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エピローグ・第183話「また会う日まで②」

 エリンとヴィリヤ……

 ふたりの回想は、まだまだ続いている……


 話題はダンがこの世界へ来る前の話となっている。

 想像が殆どを占めているのだが……


「ねぇ、エリン……旦那様の本名って、私達の知らない異世界らしく、不思議な響きだよね?」


「うん、オオボシダン……確かそう言ってたよ、ヴィリヤ」


「ええ、だから、ダン・シリウスって名前を、自分でつけたって言っていたわ……」


 救世の勇者ダンの本名はオオボシダン……

 

 ダンは名前である。

 

 そして姓のシリウスは……

 ダンの生まれた異世界で、大きな星という意味の言葉であると聞いている……

 つまり『オオボシ』という意味らしい……

 

 オオボシダン……

 この世界では、全く聞いた事がない、不思議な響きの名前であった……

 

 エリンとヴィリヤは気になる。

 

 この世界へダンが来る前に生きていたのは……

 どのような世界だったのかと。


 ダンは前世で、一体、誰と暮らしていたのかと……

 果たして、大切にした家族は居たのか?

 

 また自分達と同じく……

 愛し、愛される『想い人』は居たのかと。

 

 もし家族が居たのなら……

 ダンがいきなり消え、どんなに嘆き悲しんだであろう。

 

 もし想い人が居たのなら……

 どんなに深い喪失感を味わった事だろう……

 

 今のふたりには……

 その辛さが、本当に良く理解出来る。

  

 しかしダンは、以前自分の住んでいた世界の事は、あまり話してくれなかった。

 

 ある日、ふたりがそれぞれ聞いたら……

 「過去を振り返るのはもうやめた。今を生きる。俺の目の前に居るお前達の為に生きる」

 

 全く同じ言葉を……

 答えとして告げられたのである。

 

 嬉しかった。

 ふたりとも、心の底から嬉しかった。

 

 反面、ダンが可哀そうにもなった。

 どれほど大きな喪失感を味わい、望郷の念を持っていたのかと。

  

 それ故、エリンとヴィリヤは……

 ふたりが見た事もない、遥か遠い異世界……

 

 争いや戦いはあるという。

 但し魔法が存在せず、魔物も居ない世界……

 人間が考え工夫した道具を駆使し、暮らしている世界。

 誰も知らない、ダンが生まれた故郷の風景を想像し、思いを馳せたりもする。

 

 ……多分、不可思議で未知のモノがいっぱいあふれ……

 びっくりが連続して、止まらないような……

 わくわくする景色だろうと。

 

 自分達がダンの故郷へ、その世界の人間として転生し、一緒に暮らせたらそれも楽しいと思う……

 

 そしてふたりは、改めて実感する。

 ダンからは、いろいろな事を教えて貰ったと。

 

 生きる為のすべ、前向きな考え方等々。

 数えきれないくらい教えて貰った。


 中でも、この世界の最大の謎……

 純粋で無垢な優しいデックアールヴが何故、創世神様から追放されたのかという理由も……


 だが……

 結局……

 ダンでさえも、答えははっきりと出せなかった。

 

 どれだけ考えても……

 人やアールヴでは理解出来ない価値観や判断が、創世神様や使徒にはあるとしか思えないのだ……

 

 無理に結論を出すのなら、『バランス』かもしれないともダンは言った。

 気に入らないと、一気に世界をリセットする残酷な創世神も、普段は世界の安定を一番に考える。

 

 多分デックアールヴは……

 創世神が造った全ての種族の中では、最も自身に近い、飛び抜けて優れた存在だった。

 そのまま地上に居ては、種族の中では突出し過ぎて、世界のバランスが大きく崩れる。

 

 創世神は、アンバランスな世界が嫌い。

 原因を作りそうなデックアールヴが邪魔になった。

 それ故、地上から追放した……

 

 「自分に一番近いように作っておいて、気が変わったから邪魔だなんて、創世神は理不尽だな」

 と、ダンは、エリンと同じ気持ちになって嘆いてくれた。


 「私見だけど」と、前置きしつつ、ダンはこうも言っていた。

 改めて世界のバランスを保つ為に、創世神は自分を『勇者』にして、この世界へ送り込んだとも……


 エリンは、ふと思った事がある。

 もしダンが破壊的で、よこしまな心を持っていたら……

 あのアスモデウス以上の悪魔王になっていたのかもしれないと……

 この世界を徹底的に破壊し、しまいには滅ぼしていたかもしれない……


 でも……

 ダンは救世の勇者となった。

 デックアールヴを、世界の人々を救ってくれた。

 

 孤独となったエリンを満たし、最高に幸せにしてくれた。

 だから今更……

 どうでも良い。

 

 それに創世神様がどうお考えになるなんて、エリンにもヴィリヤにも、誰にも分かるわけがない。

 

 いくら考えても……

 創世神様の価値観同様、人生の先はどうなるか、運命なんて誰にも分からないから。

 現に、エリンもヴィリヤも……

 幼い頃に考え、想像していた未来とは、全く違う現実の中で生きている……


 以前、ベアトリスが言っていた。

 人は各自が置かれた状況下で、可能な範囲においてベストを尽くせば良い。

 また、一番大切なのは、けして諦めない事、加えて向上心を持つ事だと。

 

 エリンとヴィリヤは大いに納得する。

 その通りであり、それ以上、それ以下でもないと感じるのだ。

 

 実際、巡り会った家族と仲間全員が、自分の人生においてベストを尽くした。

 思うようにいかなくても、希望した結果が出なくても……

 

 何度後退しても、辛くなって逃げても……

 最後まで諦めず、不器用でもやれるだけやって、みっともなくしがみついても……

 気持ちだけは前向きに生き抜いた。

 そしてエリン達のように、まだまだ生きて行く者達も居る。

 

 それで良い。

 愛するダンも同じように考え、感じていた筈だ。

 

 だからこそ!

 人生は面白いとも思う。


 どちらにしても……

 エリンとヴィリヤの願いは『ひとつ』である。

 

 ふたりが邂逅かいこうした『想い人ダン』は、もうこの世界には居ない。

 二度と戻っては来る事はない……

 

 だけど、絶対に諦めない!

 己の人生がこの世界で完結したら……

 次の新たな世界で、必ずダンと再会する。

 

 再び運命の出会いを遂げる。

 そう信じるのだ。


「ヴィリヤ、もう一回言うけど、私、絶対に会う! 生まれ変わってまたダンに! 違う世界で旦那様に巡り会うからね! 大好きだから、ずっと一緒に居る!」


「うん、エリン! 私も会う! 必ずダンに巡り会うわっ! 愛しているから、永遠に離れない!」


「そうそう! 出会って、旦那様が嫌だって言っても、無理やり押しかけるよ! エリンが初めてこの家へ来た時みたいに!」


「うふふっ、その時は私だって一緒よ! エリンと私、ふたりで押しかけちゃえ!」


「いいえっ! ヴィリヤ! 私達ふたりだけじゃないよ! リアーヌとベアトリスも一緒!」


「だね! よ~し、エリン! 絶対に、皆でまた家族になろう!」


 エリンとヴィリヤは、大きな声で宣言した。

 『隠れ勇者』との、宿命の再会を。

 すなわち、愛し、愛される者全員で再び家族となる誓いを。


 こつん……

 

 エリンとヴィリヤは、いつもの通り拳を交わす。

 誓いを立てる度、もう数え切れないくらい……同じ事をしていた。

 ダンから教わった『フィストバンプ』を……


 相手のこぶしからほのかな温かさと、確かな心の絆を感じ……

 ふたりの『押しかけエルフ』は顔を見合わせ、再び晴れやかに笑ったのであった《完》。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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