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第30話「ダンの告白③」

 ダンの表情に、笑顔が戻る。

 今迄以上の、元気が湧き上がる。

 愛する人の優しい励ましは、何よりの力になるからだ。


 エリンも安心する。

 目の前にあるのは、いつもの優しいダンの笑顔だ。


「エリン、酷い事言って本当に御免よ! そして、聞いてくれてありがとう! ……話を続けて良いか?」


「うん!」


 エリンは嬉しくなって、大きな声で返事をした。

 「ホッ」としたダンは、話を再開する。


「一方的で勝手な召喚に対して、俺は猛然と抗議した。元居た世界へ戻せと、だが奴は完全無視した上に、俺を便利屋……いや奴隷みたいに使おうとしたんだ」


「奴隷?」


「ああ、召喚されて最初の3か月間は酷いものだったよ。毎日訓練と魔物狩りで休みなしだった。睡眠時間も一日2時間なかった」


「え? 3か月休みなし? それに殆ど寝かせてくれないなんて、酷いねぇ」


「だろう? どれだけブラック企業だよって感じさ。これはお前の為だぞとか適当に言いやがって……確かに剣の腕は格段に上達して、いろいろな魔法も使えるようになったけど」


「訓練には、なったんだ」


「一応な。だけど何かあいつの様子がおかしいと思って調べたら、全ては王家の命令だと、俺には嘘をついていた。本当は冒険者ギルドの依頼を勝手に受けて、俺が貰う筈の報酬をピンハネしていやがったんだ」


「ピンハネ?」


 エリンは「きょとん」とした。

 さっきから『ブラック企業』とか、『ピンハネ』とかダンの話の中に意味不明の言葉が混ざる。


 ダンは「申し訳ない」というように苦笑する。


「ははは、ピンハネの意味が分からなかったか? 無理もない、御免。俺が働いたのに、あいつが冒険者ギルドから出た報酬を全部懐に入れていたんだよ、俺にはまっずい飯だけ食わせてさ」


 ダンが、3か月ただ働き?

 それは酷い!

 少なくとも、偉大な勇者に対する対応ではない。


「うわ、せこい悪党!」


「ああ、召喚魔法の準備とか日々の生活にもの凄い経費がかかったとか言い訳していたけれど……女だからせこい悪女だな」


「悪女って……もしかして」


「ああ、エリンの思った通り……俺を呼び出した魔法使いっていうのは、このアイディール王国の王宮魔法使いヴィリヤ・アスピヴァーラ、リョースアールヴの女だ」


「う~、その女、いろいろな意味でエリンの宿敵」


 エリンは、拳を強く握り締める。

 

 やっぱりそうだ。

 リョースアールヴは、創世神に寵愛されている事を鼻にかけた、プライドばかり高くて嫌な奴等なのだ。

 

 少なくともエリンは、亡き父からそう教えられ、古文書でもそう学んでいた。

 ダンも大きく頷いている。


「ああ、俺もそうさ。さっきはエリンに話しているうちに、ついあいつの憎たらしい顔がつい目に浮かんでね……言葉が乱暴になっちまった」


「エリン、そいつの顔見た事ないけど、ホント憎たらしそう」


「おう、やたらプライドが高くて、いつもフンって感じで、鼻が天を向いてとんがっている。俺はあいつのピンハネを知り我慢出来なくなって、お仕置きしてやった」


 リョースア-ルヴ女にお仕置き?

 何だろう?

 エリンは少し気になった。


「お仕置きって? もしかして……そのリョースア-ルヴ女をぶったり酷い事したの?」


「ああ、やれるもんならぶってみろと挑発されたから、絶対痛くないように手加減して、あいつのお尻をほんの軽くペンペ~ンとな」


 エリンはホッとした。


 目を閉じたエリンの頭の中に、「つ~ん」と気取ったリョースアールヴの女がダンに抱えられ、悪さをした子供のようにお尻を打たれるシーンが浮かんだ。

 ダンは手加減したというから、打たれる尻が痛いというより、プライドを折られ、思いっきり泣き叫んだのであろう。


 リョースアールヴ女の涙にまみれた泣き顔を想像し、エリンは思わず笑ってしまう。


「ぶはっ! それ可笑しい。ぺんぺんって悪いことした子供へのお仕置きみたい」


「うん、俺を散々タダ働きさせた罰さ。束縛の魔法で縛ってから叩いたよ。いやぁとか、エッチとか、鬼畜とか言ってたけど、10発ほど叩いたらあいつ大人しくなってな。意外にも御免なさぁいって泣いちゃったんだ」


 やはりというか、リョースアールヴの女魔法使いはエリンの想像通りに泣いていた。

 当然、エリンは同情などしない。


「ふうん、少しは可愛げがあったんだね」


「おお、そうだな。それで泣き止んだあいつに、何故俺を召喚したのか聞いた。そうしたら王宮に創世神の巫女とやらが居て、その神託を受けたんだと」


「やっぱり創世神様の?」


「ああ、きっかけはな……その神託を受けてあいつが俺を召喚した」


 徐々に、ダンの話が核心へ近づいて来た。

 エリンはそう感じて、表情が真剣になる。


 無言で、もっと話を聞きたいとせがむエリンに、ダンは話を続けてくれた。


「で、俺は反省したあいつを連れてこの国の王宮へ行った。そして宰相様……国王の弟に会った。勇者召喚成功って口実でな」


「そ、それで……どうなったの?」


「うん、俺は宰相へ全てを話した。俺自身、勇者の力なんてないし、こんなの理不尽過ぎるから元の世界へ帰してくれって」


「その宰相は何て答えたの?」


「うん、勇者召喚の魔法は一方通行だから、元の世界には帰る事が出来ないと言われた。俺はがっかりして、だったら自由をくれと要求したんだ」


「自由を要求? ダンが」


「おお、その宰相様が意外にも凄く話の分かる良い人だった。たま~に王国から出す依頼をこなせば、今迄みたいにこきつかったりしない、それなりの報酬も渡すって約束してくれたのさ。その上、自由に暮らすのも認めるって了解してくれたんだ」


「へぇ! よかったね」


 エリンは、素直に喜んだ。

 ダンを召喚したこの王国は、間違いなく彼を勇者として見ている。

 普通なら貴重な人材である勇者を、絶対手元に置いときたがる筈だ。

 それを、ダンがこのように気儘な暮らしが出来るよう解放してくれた。


 ダンが会った宰相という人は、凄く度量の大きい人だとエリンも思う。


 穏やかな表情のダンは、じっとエリンを見つめる。


「それで王都から少し離れたこの家をくれて、俺はひとりで自由気ままに暮らす事になった。アルバート達って監視付きだけど……その後、何回か王国からの依頼をこなした。今回、魔王討伐の依頼を受けて地下世界へ行った時に……エリン、お前と出会った。そういう事なんだ」


 ダンは話し終わると、大きく息を吐いた。

 

 しかしエリンを見つめる眼差しには、かけがえのない大事な人だという強い思いが込められていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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