第185話「副官・ゲルダ・ボークス」
ヴィリヤは副官のゲルダ・ボークスに命じ……
自分の屋敷に魔法、武技、スキル、そして学問といろいろなスペシャリストを呼び寄せ、ダンの本格的な修行を実施した。
ライトノベル等で読んだ剣と魔法の雑学的知識があったとはいえ……
空想の世界と現実は大幅に違う。
そして言うは易く行うは難しのことわざ通り、頭で憶えたとしても、実践は更に困難であった。
教官役たるスペシャリスト達は指導に容赦がなかった。
鉄は熱いうちに打てとばかりにしごいて来た。
愛の鞭とばかりに、言葉の暴力――罵詈雑言も容赦がない。
しかしダンは耐えた。
全ては自分の秘めた能力を覚醒させ、強くなる為だ。
強くなれば何かが変わり、新たな道が開けると信じた。
その結果、2か月後、地道に愚直な努力の結果……
ダンの才能は開花し、学んだ事は花と咲いて、実がなった。
ヴィリヤは大層喜び、今後は勇者デビューに向け、副官ゲルダを教育係にすると宣言したのである。
それまで……
ダンとゲルダは命令と返事しか交わした事がなかった。
教育係に命じられた初日……茶色の髪ととび色の瞳を持つゲルダは与えられたダンの個室へとやって来た。
ゲルダは剣聖に近い腕を持つ魔法剣士という話だ。
ヴィリヤの護衛役も兼ねていた。
「ダン・シリウスよ。今日からお前の教育は一切合切、私ゲルダ・ボークスが行う。今まで通り、ヴィリヤ様と私の命令には絶対服従だ」
ゲルダの物言いに対し、ダンは短く答える。
「……かしこまりました」
へりくだるダンを見て、ゲルダは淡々と言う。
「……ふむ、殊勝な事だ」
「………………」
ダンが無言で返すと、ゲルダがぽつりと言う。
「良く……平気でいられるな」
「………………」
「もしも私がお前の立場なら、絶対に正気ではいられない」
「………………」
「戸惑い、混乱した挙句、絶望の淵に沈んでいる」
「………………」
「しかしお前はすぐ立ち直り、真面目に学び、ひたすら修行をし続けている」
ゲルダの言葉は本音なのか、何か意図があるのか……
沈黙は金雄弁は銀とばかりに、ダンは相変わらず無言である。
「………………」
「それが何故なのか、私には分かる」
「………………」
「そうだ、もしも私がお前の立場なら……じっくりと力を蓄える。そして勇者として完全に覚醒したら、機を見て、この屋敷を脱出する。そして自由の身となるだろう」
「……………………どうして、そのような事を言うのですか?」
「ふっ、意味はない。ただ自分に置き換え、つぶやいてみただけ……単なる独り言だ」
「………………」
「さあ! 今日も学習と修行を始めるぞ! さっさと準備をしろ!」
「……かしこまりました」
……こうしてダンとゲルダの間には、特別な何かが結ばれ始めたのである。
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