第49話「判定試験開始!」
いよいよ……
エリンの受ける、冒険者ギルドランク判定試験の開始である。
審判役はサブマスターのイレーヌであった。
エリンとベルナールは、10mほど離れて正対していた。
双方を見たイレーヌが、注意事項を確認する。
急所への反則攻撃や戦意を失くした相手への攻撃継続など、禁止行為が告げられて行く。
エリンも、武道の心得は亡き父からしっかりと教わっている。
正々堂々と!
フェアに!
そういった『精神』はすぐ理解する事が出来た。
エリンにとっては、久々の戦いである。
魔力は、十分に高まっている。
気力も、漲って来る。
「お互いに礼」
イレーヌの指示に、エリンとベルナールが一礼した。
遂に、判定試験という名の試合が開始される。
「それでは試合開……「ちょっと、待ったぁ!」始……え!?」
試合開始を宣言しようとした、イレーヌの声を遮る大きな声が闘技場へ響く。
3人から遥か離れた場所へ、控えているダンであった。
ダンが、試合開始を止めたのは何故?
驚き、そして訝し気な視線が一斉にダンへ向けられた。
「な、何でしょう?」
「ダン?」
「ダン殿?」
「イレーヌさん」
3人の中で、ダンが用事のあるのはイレーヌであった。
「わ、私? ですか?」
「そう! 貴女だ、この試合に審判は無用、危ないからこっちへ!」
「審判は無用って!? 危ない? な、何を!?」
いきなり外すように言われても、イレーヌには納得出来ない。
審判兼進行役は、判定試験には必要不可欠だからである。
傍らで、やりとりを聞いていたベルナールは納得するように頷く。
「ふうむ……分かった、イレーヌ、ダン殿に従いなさい」
意外ともいえる、上司の決定に驚くイレーヌ。
「マ、マスター?」
「私に同じ事を何度も言わせるな、従いなさい」
「ほら、イレーヌさん、早くっ」
「はいっ」
上司とダンに促されたイレーヌ。
彼女は、急いでダンの居る方向へ走り出した。
速い!
普段から鍛えているらしく、素晴らしいスピードである。
あっという間に、ダンの傍らに並ぶ。
「OK! じゃあ!」
ダンは微笑み、指をピンと鳴らす。
瞬間!
膨大な魔力がダンから放出され、4人をぐるりと取り囲んだ。
ダンが発動したのは、物理兼魔法対応の強力な魔法障壁であった。
広大な闘技場のフィールドを、「すっぽり」と覆った形である。
「むう! 成る程!」
自分の周囲に張り巡らされた、強力な魔法の壁を感じ、唸るベルナール。
ダンの底知れぬ力に驚嘆すると同時に、『意図』もすぐに理解したようである。
「わぁ! ダン、凄いっ」
片や無邪気に喜ぶエリン。
そして……
「な!? こ、これは! ダン様」
「大丈夫だ、イレーヌさん、俺の魔法でほんのちょっと囲っただけさ。大事なギルドの闘技場を……壊すわけにはいかないだろう」
驚愕するイレーヌに対し、「しれっ」と言うダン。
実の所、イレーヌはダンの『正体』を知らない。
上司のベルナールからは、単に『国家機密的な存在』だとしか、報されていないからだ。
……イレーヌは、ふと思い出す。
ダンという青年が初めてギルドへ来た時は、ひとりの美しいエルフ女性と一緒だった。
イレーヌは、そのエルフ女性を見て驚いた。
彼女は、誰もが知るこの国の有名な『王宮魔法使い』であったからだ。
エルフ女性=アイディール王国の王宮魔法使いヴィリヤ・アスピヴァーラは……
ギルドマスターのベルナールへ、ダンの名を告げ、冒険者として手解きして欲しいと申し入れた。
そして、別室を用意するようにイレーヌへ命じると、3人で何か密談をしていたのである。
こうして……
『ランクD冒険者ダン・シリウス』は誕生したのである。
奇妙な事に、登録に必要な通常の講習とランク判定試験は免除された。
これは、異例の事であった。
通常冒険者ランクは余程の武勲など功績や、並外れた能力がなければ最低ランクのGもしくはFと認定される。
Dとはもう、中堅の冒険者だと認められた事になるのだ。
しかし……
ダンの素質は、素晴らしかった。
興味を持ったイレーヌは試しに練習試合をしてみたが、ダンはランクAの自分を簡単にあしらうほど、凄まじい実力の持ち主であったのだ。
ダンには、特別な秘密がある……
イレーヌはそう思ったが、上司のベルナールが沈黙しているのに騒ぎ立てるほど野暮ではない。
やがてダンは『ソロ冒険者』として、または他のクランと組み様々な依頼をこなして実績を作り、ランクを上げて……行った。
しかしイレーヌが見る限り、ダンは全く自分の実力を出してはいない。
そして高難度の実入りの良い依頼も、敢えて避けていた。
これはまた、不思議な事である。
冒険者は、金と名誉を求める。
報酬の高い依頼をどんどん完遂し、実績に見合った上級ランカーを目指すのが普通なのだから。
こうしてダンは実力に見合わない、『ランクB』の冒険者として、この王都では知られる存在となったのである。
ランクBに昇格してから暫くして……ダンの姿は王都から消えた。
イレーヌが聞いた人々の噂では、ダンは旅へ出たらしいという事であった。
行先は……誰も知らないという。
ベルナールも相変わらず何も語らない。
それから暫し月日が流れ……ダンは王都へ戻って来た。
また、すぐ居なくなる。
そのパターンの繰り返しであった。
本日、ダンはまた王都に現れた
驚く事に今回は何と!
可愛い妻を連れて戻って来たのだ。
エリンという美しい少女を。
これから何が……始まるのだろう?
イレーヌは、微笑むダンを見た後……
対峙するエリンとベルナールを、興味深そうに「じっ」と見守ったのであった。
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