。


「お兄は一気にお金を稼ごうと……迷宮へ遭難者を助けに行く、難易度の高い依頼を受けて、……死にました。1年前の事です……」


「死んだ!? 1年前……」


「依頼を遂行しようと迷宮の奥で怪我をした遭難者を見つけたのは良かったのですが、いきなり恐ろしい魔物の奇襲を受けて……咄嗟にクランの皆をかばって死んだ……と、聞きました」


「…………」


「お兄という唯一の肉親、生きがいをなくした私は日々、辛い思いを抱えてひたすら働いていました。お兄が帰って来るわけないのにいつか帰って来るかもと思って……そんなある日の事でした」


 だんだん話が、核心に入って来たのだろう。

 リアーヌの顔が、少しだけ明るくなっていた。


 理由は分かる。

 エリンには、「ピン」と来たのだ。


「ダンと出会ったの?」


「はい! アルバンさんが、たまたま切れた食材を買いに行って店を留守にした時……私、柄の悪いお客さんに絡まれて、店の外へ連れ出されそうになったんです」


「その時?」


「そうなんです! さらわれそうになった私を、助けてくれたのがダン……さんだったんです」


 リアーヌはそう言うと、とても嬉しそうに微笑んだのであった。

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