第6話 「神の代理人」
リニューアル新連載です!
本日『2月23日』は、『19時から23時まで』段階的に『第7話まで更新する』予定です。
何卒宜しくお願い致します。
ダンにより、横抱きにされたエリン。
今迄と打って変わって、笑顔で抱かれたエリンを見て、アスモデウスが憎々し気に罵る。
「うじ虫人間がぁ! 我が花嫁をずうずうしく抱くとは……下郎め!」
しかしエリンは、嫌悪感を露にする。
どうやらアスモデウスから、勝手に『嫁扱い』されたのが気に入らないようだ。
菫色の瞳を怒りに染めて、きっぱりと言い放つ。
「勝手に決めないで! いつ誰がアンタの花嫁になったのよ! まるで寝取られみたいに言わないで、気持ち悪いっ」
何と!
エリンの口調が、先ほどとは180度変わっていた。
今迄の王女然とした言葉遣いが怒りの余り、急に蓮っ葉なものになっている。
しかしこれが本来、エリンの『素』のようであった。
エリンから思いっきり拒否られたアスモデウスは、音が鳴り響くほど、凄まじく歯ぎしりする。
「ぎぎぎぎぎ! エリ~ン、今ならまだ許してやる。うじ虫人間の手を振り払って余の下へ来い」
「イーダ! おとといおいで! あんたに抱かれるくらいなら、エリンは死んだ方がマシよ」
「べ~っ」と舌を出し、再度拒否したエリン。
アスモデウスの下へ行くどころか、ダンに縋りついて甘えている。
ダンといちゃつくエリンを目の当たりにして、とうとうアスモデウスは『切れた』ようだ。
「くははっ! よくぞ言った、仕草や言葉遣いまで下種女になり下がりおって……こうなったら仕方がない。おい、うじ虫人間! 貴様を倒せばそんな性悪下種女を娶らぬとも釣りが来るわぁ」
だが、アスモデウスの捨て台詞的な『反撃』に今度はエリンが切れた。
「な! そんな性悪下種女って!? 何言っているの!? あんたみたいな超が付く下劣な最低悪魔に言われたくなぁい。ううううっ、エリンを馬鹿にして! ゆ、許さな~いっ」
怒ったエリンを見て、だいぶ溜飲が下がったに違いない。
余裕が出たらしいアスモデウスが、ダンに向かって、せせら笑う。
「ぎゃはははは! うじ虫人間よ、お前のような、矮小な下郎に触れられた汚らわしい女などくれてやる! もう金輪際要らぬ! 不要だ、不要!」
アスモデウスの挑発に、エリンはもう怒り心頭である。
「悔しい! ダ~ン、あいつの事、めっためたにやっつけて! ぶちのめして!」
「おお、任せろっ!」
ダンは、ふたつ返事で気安く請け負った。
聞いた、アスモデウスが一喝する。
「馬鹿がっ! 余を舐めおって! 汚らわしいうじ虫と売女め、骨も残さず我が炎により焼かれるが良い!」
アスモデウスは、大きく息を吸い込んだ。
騎乗されている竜も、主と同じく「かあっ」と大きく口を開ける。
その瞬間。
アスモデウスと竜の口から、灼熱の炎が吐かれたのである。
これこそ、アスモデウスが持つ武器のひとつ煉獄の炎だ。
冥界で永遠に燃え続ける恐るべき業火であり、地上のものなどすべて焼き尽くしてしまう。
しかしダンは、全く表情を変えない。
左手でしっかりとエリンを抱きながら、すっと右手を挙げたのである。
アスモデウスと竜から吐かれた炎がダン達を襲い、瞬時に塵にするかと思えた瞬間。
何と!
不思議な事が起こった。
アスモデウスと竜から放たれた灼熱の炎が、だんだんと小さくなり、ダンの手に吸い込まれるようにして消え去ったのである。
そして煉獄の炎が吸収されると同時に、ダンの身体が眩く輝き出していた。
アスモデウスが驚愕している。
「ば、馬鹿な! 何物も焼き尽くす我が煉獄の炎を魔力として吸収しただと!? こ、これが神の代理人の力なのか!?」
アスモデウスの吐いた聞き慣れない言葉にエリンが首を傾げる。
「ダンが? 神の代理人!?」
「はぁ? 俺もそんなの知らねえなぁ……」
エリンと同様、ダンも心当たりがないらしい。
ダンの言葉を聞いたアスモデウスがわめき散らす。
「き、貴様! 自分が何者か、どんな力を持つのか、全く分かっていないのか!?」
しかし、ダンの目は醒めている。
「知らねぇ……そんなの今更どうでも良いよ」
アスモデウスが拘る『神の代理人』に対して、ダンは全く興味がないらしい。
しかしアスモデウスがここまで拘るとは……
神の代理人と呼ばれる存在が、とてつもない凄いものらしいという事だけを、エリンは感じたのである。
「ぎぎぎ、き、き、貴様ぁ! どうでも……良いだとぉ」
「ああ、神の代理人など、どうでも良い……俺は頼まれた仕事をするだけさ……おっさん、もう御託は聞き飽きたぜ。……そろそろ死ね」
ダンが、鋭い視線を飛ばした。
どうやら『仕事』を完遂させるらしい。
しかしアスモデウスは、噛みながらも胸を張る。
「ば、馬鹿が! 大魔王は不死! 故に未来永劫不滅だ! 余は誰にも殺せなぁい! いかにお前が神の代理人でも殺せるものかぁ」
確かにアスモデウスの言う通り、悪魔は死を超越した存在だ。
逆ならともかく、人間が悪魔を殺す話など聞いた事がない。
エリンはダンに抱かれながら、固唾を飲んでやりとりを見守っていた。
「不死だって? お前がか? 果たしてそう……かな?」
ダンは「ふっ」と笑う。
「ど、どういう事だ!?」
不敵に笑う、ダンの表情を見たアスモデウスは、不安が黒雲のように広がったのであった。
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