表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/191

第27話「家族の団らん」

 その日の午後遅く……

 ダンとエリンは、意気揚々と家へ帰って来た。

 湖で得た、たくさんの『お土産』を持って。

 但しダンが収納の魔法を使っているので、見た目には、何を持ち帰ったのかは分からない。


 あるじの帰還に、例によって『犬』達は嬉しそうに吠え、『黒猫』はマイペースで出迎えもせず屋根の上に丸くなっている。


 屋根の上に居る、不貞腐れた感じな『黒猫』へ、エリンが悪戯っぽく笑う。


「トームちゃん」


「な、何だよ、ダークエルフ」


 いきなり呼びかけられたのと、変に愛想が良すぎる?エリンに、妖精猫ケット・シーのトムはちょっと慌てた。

 しかしトムの返事を聞いて、エリンは口を尖らせる。


「そっちこそ何よ、ダークエルフって……ふうん、エリンの事……今朝みたいに名前で呼んでくれないの?」


 エリンの抗議に、トムはそっぽを向く。


「はん、いつ誰をどう呼ぼうと俺の勝手じゃん。お前をいちいちエリンなんて……面倒臭ぇ……所詮ダークエルフはダークエルフだろ」


「へぇ! 良いのかなぁ? そんな事言ってさ。エリン、トムへお土産あげるの……やめようかな」


 今度は、エリンが腕組みをして横を向いた。

 しかし、天邪鬼なトムは鼻を鳴らす。 


「ふん! 土産だと? そんなの要らねぇよ!」


「本当に要らないの?」


 エリンが再び聞いても、トムは知らんふりである。

 

「要らねぇったら、要らねぇ! ん? それより、お前。さっき帰って来た時から何か焼いたような良い香りがするぞ? ふんふんふん」


 頑ななトムではあるが……ずっと気になっている事があった。

 妖精猫の鼻は、当然鋭い。

 人間の数万倍以上あると言われる猫の、更に上を行っている。

 その鼻がエリンから、何やらかぐわかしい香りが漂って来るのを捉えたのだ。


 トムに、香りの正体の予測はすぐついた。

 「多分そうだろう」と思っていたが、「おかしい」とも思っていた。

 いつものダンなら、すぐにアレをトムへ誇らしげに見せてくれるのに。

 

 でもこの香りは、絶対に間違いない!


 目を丸くしたトムは鼻をひくつかせて、もう一回エリンから漂う香りを嗅ぐ。

 そして確信する。


 やっぱり間違いない!

 エリンから漂う残り香は、トムの大好きな食べ物のひとつだと。


 吃驚したトムは屋根から降りると、エリンの傍へ行き周囲を嗅ぎまわった。

 当のエリンはというと、相変わらず面白そうに笑っている。


「うふふ、ト~ムちゃん、エリンから一体何が匂うのかなぁ?」


「あ~っ、あっ、あ~っ、ああっ! こ、これはっ!? やっぱり!」


 トムの、喉まで出かかった大好きなあの魚。

 しかしエリンはとぼけながら、ここで種明かしをしてしまう。


「うふふ、トム。どうしたの? 変な声出して? ところでさ、『鱒』って凄く美味しいね、最高!」


「ぐはっ、やっぱりそうだよ! 鱒だよぉ! ぎゃう、ぎゃう、ぎゃう! このダークエルフめぇ! 生意気だぞぉ、俺様を差し置いてうっまい鱒を先に食べやがってぇ! 新参者の癖にぃ!」


 思った通りの答えを言われて、大声で罵倒するトムであったが、こうなるとエリンも負けてはいない。


「そんな酷い事言ってるとぉ、ご飯お預けだよ。エリンとダンとワンちゃん達だけで鱒ぜ~んぶ食べちゃおうかなぁ」


 飯がお預け!?

 それも、ご馳走の鱒が、自分だけ食べられない!?


 エリンの意外な反撃に、トムの口調は一気にトーンダウンする。


「くうううう……にゃあ、にゃあん……そんな冷たい事言わないでぇ……ご、後生だから……トムにも……鱒、ちょ~だい」

 

 すると!

 エリンは意外にもあっさりと許し、トムへ優しく微笑んだのである。


「いいよっ、あげるよ! 一緒に食べよう、トム」


 地獄から天国……

 トムの表情は、「ぱあっ」と明るくなった。


「うわぁ、本当に!? ダークエルフ! い、いやエリンちゃんはまじ天使!」


 トムは、慌てて名前を言い直す。

 「ごろごろ」と喉を鳴らしながら、エリンの足に「すりすり」している。


 ふたりのやりとりを、笑顔で見守っていたダンもうんうんと頷く。


「ははは、トムは鱒には目が無いからな」


 鱒が、何よりトムの大好物!

 ダンの言った通りであると、エリンは思う。

 その証拠に……


「へへぇ、エリン姫様~、貴女に一生懸命仕えますから、この哀れな腹ペコの妖精猫に、鱒というご褒美をお恵み下さい~」


 いつの間にか二本足で立ちあがったトムが、王女に対して跪く忠実な騎士のようなポーズを取っていた。

 これはトムが示す、エリンへの愛情だ。

 食べ物で買収されて、節操が無いようにも見えるが、元々トムは不幸なエリンに同情的であった。

 最初のやりとりも、本心からではない。

 だからエリンも、トムに応えてやる。


「うふふ、了解! じゃあすぐ焼くからねぇ」


「にゃあごっ、にゃあごっ」


 『エリン姫』の寛大なる処置にトムはもう狂喜乱舞していた。


「うふふふ」


「はははは」


 その姿が可笑しくてエリンが笑い、ダンも笑う。


 これが、楽しい家族団らんなのだろう。

 ダンの家は、久々に明るい笑いに包まれていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ