第36話「変身②」
翌朝……
変身の魔法の説明をする前に、『いちゃモード』へ入ってしまったふたり。
改めて、説明を受けたエリンは吃驚してしまう。
ダンの使う魔法は常識外のスケールであった。
身長、体格、顔などの容姿は勿論、年齢や声までも自由に変えられるようだ。
どうやら、身体強化という補正魔法の応用形らしい。
また半永久的に効果が継続し、術者以外は解く事が出来ない。
完璧な魔法に思えたが……元の寿命だけは変えられないと、ダンは言う。
エリンは、とてもがっかりした。
ダンに言われた、人間とエルフの寿命の差がいつも頭にあるからだ。
数十年経てば、ダンの寿命が尽き、永遠にお別れとなってしまう。
エリンは『覚悟』を決めているが、何か方法があってダンの寿命が伸ばせれば良いのにと考えていた。
自分と同じくらい生きる事が出来ればと、エリンは願っている。
いつか、何らかの方法を見つけるつもりだ。
ダンの言う通り、彼は神様とは違う。
そして万能ではないから、やはりダークエルフ達が言い伝えた『救世の勇者』でもない。
でも、ダンはダンだ。
エリンには、それで良い。
優しいダンが居れば良い。
ただ、それだけで満足なのだ。
説明も充分になされたので、いよいよエリンはダンの魔法で変身する。
未知の魔法で変身なんて……エリンはさすがに緊張する。
身体が強張る。
ガチガチだ。
「ははは、エリン、リラックスしろ。……深呼吸だ」
「う、うん……リラックスって落ち着けって事?」
「ああ、そうさ。それにすぐ終わる、痛くなんかないから安心しろ」
エリンは、気を紛らわせるために色々と考える。
ダンはまるで、ダークエルフの治癒士のようだと。
小さい頃に転んで怪我をした時、彼等も優しく言いながら直してくれた。
そういえば、ダンは治癒魔法も使えるんだ。
頼もしい!
しかし……とりあえず言われた通りにしなければ。
ダンと約束したから。
妻は夫に従うものだと、亡き父も教えてくれたから。
エリンは、ダンに言われた通り大きく深呼吸をした。
漸く落ち着いた。
やっぱりダンは凄い!
色々な事を知っている。
まるで先生だ。
エリンに微笑みが戻ったのを見て、ダンは椅子に座った彼女の前に立ち、言霊の詠唱を始めた。
高く低く、部屋にダンの詠唱が響いている。
「ダークエルフの気高き王女エリンよ! 今ここに人として、仮初の姿を出現させるものなり!」
ダンの双腕から、独特な魔力波が放出された。
魔力波に包まれたエリンは、一瞬気が遠くなり、思わず倒れそうになる。
「変化!」
ダンの口から『決め』の言霊が発せられると、エリンの身体が眩い白光に包まれる。
白光はエリンの全身を包み込み、並みの人間では正視出来ないくらいに眩しかった。
暫し経ち、やっと発光が収まると、エリンは自然と手を耳へやった。
驚くべき事に……
魔法はエリンを、見事に『変身』させていた!
手触りで分かる。
いつもの、耳の形と……違う。
尖っていない。
そして、少しだけ大きくなっている。
吃驚したエリンが慌ててダンを見ると、目の前に居る彼の手にはいつの間にか手鏡が握られていた。
「フィービーからたくさん服も貰ったし……今度、エリンの為に大きな姿見を買おう。まあ今日はこれで我慢してくれ」
「う、うん……」
エリンはダンから手鏡を受け取ると、恐る恐るという感じで中を覗き込んだ。
ダンの言った通りであった。
鏡の中のエリンは、いつもと全く違っていたのだ。
確かに顔立ちは変わっておらず、健康的なやや褐色がかった肌もいつものエリンと同じだ。
しかし髪の色は、薄い栗色。
驚いて大きく見開いた目に、輝く瞳はダークブラウン。
そっと髪をかき分けた中から現れたのは……やはり人間の耳であった。
「髪の色が違う! エリンの瞳も違う! 耳が!? ……ダンと一緒だよぉ!」
エリンが、大きな声で叫ぶ。
完璧な人間の超美少女が、そこには居た。
「ははは、似合うぞ、エリン。でもその組み合わせの人間はそこそこ居るんだ。綺麗だけど在り来たりなのさ」
「これでエリン……ダンと同じ人間になったの?」
エリンは、戸惑っている。
外見は、確かに変わった。
でもエリン自身は、変わったとは到底思えない。
そんなエリンの気持ちを、見抜いたようにダンは言う。
「ああ、外見だけはな。魂は全く変わっていないが……どうだい、感想は? まあエリンはどうやっても可愛いから全然問題なしだ……人間になってもすっごく可愛いぞ」
「エリンがすっごく可愛い!? やったぁ! ダン、嬉しいよぉっ!」
変身前、正直不安はあった。
人間になるって、どんな事だろうと。
しかし、やはりダンを信じてよかった。
これで変な目で見られず、悪口も言われず堂々と王都を歩ける。
そしてダンから、「凄く可愛い」と褒めて貰えた。
エリンは喜びのあまり、ダンに思い切り抱きついていたのであった。
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