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第43話「冒険者ギルド⑤」

 クラン(フレイム)を見送った後に……

 ダンはカウンターへ近付き、ベテランらしい職員にひと言、ふた言声をかけた。

 

 中年の男性職員は笑顔で頷くと、カウンターから出てダンとエリンを誘って2階へと連れて行った。

 どうやらダンは、エリンを自分の妻だと告げたらしく、職員は『祝いの言葉』をかけてくれた。

 職員の丁寧過ぎる物言いが何故か恥ずかしくて、エリンは黙ってお辞儀をする。


 笑顔の職員は、先頭に立って階段を上がって行く。


 階段を上り切って、2階に着いたエリンは、また「きょろきょろ」してしまう。

 見れば2階は1階と全く違っていて、間仕切りされた大小の個室が多くあり、扉がずらりと並んでいた。

 職員は、そのうちの中規模の個室へ、ふたりを案内した。

 中には、そこそこ大きいテーブルがひとつと、同じデザインの椅子が6つ。


 職員は「座って暫く待つように」と告げ、一礼すると扉を静かに閉めた。


 ダンとエリンは、椅子に座る。

 質素だが、木製の頑丈な椅子がエリンのお尻に、固い感触を伝えて来た。

 座り心地は、まずまずのようだ。


 満更でもないエリンの表情。

 思わずダンが苦笑する。

 彼女が何を言いたいか分かるから。


「ははは、これは家より立派なテーブルと椅子だな」


「うん」


 ダンの家の調度品は、はっきり言って『オンボロ』だ。

 ずっとひとりきりで暮らしていたダンは、家具の程度など、今迄まったく無頓着であった。

 道具は、「機能さえ果たせば良い」と考えていたのだから。


「エリンが来たから、王都でもう少し良い、テーブルと椅子を買って行こうか?」


「ふ~ん、地上って……何でも買うんだね」


「いや地上っていうか……物を買う習慣がないのは、エリンが王女様だったからだと思う。エリンの世界にだって、貨幣はあった筈だから」


「う~……エリンは良く分からない」


 『王族』であったエリンの日常では、何か欲しいと思えば、お付きの侍女が手配してくれた。

 だから、何も不自由した事はなかった。


 しかし今、エリンは高貴なダークエルフの王女ではない。

 地上に住む『平民』であり、必要なものは、自らの手で得ていかねばならない。


 でも、ダンが居るから安心する。

 地上の事を何も知らず、つい迷いそうになるエリンの手を、しっかり握って導いてくれるから。


 こんこんこん!


 ダンとエリンが他愛もない話を続けていると、扉がノックされた。


「はい!」


 ダンが返事をした。

 すると……


「ダン様、サブマスターのイレーヌです。お迎えに上がりました」


 涼やかな女性の声が響く。


「ああ、お疲れ様。じゃあお願いします」


 ダンが慣れた様子で返すと、扉が開いた。

 現れたのは30代半ば、すらりとした長身の美しい女性である。

 金髪で短髪。

 凛々しい男顔。

 ほんのちょっとだけ、アルバートの妻フィービーに似ていると、エリンは思う。


 イレーヌは、案内したギルド職員からエリンの事を聞いたらしい。


「ダン様、ご結婚おめでとうございます。成る程……この方が奥様ですね」


 いきなり視線を向けられて、エリンはどきどきする。


「え? 貴女は?」


「これは、これは失礼致しました。初めまして、奥様。私はイレーヌ・リー。この冒険者ギルドのサブマスターを務めさせて頂いております」


「エリン、イレーヌさんへ挨拶は?」


 ダンに促されて、エリンはおずおずと挨拶する。


「う! は、はい! わ、私はエリン……シリウスです。ダンのお嫁さんです」


「エリン様ですね。何卒宜しくお願い致します」


「こ、こちらこそ」


「エリン、このイレーヌさんは、マスターの優秀な参謀さ」


「うふふ、過分な誉め言葉ですね。……では、ご案内いたします。ダン様、エリン様、こちらへ」


 今度はイレーヌに誘われ、ダンとエリンは更に階上へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 イレーヌに案内されたのは、この巨大な冒険者ギルド本館の最上階である5階。

 その5階はいくつかの部屋に仕切られていたが、どうやらたったひとりの男の為のフロアであるらしい。


 その部屋のひとつ。

 重厚な扉の前に立ったイレーヌは、相変わらず涼やかな声で部屋の中へ呼びかける。


「マスター、ベルナール様……ダン様と奥様をお連れしました」


「ふむ……イレーヌ、ありがとう。下がって良いぞ」


 イレーヌの声に応えて、落ち着いた声が返って来た。


「はい! かしこまりました。では、私はこれで……失礼致します」


「ありがとう、イレーヌさん」


「いえ! では!」


 イレーヌは、軽く一礼すると去って行く。

 エリンが見て、軽やかな身のこなしからすると、イレーヌは結構な武道の嗜みがある。


「エリン、入るぞ。これからお会いするマスターはな、このギルドで一番偉いんだ」


「う、うん……」


 ダンが扉を開き、中の様子が見えた。

 緊張したエリンの目に入って来たのは、高価そうな応接セットだ。


 手前の椅子に座っていた、年配の男がゆっくりと立ち上がり、こちらへ来る。

 どうやら彼が、ベルナールと呼ばれたギルドマスターのようだ。


 年齢は、60歳近いだろうか。

 身長は180㎝くらいで、ダンとほぼ一緒。

 しかし、肩幅が広くがっしりした体格で、ダンより遥かに逞しかった。

 

 高価そうな革鎧を纏っており、腰には魔力を放つ長剣を提げていた。


 エリンが顔を見ると、シルバーグレイの短髪で彫りが深く精悍。

 やはりこの人も、「アルバートにちょっとだけ似ている」と、エリンは思う。


 ダンとエリンの、視線を受けたベルナールは優しく微笑む。

 まるで、肉親に向けるような笑顔である。


「ダン殿、よくぞ参られた。おお、その女性が奥様か、さあさあこちらへ」


「ベルナール様、失礼する」


「し、失礼します」


「遠慮しないで欲しい。こちらへ座って下さい。今、お茶を淹れましょう」


「申し訳ない! マスター自らとは」


 ベルナールが、自らお茶を淹れてもてなしてくれると聞き、ダンが恐縮する。

 しかし、ベルナールは軽く手を振る。


「何の、何の、昔からお茶は自分で淹れていますから」


「ありがとうございます! ではお言葉に甘えてご馳走になります」


「ははは、座って、座って」


 ダンとエリンは、肘掛け付き長椅子(ソファ)へ座る。

 洗練されたデザインと適度な硬さのクッションが、エリンに心地よさを与えてくれた。


「うわ! この椅子最高! 格好いいし、気持ち良い!」


「確かに気持ち良いな! やっぱり買わないと駄目だな、家具」


「そうだよ! 買おう!」


 背後から他愛もない会話をする、ダンとエリンの声が聞こえる。

 ベルナールは優しく微笑みながら、茶葉をポットに落としたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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