第180話「輝かしい未来へ②」
ベアトリスが城館の中庭で、歩く練習をしているのと同時刻……
ここは、シリウスの街中である。
あちらこちらで……
まだまだ新たに建物を造る音がけたたましく聞こえている。
宰相フィリップの手配で王都トライアンフからの街道も完成。
綺麗な石畳が敷かれた立派なものだ。
またシリウスからリョースアールヴの国イエーラの王都フェフへの街道も……
ソウェルのヴェルネリにより改めて整備された。
それ故……
シリウスへの人々の往来は著しく多くなった。
誉れ高き救世の勇者の居る町と聞き付け……
訪問する商人達もどんどん増えて行った。
現在、シリウスの人口は500人余り。
まだまだ小さな町だが、広大な敷地には充分に余裕がある。
拡大もOKだし、今後もたくさん移住者を受け入れる事が可能な仕様なのだ。
実際に地上からダンを慕う者が、そして深き地下からもデックアールヴの国にゆかりのある移住者がたくさん流入し、人口は着実に増え続けていた。
地下からの移住者で、容姿がデックアールヴに極めて近い者は……
ダンの魔法で移住前に擬態している。
シリウスの町にある店は多種多様、生活に必要なものは全て揃っていた。
王都から離れた田舎なのに、市民は暮らす不自由さを全く感じない。
そして、数多ある店の中で……
とある一軒の、居酒屋の看板には『新・勇者亭』と、
達筆な文字で店名が記されていた。
ご存知、あのアルバン・ワイルダーの店である。
ダンとの約束通り、勇者亭は王都からあっさりと移転した。
改めて、この町で新規開店をしたのである。
新・勇者亭は王都にある時と同様、常に混んでいた。
冒険者達に底知れぬ活力を与える料理、まるで人生の楽しみを凝縮したような酒の美味さ、そしてリアーヌを含めた美しい少女達がメイド服姿で優しく給仕してくれる。
癒しを求める冒険者達には、圧倒的な人気があったのだ。
その新・勇者亭では……
チャーリー達クラン炎が、満面の笑みを浮かべ、ミッション成功の祝杯をあげていた。
すっかり中堅クラスの冒険者クランとなった炎は、主にアイディール王国内で活動、魔物の害に困った各地から引く手あまたという噂である。
閑話休題。
新天地シリウスに来たアルバンだが……
毎日が楽しく元気一杯である。
日々の仕事が、充実しているのは勿論なのだが……
一番大きいのは、常にあったストレスがもうない事である。
ストレスとはすなわち、実の娘に等しいリアーヌと、二度と離れ離れにはならない事だ。
ダンに言われた通り、今後リアーヌにダンの子供が生まれたら……
愛する孫として、超が付く猫かわいがりの『じいじ』になるのは確実であった。
そのリアーヌは、当然夫のダンと同居。
城館に住んでいる。
働き者のリアーヌは、城館内の事務仕事も兼務。
新・勇者亭ホールスタッフとの掛け持ちで忙しい。
現在、シリウスの治安はダンの威光もあって抜群に良い。
だが念の為、城館と街中の行き帰りはアルバートとフィービー夫妻達従士の警護付きである。
捨て子で薄幸だったリアーヌは……
双子の兄のルネとも無事再会し、毎日が幸せ絶頂である。
「今の生活は本当に夢みたい」
というのが口癖となっている。
心が満ち足りたリアーヌがふと仕事の手を休め……
遠い目をして青く広い空を眺めていたのは……
ベアトリス同様、不在である夫ダンの帰りを「少しでも早く!」と、
待ちわびているに違いない。
そして……
リアーヌの双子の兄ルネは……
冒険者をあっさりと引退した。
元々、金細工職人志望だったルネは、ダンの援助もあり、シリウスに立派な店を出した。
ルネの腕は確かであり、アイディール王家を含め、たくさんの顧客を抱えた。
最近は弟子まで取った。
まもなく、地下都市で知り合ったデックアールヴの娘と結婚するという話であり……
末永く幸せに暮らすに違いない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、ここは……
アイディール王国から、遠く離れた某国……
この国は、凶悪な魔物が出没するが、守護する軍はとてもぜい弱であり、まともには戦えない。
辺境に近い遠国の為、冒険者達も滅多には訪れない。
その為に、住まう人々は魔物どもに蹂躙されるがままであった。
ダン達は……この国へ来ている。
害を為す魔物共を討伐し、人々を救い、安らぎを与える為に。
当然、国王の了解は得ている。
否、了解ではない。
「遂に待ち人が来た!」と国王以下から大歓迎されていた。
何故ならば、来訪したのは……
名だたる勇者ダン率いる、救世のクランなのだから。
クランメンバーは勇者ダン以下……
エリン、ヴィリヤ、ゲルダ、そしてベルナール、イレーヌの6人である。
かつてエリンが交わした……
『約束』は遂に果たされた。
この6人で、超が付く強力なクランを組んだのである。
ちなみにクラン名は……
今は亡きベルナールの息子ディーンの遺志を継ぐ!
という意味で『ディーン』と名付けられた。
現在クラン『ディーン』は、人間を貪り喰らう凶悪な邪竜の群れと戦っていた。
普通なら、人間が絶対に敵わない巨大な邪竜も、ダン達クランの敵ではなかった。
この国へ来て、たった3日で……
数十頭も居た邪竜共は、ほぼ全滅させられていた。
最早クラン『ディーン』は、世界最強のクランとなったのである。
圧倒的なダン達の力に人々は感謝した。
そしてほめたたえた。
国王を含めた人々がクラン『ディーン』に感謝し、熱く支持するのは、何といっても、この国へ来た理由がはっきりしているからだ。
人間離れした強大な力を振るうダン達だが……
けして一般人から怖れられる事はなかった。
その理由とは、ダンの妻ベアトリスからの神託である。
ダン達は、創世神の名の下に戦ったのだ。
最早、創世神の巫女ではなくなったベアトリスだが……
救世の勇者の妻として、彼女は創世神の神託を告げる役回りとなった。
今回の討伐も、当然神託によるものである。
最後の邪竜一頭が倒され、神託により命じられた任務は終わった。
クランディーンのメンバーは、怪我もなく全員無事だ。
救われた人々の感謝を一身に受け、ダン達は帰還する。
愛する家族、仲間が待つ遥か遠きシリウスへ。
いつもの通り、帰還の合図をするのはクランリーダーのダンである。
「さあ、皆、そろそろ帰ろうか」
「「「「「はいっ!」」」」」
全員が返事をしてほどなく……
高貴なる4界王のひとりたる『地界王アマイモン』の加護によるダンの転移魔法が発動する。
一瞬にして消え去るダン達の姿は……
『救世の勇者』の伝説を、より高める事となったのであった。
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