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第186話「外伝・薄幸な王女と孤独な英雄」

 大星おおぼしダンが勇者として召喚され……

 3か月あまりが過ぎた。


 ダンはヴィリヤと、

 彼が召喚される少し前、新たに赴任して来たヴィリヤの副官ゲルダの指導により、日々魔法と武技の鍛錬たんれんに明け暮れた。

 

 または召喚の際に得られた知識の復習。

 及び補足の講義を受ける。


 ダンは抵抗の素振りを全く見せず、従順な態度をとっていた。

 鍛錬も学術もひたすら真面目に邁進していた。


 それ故、ほぼ「危険なし」安全と見なされたのであろう。

 ようやく外出を許された。


 その際は、ゲルダの監視付きという微妙な条件ではあったが……


 召喚後……

 初めて屋敷の外へ出たダンは驚いた。

 かつて自分が愛読していたライトノベルの世界のように……

 家の側面が白壁で、屋根はカラフルな配色の中世西洋風の街並みが広がっていたからだ。


 街行く人々は、やはり西洋風の衣裳に身を包んでいた。

 輝くような金髪や明るい栗色の髪が多く、ダンのような漆黒に近い色の髪を持つ者は殆ど居なかった。

 

 またアイディール王国は、ヴィリヤの故国、エルフの国イエーラと友好関係にあった為……

 人間以外にエルフの姿も目立った。


 またエルフとは犬猿の仲であるドワーフの姿もちらほら見かけられる。

 ただ、けして争わないところを見ると、両方の種族にとって、アイディール王国は『中立地帯』と規定されているようだ。


 2回目の外出で、ダンは買い物と食事をする事を許された。

 久しぶりの買い物は楽しかった。

 また、食事は屋敷で出される野菜中心のエルフ料理よりもずっと美味かった。

 しかしヴィリヤの方針により、昼間の飲酒は厳禁とされたのである。


 こうして……

 ダンは数回外出した。

 

 ヴィリヤはそろそろ頃合いと見たのであろう。

 ゲルダとダンを伴い、3人で王宮へおもむいた。

 王宮に居る重要人物ふたりに会う為である。


 ひとりはアイディール王国の実権を握る国王の弟・宰相フィリップ。

 そして国王とフィリップの実妹、創世神の巫女ベアトリス。

 両名へ謁見し、神託により勇者として召喚したダンの顔見せをさせるのだ。


 宰相フィリップとの謁見はとりとめもない話で終わったが……

 王女ベアトリスとの謁見において、話を聞いていたダンは複雑な思いで彼女を見ていた。

 

 もしも、このベアトリスが創世神の神託を受けなければ……

 自分はこの世界へ来る事は絶対にありえなかったと、確信していたからだ。

 

 ヴィリヤから聞いていた通りに……

 巫女になったベアトリスは視力を完全に失い、身体の自由もままならなくなっていた。


 ダンは、ベアトリスと会い話すと……

 僅かに残っていた彼女への『恨みつらみ』を完全に捨てた。


 世界を破滅の危機から救う為に……

 覚悟を決め、敢えて身を投げ捨て……

 『創世神の巫女』となった美しい少女の、深い悲しみと健気な覚悟が……

 ひしひしと伝わって来たからである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 更に数回外出を重ねると……

 ダンは『単独』で外出が許される事となった。


 少額の金を貰ったのと、街の勝手もある程度分かって来たので、ほぼ自由に行動出来る。

 最初にヴィリヤと話した時に全く支障を感じなかったので、不可解には思ったが……

 この世界の者が話す言葉は大抵理解出来て、文字も判読可能であった。

 その為、やりとりに不自由さは感じなかった。


 そうこうしているうちに……

 また『イベント』が起こった。

 かつてダンが愛読していたライトノベルの世界では、有名な冒険者ギルドへ連れていかれたのである。


 その頃には、ダンの勇者としての才能はどんどん開花しつつあった。

 既に彼の実力は魔法、武技共に一流の領域へと入っていたのだ。

 但し、「あまり人前で実力を見せないように」とヴィリヤからは釘を刺された。


 閑話休題。


 既に、冒険者ギルドへは話が通っていたらしい。

 ダン達はいきなりギルドマスター室に案内され、マスターのベルナール・アスラン、サブマスターのイレーヌ・リーのトップツーに引き合わせされたのだ。


 ギルド訪問前、ヴィリヤから聞いていた話だと、

 ベルナールは何頭ものドラゴンを倒したアイディール王国の『英雄』だという。

 

 しかし、明るく笑うベルナールにはどことなく陰があった。

 

 愛する家族を失い、哀しみを無理やり押さえつけ、心の奥底深くにしまい込んでいる……

 ダンにはそんな気がした。


 勇者としての能力が覚醒かくせいしつつあるせいだろうか……

 ベルナールが放つ、孤独に慟哭どうこくし寂しさを嘆くわずかな波動を、ダンは敏感に感じ取っていたのだ。

 

 しかしダンは、ベルナールとは初対面である。

 いきなり、立ち入って個人の事情をきくつもりはない。

 

 つらつら考えているダンに対し、

「大星ダンという本名は使えない」

 と、その場でヴィリヤから言われ……

 とっさに浮かんだダン・シリウスという名前で冒険者登録し、加えて簡単な実技試験が行われた。


 冒険者ギルドの実技試験とは、ランク判定の為の模擬戦闘である。

 対戦相手は何と!

 マスターのベルナールであった。


 しかしダンはヴィリャの命令通り、あまり実力を出さなかった。

 片やベルナールも特別な客が相手という感じで、恐る恐る戦っていたふしがある。


 そして実技試験の結果は微妙なランクB。

 一応、ギルドでは上級ランカーという位置付けなのだが、『勇者』という称号の割にはだいぶ微妙、はっきり言って地味であった。


 自分の指示に対し、忠実な行動をしたダンを見て、ヴィリヤは満足そうに笑みを浮かべていた。


「ダン、私の指示通りで良い。それで良いのだ」


 ギルドの冒険者登録後……

 ダンの行動における『自由度』は格段に増した。

 召喚者のヴィリヤに対し、忠実な『勇者』だと判断されたのである。


「今後はひとりで冒険者ギルドへ赴き、魔物討伐の依頼を受け、そこそこにこなせ」

と、ヴィリヤから半ば放任するような感じで言われたからだ。


 ダンには、何となく分かった。

 魔物討伐依頼をそこそこにこなす理由は、勇者としての実戦経験を積む事らしい。

 宿舎は引き続き、ヴィリャの屋敷に用意されたダン用の個室を使って構わないとの事。


 こうして大星ダンは……

 勇者になる前の『試運転』として……

 ダン・シリウスというランクBの冒険者にて、多くの魔物と戦う事になったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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