第66話「リアーヌをナンパ?①」
勇者亭が、営業終了後……
夜も更けた午前1時、慰労会という名のささやかな宴も終わり、皆寝る事となった。
明日の仕入れの為に、アルバンは朝早く市場へ行かなければならない。
そして料理の仕込みをし、ランチと夜の準備をする。
勇者亭のような、居酒屋の仕事は結構な激務なのだ。
「お休みなさ~い」
「おう、エリン、またな」
緊張するリアーヌの手を引き、ダンとアルバンに手を振るエリン。
そんな『愛妻』の姿を、ダンは「にこにこ」して見ていた。
エリンに、『人間の友人』が出来るのは良い事だと考えていたからである。
リアーヌは、優しく気配りの利く子だ。
信頼関係が出来て、エリンの『正体』をそっと明かしたら受け入れてくれるかもしれない。
ダンは、とても期待していた。
そんなダンの気持ちが分かるのか、エリンも笑顔で応える。
「了解! リアーヌと仲良く寝るよぉ」
「ははは、エリンちゃん、リアーヌを頼むぞ」
アルバンも同じように「にこにこ」して、エリンとリアーヌを見つめていた。
今日一緒に寝るのはふたりにとって良い事だと、アルバンも考えていたのである。
リアーヌは可愛くて素直で優しい。
しかし、何故か友達が少ない。
今日風邪で休んだ同僚の少女達とも、仕事上だけのかかわりで、深くは付き合っていない。
だがアルバンが見る限り、リアーヌは仕事を手伝ってくれたエリンとは、とても相性が良さそうな気がするのだ。
就寝の挨拶が済み、ダン、アルバンと別れて……
リアーナの私室へ来た、女子ふたり。
張り切るエリンへ、リアーヌは恐る恐る聞いてみる。
「エリンさん……良いんですか? ダン……さんと寝なくて」
「良いの、全然良いの」
リアーヌには、信じられなかった。
結婚……
女子にとって、憧れに裏打ちされた甘美な響きである。
素敵な男性に出会い、結婚したいと夢見るのはリアーヌも同じだ。
結婚すれば……好きな相手とずっと一緒に居られる……と信じている。
見たところ、ダンとエリンは新婚であろう。
『夜』は特に一緒に居たいはずだ。
愛し合いたい……はずなのだ。
それが離れて、自分なんかと寝るなんて何故? と、リアーヌは思った。
だが既にリアーヌの部屋には、予備のベッドが運び込まれ、ふたつのベッドは「ぴたっ」とくっつけられていたのである。
エリンは、着ていたメイド服を「さっさ」と脱いで肌着になる。
リアーヌも、同様にメイド服を脱ぐ。
改めてリアーヌは、エリンの身体をまじまじと見た。
自分の服を貸した時に分かっていたが、エリンは超がつく抜群のプロポーションである。
ぼん、きゅっ、きゅっ!
迫る褐色の肉体に、リアーヌの口から、深いため息が漏れる。
「ふうううう、エリンさん……凄い身体……」
羨ましそうに呟くリアーヌに対して、エリンはあっけらかんとしている。
「リアーヌだって凄いよぉ。おっぱいだってエリンと同じくらいある、ダンは大きなおっぱいが大好きなんだよ」
ダンは大きなおっぱいが、大好き!?
となると……
目の前にある、この巨大な双丘に、ダンは顔を埋めたりとか?
「ちゅっ」と……キ、キスしたりするのだろうか?
リアーヌの妄想が、どんどんエスカレートして行く。
「え、えっと…………」
真っ赤になって俯いたリアーヌを他所に、エリンは「しれっ」と問い掛ける。
「さあ、話を聞かせて! リアーヌは何故ダンが好きなの?」
「え、えええっ!?」
相変わらず、エリンはいきなり直球を投げ込んで来る。
リアーヌは、何とか矛先をかわそうと必死だ。
そう、リアーヌは自分の事なんかより、ダンとエリンの事を知りたい。
どうして知り合ったのか?
深く結ばれたのか?
詳しく教えて欲しいのだ。
「そ、それより!」
「何?」
「エ、エリンさんは何故ダン……さんと結婚したのですか?」
「う~ん。もしもそれを言ったら、リアーヌも言う?」
何とエリンは交換条件を出して来た。
リアーヌはためらったが、ダンとエリンの馴れ初めを、知りたいという欲求に負けた。
「は、はい、私、言います……エリンさんに約束します」
リアーヌが話す事を告げると、エリンは「にいっ」と笑う。
そして……
「じゃあ、言うね! えっと、エリンが助けて貰ったから」
「え? 助けて……貰った」
こんなケースも、ダンは予想していた。
エリンとは、ちゃんとすり合わせをしていたのである。
「ダンが旅をしていて、たまたまエリンを助けたの。エリンを襲っていた悪い魔物を倒してくれたんだ」
エリンの言うことは、嘘ではない。
悪い魔物——悪魔アスモデウスを倒してエリンを助けたのは事実だから。
敵のスケールの問題だけ伏せれば、ちゃんと理由をいえる巧い言い訳である。
魔物に襲われて、命が危ない時に助けてくれた……
それは、女子の王子様願望に直結する。
リアーヌは感動して、益々羨ましくなる。
「凄い! それって白馬の王子様みたい! 運命の出会いですね」
「そう、運命だよ。エリンとダンの出会いは運命なの!」
きっぱりと言い切るエリン。
その揺るぎない態度を見て、リアーヌは「ぽおっ」としてしまう。
夢見る女子にとって、白馬の王子が助けに来るのは、最も理想の展開なのだ。
「う、羨ましい! エリンさんは良いなぁ、ダンさんが『白馬の王子様』なんて」
羨ましがるリアーヌを、今度はエリンが「じいっ」と見る。
悪戯っぽく笑う。
何か、含みがあるようだ。
「うん、でもねぇ……」
「でもねぇ?」
「うふふ、ダンはリアーヌにとっても白馬の王子様なんでしょ?」
「!!!」
何で分かるの? という表情のリアーヌ。
エリンは、「ここぞ!」とばかりに攻め立てる。
「言って! リアーヌ、や・く・そ・く!」
「は、はい、約束ですよね、分かりました……エリンさんの出会いに比べれば……私は地味なんですが」
「地味?」
「実は……私もダンさんに助けて貰ったんです」
「リアーヌもダンに助けて貰ったの?」
「はい、私、ダンさんにナンパされたんです」
「ナンパぁ!?」
助けられたのにナンパ?
驚くエリン……
そしてエリンのリアクションに、これまた驚いて俯くリアーヌ。
深夜、勇者亭のリアーヌの部屋には、微妙な空気が漂ったのであった。
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