表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/191

エピローグ・第182話「また会う日まで①」

 ある日の事……

 

 ここは都市国家シリウス内にある、ダンの一族が住む城館の中庭……

 約300年前、ベアトリスがパトリシアを伴い、懸命にリハビリをしていた場所である。

 その中庭の片隅には、レトロな趣きの小さな家が建っている。

 

 実はシリウスの町を造った際、元あったダンの家を壊さずに移築し、補修しながら大切に保存して来たのだ。


 この家の居間には……

 かつてダンが、エリン、リアーヌと共に王都で購入した古ぼけたテーブルと椅子が昔のまま置かれていた。

 

 その椅子には、エリンとヴィリヤが座っている……

 

 エリンの髪は、長いストレートのシルバープラチナ、瞳は深い菫色すみれいろ

 ヴィリヤも同じく、流れるような美しい金髪をなびかせ、瞳はあお碧眼へきがん

 ダンと出会った時と全く同じ、ふたりの容姿は変わらない……

 

 否!

 却って端麗さに、益々磨きがかかったふたりが……

 寂しそうな表情で向かい合い、静かにお茶を飲んでいた。


 長命なアールヴのふたりは、遥か遠い記憶を手繰たぐっている。

 まるで走馬燈のように、いくつもいくつも、懐かしい思い出が甦り、巡って来る。

 

 エリンも、ヴィリヤも、それぞれ、ダンとの運命的な出会いに始まり……

 愛するダンと過ごした、楽しい思い出を追っている。

 

 中でも……

 地下深き英雄の迷宮で、3人一緒に冒険した事は、絶対に忘れられない。

 ダン、エリン、ヴィリヤにとって固い絆が結ばれた人生の転機、分岐点といえる大イベントだった。

  

 シリウス建国後は……

 その3人にゲルダ、ベルナール、イレーヌを加えた救世のクラン『ディーン』を組み……

 全世界を股にかけ、難儀する人々を救い、心から感謝された……

 積み重ねた実績と深い信頼が、今やシリウスの根幹となっている。

 

 世界各地を転戦したクラン『ディーン』であったが……

 先にベルナールが亡くなり……

 その後、60歳半ばとなった時、ダンはあっさりと引退した。

 

 引退したダンは城館で暮らすようになり、殆どシリウスから出なかった。

 結果、家族全員が揃って、彼の余生をシリウスで暮らした幸せな日々も、つい昨日のように甦る……


 エリン達も、引退後のダンと同様、最近はシリウスから殆ど出ない。

 

 子孫達に様々な『仕事』を完全に引き継がせると、リストマッティとゲルダに監督役を任せ、自分達は単なる意見役に徹していた。

 

 また……

 エリンとヴィリヤは類まれな美しさと高貴な身分から、同族であるアールヴとの再婚も度々勧められた。

 だが……

 ダンを一途に想うふたりは……

 当然ながら、断固としてはねのけ、絶対に受けはしなかった。


 エリンが、ぽつりと言う。

 今は亡き者達を想い出し、とても遠い目をしている……


「ねぇ……ヴィリヤ、旦那様、今頃どうしているのかなぁ……」


 対して、ヴィリヤもぽ~っとしていて、目の焦点が全く合っていない。

 当然、エリンを見ておらず、言葉だけを戻す。


「うん、もう天国は飽きたぞとか言って、さっさとどこかへ転生しているかも……ね」


 そう……

 ダンは異世界から召喚され、同時に創世神の勇者へと転生した稀有けうな人間だった。

 ヴィリヤの召喚魔法により、突如この異世界へ呼び出されたのだ。

 

 この世界で成し遂げた結果を踏まえ、創世神に勇者としての資質を見込まれていたとしたら……

 かつてのヴィリヤのように……

 再び、どこかの誰かにより……

 ダンは違う世界に違う姿で、既に呼び出されているのかもしれない……


「う~、……転生……かぁ」


 エリンには、全然ピンと来なかった。

 ダンのように特殊なケースになったらともかく……

 数千年の長き時を生きるアールヴは、不慮の事故や死病にかからないかぎり、まだまだ死は訪れない。

 

 死ぬ事は全然先……

 としか思えない……


 それ故、エリンはこのままずっと待つのが、凄くもどかしくなって来る。

 さすがに自死こそしやしないが……

 少しでも早く、愛するダンに会いたいと思うのだ。

 

 しかしふと、不安がよぎる。

 死んだからといって、都合よく転生し、愛するダンに再会出来るのかと。


 エリンが、少し渋い表情でヴィリヤへ問う。


「ねぇ、ヴィリヤ、私達また……旦那様に会えるのかなぁ?」


 しかし、案外ヴィリヤは楽観的だ。

 不安な素振りなど全く見せず、きっぱり言い切る。

 堂々として、自信に満ちあふれた姿は、以前の神経質なヴィリヤから想像も出来ない。


「会えるわよ、エリン、きっと!」


「うん! そうだよね……私達家族に向かって、死ぬ時にきちんと約束したものね」


 エリンとヴィリヤは、また記憶を手繰った。

 すると……

 己の人生に満足して、老いたダンの晴れやかな笑顔が、ふたりの心の中にはっきりと浮かんだのである。


「…………」

「…………」


 しばし、ふたりの心はダンの笑顔に癒され、無言となった。


 ダンの笑顔と同時に……

 エリンとヴィリヤは、彼の『遺言』を思い出す。

 

 ダンは、自分の今際いまわを見守る、家族と親しい仲間達へ告げた。

「お前達はまだまだ死ぬな、俺よりもずっと長生きしろよ。己の人生をしっかり全うして、生まれ変わったら必ずまた会おう」と。


 ふたりの脳裏には、再びダンの笑顔が浮かんで来た。


 死ぬ直前まで……

 ずっと嬉しそうに微笑んでいた……

 年齢相応の渋い顔立ちの老人となった、ダンの晴れやかな笑顔が。


「エリン、思い出して! 旦那様と家族全員で約束したじゃない、また会おうって」


 実は、エリンとヴィリヤの、『この会話』は今回が初めてではない。

 今迄に何度も何度も、否、数え切れないくらい繰り返されている。

 それほど、ダンが恋しくてたまらないのだ。


 そして、エリンとヴィリヤは願いも同じ。

 

 まだまだ数千年くらい先の話なのだが……

 もしもこの世を去った後、再び生まれ変わったら……

 必ずダンと同じ人間族に生まれたい。

 

 限られた人生を一緒に生き、一緒に死にたいと望んでいる。

 またはダンに、長命のアールヴとして生まれ変わって欲しいとも願う。


 でも……

 「アールヴに生まれ変わったダンなんて、想像もつかないね」

 と、ふたりは首をすぐ横に振り、いかにも面白そうに笑ったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ