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第42話「冒険者ギルド④」

 とんだアクシデントはあったが……

 エリンは、冒険者クラン(フレイム)のメンバーと、すぐ打ち解ける事が出来た。

 話してみて分かったが、彼等は皆、分別ある真面目な性格である。

 そして、至って健康な男子達なのだ。

 

 ダークエルフ特有の、人の気配に敏感な能力を持つエリンは、自分へ向ける彼等の自然な欲求を感じて少し怖さを覚える。


 だがエリンは、徐々にチャーリー達の衝動が『本能的なもの』として、致し方ないと理解する事が出来た。

 何故ならば軽口を叩いてはいるが、彼等にはダンに対する敬意と気遣いが感じられたからである。


 可愛い女の子だから自分のモノにしたいという自然な『欲求』を、尊敬する仲間の妻だからという、『理性』で制御(コントロール)する。

 改めて人間の男性というものを、『勉強』したエリンであった。


 ダンは、チャーリー達へ言う。


「今度お詫びとして、俺が皆へ腹いっぱい飯をおごろう。それでこの件はチャラにしてくれないか?」


「分かった! じゃあ英雄亭あたりで、目いっぱい酒と料理を奢って貰おう」


 ダンの和解申し入れを、チャーリーは快諾した。

 どうやら彼は、竹を割ったようなさっぱりした性格らしい。


「やったぁ!」

「チャーリー、偉い」


 シーフのアーロンと、僧侶のコンラッドが「タダ飯が食えてラッキーだ」とはやし立てる。

 しかしメンバーのひとりが、首を横に振った。

 魔法使いのニックである。


「いや、今のダンの提案は到底飲めないな」


 クランリーダーであるチャーリーの承諾に、唯一異を唱えるニックは、面白そうにニヤニヤ笑っている。


「チャーリー、お前もっともっとエリンちゃんに殴って貰え」


 エリンに、もっと殴られろ?

 チャーリーは、一瞬ポカンとする。


「な!? ニック!? お、お前、な、何て事言うんだ」


「いや、お前さぁ、元々俺達の盾役で、とんでもなく頑丈だよな。だから全然ダメージ受けていないし、もっと殴られても楽勝じゃん。たっくさん殴られれば、俺達全員が、毎日ダンから飯をご馳走して貰えるぞ」


 「しれっ」と言うニック。

 チャーリーが「ぴんぴん」しているのは生来の頑健さもあるのだが、ダンが密かに掛けた治癒魔法の効果が大きい。

 だが、(フレイム)のメンバーに分かりはしない。


 アーロンとコンラッドは、すかさずニックへ追随した。


「おお、ナイスアイディアだ」

「賛成!」


「くあっ! てめえらぁ、さっきは俺を称賛したのに、あっさり手のひら返しやがって! 馬鹿野郎! 何がナイスアイディアだ、何が賛成だぁ!」


 まるで、漫才のようなやりとりに、とうとうエリンが吹き出す。


「ぷっ、ふふふふ」


 エリンが笑っているのを見たチャーリーは、自嘲気味に同意を求める。


「ははは、エリンちゃん。俺達……すっげぇ馬鹿だろう?」


 しかしここで、断固として反対したのが、残りのメンバー3人である。


「何、言ってる? すっげぇ馬鹿は、お前だけだ、チャーリー」

「そうだ、そうだよ。変な事言うな、エリンちゃんに誤解される」

「3対1……完全に決まりだな、馬鹿チャーリー」


 顔を見合わせ頷き合う、アーロン、コンラッド、ニック。

 チャーリーは、完全に『梯子』を外されてしまった。


「てめえら~」


 唸るチャーリーを見て悪いと思ったのか、エリンが再び謝罪する。


「チャーリーさん、本当に御免なさい」


「あはは、もう良いのさ。今後とも宜しくな」


「はいっ! こちらこそ」


 色々あったし、か細いものではあるが……エリンとクラン(フレイム)の間には、『絆』が生まれたようである。


 そんな中、何気なくギルドの壁に掛かっていた魔導時計を見たアーロンが「オッ」という顔をする。

 時計はまもなく、午前11時を指そうとしていた。

 どうやら、何か約束があるらしい。


「おい、チャーリー、そろそろ出発の時間だぞ」


 アーロンに、促されたチャーリーは頷きながら、ダンに問い掛ける。


「分かった! 遅れるとまずいな。って、おお、そうだ。ところでダン、エリンちゃんって冒険者になるのか?」


「ああ、今日、登録するつもりだ」


「そうか、じゃあ俺達の仲間だな。だけどあまり無理させるなよ、怪我でもしたら大変だ。しかしエリンちゃんって凄く良い子じゃないか。お前には勿体ないし」


 ダンには、勿体ない。

 それは半分嫉妬であったが、半分は素直な祝福の言葉であった。


 チャーリーのノリに合わせて、ダンも笑って返事をする。


「ほっとけ!」


「あはは、ダン、幸せにな。エリンちゃん、機会があったら一緒に冒険しようぜ」


「了解!」


 チャーリーとエリンが意気投合したのを見て、他のクランメンバーが抗議の声をあげる。


「あ、こら、チャーリー、抜け駆けしやがって! エリンちゃん、俺とも冒険だぜ」

「おいらとも!」

「僕とも!」


「はいっ! 私、皆さんと冒険したいです」


「「「「やったぁ!」」」」


 エリンから一緒に冒険する約束をして貰い、クラン(フレイム)のメンバーは嬉しそうに拳を突き上げた。


 破顔するチャーリー達を見ながら、ダンはエリンへ告げる。


「エリン、チャーリー達はこれから『仕事』に行く。見送りの言葉を掛けてやれ」


「見送りの言葉?」


「気を付けて行ってらっしゃい……だ」


「気を付けて行ってらっしゃい?」


「後で説明するから……気持ちを込めて言うんだ」


「りょ、了解!」


 エリンはす~っと息を吸い込んだ。

 そして一気に吐きながら言う。


「気を付けて行ってらっしゃい!」


「………」

「………」

「………」

「………」


 しかし、チャーリー達から返事は無い。

 エリンは困ってしまい、ダンを見つめる。


「ダ、ダン……」


「大丈夫だ、良く見ろ、エリン」


「え?」


 ダンに促され、恐る恐るチャーリー達を見るエリン。


 そこには、何と!

 笑顔で両手を思い切り打ち振る、クラン(フレイム)全員の姿があった。


「エリンちゃ~ん! ありがと~っ」


「最高の見送りだよ!」

「頑張るよ!」

「絶対帰って来るよ!」


 チャーリー達が発する、最高ともいえる歓喜の波動が伝わって来る。

 そのあまりの凄さに、エリンは圧倒された。


「ダ、ダン! す、凄いよ! チャーリーさん達、凄く喜んでいるよっ」


 時間が、迫っているのであろう。

 手を振るチャーリー達は急ぎ足でギルドから退出し、とうとう姿が見えなくなった。

 エリンはチャーリー達の姿が見えなくなってからも、ずっと手を振り続けている。


 手を振るエリンへ、ダンは言う。


「冒険者というのは雑務もあるけど、基本的には危険な仕事が多い。俺達は生と死の隣り合わせの場所で生きているんだ」


「生と死の隣り合わせの場所……」


「ああ、簡単に命を落とす仕事なんだ、冒険者は……」


「命を落とす仕事……」


「そんな中、心のこもった仲間の言葉が最高の応援になる」


「心のこもった仲間の言葉……ダン、エリンはあの人達の仲間なの?」


「ああ、立派な仲間だ」


 ダンが言葉を返した瞬間。


『あまり無理させるなよ』


 唐突に、先程チャーリーが言った言葉がエリンの中で響く。

 チャーリーが、エリンを労わって掛けてくれた言葉。

 大事な仲間として扱ってくれた。


 チャーリー達と親しくなれたのは正体を隠し、ダンの妻だと名乗ったからかもしれない。

 だが人々から忌み嫌われるダークエルフの自分が、絆を結ぶ事が出来たのだ。


「ぜ、絶対に帰って来てね~!」


 胸が一杯になったエリンは、今は誰も居ない出口に向かって、フロア中に響き渡る大声で叫んでいたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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