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第23話「眩い大地③」

飛翔魔法で大空高く飛ばされたダンとエリンは、態勢を立て直すと一番近い木の梢に降りた。

 梢は地上から結構高く、たっぷり20mはある。


 これからどうなるのだろうと、エリンが問う。


「ダン……何が起こるの?」


「エリン、少し様子を見るぞ」


 ダンとエリンが眼下を見ていると、遠くで多くの獣が遠吠えし、やがて眼下を茶色の体毛をした鹿の親子が走って来た。

 どうやら、何かから逃げているようだ。

 必死になって、駆けている。

 そして、その少し後……

 犬のような動物が、数十匹も群れを成して後を追っていた。


「ダン!? あ、あれはっ!」


「逃げているのは、鹿という草食動物の親子だ。後を追っているのが、狼という肉食動物さ」


 当然だがエリンは鹿を見るのも、狼を見るのも生まれて初めてである。

 しかし鹿の親子が襲われそうになっている様子を見て、すぐに状況を理解したようだ。


「ダ、ダン!」


 鹿の親子を助けて!


 縋るような目で見るエリンに、ダンは無言でただ唇を噛み締める。

 エリンには、不思議だった。

 いつもの優しいダンなら、すぐ鹿を助けようと行動に移る筈である。

 それが何故?


「ダン!」


 エリンが再度、呼ぶ。

 ダンは漸く頷いた。


「エリン、俺が何故迷ったのかは後で話そう。とりあえず狼からあの親子を助けるぞ」


「はいっ!」


 ダンはエリンを抱えたまま、飛翔魔法で降下した。

 狙いを定めて、鹿と狼の間に飛び降りる。

 いきなり現れた闖入者に、双方の動物達は驚いた。


「鹿さん! もう大丈夫よ、エリン達が助けるからね!」


 エリンは優しく呼びかけるが……

 怯えた鹿の親子は、すぐ逃げ去ってしまう。


「ああ、逃げちゃった……折角エリンが助けてあげるって言っているのに……」


「ははは、鹿から見たら狼も俺達も一緒なんだ」


 ダンの軽口に、エリンはむきになって反論する。


「ち、違うもん! 確かにダンは女の子を食べちゃう狼だけど、エリンは違うよ」


 むきになりながらも、エリンには余裕があった。

 相手と、一線を越えた女ならではの『甘え』である。


「おいおいおい、どさくさに紛れて、何て事言ってるんだ?」


「うふふ、嘘!」


 があおおおっ!

 がるるるるっ!


 ダンとエリンが、じゃれているところへ狼の群れが唸る。

 そして襲い掛かろうと牙を剥く。


「ひっ!」


 肉食獣の凄みを、初めて体験するエリンは身が竦んだ。

 エリンはかつて、アスモデウス麾下の魔族共をあっさり屠った。

 比べれば魔族の方が絶対に強いだろうが、目の前の狼は完全に捕食者としてエリン達へ迫っている。

 喰われる対象として、独特な恐怖を感じてしまうのだ。


「エリン、丁度いいから改めて教えておこう、こいつらが狼だ。肉食でこのように群れで狩りをする」


「ダン、こいつら唸っている、凄く怒っているよ……」


「ああ、狩りを邪魔されたのを怒っている。逃げられた鹿の代わりに、俺達を喰おうと威嚇しているのさ」


「狼が私達を……食べる……の?」


「ああ、こいつらは捕食者だ。獲物を襲って、その肉を食って生きている」


 がああああっ!

 ごおおおおっ!


 ダンが、説明した瞬間であった。

 狼達が凄まじい声で咆哮し、一気に押し寄せて来た。


 エリンが、思わず悲鳴をあげる。 


「きゃあああっ!」


風の壁(ウインドウォール)!」


 間を置かずダンの魔法が発動し、見えない強力な風の壁が、狼の行手を阻む。


 ぎゃん! がう! あおうん!


 狼達は、見えない風の壁に思いっきりぶつかり、後方へ弾き飛ばされた。


「ダン!」


 エリンが、またダンを呼んだ。


 ダンとエリンが本気になれば、こんな狼の群れなど敵とはならない。

 こんなに怖い狼だが、殺すほどではないという気持ちが籠もっていた。


 ダンもすぐ、エリンの気持ちが分かる。


「ああ、こいつらは殺さない。ただ少し脅かしてやろう」


「脅かす?」


 脅かすとは?

 ダンは、何をするつもりなのだろう。


 エリンの問いに、ダンは答える。


「うん、少し幻を見せてやるさ」


 ダンは「ピン」と指を鳴らす。

 あっという間に、ダンから放出された魔力がふたりを包んだ。


 不思議な事に……

 狼達が襲っては来ず、逆にふたりを見てたじろいでいる。

 エリンには状況が分らないが、魔法は上手く発動したようだ。


「よっし、エリン。ガオーって吠えてご覧」


 面白そうに笑うダン。

 いきなり振られたエリンは、全くわけが分からない。


「え?」


「ほら!」


 ダンに促されて、エリーは吠える。


「うん、がおうっ」


「よし、俺もだ。ガオ~ッ!」


 ぎゃん! ぎゃう! うおおん!


 先程の鹿親子と同じように、今度は狼達が一目散に逃げて行く。

 パニックになって、こける者も出る始末だ。


「あれれ? どうして?」


「ははははは! 幻覚を見せる魔法で、俺達を凶暴なドラゴンに見せたんだ。そりゃ怖いだろうなぁ」


 ダンは、エリンの意図を汲んでくれた。

 鹿も狼も、両方死なずに済んだ。


 エリンはとても嬉しくなる。


「えええっ!? そうなんだ、魔法なんだね。ダンはさすがだよ、鹿は助かって狼も殺さずに済んだんだね」


 エリンが褒めると、ダンはすまし顔で言う。


「そうだな、でもすっかり遅くなっちまった。少しズルをするか」


「ズル? ダンって真面目なのにズルをするの?」


「おお、ズルはまずいか? じゃあ臨機応変に予定変更したと言おう」


 ダンが表情を変えずに、言い方を変えたのを聞いて、エリンが突っ込む。


「わぁ、モノは言いよう」


「全くだ」


 ダンは、笑いながら「おいでおいで」をしている。

 エリンには、すぐ分かった。

 ダンはまた、自分を抱えて空を飛んでくれるのだ。


「わ~いっ、ダ~ン」


 エリンは思いっきり、ダンの胸へ飛び込んだのであった。

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