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第26話「魚に夢中②」

「うわあっ」


 エリンは叫ぶ。

 握った竿が信じられないくらいの力で引っ張られるのだ。


「いやいやいや~っ! ダメ~ッ」


 首を激しく振るエリンへ、ダンがアドバイスを送る。


「エリン、焦るな。さっき俺がやったのを見ていただろう。万が一逃がしたって構わない、じっくりと頑張ってみろ」


「うう~っ、ダン、この魚、凄いよ。凄い力でエリンを引っ張るよぉ」


「そりゃ、そうさ。魚もエリンに食べられたくない、釣りだって狩りなんだ」


「うううっ、釣りは狩りなの? あ、こ、こらっ、魚め。大人しくしろっ」


 ダンに試してみるように言われ、エリンは生まれて初めて魚釣りに挑戦したのである。

 言われた通り、針に餌を付けて湖へ投げ込むと、すぐに魚が食いついた。

 

 エリンは、吃驚してしまう。

 ダンは簡単にやっていたが、見るのとやるのでは大違いだったからだ。

 魚が思った以上に強い力で暴れ、エリンに抵抗したのである。


「エリン、思い出せ。俺は竿を立てたり、左右に振ったりしていただろう? そうやって魚を疲れさせるんだ」


「う、うんっ! エリン、やってみるよ」


 エリンは、暫く魚と『格闘』する。

 そのうち、だんだんエリンの竿捌きが、スムーズになって来た。

 応用力に優れたエリンは、すぐコツを掴んだらしい。


「はっ、さっ、よしっと」


 エリンは魚を水面に浮かせると、徐々に岸へ引き寄せる。


「良いぞ、エリン。一気に引き上げろ」


「はいっ!」


 ダンに言われ、エリンは思い切り魚を引き上げた。

 褐色の魚体が踊り、鱒は岸に落ちた。


「あはっ、やった、やった! エリンが釣ったよぉ、魚」


「ああ、良くやった。エリン、偉いぞ」


「うふふ、ダン。もっともっと褒めてっ!」


 褒められて嬉しそうなエリンに、ダンは微笑む。

 実際、エリンの竿捌きは、初めてとは思えない見事なものであった。


「おお、褒めるぞ、初めてにしてはバッチリだ。エリンは釣りの天才だな」


「ホント? エリンは釣りの天才? えっへん!」


 得意げなエリン。

 頃合いだと見たダンは、魚を食べる事を打診する。


「よ~し、俺も腹が減った。二匹釣ったから俺とエリンで一匹ずつ食べよう」


「ど、どうやるの?」


「可哀そうだけど……こうさ……ありがとう! お前の命を貰うよ」


「あ!?」


 エリンは、思わず声を上げた。

 ダンは、ナイフで跳ねていた魚に『とどめ』を刺したのである。


「見たか、エリン。俺達はこうやって他者の命を貰い、命を支えている。感謝するんだ」


「そう……だね。……分かった、エリン、魚にありがとうって言うよ」


「ああ、偉いぞ、エリン」


 どうやらエリンは、生きる為に食べる『本当の意味』が分かったようであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 まずダンは、魔法で火を起こす。

 集めた小枝に炎が燃え上がった。


 そして小枝を削り、一方を尖らせた。

 最後に、魚をさばくのである。


「じゃあ俺が鱒を捌くから、エリンも見ていてくれ」


「了解」


 ダンはそう言うと、ナイフを使って器用に魚を捌き始める。


「まずこうやって表面の鱗を取る。鱗というのは、動物や魚などの身体を守る為のものだ。俺達が食べる時には、基本的に邪魔になるからあらかじめ取っておくのさ」


「うん! 了解」


「次に尾に近いお腹から割いて行く。魚の顎の下まで割くんだ」


「ふむふむ」


「次に内臓を取り出す。ナイフでやって、取れなければ手も使う」


 ダンの『処理』を見て、エリンが美しい眉を顰める。


「う、結構グロテスクだね」


「ああ、内臓はな……取り終わったら、水でお腹の中を洗う」


「うん、綺麗になった」


 エリンの言う通り、魚は鱗と内臓を取られて、即焼ける状態になった。

 次は……


「よっし、エリンも自分で食べる魚の処理をやってみようか?」


「え? う、うん……エリンもやらなくちゃ、ダメ?」


「ああ、やらなきゃ駄目だ。でも魚に慣れれば肉も捌けるようになる」


「あう~、で、でも頑張る! エリンは、ダンの為に頑張るよ」


 宣言通り、エリンは頑張って鱒を捌いた。


「うう、やったよ。やっぱり内臓が気持ち悪かった!」


「頑張ったな、エリン。じゃあ、いよいよ焼くぞ」


「焼くの? どうやって?」


「さっき、俺が削った小枝があっただろう」


「これ?」


「ああ、そうだ。これを鱒の口から入れて刺す。尾の手前に抜けるように刺すんだ」


「うん、やった!」


 エリンは言われた通りに鱒に小枝を刺して、ダンに見せた。


「よっし、OK! じゃあこれをたき火のやや外の地面に刺す。たき火も最初は煙だけだから火がしっかり回ってから焼くんだぞ」


「えっと、ダン。魚は火にかざして直接焼かないの?」


「ああ、こうしても充分焼けるから大丈夫」


 ダンがこれからやろうとしているのは、『強火の遠火』という焼き方である。

 火を強くし、魚を火から少し離した適度な距離で焼くと、全体に均等近い熱を与えることが出来る。

 その為に、魚本来の旨味を逃がさず隅々までしっかりと火を通し、表面の焼き色など見栄えも良くなるのだ。


「う、うん……じゃあ、やってみるよ」


 エリンはダンに言われた通り、半信半疑で鱒を刺し小枝を地面に突き立てた。

 当然ダンも同じようにして、自分の魚をエリンの隣に突き立て、焼き始める。


 やがて……

 魚を焼く香ばしい匂いが、辺りに漂い始めた。


「うっわぁ、良い香り!」


「だろう?」


「は、早く! エリン、早く食べたいよう」


「ははは、ちゃんと焼けるまでちょっと待て」


 魚には、寄生虫が居る事がある。

 しっかり火を通して、焼かないといけないのだ。


「ううう、ダンの意地悪」


 魚の焼ける匂いで、もうエリンのお腹は鳴りっ放しだ。

 暫し経って、やっとダンのお許しが出た。

 慌てて食べ、やけどをしないよう注意されて、エリンはそっと小枝を掴んだ。


「うふふ、食べるぞ~」


 ばくっ!


 エリンは、豪快に魚をかじる。

 すると……


「あふあふあふ! 熱いよぉ! そして、お、美味しい~っ、すっごく美味しいよ、ダ~ン」


「ははは、良かったな、エリン」


「うんうん、エリンは魚に夢中だよ。大好き、ダンの次に大好き!」


 大喜びして焼いた鱒を頬張るエリンを、ダンは優しく見守っていたのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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