表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/191

第37話「王都へ」

旅姿のダンとエリンは今、アイディール王国王都トライアンフ正門前に居た。

 

 目の前には10m以上ある、石を積み上げた頑丈そうな外壁がそびえたっている。

 重厚な木製の正門は大きく開かれており、門の前には王都への入場許可を貰うのを待つ、おびただしい数の旅人が列を作っていた。


 まだ、ふたりが山奥の自宅を出発して、1時間も経っていない。

 自宅から王都までは馬で3日ほどの距離だが、転移魔法と飛翔魔法でここまであっという間に到着した。


 当然、ダンから魔法の事は口止めされており、ふたりはいかにも長旅を経て、ようやくたどり着いたという顔つきで立っていたのである。


 だが、ここまで来る過程はまだ良い。

 ダンの魔法が凄いのは分かっている。

 心の準備も出来ていた。

 飛翔魔法は相変わらず素敵だったし、覚えたての転移魔法も今度は上手くいった。

 だから素晴らしいとは思ったが、びっくり仰天という事にはならない。


 しかしエリンは生まれて初めて見る、王都という巨大な街の威容にはとても驚いてしまった。

 ダンから聞いて想像していたより、何もかもスケールが桁違いなのだ。

 だからエリンは、先程から目がず~っとまん丸である。


「ダン、ねえったら、ダン! す、凄い人の数だよ~、それにこれ石の壁? 高~い! 何でなのぉ?」


 ダンから色々と教えて貰っていたエリンではあったが、初めて見る風景や人や物が面白くて珍しくて仕方がなかった。


 ダンが微笑んで、エリンの疑問に答えてやる。

 最初の約束とは違うが、エリンの正体がばれそうな質問はすぐに止めるつもりだ。


「王都の街壁が高くて頑丈なのは、人間同士の戦争や魔物の襲撃などから王都市民を守る為だ。または境界線の意味もある」


「境界線?」


「ああ、このアイディール王国の中で王都の場所がこの街壁内という事さ」


「あう!? このずうっと続く壁の中が全部王都?」


 エリンは石壁を目で追ったが、どこまで続いているか見当もつかなかった。

 ずっと上ばかり見上げていたので、だんだんくらくらして来た。

 思わず、倒れそうになる。


 ダンが慌てて、エリンを支える。


「おいおいおい、大丈夫か」


「うい~……どきどきする~、何かワイン飲んだ時みたい~」


「ほら、鎮静リミッション


 ダンがそっと鎮静の魔法をかけてくれたので、エリンはすぐに落ち着く事が出来た。


「ダ~ン、ありがとう。ね、ねぇ、お願い……ぎゅっと手を握って離さないで、緊張するっていうか……ちょっと怖いの」


 怖がりながら甘えるエリンに、ダンは手を差し伸べてやる。

 当然エリンはしっかりと握り、ダンにぴったりくっついた。


 ふたりは、人々の行列の最後尾に並ぶ。

 やがて順番が来て、屈強な体格の門番が苦笑する。


「何だ! さっきから門前でイチャイチャしやがって、どこのリア充かと思えば、ダンじゃねぇか」


 門番の口ぶりだと、ダンとは顔見知りらしい。

 ダンも、気さくな雰囲気で答える。


「ああ、俺だよ」


「って!? 何だその子は!」


 強面な門番がいきなり怒鳴ったので、エリンは身を竦ませた。

 何だろう?

 また何か、酷い事を言われるのかと……


 エリンは、繋いでいるダンの手を「きゅっ」と握った。

 ダンも「きゅっ」と優しく握り返してくれた。

 しかし……心配は杞憂であった。


「おお! す、すげ~可愛い子じゃねぇか! 王都でも滅多に見ないレベルだぞ」


「ま~な」


「どこで騙して連れて来たんだよ? それにお前は女が嫌いじゃなかったのか?」


「何だよ、騙したって? 人聞きが悪い。それに俺は女が嫌いじゃない。ただ理想の相手に出会ってなかっただけだ」


「理想の相手ねぇ……確かにとびっきりの子だな!」


 門番は、エリンを頭からつま先までじろじろ見て、大きく頷いて納得している。

 ダンは軽く足を踏み鳴らして、早く入場の手続きをしろと催促した。


 肩を竦めた門番は、大きな音を立てて舌打ちをする。

 そして、悔しそうな表情をしながらも対応してくれた。


 エリンが見ていると、ダンは門番と色々と話した上で何か四角いカードのようなものを見せた。

 カードを受け取った門番は傍らの台に置いてある、透明な石にカードをかざしている。

 どうやら、問題はなかったようだ。


 ダンは更に、きらきら光る何枚かの小さな金属性の丸い板を渡していた。

 あの丸い板が、昨夜ダンから聞いた『お金』だろう。


 手続きが済み、ダンとエリンが門番の前を通り過ぎて……


「ダンの馬鹿野郎! 爆発してしまえ!」


 いきなり!

 悔しがる門番の罵声が、響いたのである。

 後ろ向きのまま、手を振ってスルーしたダンは、エリンの手を引き王都へ入って行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 こうして……

 ダンとエリンは、王都の街中を歩いている。

 周囲は結構な喧騒であったが、エリンは珍しくきょろきょろしていない。

 門番が叫んだ言葉が、耳から離れないのだ。


「ねぇ、ダン……さっきの爆発しろって……一体、何?」


 しかしダンは、面倒くさそうに首を振る。


「良いよ、放っておいて……あんなのは単なる焼餅。俺とエリンの仲が良いから羨ましがっているだけだ」


「そう……なの?」


「うん! そんな事よりエリンの身分証明書を作ろう」


「身分証明書? って、何?」


「俺が、さっき門番へ見せていたカードがこれ。エリンも同じものを作る」


 ダンが見せてくれたのは、四角な銀色の薄い金属片であった。

 何か、魔法が掛かっているようだ。


「???」


 エリンには、わけが分からない。

 しかしダンは、カードをつまんで「ひらひら」させる。


「これさえあれば、エリンは怪しい女の子じゃないって、この王国が保証する。大手を振って、この王都を歩く事が出来るんだ」


 このちっぽけな『カード』は結構な力を持っているのだ。

 エリンは、素直に感嘆する。


「へぇ! 凄いね」


「ああ、何かあった時に色々と役に立つ」


「でも……ダン。エリンはこの国の人間じゃないし……カード、作るのって難しいんじゃ?」


 エリンの疑問は、尤もである。

 しかしダンは、「問題ない」と軽く手を振った。


「大丈夫! これ、実は冒険者ギルドの登録証なんだよ。エリンも俺と同じ冒険者になって、この登録証を作れば良い。俺っていう紹介者が居るから楽勝さ」


「冒険者ギルドって……ダンが訓練した所だよね。冒険者って……そもそも何?」


「冒険者というのは簡単に言えば、何でも屋だ。お使いなどの運搬、薬草の採取、護衛、魔物の退治まで何でもやる。登録すれば、冒険者ギルドから仕事の依頼が貰えるんだ」


「仕事?」


「ああ、仕事。仕事をすればお金が貰える。お金は物や労働を仲介する物だ」


「あうう~、む、難しい!」


「ははは、一度には無理だな。少しずつ覚えるんだ、何度でも教えるから」


「りょ、了解!」


「さあ、行こう」


 ダンはまた「きゅっ」と手を握ってくれた。

 エリンも、「きゅっ」と握り返す。


 王都の雑踏を、ふたりは寄り添い、冒険者ギルドへ向かったのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ