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第35話「変身①」

 アルバートとフィービーが来て、一緒に朝食を摂った日の午後……

 ダンとエリンは、王都へ旅立つ準備に追われた。

 

 ダンは、王都の概要をおおまかにエリンへ伝えた。

 

 人間界での作法など『一般常識』が主であった。

 エリンが意味不明に思った事は、赤の他人が傍に居た場合、その場で聞かない。

 後でふたりきりになってから、ダンへ聞く事も念押しされる。

 着替えも含めて、持参する荷物も確認され、全てがダンの収納魔法がかかったバッグに収められた。

  

 そして、その日の夜の事……


 エリンが、一緒に王都へ行くと宣言してから、ダンはずっと考えていた事がある。

 訳の分からない伝説や迷信など、くだらない理由で決してエリンを傷つけたくない……

 その為には、エリンへ告げなくてはならない。

 

 ダンは、真面目な顔で問う。


「エリン、俺を信じるか?」


「うん! エリンはダンを信じているよ」


 何か、大事な話がある。

 「ピン」と来たエリンも真っ直ぐにダンを見た。


 ダンは満足そうに頷くと、再び口を開く。


「じゃあ、約束してくれ、俺の指示には一切従うと。これから色々と説明もする。全部、エリンの為なんだ」


 やはり大事な話らしい。

 言葉こそ柔らかいが、ダンはエリンへ、自分に従うように頼んで来たからである。

 しかし『エリンの為』だと聞けば、彼女に異存などない。


「分かった! エリンはダンのお嫁さんだもん。旦那様の言う通りにするからね」


 エリンが了解したので、ダンは単刀直入に告げる。

 

「よっし! じゃあ結論から先に言おう。王都へ行く際、エリンには人間に変身して貰う」


「へ!? エ、エリンが人間に? へ、へ、変身!?」


 さすがに驚いた!

 エリンに、人間になって欲しいというのもそうだが、変身って!?


「そうさ。理由はいくつかある。一番の理由だが、俺はエリンを王都の奴らの悪意にさらしたくない」


「悪意?」


「そう、悪意。アルバート達が向けた誤解と偏見の何十倍、何百倍の悪意がエリンに向けられたら、俺は我慢出来ないだろうから」


「…………」


 幸い仲直りはしたが、エリンはアルバート達が酷い事を言った時には相当辛かった。

 どうして? 何故?

 誰にも何もしていないのに、自分の嫌われる理由が分からなかった。


 そしてダンはあの時、とても怒った。

 表面上は静かな物言いだったが、凄まじい怒りであった。

 

 もし、あの時以上にダンが怒ったら、一体どうなるのか?

 ダンのとてつもない力を知るエリンには、あまり想像したくない事だ。


 考え込むエリンを見つめながら、ダンは渋い表情で説明を続けてくれる。


「俺はアルバートやフィービーみたいに人間やエルフ達が、ダークエルフであるお前の事をちゃんと理解して欲しいと思う。だが王都の全ての者が、あのふたりみたいにくだらない迷信に気付き、自分に置き換えて反省するとは思えない」


「…………」


「それも王都の住民が少ないのなら、まだ時間を掛けて説得する事も出来るが……到底無理だ」


 王都の住民が少なくない?

 多いから……説得が無理?


 エリンは思わず聞いてしまう。


「え? 王都って街に住む人ってそんなに多いの?」


「おお、アルバートに聞いたら、ざっと2万人以上だってさ」


「に、2万人!?」


 エリンは、目が回りそうになる。

 亡き父に昔聞いたが、ダークエルフは一族全員で4千人と少しだったという。

 何と!

 その5倍以上の人間やエルフ達が、たったひとつの街で暮らしているのである。


「人間もエルフも、ほぼ全員が熱心な創世神教の信者だから、ダークエルフに対して酷い偏見を持っているのは確実だ。それをひとりひとり説得して回るなんて、俺は御免だな」


「…………」


「でも……誤解しないで聞いて欲しいけど……俺はアルバートやフィービーみたいに、エリンを理解してくれる人間を少しでも増やしたい」


 エリンは、戸惑ってしまう。

 ダンの言っている事が違う、真逆なのだ。


「え? でもさっきダンは説得しないって言ったよ」


「ああ、矛盾しているな。王都は住民の数が多過ぎるし、正面からまともに説得しようとしても、多分奴らは聞く耳を持たないだろうから」


「そう……なんだ」


「ああ、だからやり方を考えた。身近な信頼出来る人間から地道にやろうとね。 アルバート達みたいにさ」


「アルバート達みたいに?」


 エリンの脳裏には、今朝のアルバート達の顔が浮かんだ。

 酷い事を言われたけど……分かってくれた。

 そして、エリンへとても優しくしてくれた。


 暫くして、ダンの言う事が、エリンにも少し分かって来た。  


「ああ、それに今回の件同様、論より証拠さ。エリンが人間に擬態して既成事実を作り、もしも教えられる状況になったら少しずつカミングアウトする」


「少しずつカミングアウト?」


「ああ、俺とエリンと時間を共有している奴へ、一緒に過ごしても、何もわざわいがないと実証した上で正体を明かす。ダークエルフが呪われているなんて、くだらない迷信だと分からせるんだ。アルバート達が理解したように」


「う、うん……」


 エリンには、ダンの説明が全て理解出来たわけではない。

 しかしダンは、一生懸命話している。

 言葉も慎重に選びつつ。

 それに、考えに考え抜いた結論のようだ。


 エリンは、地上の事をまだまだ知らない。

 今迄ダンは、エリンにとって常に一番ベストな選択をしてくれた。

 だから……


「分かった! エリンはダンの言う通りにする」


「ありがとう! まあ変身といっても大きくは変えない。まず耳は変える……エリンの可愛い耳は、エルフ族特有のものだ。ひと目で人間ではないと分かってしまう」


「エリンの耳……」


「次に目立つのは髪の色、そして瞳だ。この3つを変えるだけで充分だろう。悪いが目立たないよう地味にさせて貰う」


「髪と瞳……地味に?」


「ああ、本音を言うと変えるのは残念なんだ……だってエリンの髪や瞳はとても綺麗だし、耳はぴょこんとして凄く可愛いから。特に耳は……弱点だしな」


「弱点?」


「そうさ、ほら!」


 ダンは慈愛のこもった眼差しを向けながらエリンへ近付くと、彼女の尖った可愛い耳をそっと甘噛みした。


 かぷ!


「あううん! ダ、ダンったらぁ! ダ、ダメだよぉ」


 エリンは思わず脱力して「へなへな」と、崩れ落ちそうになる。

 「ぶるぶるぶる」と身体を快感が満たして行く。

 しかしダンは、エリンをしっかりと支えながら、彼女の懇願をスルーして優しく優しく甘噛みを続ける。

 ふたりで愛し合った結果、ダンが見つけたエリンの『弱点』のひとつであった。


「エリン、俺はエリンの可愛い耳が大好きなのさ。人間の耳なんかに変えたくない! ……だけど我慢する、エリンの為だから」


 エリンは、嬉しかった。

 ダンはエリンの心は勿論、身体の隅々まで愛してくれている。

 全部愛してくれている!


「ダン! ダン! ダ~ン! エリンはダンが大好きだよぉ!」


「ああ、俺も大好きだ。エリンが大好きだ」


 愛するふたりに、もう言葉は要らない。

 

 ふたつの影はもつれあうように、ベッドへ倒れ込んだのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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