表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/191

第51話「闘技場で大暴れ!②」

 判定試合を見守るイレーヌは、ダンへ問い掛ける。


「ダン様……」


「何でしょう?」


「果たして奥様……大丈夫でしょうか?」


「大丈夫とは?」


「まさか、ベルナール様が……いきなり闘気を使うなんて」


「ああ、そうですね」


「……もしもベルナール様が本気になったら」


 予想以上のエリンの力に、イレーヌは驚いたらしい。

 しかし『竜殺し』が本気になったら、とんでもない結果を招いてしまう。

 美貌のサブマスターは高レベルの戦いに、上司の手加減は困難だと心配しているのだ。


 しかし、ダンは一笑に付した。


「いやいや……これくらいでは本気になりませんよ、ベルナール様は。まあ敢えて言うのなら本気というより『元気』になって貰いたいものです」


「はあ? げ、元気にって? ダン様!」


 イレーヌは驚いた。

 まるでダンは、ベルナールの秘めた心の内を見透かすような言葉を発したのだ。


 一方エリンは、ベルナールの凄まじい闘気をどうすれば打ち破れるか考える。


 勝てない相手ではない……と思う。

 

 ダンの話によれば、無敵とも見える『闘気』にも弱点があるという。

 それは使用可能時間が極端に短いのと、同時にふたつ以上のアクションが起こせない事。

 そして使用時間が長ければ長いほど、次の使用まで時間が掛かる事である。


 ダンと事前に相談して、エリンが考え抜いた方法。

 ひとつは逆手を取る事、そしてもうひとつはやはり自分の得意な戦い方に持ち込んで攻めるという事であった。


 エリンの考える逆手とは、ベルナールの得意な攻め方を逆に反撃に利用する事だ。

 試合開始と同時に、先制攻撃をかけようとした事からも分かるが、ベルナールの得意な戦法は接近戦である。

 片や魔法剣士のエリンであるが、まともに打ち合ってはいかにもパワー負けする。

 だから、相手の体力を削ろうと遠隔戦で魔法を撃っていたわけだ。


 しかしエリンの得意な戦い方は、決して遠隔戦だけではない。

 エリンは人間の魔法使いに擬態しているが、本当はダークエルフの魔法剣士だ。


 ダークエルフの魔法剣士の神髄は、実のところ接近戦にある。

 魔法剣士として攻撃法を極めた者は、素早い身のこなしで敵の攻撃を躱し、無詠唱で強力な攻撃魔法を至近距離から撃ち込む。

 それも避けようがない距離から連続でだ。

 

 この攻撃を受ければ並みの相手はひとたまりもない。


 この魔法剣士の奥義がどこまでベルナールへ通用するかは分からないが、試してみる価値はある。

 それにエリンには、まだ繰り出せる奥の手がいくつか残っていたのだ。


 瞬時に攻撃方法をおさらいしたエリン。


 息も整い、魔力も充分高まった。

 そろそろ頃合いだ。

 幸いベルナールは先に仕掛けて来ない。


「行きます!」


 エリンは思い切り大地を蹴った。

 駆ける! 駆ける!

 今度は素晴らしい速度でエリンがベルナールへ迫る。


「む! 接近戦か!」


 ベルナールは少し驚いたが、バスタードソードを構える。

 エリンがどのような剣技を使うかは不明だが、ベルナールは今迄に様々な種族の老若男女の剣士と戦っている。

 エリンが攻撃をかけたら、カウンターで倒す事も想定していた。


ショット!」


 しかしエリンの口からは、言霊が放たれる。

 放たれたのは数発の岩弾である。

 ベルナールまでの距離はわずか10m、先ほどエリンが放った距離のたった半分であった。


「おおっ!」


 しかし、これだけならまだベルナールは驚かなかった。

 

 ベルナールドは優れた動体視力と身のこなしで容易く避けてしまったからだ。

 彼が驚いたのは、エリンがすぐその後に時間差で岩弾を撃って来たからである。

 そして間を置かずまたも撃つ!


 もしや!


 ベルナールにはピンと来た。

 この攻撃は、やはりダンのアドバイスが生きているのだ。

 自分が使う『闘気』の弱点を突く攻撃なのだ。

 

 ただ、エリンが放った岩弾は全然少ない。

 先程の数十発にくらべれば微々たるものだろう。

 そこだけが気になった。


 そしてベルナールはこの戦法を使う相手と戦った事がある。

 これはエルフの魔法剣士特有の戦い方なのだ。

 だがエリンは人間の少女である。

 何故? と思う。


 迷いが出たベルナールへ、エリンは勝負に出た。

 

 剣を振りかざして、打ちかかる。

 キン! キン!

 剣と剣が、ぶつかる金属音が闘技場に鳴り響く。


 しかし、エリンの斬撃は容易く躱され弾かれてしまう。


 驚くエリン。


 うわ!

 凄い!

 

 何? この人!?

 身体のキレが半端じゃない!

 

 私の剣が……全然通じない。

 もしかして動きが見切られてる?

 打っても打っても当たらない。

 

 力も、もの凄い!

 当たっても軽く返される。

 まともに戦うのは……やはり不利だ。

 

 よっし!

 次で勝負をかける!


 一方、ベルナールはエリンをあしらいながら感じた事がある。


 やはりこの剣筋は人間ではなく、エルフの剣だ。

 何故!?

 

 その時である。

 エリンが、いきなり後方へ飛び退った。

 5m後方へだ。


 ベルナールは相手から高まる魔力を感じる。


 これは……また来る!

 大量の岩弾だ!


 エリンが放とうとしているのは、最初に放った夥しい数の岩弾だ。

 

 先程は、20mの距離があった。

 この5mの距離から放つ岩弾は、段違いの威力を発揮する。

 反撃は難しい。

 とりあえず守りに徹するしかない。


 ベルナールは、思い切りよく剣を投げ捨てた。

 そして盾をひきつけ、両手を合わせて頭と身体を守る。

 防御一辺倒の姿勢であった。

 ベルナールの体内闘気は、瞬時に最大限へと高められる。


 間を置かず、エリンの魔法が発動された。

 たった5mの至近距離から放たれた大量の岩弾がベルナールにぶち当たる。

 

 闘技場で鳴り響く轟音。


 しかし!

 恐るべきはベルナールの闘気であった。


「おおおおっ!」


 気合と共に放出され、張り巡らされた強力な魔力の防御壁が岩弾を弾き、ベルナールは殆どダメージを受けていない。


「むう! おお、背後に!?」


 岩弾を防ぎ切ったベルナールの正面にエリンは居なかった。

 そう、背後へ回り込んでいた。

 

 ベルナールは向き直ろうとするが……足が動かない!

 何故か足元の大地がぬかるみ、ベルナールの足を飲み込んで行動不能にしている。


「こ、これは!?」


 ベルナールドの身体の自由を奪ったもの……

 これこそエリンの奥の手ともいえる、地の魔法『大地の束縛』である。

 

 この魔法に、攻撃効果は無い。

 しかし攻撃と組み合わせれば、これほど有効な魔法はないのだ。

 そしてこの魔法の持続効果は僅か30秒だが、よほどの敵でなければほぼ自由を奪う。


 エリンは無防備なベルナールの真後ろに立ち、剣を構えながら再び魔法発動のスタンバイをしている。

 

 ベルナールは先程と同じくらい、エリンの魔力の高まりを感じていた。

 

 あの大量の岩弾がまた来る。

 全開で使った闘気は暫く使えない。

 身動きも出来ないから、相当のダメージを喰らうだろう。


 もしもベルナールがその気なら、まだまだ戦える。

 

 至近距離から放たれる岩弾のダメージを、竜鎧だけの防御力で堪え時間を稼ぐ。 

 そして復活した闘気を遣えば『大地の束縛』を振り切り、戦闘不能も回復出来るからだ。

 

 しかし、この試合はランク判定試験である。

 もう『充分』だろう。


 ベルナールはゆっくりと両手を挙げると大きく叫ぶ。


「降参!」


 こうして……

 エリンは模擬試合とはいえ、伝説の英雄『竜殺し』を打ち破ったのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ