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第28話「ダンの告白①」

「うっわぁ、最高だったよぉ! エリン、益々魚が好きになっちゃった」


 エリンが、「ぺろり」と舌で唇を舐めた。

 楽しい夕飯が終わり、ハーブティーを飲みながら、エリンはうっとりしている。


 昼間食べた焼き魚は勿論、ダンは他に魚料理を作ってくれた。

 

 ひとつはフライパンで鱒を焼いたバターソテー、そしてもうひとつは鱒と野菜を煮込んだスープである。

 焼き魚とは全く違う、バターの風味にエリンは吃驚びっくりした。

 エリンが見た事もない、『牛』という動物の乳から作ったという。


 そして鱒のスープも、そう。

 ウサギの肉を使ったものとは全く違う味わいで、あっという間に完食してしまったのである。

 勿論トム達にも、焼いた鱒がたっぷりと大盤振る舞いされている。


 興奮冷めやらぬエリンは、大きな声で言う。


「ダン! 料理方法を変えれば、同じ魚でもこれだけ味が違うんだ!」


「そうだな、鱒の料理はまだまだたくさんあるぞ」


 まだまだ違う料理がたくさんある?

 エリンは驚き、感動した。


「あう! 料理って凄いんだねぇ。エリン、感動しちゃったよ。今度はエリンもぜひ、作りたい、作ってみたいよぉ」


「そうか? 俺の作るものなんて全くの素人料理だけど、それで良ければ教えるよ」


「ううん! とっても美味しいよ。ダンはダークエルフの料理長と同じくらい凄いよ」


 エリンはダンの愛情のこもった料理を食べて……

 地下世界に居た頃に可愛がってくれた『料理長』を思い出した。

 

 ダークエルフ達が作る、料理の食材や調理方法は地上とは全然違う。

 けれど、作った料理をエリンが美味しいと言うと、料理長はとても喜んでいたのである。


 ダンとしては、エリンに喜んで欲しい。

 だから、つい言ってしまう。


「ははは、その人が居れば、俺もプロの料理を習えたのにな」


「うん……もし居ればエリンも凄く嬉しいのに……だけど、料理長、エリンを守って死んじゃった……」


 エリンの目が、遠くなっている。


 ……もう、エリンに同族は居ない。

 父も料理長も、仲間全てがこの世には居ないのだ。 


 ダンの表情もつらくなる。

 愛するエリンの悲しみが、まるで自分の悲しみのように感じるから。


「……そうか、御免、エリン」


「うう、あうあう……」


 エリンは、料理長との思い出を呼び覚まされて感極まったらしい。

 美しい菫色の瞳が、涙に濡れていた。


「エリン……」


 思わずエリンの名を呼ぶダンに、エリンは切々と訴える。


「ダンは絶対に死んじゃダメだよ! エリンを置いて、どこかに行くのもいけないよぉ」


 叫ぶように言い放つエリンを、ダンは「きゅっ」と抱き締めた。


「分かっているさ。俺はエリンのそばに居る」


「約束だよ、ダン」


 エリンは安心する。

 ダンに抱き締められた確かさは、夢ではなくはっきりとした現実なのだ。

 

 もうたったひとりぼっちではない。

 自分には、想い人ダンが居る。

 襲い来るひとりぼっちになった孤独も、わけが分からない差別も怖くない!

 ダンが居るから、全然怖くないのだ。


 愛するふたりは、しっかり抱き合って元気が出る。


「さあ、エリン。後片付けしよう」


「了解!」


 ダンとエリンは一緒に、張り切って食事の片づけをしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕飯後、風呂に入ってさっぱりしたのに……

 ダンとエリンは、また汗だくになってしまった。

 何故ならば……

 ふたりは昨夜以上に「激しく愛し合った」のである。

 

 初めて好きになった相手を、もっともっと愛したい。

 相手を絶対に、絶対に失いたくない!

 そんな、強い気持ちの表れであった。


 ふたりは今、ベッドでまどろんでいる。


「ダン、ダン、ダーン!」


 大きな声で呼ぶエリンが、ダンの胸に鼻をすりすりしていた。


「ははは、エリンは甘えん坊だな」


「うふふ、だってぇ……」


 ダンはもう、エリンが可愛くてたまらない。

 安心しきって、胸の中で甘えるエリンを決して手放したくない。


 そんなダンの脳裏に、突然アルバート達の忌まわしい言葉が甦って来た。

 しかし、可憐なエリンを見たら事実とは思えない。


 こんなに愛らしい少女が呪われているって?

 馬鹿馬鹿しい!


 一方のエリンは、今日一日の出来事を思い出していた。


 高い木の上からダンと一緒に見た、地上の素晴らしい風景……

 まだ、はっきりと目に焼き付いている。


 生まれて初めての魚釣りは、吃驚したけど面白かった。

 そして、魚という生き物がこんなに美味しいという衝撃の事実。


 冗談を言い合える、優しい家族が居る充実した暮らしは、エリンにとってこの上ない幸せだ。

 そして、大好きなダンにたっぷり愛して貰った。

 

 エリンはとても満ち足りていたのである。


「ダン、これが女の幸せって奴?」


「おお、この前の相思相愛とか、女の幸せとか、エリンはたまに凄い事言うなぁ……」


「ええっ? たまになの?」


 エリンは、不満そうに口を尖らせた。

 勿論『ポーズ』である。


 他愛のない会話。

 意味のなさそうな会話。

 他人から見れば、何気なく過ごしている、平凡な時間に見えるかもしれない。

 だけど、ダンとエリンのふたりにとっては、大事な思い出の積み重ねとなる。


「ははははは」


「うふふ」


 エリンの笑顔を見るダンが、何か決心したという表情で口を開く。


「エリン……俺はお前の事がもっと知りたい」


「うん、エリン、教えるよ」


「そうか、ありがとう。でも俺の事も知って欲しいんだ」


「エリンもダンの事もっともっと知りたい! 知らない事がい~っぱいあるんだもん!」


「じゃあ……まず俺の事を話そうか?」


 ダンが、大事な話をする。

 とても大事な話を。

 エリンにはピンと来た。

 「ごくり」と喉が鳴る。


「エリン、驚かないで聞いて欲しいんだ……俺はこの世界の人間じゃない」


「え?」


 「ぽかん」とするエリンを、見つめるダンの表情。

 ……それは初めてエリンが見る、「怖い!」というくらい真剣なものであったのだ。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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